蓬莱山家に産まれた   作:お腹減った

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布都姫

真夜中、白龍の背に乗りながら月を背に置き、ブロッケン山の上空で魔女たちを観察。見た感じそれぞれ好きに飲み食いをして騒いでいる、まるでお祭りの様。饗宴に勤しんでいて楽しそうね。山の中にいるから月があるとは言え薄暗い、でも魔女たちは火を焚いているんだけど。

何て言うんだっけ、えっと。キャンプファイアー? をしているから火のお蔭で周りは明るいし魔女たちが何をしているけど。木で出来た椅子に座り、本を読んでいたり、色んな料理をテーブルに置き魔女たちが飲み食いしているかがよく見え分かる。だからこそ上空から見つける事が容易かった訳だけど。魔女狩りがあるのにこんな目立つ事していいのかしら。ブロッケン山は人間が登るには険しいから目立つ事をしても来れないと考えているのかも。魔女は空を飛べるから登る苦労は無いからね。私とエリスも空を飛べるし、今はブロッケン山の上空で白龍の背に乗っているけど。私の役目は魔女を本朝に引き込む事、だからまずは会って話をしなくちゃいけないので、白龍の背から飛び降りる。

エリスも私に続いて飛び降りたけど、私は空を飛べるし、エリスは蝙蝠の翼があるから地面に激突する事は無い。地上にエリスと降り立つと、白龍も勢いよく降りて来た。なんで降りてくるのよ。魔女たちが白龍に驚き、逃げようと動き出すけど私は、止まれと大声を出して白龍を静止させる。止まった白龍を叱り、逃げようとした魔女たちに向かい合う。見たら魔女たちは度肝を抜かれているけど、まずは、名乗ろうかしら。

 

「初めまして、私の名は地子、肩にいるのはエリスで背にいる大きな龍は白龍。突然なんだけど、この場にいる魔女の皆、天竺から本朝に引越しに行かない?」

 

魔女たちはパチクリさせて、私が言った内容を数分かけて呑み込む。白龍の事が頭いっぱいで私が言った台詞が呑み込めない様子ね。そりゃあ饗宴に勤しんでいた時に空から龍が降って来るんだもの。魔女じゃなくても驚くに決まってる。

魔女の代表者か、三人の魔女が前に出て来て私と向かい合う。一人は子供で黄色か金色か区別がつかないけどそんな髪色でサイドテール。頭にナイトキャップの様な物を被り、服装は真紅を基調。背には一対の枝に七色の結晶がぶら下がった、翼と呼んでいいのか微妙な所だけどそんな翼がある。

一人は少女で赤と白を基調としたエプロンドレスみたいなのを着ていて、右肩に眠たそうな顔をした白猫がぶら下がり、少女の頭に赤色のカチューシャを付け、そのカチューシャには大きな赤色のリボンが結ばれている。

最後の一人もまだ子供だけど最初の子よりは成長してるかな。髪色は金髪でまるで人形の様な容姿。ロングスカートの青のワンピースみたいなのを着て、肩にはケープみたいなのを羽織り、頭にはヘアバンド。周りには同じ容姿の人形を浮かばせているけど、容姿を見ているとまるであの童話に出てくる女性を彷彿。その童話に出てくる女性に似た容姿の魔女は右手の掌を鎖骨辺りに当て名乗り返す。

 

「私の名は アリス・マーガトロイド アリスと呼んで。 地子と言ったわね、私達魔女を本朝に連れて行ってどうする気なの」

 

「貴方達、魔女狩りのせいで人目を憚って暮らしているでしょ? だから引っ越すのよ、魔女狩りや魔女の概念が無い本朝にね」

 

私の説明を聞いてアリスは右手の人差指を唇に当て沈思黙考。

 

「確かに、本朝は魔女がいないから魔女狩りが無いと聞いてるわね。でも、それは魔女がいないから魔女狩りしてないと思うのよ」

 

「むー それについては大丈夫。引っ越す場所が一国の王の所だから。その人はね、妖怪を皆殺しにせず国に、国と王に仕えさせている変人だから大丈夫」

 

妖怪を仕えさせている事を聞いてアリスと名乗る魔女は右手で口を隠して目を見開いて喫驚。次にアリスは腕を組みながら右手で小指から親指に流れる様に左腕に当てながら考え込む。私の背にいるのは白龍、白龍は天帝に仕えていると有名で、その白龍を従えている私は地上人、人間じゃ無い事は理解している筈。私、ある意味では神とも言えるからね。だから魔女を騙して殺されるかもしれないという考えは出てこないと思うけど正直、不安ね。

私が言った本朝と言う言葉に、髪色が黄色か金髪の子供は魔女なのか魔法使いか知らないけど目を輝かせながら身を乗り出す。まだ子供だから異国に行く事が出来ないのかもしれないわね。気持ちは分かる、私も天界に縛られて生活して生きていたから。そういう意味では親近感を抱く。

 

「本朝!? あそこの納豆お姉様が好きなんだよね~ あ。私の名は フランドール・スカーレット フランって呼んでね」

 

「フランね。でも意外、納豆が好きな魔女がいるなんて、本朝じゃない異国の人ってあの匂いに耐えられない人結構いるのに」

 

「寧ろその匂いが好きで気にならないらしいよ、それと、地子。肩に蝙蝠を従えているなんて貴方も吸血鬼なの?」

 

私が吸血鬼な訳ないから首を振って否定。どうも、フランは魔法少女だけど吸血鬼でもあるみたい。今は魔法を制御する為に魔女と交流している様ね。ついでに言うならアリスはまだ人間で魔法使い、または魔女としては半人前だそうよ。私の右肩に蝙蝠になって乗っているエリスに目でコンタクト、理解したエリスは魔方陣を展開して小悪魔を魔界から呼び出す。

呼び出された小悪魔は一体どういう状況なのか呑み込めず、何度も魔女達を見たり私達を見たりと落ち着きが無いけど。魔女は猫やインプなどを遣う、要は眷属みたいなものだから遣いという名の奴隷をプレゼントしましょう。私、魔女を本朝に連れて行かないと多分、天界に連れ戻されちゃうでしょうから。

 

「じゃあ奴隷として小悪魔をあげる。しかも魔界に住む悪魔よ悪魔、家事も出来るし、何をやらせてもそつなく熟す万能女だから使い勝手は悪く無いと思うわよ」

 

「奴隷? それは嬉しいわ~ あの子、喘息持ちで病弱だから身の回りの事を悪魔さんにやって欲しいわね~」

 

「エレン。あの子は今いないわよ、人間に捕らえられたんだから」

 

小悪魔は売られていることに気付いてショックを受け、私の背にいる白龍の元に走り出し、魔界に繋がる魔方陣を出して中に入り逃げた。逃げても魔方陣でまた呼び出すから無駄だけどね。アリスと言う魔女、魔法使いはエレンと言う魔女が間違った事を言ったので訂正。エレンはそうだったと両手を叩いて音を響かせる。魔女が人間に捕まるなんて、魔女狩りにあったのかどうか聞くとそうではないらしく、奴隷商人に捕らえられたみたい。

魔女たちも彼方此方探し回ったそうだけど天竺では見つからず、魔女を捕らえた奴隷商人を見つけ、居所を吐かせてどこにいるのか聞くともう天竺にはおらず、他の大陸に連れて行かれたらしいわ。今は魔女狩りのせいで魔女たちは人間に見つかると、人間は魔女達だけ殺戮の限りを行う、だから魔女達は人目を忍んで本領発揮できず奴隷になった魔女を探したから、天竺から他の大陸に連れ去られて行く事を察知出来なかったのかも。

 

「察するに仲間の魔女が奴隷商人に捕まったって事でいいのよね?」

 

「そうよ。その子は人間に捕まって、今は奴隷市場に流れてるでしょうね。魔女は魔女狩りしている人間以外には価値が高いから」

 

アリスは顔に影が差し、憂いの表情。魔女狩りのせいで魔女は数が減ってきている。だから希少価値が高く、値が張るみたい。いつの時代も希少価値を欲しがるものは結構いるからね。何せ、この世から無くなってしまうかもしれない物が、もしもこの世界から無くなってしまったら、世界に一つだけの物を。自分だけがそれを持っていると言う優越感に浸る事が出来るから。例えば本朝には魔女と言う概念が無い、だから本朝からも価値が高いかもしれない。奴隷市場に流されても、魔女なら特定しやすいし何か新しい情報が更新されていないかアリスに問う。

 

「何か手がかりは無いの? ここにその魔女がいるかもしれないって手がかり」

 

「そう、ね。奴隷商人の話を聞くに新羅、または本朝。仏教と共に他の国へ渡った可能性が高いわね」

 

「じゃあ丁度いいじゃない。本朝は魔女狩りが起きていない、だから思う存分探せる。本朝が気に入れば住めばいいし、気に入らなかったら他の大陸まで飛んでいけばいいじゃない」

 

態々危険な国に留まるより、色んな国を回って安住の地を求めればいいんだから。自分達が生まれた国だから愛着があるんだろうけどね。アリスは悩んで悩んだ末、頷いた。本朝を気にいってくれなきゃ私が困るけど、こればっかりは魔女たち本人の問題。本朝に行くことを承諾した魔女たちの代表者達は、これから白龍には魔女たちを本朝まで送り届かせる、そして白竜ならあの人と知り合いだから二つ返事で頷く筈。

あの人確か、女を侍らすって言ってたから、魔女たちが住むのは小躍りして喜ぶことはあっても嫌がる事は無いでしょう。もし駄目でも天界がある、最悪天界に住んで貰えばいい。天界にも悪魔はいるからね、私の肩に蝙蝠になってるエリスの様に。魔女たちも空を飛べるけど、白龍が飛ぶ速さほどではないので魔女たちを背に乗せ任す事となったけど。私とエリスは行かない。まだやる事がある。

フランは吸血鬼だけども、魔法使いでもあるから魔女狩りの対象みたい、と言うか魔力があれば人間から見たらそれはもう魔女の様ね。だからフランの姉も吸血鬼で魔女だそうなので紅魔館という館まで行って連れて行く事になった。フランは口実が出来て喜んでいる、天竺以外の国から出る機会が出来たから。

ともあれ、今日でブロッケン山、天竺で行う饗宴は終わり。だから魔女達は思い残す事が無いようするみたいで、更に騒がしくなり、魔女たちが魔法を空に向けて撃つと、空に飛んでいった魔法が爆散し、空からは雪の様にカラフルでキラキラと輝く魔法の結晶の様な物が散らばりながら緩やかに落ちてくる。とっても綺麗、今まで天界にしかいなかったから物珍しく見たいたけど、私とエリスも一緒に飲み食いをしましょうとエレンが誘ってくれて、私とエリスと白竜を交えた最後の晩餐。裏切り者はいないけどね。

 

私は木で出来た椅子に座らせてもらい辺りに視線を巡らす、魔女達は魔法で火炎を出して食べ物を焼いたり、水やお酒を出しワインをグラスに淹れ飲んだりと結構快適そう。それに魔女の使いであるインプや黒猫が魔女達の為に食べ物をお皿に乗せて魔女達の元へ渡しに行ったりと動いて忙しそうね。

だけど、確か魔女は文字だけで見たら女だけだと勘違いするけど、女だけでの意味は無く男の魔女もいた筈。でも見た限り女性しかいない、これはあの人も間違いなくガッツポーズでしょう。私は天界の美味しくない料理しか食べた事しかないから目の前に並ぶ料理の数々には胸が躍る思い。メドゥワダやお菓子のコルカッタイ。見た目はあれだけど食べてみたらカリ―とか美味しく、今の私は幸せの絶頂で恍惚な表情だと思う。ただ多すぎて食べきれなかったから、エリスや人間の姿に変えた白龍が後は食べたけど。隣にエレンが微笑みながら座り、私にある事を頼まれたから、内容について詳しく聞くとこの場にいない魔女がいるみたいで、この饗宴にはいないみたい。だからその子も連れて行ってあげて欲しいとの事、その魔女の名を聞く。

 

「有名だから知ってるかもしれないけれど、ライン川にあるローレライ、その岩山に住む魔女。名はミスティア・ローレライよ~」

 

あー 天竺を回っている観光の最中に出会ってるわね。ミスティア・ローレライに。ライン川に航行中、歌声が聞こえて来たのはいいけどそれを聞いた人間、舟の操縦者は様子がおかしくなり、急に笑い出してまるで狂ってしまった様子になり、これは観光している場合ではないと私とエリスは空を飛んで観光の邪魔をした者、岩山に佇んでいたミスティア・ローレライと対面。だけどミスティア・ローレライの体がパッと消えてしまい探したけど見つからなかったから、諦めてそのまま天竺を観光してた訳だけど。その事をエレンに言うと胸元から何かを取り出し、右手の掌に乗せて私に差し出す。

 

「これがあれば、ミスティア・ローレライも出てくる。悪いけど、お願いね~」

 

私は気にしないでと受け取り了承。ローレライって妖精でもあるらしいわね、他にも天竺に妖精のロッゲンメーメ、メアヴァイパーもいる。そうこうしている内に饗宴は終わり、魔女たちは白龍の背にいる。さっきから気になっていた奴隷になった魔女の名を聞こうとアリス聞く。アリスは私がその魔女の名を聞くと右手で左腕を掴んで、答えた。

 

「名は、パチュリー。パチュリー・ノーレッジ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キシシシシ いやー 同じ種族と会えるなんて嬉しいよ」

 

「そうだねぇ。絡新婦もいたらいいんだけどね」

 

まだ一部だけだけど、ある程度の妖怪は従えた。

熊が妖怪化した鬼熊は力勝負に勝てば従うと言われたので負かしてやったけど。熊が鬼に力で叶う訳が無いでしょうに。今ヤマメと話しているのは大蜘蛛。彼女は長髪で、一本の髪の毛を木に付け垂らすようにしていてぶら下がっているので、逆さになりながら喋ってる訳だけど、髪の毛一本で大蜘蛛の体重を支えるなんて、流石 大蜘蛛ね。ただ木にぶら下がっているから頭に血が上らないかが心配。

彼女は最初渋っていたんだけど、ヤマメが土蜘蛛だと判明するところっと仲間に。まあ、そっちの方が私は楽でいい。はたては藍が懐妊した事を天狗たちに報告する為、頂上に住む天狗の元へと飛んで行っていない。

 

「じゃあ私は蜘蛛の巣でも彼方此方に仕掛けてこの辺りの妖怪を捕まえて来るから、気を付けてよヤマメ。最近、蜘蛛の妖怪は減って行く一方だからさ」

 

「ん。気を付けるとするさね。大蜘蛛、罠の方は任せるよ」

 

気を付けるも何も、ヤマメも永遠のお蔭で死なないんだけど。それを知らない大蜘蛛は木にぶら下がりながら手を振って他の場所へと回った。ヤマメもにこやかに手を振り返す。いい仲間に出会えた事については素直に嬉しい。

ただね、問題なのが、出会った妖怪たちが女しかいないの! 鬼熊も女だったし大蜘蛛も女それ以外も女しかいなかった。男らけも嫌だけど、女だらけになったら彼が私に振り向いてくれなくなる、かもしれないから悲しい。彼の命令だから従うとは言え、彼の周りに女性が増えるのは気が進まない。これじゃあ私を愛してくれないかもしれないんだもん。

私とヤマメとキスメ、そして新たに加わった女の狸、名は 二ッ岩 マミゾウ 彼女には八ヶ岳を案内してもらっている、狸の長と聞いているからある程度八ヶ岳の地理を知っているだろうし、私達より詳しいだろうからね。

 

「次は山彦、名は 幽谷 響子 じゃ」

 

「山彦ねぇ」

 

ヤマメが妖怪である山彦の名を聞いて、山彦の種族名を呟く。山彦は確か山や谷の斜面に向かって音を発し、それに遅れて反響させる妖怪。ヤマメは閃いた表情になり、私にいい考えがあると言いながら私に策を伝授。

策の内容を聞くと、単純な事で、山彦の習性を利用するみたい。策の内容を聞いて納得、確かにそこを上手く使えばいけるわね。

でも山彦は弱く、基本的に隠れて生活しているそうでマミゾウが山彦を探して見つけるにしても時間が掛かるみたい。でも大声を八ヶ岳に向けて出せば、山彦の習性故にそれを返してしまうそうなので、私は八ヶ岳に、遠くまで響き渡る様に両手の掌を唇の端に宛てがい、大声を出して山彦を罠に嵌める。私が大声で八ヶ岳に響き渡る様に言うと、山彦は習性故に私が言った台詞を続けて言ってしまう。

ちなみに今から言う比売大神とは 八意 永琳 の事よ。

 

「諏訪国の神の諏訪大明神と比売大神と諏訪子に仕えて欲しいのー!」

 

「諏訪国の神の諏訪大明神と比売大神と諏訪子に仕えて欲しいのー!」

 

「いいよー!」

 

「いいよー! ・・・・・・あれ?」

 

ちょろい。これでまた一人諏訪国に加える事が成功したわね。自分が何を言ったか気付いた山彦は、叫び声が八ヶ岳に響き渡った。ねえ山彦。知ってる? 鬼って嘘が大嫌いなのよ。まさか、今 口に出した事を撤回。無かった事にするなんて、考えてないわよね? そんな事をすればどうなるか、彼が言い出した事だけど、私達鬼女と悪路王が率いる男の鬼の人数は100を超えてる。そしてその100を超える鬼の頭領、私達の周りに漂う霧になっている百鬼夜行の頭領である萃香が。あんたに、山彦に襲い掛かるわよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ない危ない。もう出港して海に渡っていたなんて。もう少し遅れていたら新羅まで逃げられていました」

 

「間に合って良かった。流石、鴉天狗1の最速。失敗してたら始末書じゃ済まなかったでしょうけど」

 

椛に褒められて、にやけながら右手で自分の頭を撫でていたら、始末書の単語を聞いてげんなり。本当に危なかった。本朝にいれば私達天狗は自由にとは言えませんが、ある程度 融通は利くので飛び回れるとは言え。新羅は異国。私達 本朝の天狗が許可なく入ると色々煩いですからね。

椛の能力で見つけたのはいいですが、私達がいた所と距離がかなりあり、そのお目当ての人物は海上に浮かぶ船にいたので、鴉天狗である私の方が早いので、先に行こうと沙門がいる方角と、特徴を椛に聞いて海上まで飛んで行き、発見。

まずは能力で暴風を起こして、沙門を海に突き落とすか、船を沈没させようとしましたがそれではお目当ての物が海の底に沈んでしまうので、仕方なく鉄拳制裁、いいえ。実力行使です。海上の上空から眺め、僧形で袈裟を着た一人の人間を見つけたので、先程 空から船に降り立ち僧形を背後から忍び寄り、僧形の頸に腕を巻き付け締め落とし、気絶させたのはいいですけど。強引にしてしまい苦しませてしまいました。慣れない事はするものではありませんね。

かくして目的の物は手に入ったのですが、まだする事はあります。天魔様より椛と指示を受けているので次は琵琶湖にいる人物に会いに行かなくてはなりません。ですけど、この天叢雲剣。これは天皇の武力の象徴だそうですが、弘天さんが、もしも。仮に天皇の血を引く女性を妃にしたら色々と使えますよねこれ。ですが、何か。今回の騒動何か気になります。

 

「あっさりしすぎで、何だかきな臭いわね」

 

「きな臭いって、どういう事」

 

「何か、匂うのよ。何と言うか、そう。まるで誘導、掌で踊らされいる様な、作為的な陰謀が渦巻いている匂い」

 

今回は椛の能力でのお蔭で新羅に行かれる前に阻止 出来ましたが、そもそも盗まれると言う事自体おかしいのです。三種の神器は天皇の証。ですので、当たり前ですが厳重に保管されている筈です。しかし盗まれた。まだ盗んだ犯人が、大和朝廷の関係者である豪族なら分かりますが、盗んだ犯人が沙門という事実。その事実を疑うべきでしょうけど、先入観に囚われているのかもしれませんね。

例えば先程気絶させた僧形で袈裟を着た沙門は容姿から見たら仏教の関係者としか見えませんが、本当は本朝の人間が僧形の振りをしてあえてそう見せているのでしょうか。ですが一体、何の為にそんな面倒な事をするのでしょう。三種の神器の一つである天叢雲剣だけに限った話ではありませんが、今の天皇である天智天皇や過去の天皇ですら三種の神器を実見した事が無いと聞いています。ですがこうして私が手に持って椛と見ている訳ですが。もしや盗めと指示を出し沙門に盗ませたのは、大和の神、もしくは朝廷自身。

なーんて、ありませんよねそんな事。とりあえず天魔様に受けた最後の指示、琵琶湖にいる三人を諏訪国に引き込む為動きますかね。まずは椛と琵琶湖まで行かなくてはいけません。

 

「まあいいわ。それより椛、やる事は終えたから琵琶湖に行きましょうか」

 

「そうね。迎えに行かなくてはいけないし、天魔様から受けた最後の命だからね」

 

しかし、弘天さんはとんでもない事を考えますね。今まで神と人間の関係は人間は神を信仰し、神は人間の信仰によって生き、信仰する人間には恩恵を授けてきましたが。その均衡は、終わりかもしれないです。神と妖怪の関係は変わらないでしょうが、妖怪側からしたらとんでもなく迷惑な話です。何せ、八百万の神は永遠になってしまいました、つまり、この世から永遠に消す事も殺す事も出来なくなるんですから。まあ、私や椛にはたては弘天さんの神使ですし、天魔様、他の天狗たちも弘天さんと盟約同士で、弘天さんは河童とも盟約を結んでいます。だから私達には関係のない話なんですが、この事実が公になればこれからの神と人間はどんな関係になるのでしょう。そこが気になります。

 

 

「それはそれは。波乱万丈な人生を送っているのね神子」

 

「退屈だけはしませんがね」

 

「私は生まれた時から琵琶湖にずっといる。だから他の地域も見て見たいけど、足が無いこの下半身じゃあね」

 

わかさぎ姫は自分の下半身を恨めしそう見ているが、琵琶湖の川辺で人魚であるわかさぎ姫に大和での出来事、今までの出来事をわかさぎ姫に喋っている。深緑色の和装を着て、髪色は青。髪型は髪を螺旋状に巻いた髪型で、耳の位置にはヒレのような耳があり、わかさぎ姫は人魚なので、下半身は魚で魚の部分の色は薄い青色。わかさぎ姫という人魚は昔、私がまだ大和にいた頃この地、近江国を訪れた時に琵琶湖でわかさぎ姫と出会った。その時に名を聞いたので存じているが、名の通りに捉えるなら魚である若鷺の姫と言う事なのだろうか。

しかし、心配だ。人魚は本朝だと希少。摂津国で1人の人魚が漁師に捕らえられたと聞いているし、アイヌが住む北海道にアイヌソッキと言う人魚もいると聞いたが。若狭国に住むある娘が、人魚の肉を食べ、何年経っても老いない娘になってしまい出家し、八百比丘尼と言う女性の尼の話を大和にいた頃耳に入っている。ここで問題なのが、人魚の肉を食べると不老長寿、または不老不死になれると言われている事。

これは不味い、本朝の人間は100以上生きられる者が多いとは言え、それでも長く生きたいと思う者が多い。不老長寿、または不老不死になればもう死ぬ心配は無くなると考える大愚がいるだろう、わかさぎ姫の身に何かあっては困る。私達は友人なのだから。

後方から殺気を感じ、迫り来る刃から最小限の動きで躱すとその人物は舌打ち。近くにいた屠自古はまた始まったと呆れ返り、川辺に近づきわかさぎ姫と会話に興じ、舌打ちした人物は大事な宝剣の切っ先を私に向けている。

 

「避けるでない」

 

「そうはいかんな布都。まだ死ぬ訳にはいかんのだ。そもそも、大事な剣を二刀流。 八握剣 と 布都御魂 を私如きに使ってはならん」

 

「何を言う、この物部に関する二つの剣だからこそ我の、延いては物部氏 切望の一つが成されるのであろう!」

 

布都はしつこく斬りかかって来るが私は躱しながら喋る。十種神宝を祖神である饒速日神様から授かっている十種神宝は首に掛けて、結ばずに、左右から同じ長さで前に垂らすスカーフ様な物を身に着ける様な物。これは霊験で死人を蘇生させたり霊魂を増大させたりも出来る優れもの。腰には二本の剣、八握剣と霊剣である布都御魂を差している。

でも、豪華な物ばかりでまるで布都が身に着けているのは妃が身に着けるような物だらけ。しかしそれは好都合。何せ一国の王に嫁ぐのだから身なりは大事ですよね。

何かの気配を感じ取り、顔を空に向けると。視界に入ったのは光速で地上に降りようとする天狗が目に入り、警戒して見ていたがもしや、あの天狗たちは。天魔の手の者だろうか。警戒だけは解かず、そのまま目線を逸らさず見ていたら二人の女性の天狗が地上に降り立ち、黒髪の女性が右手を使い、おでこに右手を当て遠くを見る様 翳すようにしながら一笑。白髪の女性は堅物。生真面目なのか真面目に自分の名と、隣にいる鴉天狗の名を名乗る。

 

「あやややや これはこれは、聖徳太子であらせられる蘇我入鹿さんではありませんか。

今は 豊聡耳 神子 さんでしたね」

 

「初めまして、天魔様よりお話は予予伺っております。私の名は 犬走 椛 隣にいるのは 射命丸 文 と言います。我々は元ですが、天魔様の配下です」

 

天魔の名を聞いて、理解。何故この二人が琵琶湖に来たのか。敵ではない事は確信が持てた。射命丸と言う名の鴉天狗は偶然を装っていたが、間違いなく偶然では無く。意図的に接触したのだろう。

空を飛んでいた天狗の二人が地上に降りて、私に接触したが、黒髪は 射命丸 文 という名で、見るに天魔に似て鴉の翼があるから鴉天狗、鴉天狗の方が持っている物は剣に見えるが、その剣は不思議な魅力があり、どこか神秘的だ。

もう1人は 犬走 椛 長髪な白髪である所を見て白狼天狗と言った所か。それと背には剣と盾を背負っている。その白狼天狗の右手には布を被せた何かを持ってはいるが。しかし、天魔。天魔の部下である天狗たちは本来の天狗と呼ぶべきか悩み所。本朝の意味では天狗は仏教の敵、そこは間違ってはいない。しかし天狗であって天狗ではない者達とも言えるかもしれん。

『太平記』に『沙石集』と言う物がある、これには天照様と第六天魔王、二人が密約、契約する話があるが、これは実話だ。

 

天魔は、魔縁。だが、魔縁とは魔界の者を指す。その魔界を創ったのは一体誰であったか。更に言うなら魔界の関係者は天魔だけではない、本朝には魔界人も存在するのだから。近くにいた布都は、天狗を斬ろうと腰に差している 布都御魂 の切っ先を天狗に向け、構えて天狗を斬ろうとするが阻止。殺されては困る、しかも天魔。天狗たち一同が、諏訪国。ひいては諏訪大明神と盟約相手だ。もしこの天狗たちを殺せば諏訪大明神、諏訪国に住む神と妖怪、そして人間までもが動くだろう。それは困るのだ。

 

「待ちなさい。その天狗達を殺してはならん」

 

「何故じゃ。この者達は容姿を見るに天狗であろう!? ならば斬り捨てなくてどうする!」

 

「駄目だ。天狗は仏教に仇成す存在、我らの目的の為に必要不可欠。だから殺すのはならん」

 

布都はもがいているが、殺してはならない理由を説明すると理解した布都は大人しくなるが、念の為 私が羽交い絞めにして押さえ、斬りかから無い様にしている。先程、琵琶湖に住む金龍と言われる伊豆能売様が帰って来られた。

帰って来られたのはいいが伊豆能売様は物部布都はいるかどうか聞かれたので、伊豆能売様を布都に会わせたら伊豆能売様は右手に持っていた一枚の紙切れを布都に手渡したのだが。

何でも、婚姻届書と言う物らしい。婚姻届、届や書の意味は全く理解できないが一体どこに届けると言うのだろうか。届や書はともかく婚姻からするに夫婦になったと言う事だろう。いつの間にか布都は、物部の祖神である饒速日神様と天火明命様によって勝手に婚姻させられたようで、その相手が諏訪大明神との事。

だから諏訪大明神を敵に回すのは不味い。それを説明したら布都はぐうの音も出ず更に大人しくなる。婚姻については布都は万歳しながら笑顔で喜んでいた、何せ祖神である饒速日神様と天火明命様が神裔の為に動いてくれたのだ。神は基本動く事はせず、神裔の為に動くなんてそんな事、滅多に無いから。

しかも相手は諏訪大明神、現人神である布都の夫として不釣合いでは無いだろう、寧ろ渡りに船。

諏訪大明神は女好きで妖怪さえも妻にする事で有名だ、しかも全員が正妻 等と言う変わった神。だから子を成す事も案外簡単に行くかもしれない。良い事だ、これで物部は再興できるだろう。

犬走は敵意が無い事を示す為に背中に背負っていた剣と紅葉が描かれた盾を地面に置く。でも、右手にある布を被せている物は地面に置く事は無かった。

 

「私達が何故、死んでいる筈の蘇我入鹿様に 御目に掛かる為この場に来たのは、重々ご理解して頂けていると思います」

 

「……」

 

分かっている。天魔が目の前にいる天狗二人を寄越したのだろう、私達を引き込む為に。あの天魔の事だ、私達が死んでいなく、生きている事は知っているのは、この状況から見て間違いない。

だが懸念が一つある、天魔、天狗たちが住んでいる山、八ヶ岳は諏訪国にそそり立つ山。私は昔と違い大和から離れているので、今もそうなのかは知らないが、諏訪国と大和は同盟を結んでいる。私は死んだと伝わっているが念の為に容姿は神通力で変えてはいる、私だけに限らず布都や屠自古も念の為に容姿は変えておるので、知人に会っても我らを見抜けはしない。

それでも、やはり不安なのだ。待て、そう言えば先程 伊豆能売様は物部の祖神である饒速日神様と天火明命様から婚姻届を受け取り、布都に渡してくれと頼まれ、諏訪大明神と布都の婚姻を物部の祖神 お二方が勝手に結んでいると伺っている。祖神であるお二方は布都が生き残っている事を知っている筈なのに、諏訪大明神と布都の二人、婚姻を勝手に結ばせた。態々 同盟相手の、それも王にだ。もしや、本当は同盟など結んでおらぬと言う事だろうか。だから安全だと確信を持てる場所に生き残りの子孫を同盟相手に送る算段なのか、殺されるかもしれない可能性も孕んでいると言うのに、そこに布都を送る。普通に考えて危険な所に送るより、最も安全な所に考えるのが一般的だ。神でもそこは例外では無い筈だが。

まさか、同盟は表向きで、実は諏訪国が大和を? そうなら納得できる部分が多く存在する。天皇は代を重ね西の果てから大和まで征服してきた、そこに諏訪国だけは征服せず政略結婚で同盟を結び、それ以来 諏訪国と大和は仲が良く恒常的な関係だった。

しかもだ、大和朝廷は諏訪国より東に住む朝敵の蝦夷、そして平将門を討つ為、東に征討している。私はこの時、諏訪国も征服する物とばかり考えていたがそんな事は無く素通り。実に不思議だったとしか言いようがない。今思えば。諏訪国が大和を裏で牛耳っているからと考えるのが自然かもしれん。

紀古佐美の率いる官軍が阿弖流為の率いる蝦夷軍に大敗、次に東に向かったのは以前は征夷副将軍であったが、今は征夷大将軍坂上田村麻呂、武士の藤原秀郷にもう一人の武士、武家である魂魄妖忌の3名が兵を率いて向かって合戦。しかし小競り合いばかりで決め手に欠け、決着はまだついていない。

物思いに耽っていたが、犬走は右手にある布を被せている物を、布都によく見える様に右手を布都に向けて見せつける。これは布都に関係する物なのだろうか。

 

「布都様。貴方にも伝えたい事が1つ。貴方の姉上である物部守屋様、今は物部の名を捨て

『守矢』と名乗っておりますが存命しております。これは守矢様に預かった物なのです」

 

「姉上が、姉上が生きておるのか!?」

 

言葉では伝わりにくいが、発音からするに名を変えたみたいだな。守屋ではなく守矢か。確か、旧約聖書でモリヤと言うのがあった。布都が問い質そうと詰め寄ろうとするが、犬走は左手の掌を向けて布都を止める。

犬走は、その証拠にと、布を被せ縄で括っていた剣の様な形をした物を手に掛け、縄を解き、布を剥ぎ取り視界に入ったのは布都が持っている 布都御魂 ともう一つの剣である 布都御魂剣 が露に。

これは、確かに守屋が持っていたもので、行方知らずになっていた剣。守屋は死体が見つからなかったが。守屋は生きていた様だ。東に逃げる際、どうやら 布都御魂剣 を持って行ったのか。まさか生きておったとはな。

椛が右手に持っていた剣を布都に手渡し、布都は 布都御魂剣 を両手の掌を上に向けながら大事そうに受け取り、そうか、そうか! と布都は欣悦。姉が生きている事が嬉しいのかうわごとのように何度も呟く。良かった、守屋の死体が見つからず死んだとばかり思っていたけど生きていた様だ。神仏戦争で肉親が皆死んで、布都は天涯孤独の身になるとばかり思っていたけどそうならなくて胸をなでおろす。

とは言え、それでも私に対する憎しみは完全には消えないだろうが。仕方ない。犬走 は今は盟主様はおりませんがと前置きしてからと続け、それを聞いた布都は首を傾げるが、隣にいる射命丸が答える。

 

「天魔様、そして我々天狗は、神子さん、蘇我屠自古さんのお二人は諏訪国の傘下に入って頂きたいのです。盟主様は女好きな方、即答で承諾しますからそこは安心してください」

 

「我は。我はどうするのだ」

 

「布都さんはですね。伊豆能売様からある程度の話は聞いているかと思いますが、どの道、布都さんは諏訪国に住むのは確定なのですよ。何せ、弘天さんと婚姻を結んでいるのですから」

 

そう言えばそうかと布都は両手を叩いて納得。弘天とは誰だと思ったが諏訪大明神か。どうやらこの二人の天狗、諏訪大明神の神使になったそうだが。

確かにその通り、伊豆能売様から婚姻については聞かされている。私の目的は布都を嫁がせ、物部の血を絶やさない為だ。そして参謀として布都が嫁いだその国で働くつもりだった。そこだけは布都と利害が一致している。だから布都も斬りかかって来ても本気で殺そうとはしていない。精々腕か足を斬り落とそうとしているだけだ。屠自古はただ私達三人がずっと一緒にいればそれでいいとの考えで共にいるだけだが。

前々から天魔、そしてパルスィには会いたいと思っていた所だ。天魔は諏訪国、ひいては諏訪大明神と盟約同士、そしてパルスィは諏訪大明神に仕えている。ならばここは乗ってみるか、鬼が出るか蛇が出るか。いや、蛇はともかく鬼は確実に出るであろうな。パルスィが諏訪国にいるのだから。

 

「話は分かった。だが、条件がある。まず一つ聞きたいのだが、諏訪国に諏訪湖がある。しかし他に、天狗が住む八ヶ岳には綺麗な川や河などが存在しているのか」

 

「あります。八ヶ岳には河童が住む玄武の沢、そして九天の滝が」

 

犬走は頷いて肯定。河童は確か、住むにしても綺麗な水や河でなければ駄目な妖怪だった筈。ならば問題は無いか、私は天狗たちに待ってくれと言い川辺にいるわかさぎ姫と屠自古の元へ歩く。

二人で話していた所に、謝罪しながら話しかけ。片膝を地面に付けてわかさぎ姫と向き合う。このままではわかさぎ姫が人間に殺されるのは間違いないと見ていいだろう。だから安全な国に移住するしかない。幸い私には青竜がいる、だから青竜に乗せて行けばあっという間に諏訪国に着く。

そして、幸か不幸か諏訪大明神は神使を多く集めていると聞いている。ならば人魚であるわかさぎ姫は丁度いい。何せ、神使の中には人魚も含まれているからだ。八重山列島、琉球王国で人魚が神使だと言う話を聞いた事があるのだ。わかさぎ姫を琵琶湖に置いて行くのは忍びない。

もしかしたら人間に殺され、食われてしまう可能性がある以上、勝手な話だが一緒に連れて行きたい。それを避けるには屈強な国に移住させ、身の保証を確約させなければならん。元々、布都が嫁いだ国に私は参謀として働くつもりだった。私は女だ。ならばそこを女好きな諏訪大明神に交渉材料として使えばいい。自分の容姿、見て呉れはそう悪く無いと自負している。後は諏訪大明神が、私を気に入ってくれればいいが。腰を下ろし、わかさぎ姫の右手を両手で包んで安住の地に行かないか誘う。少なくとも、琵琶湖にいるよりは安全な筈。

 

「わかさぎ姫、私達と共に諏訪国に住む気は無いか」

 

 

 

 

もう夕焼け、もうすぐで日が落ち、真夜中になる。白蓮は永琳と手を繋いで神社の中に入り、台所まで来たのはいいが、台所にはルーミアと幽香がいた。宴会料理を作ろうとしたのはいいが二人は料理をした事が無いので苦戦を強いられている様で。料理器具一式揃ってあるとは言え使い方を知らない、今まで藍に任せきりだったからだ。

永琳は白蓮に手を繋いだまま二人の元へ行き、宴会料理は私が作るから隣の部屋にある食卓で待ってなさい といい二人は頷いて赴く。白蓮も永琳の邪魔しちゃ駄目だと二人と一緒に隣の部屋に付いて行くが、先客がいたらしく影狼が頭に三角頭巾を被り、割烹着を着ている。どうやらいつも掃除している藍は仕事をさせられないので影狼がしているようだ、他にナズーリンや星もだが神社の掃除をしていて、その途中影狼はお腹が空いたから鮭を食べているそうで。三人を見ながら鮭を咥えている。

気を取り直したのか右手を上げ挨拶をして影狼は鮭を食べる事に専念し、白蓮と幽香は並んで座り、ルーミアは影狼がいる向かい側に座る。白蓮は隣にいる幽香のスカートを右手で掴んで軽く揺すり。それに気づいた幽香は、左隣にいる白蓮に顔を向け、左手で白蓮の頭を撫でながら微笑む。

 

「どうしたの白蓮」

 

「私 八ヶ岳に行って見たい」

 

幽香は白蓮に八ヶ岳を見たいと言われ、表情には出さないが困惑している。八ヶ岳には妖怪しか住んでいなく、妖怪の山の様な場所、そこにおいそれと人間である白蓮を連れて行けばもしも何かあった時では既に遅い。

連れて行くにしてもまだ子供である白蓮には時期尚早だ。何か、身を守る術があればいい話なのだが美鈴から武術を学ばせるのは少し早い。

例えば遠距離戦法の魔法、または妖術などを教えられる者がいればいいが、そう言えばヤマメが妖術を使えたはずだと考えた幽香は、宴会に来るであろうヤマメには白蓮に妖術指南させようと考え、幽香は連れて行かせる事が出来ない事を白蓮を撫でながら謝る。

 

「ごめんね白蓮。連れて行かせたいけど、ダメ。せめて身を守れるようになってからにしなさい」

 

「そうね。何かあってからじゃ遅いもの」

 

一応。この場、諏訪国には霧になっている萃香がいるとは言え、最悪の事態は想定しておくべきだ。白蓮が残念がるが、こればかりは幽香もルーミアも簡単には頷けない。どれだけ実力があろうと、何が起こるか分からないのだから。

白蓮は切り替え、気になっていた事をルーミアに聞く。何故ルーミアは氏神様と妻にならないのかについてだ。その事を聞かれたルーミアは、白蓮に直球で聞かれ気恥ずかしさと困った表情が混ざった顔で、右手の肘を食台に置き、右手の掌で顎を押さえながら目を細め、優しい眼差しで白蓮を見ながら答える。

 

「それはね、私とあいつは悪友に近い関係の様なものだからよ。夫婦の仲に、お互い。今の所だけどなる気が起きないのよ」

 

「んー? ルーミア様は氏神様の事は嫌いじゃないんだよねー?」

 

「出会いは最悪に近かったけど、好きよ。普段からあいつも、私からもお互いの事を好きだ好きだって言ってるからね。でも、付かず離れずの関係が1人くらいいてもいいと思うの」

 

真面目に答えたのはいいが、何だか気恥ずかしいと思ったルーミアは、この場から逃げる為 近くの山で宴会の為に、猪か鹿でも狩って帰ると言いながらルーミアは早足で逃げこの場を後にする。

しかしそれを聞いた烹着姿の影狼が立ち上がり私も行く行く絶対行く と言いながら強引にルーミアの背について行った。幽香は、まだ時間はかかるだろうけどいい傾向だと思い、さっきのルーミアが答えた事について白蓮は理解できなかった。

好きあっているなら夫婦になるのだと親の聖に教えられている、しかしルーミアは好きだと言っても今の所夫婦になる気が起きないと言った。良く分からない。打てば響く様に、好き同士なら夫婦になり子を作るものだと白蓮は聖に教えられ、大人になったら弘天様に嫁ぎ、妻になりなさいと洗脳されている。どれだけ考えても分からないので、手を繋いで歩いている幽香に白蓮は聞き、聞かれた幽香は微笑。

 

「好きだけど、あまり夫婦に拘って無いだけか、もしくは踏み込む勇気が無いのか。前者なら寄り添うだけの関係が男と女。夫婦の全てではないと、考えてるのかもしれないわね」

 

白蓮は更に理解できなくなる。白蓮にはまだ早い話かと幽香はこの話を続けず、他の話題を出す。藍は妊娠している、だから暫く仕事をさせる訳にはいかない。そうなると藍が今までやっていた掃除に料理に洗濯の神社の家事全般。そして、諏訪国の民の相談役も誰かがしなくてはいけない。

相談役は流石に永琳がする。こればかりは他の者にさせるのは荷が重いからだ。だから残った家事全般をすればいい話、諏訪子は面倒だと嫌がるかもしれないが皆で藍の穴を埋めなくてはいけない。

神社の掃除は先程いた影狼、そしてナズーリンや星がやっているが料理を作れるのはレティはともかく永琳しかいない。いい機会だと思った紫と幽香は弘天に作った手料理を食べて欲しく、以前から料理をしたがっていたが台所の番人である藍が、私がするのでお二人は遊んでいてください。と阻止され二人は断念していたがついに覚えられる日が来た。紫と幽香の母親である永琳が3人に教えるので、美味しくない料理を出される間違いが起こる事は無い筈だ。

 

「それより、藍は暫く休ませるらしいから。この際 私や紫は料理を覚えようと思ってるんだけど、花嫁修業として白蓮もしてみないかしら」

 

「するー! 氏神様に私が作った手料理を食べさせてみたい」

 

「いいわね。私もいずれお父様に嫁ぐけど、白蓮も私と同じように嫁ぐかもしれないから、どっちがお父様に喜んでもらえるか勝負ね。負けないわよ白蓮」

 

「うん!」

 

白蓮は元気よく幽香に呼応。幽香と白蓮が話し込んでいたら永琳が二人に宴会に使う物を神社の前に出して欲しいと頼まれた。蔵にあるお酒などを運び、どうやらまた神社の前で宴会をする様だ。二人は傾いて承諾。

幽香は鬼に勝るとも劣らない力があるので運ぶのは構わないのだが、白蓮はまだ子供で非力。弘天に嫁ぐかもしれないのにかすり傷1つでも付けたら大変なので、幽香は私に任せておきなさいと立ち上がり蔵に向かう。残された白蓮は一旦神社の外に出ようと歩き出し、神社の玄関で履物を履いて玄関の戸を開けるとそこは色んな種族がいてカオス。

空には大きな白竜と魔女。そして鳥居の下には鴉天狗の射命丸文と白狼天狗の椛が諏訪国を神子達に案内している。白蓮は目を輝かせながら両手を胸の前で握り拳。

 

「おー! 凄い大きな白の龍だー! かっこいい!」

 

「流石にこの状況、お父さんが絡んでないとは思えないわね」

 

「あ、紫様。お帰りなさーい!」

 

この状況を面白がっている白蓮の隣にはスキマが出て中から傘を持った紫が出て、紫は、ただいま白蓮 と頭を撫でる。どうやら皆に宴会の事は伝え終え戻って来てこの状況が呑み込めず茫然として空を眺めているが。一体この状況は何だろうか。

文と椛はまだ分かる、二人が神子達を連れて来たのだろう、しかし空にいる白龍と魔女達は一体何なのだろう。

考えても仕方ないと紫は右手に傘を持ちながら両手を広げ、歓迎する事にした。悩んでも分からないなら、今ある事実をただ受け入れてしまえばいいのだ。

 

「ようこそ諏訪国へ。ここは、神も妖怪も人間も住める安住の地。桃源郷であり理想郷であり幻想郷。私達は皆さんを歓迎します」




八重山列島、沖縄県には人魚伝説がありまして。その伝説では漁師が人魚を捕らえますが、人魚は海の神の使いだから逃がして欲しいと懇願。漁師が人魚を逃がすとお礼に洪水が起こる日を教えてくれて漁師は助かったとの話があるのでこう書きました。本当は人魚じゃなくて人魚のモデルと言われるジュゴンだそうですが・・・・・まあいっか!

ローレライについてですが、ローレライが妖精とも言われてもいますが魔女とも言われているのでこうなりました。それとドイツの穀物を守る妖精ロッゲンメーメ、水の妖精メアヴァイパー、後者はマーメイドの別称だそうですが、ともかくドイツに妖精がいる様なのでこうなってます。とは言え、水の妖精や穀物の妖精として出しませんがね。

2話で完結だったのに50話まで来てしまったよ。早く戦国時代書きたい。あ、戦国時代は歴史の人物が女だらけになります。と言うか女しか出しません多分。武田信玄とか女になるのは確定です。桑原城の戦いとかで長野県の土地に攻め入りますからね。まあ、戦国時代と言っても皆さんお気づきかもしれませんが、戦国時代が忠実通りに行かないので時系列や歴史が無茶苦茶になると思います。

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