蓬莱山家に産まれた   作:お腹減った

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今回の後書きはセクシュアリティで不健全な言葉が多数あります。18歳以下の人は見ないで下さい。そして今回の話を最後まで見ても『稲に関わる語彙』を絶対検索して調べたらいけません。誰の事か分かるから調べちゃいけない、絶対だから!

この話書いてて思ったんですけどこのままでは考えていた一つの没案、西の人間皆殺し√に入ってしまう! な、何とか軌道修正しなくてはいけない。



悪神
物部 守屋


「咲夜、悪いけどお願い」

 

「はい」

 

寝る時間が遅かったからか部屋から縁側に出て太陽の上り具合を見る。上り具合からするにお昼くらいの時間に起きた様だ。服の袖で口を隠して欠伸をしながら縁側に座り、咲夜を呼んで私の髪に櫛を入れてもらい私の髪を梳かす。

寝癖なんて無いけど念の為に。私はストレートの長髪でくせ毛が無く、ちゃんと髪の手入れをしていて髪が傷んでないからか櫛を使って髪に梳かす時、櫛に絡まる事は無い。咲夜に髪をとかしてもらい、縁側に座りながら屋敷の庭を見ていたら私と咲夜が寝ていた後方にある部屋から足音がした。足音から察するに妹紅かな。一緒に三人で寝てたから。

咲夜に櫛で髪をとかしてもらってるから、気を付けながらゆっくりと首を動かして後ろを見ると、右手で目を擦りながら片目を瞑って涎を垂らしながらふすまを開けて、縁側にまで来た。だけど、殿方に見られたらはしたないと思い。私は妹紅を呼んで私の隣に座らせて懐からハンカチを取り出して妹紅の目脂を取って、涎を拭く。

 

「駄目でしょう妹紅。女の子なんだから身嗜みに気を付けなくちゃ」

 

「んー」

 

この時代、例外もいるらしいけど殆どは男尊女卑の考えで女性は男性に比べて立場が弱い。しかも妻問婚。だから女性は基本的に屋敷に籠ってばかり。貴族の女性は屋敷から出たらダメだそうよ。これじゃ籠の鳥ね、つまらない。そんな人生何の為に生きてるか分からなくなる。とは言え、それは私が月人だから言える事。妹紅に聞いてもそれは当たり前と言われた。この生き方が当たり前と思っているから、他の生き方もあるんじゃないかと言う不満や疑問を抱かないのね。

藤原不比等は公卿。だから雑用は普通、あまりいい意味ではないけど私奴婢がいて掃除に料理に洗濯、家事全般ではないけど、ある程度はその人がやっているから大変だ。

妹紅はある程度の家事、 炊事 洗濯 料理 などは1人でやってるとの事。親の不比等はよく食べるそうなので大変で他にも屋敷が大きすぎるので手が回らない所は女中に任せてるそうよ、まだ若いのに凄いわね。咲夜は私の髪を櫛でとかしていたけど終わったのか立ち上がって櫛を懐に仕舞い、私の左隣に座ったので、感謝の言葉を口に出す。

 

「ありがとね、咲夜」

 

「いいえ。これが私の役目ですから」

 

妹紅と咲夜とでのんびりしていたら足音が聞こえ、足音の方に顔を向けると屋敷の庭にお面を側頭部に被せているお兄様と依姫お義姉様が屋敷に来訪。お兄様が私と咲夜に話しかけようとしたけど、お兄様は妹紅を見て近づき、妹紅の両手を優しく取って、面と向き合いながら口説く。相変わらず、可愛くて綺麗な女性をすぐ口説く。お兄様、隣にいる依姫お義姉様が悲しそうにしてますよ。依姫お義姉様がお兄様が死んだと聞かされた時に一番悲しんだのです。都市があった時からの妻を悲しませるのは流石に酷ではありませんか。そこまで、鈍感じゃありませんよね。お兄様。

 

「君、可愛いね」

 

「お上手ですね。ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです、あら。貴方の首にかけているのは確か」

 

あれは、お世辞じゃないと思うわよ妹紅。隣にいる妹紅を見ると、妹紅が諏訪大明神でもあるお兄様の首にかけている玉飾品をどこかで見た事があるのか凝視している。妹紅がお兄様に何か聞こうとしたその時、お兄様の側頭部に被っていたお面が、お面から人型に、彼女の周りに色んなお面を纏わせながら興味深そうに妹紅をじろじろ見る。

妹紅は事態が呑み込めず、お兄様に何を聞こうとしたのか忘れたのか思い出そうと唸っているけど、確かお面で面霊気の少女の名は 秦 こころ。偶然なのか大和にも渡来系氏族、大和朝廷に仕えている渡来人の秦氏。秦河勝がいる。

お兄様がこころの名を考えたそうなのでただの偶然だろうけど。私は神仏習合なんて正直どうでもいい、お兄様はどうでもいいとは思ってないようだけどね。お兄様が手を貸せと言われたら勿論私は手伝うけど。その前に、私と咲夜は八百萬神を信仰の時を止めて永遠にして欲しいと頼まれた。隣にいる咲夜は相変わらお澄まし顔のまま承諾。何だか、咲夜がお兄様にすごく従順になってる気が…

手伝うとは言ったけど、八百萬神を永遠ともなると大変。これは一日では終わらないでしょう。引き受ける変わりに、私と咲夜は暫く大和に滞在したいと言うとお兄様は二つ返事で頷いたので、これで安心。暫くは妹紅と一緒にいられる。

 

「可愛い。これが可愛い気持ちの概念?」

 

「そうだぞこころ。こちらの女性はきっと可愛いと言う概念が具現化した存在なんだ。こころだけに、心の為ここは1つ拝んでおけ」

 

「おー 早速 我々が心を手に入る兆しが見える気がする」

 

妹紅は可愛い可愛いと何回も言われ、たじろぐ。お兄様はこころの頭を撫で、こころはそれを聞くと右手を握って振り上げて応答し、開手。2回礼をして次に両手を合わせ、これを左右に開いた後に、勢いよく両手を再び合わせ音をパンパンと2回鳴らしてから、また礼をして縁側に座っている妹紅を拝する。

まるで妹紅が神様みたいじゃないの。しかも二拝二拍手一拝は神社でする物よこころ。でもこの拍手、または開手の行い、神仏習合の影響でしょうね。こんなの昔は無かった。そう言えば、天皇は神道の根幹に 位置付する存在なのに確か、出家したと聞いてる。自分達が神道の根幹だと言う事を忘れてるのかしら。そもそも天皇なのに法皇っておかしいでしょ。西の人間、本朝の宗教である神道の頂点が他の宗教に影響されてるんじゃないわよ。

 

「妹紅、容姿を褒められたのに何も思わないの?」

 

「んー 言われ慣れてるし、あまり思わないわね」

 

妹紅は右手の人差指を右頬に当てながら答えるけど、1億くらい生きて来た私より言われ慣れているなんて。何て事なの。妹紅は末女で妹紅の兄達である藤原四兄弟は政治に入り、姉たちはそれぞれ天皇に嫁いだそうよ。それにさっきも言った妻問婚。つまり、摂関政治。その成立の原因が起こり始めている。最後に残ったのは妹紅だけでこの時代、女は嫁がせ天皇や、姻戚。他の家柄と関係を持つ為の政治の道具に過ぎない。例えば、政略結婚とかね。後、女性は子供を作る為の道具。確か、お兄様の妻の一人である八坂 神奈子 もお兄様、諏訪国と大和の同盟を結ぶ為に政略結婚で妻になったと聞いている。それが今の世だけじゃないでしょうけど、女性がそう扱われるのが当たり前なのは、理解できない部分もあるけど分からなくはない。これから先の歴史にもそう言った話はあるだろうし、こんなの氷山の一角に過ぎない。私の肩書き、月の姫もそう。姫と言えば聞こえはいいけど結局は政治の道具だから。

お兄様が何かとんでもない事を言いかける前に、依姫お義姉様がお兄様が着ている服の襟を掴んで無理矢理引っ張り、お面だった少女、こころはまたお面になり、被るのではなくお兄様の側頭部に張り付く。そして三人は神社に戻って、豊姫お義姉様にお願いし、日向の国に向かうんだろうけど。これから遠出のデートをするのに依姫お義姉様を放置して他の女性を口説くから、依姫お義姉様も嫉妬するに決まってる。いなくなったお兄様たちを眺めていた私は、妹紅に誰にも嫁ぐ気は無いのと聞く。でも妹紅は隣にいる私を見て自虐気味に言う。

 

「炎が出せる女なんて誰も、妻にも嬪にも貰ってくれないわ。気味悪がられるだけよ。そんな事より話を聞くに、輝夜。あの人は輝夜のお兄さんなの?」

 

「残念ながら。嘆かわしい事ですわ」

 

「何で私じゃなくて咲夜が答えるのよ。それに、私のお兄様に対してその言いぐさは酷くない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし。西に住む人間の、神道の頂点である天皇。天智天皇のその弟、大海人が出家をするとは。流石にこの俺でも予想できなかった」

 

いや、もう一人いたか。藤原の子孫、今は『西行』と呼ばれ、河内国の弘川寺にいる男が。西行には娘がいたな。娘の名は、何だったか。うろ覚えだが確か、幽々子だったか。初めてみた時はまだ子供とは言え可愛い女だった、幽々子は将来 間違いなく美人になる。依姫は嫉妬してか今も俺を地面に痕を付けて引きずっていたのでそのまま俺は喋るが、依姫はそれを聞くまで歩いていたが静止。襟を掴まれて引きずられているので俺は後ろを向いていたから依姫がどんな表情で言ったのかは、分からない。

しかし皮肉だ。これから向かう国は日向国、初代天皇である神武天皇の神武東征は塩椎神に東に良い土地があると言われ決意し始まった。神武天皇は西の果ての日向国から東に進行し、先に住んでいた原住民。先住民を征服。その土地を無理矢理勝ち取った。で、今は大和に住む天皇に至る訳だが。仏教の伝来は神武東征に似ている。これが皮肉と言わずして何という。

神武東征や神武天皇と言えば 藤原 不比等 稗田阿礼 も関わっているそうだが太安万侶が歴史書の古事記を編纂しているそうだ。中身を軽く見せてもらったのはいいが、九州の先住民である熊曾、そして大和に住んでいた先住民である国樔の事とか書かれていて、どうせ大和に都合がいいように書かれてるんだろと、蓋を開けてみたら大和朝廷に都合の悪い部分が多く執筆。珍しいな。普通、自分達に都合が悪い部分は端折ったり書かない物なのに。

だが、天智天皇に弟なんかいただろうか。それに大海人は天智天皇より大海人の方が老けている様に見えた。仮に大海人の方が先に産まれていて天智天皇の兄だったとするならば、弟である天智天皇が先に即位するのはおかしくないか。気のせいかもしれないが天智天皇と大海人に血の繋がりが無いのかもしれん。しかし、もしもの時は天智天皇の子の大友。天智天皇の落胤である不比等もいる。しかも大友はともかく不比等には妹紅がいる。天皇の血を絶やさせる訳にはいかん。下心は無い気がしなくもないが俺が妹紅を頂くのもいい、天皇の血が諏訪国にあるのはこの先都合がいいかもしれん。

 

「隊長、天皇は神の神裔ではありますが。どう足掻いても、どんなに言い繕っても。結局は、ただの人なのです。どこにでもいるような、人間。だと思います」

 

「と 言いますか。応神天皇の事を忘れていませんか? 八幡神は確か豊後国にある宇佐神宮の禰宜に憑りつき、大仏建造に協力せよ、そう託宣したと聞いていますが」

 

「いいや、違う。それは人間共が勝手に言っているだけで、神身離脱の時と同じだ。しかもそれを言ったのは出家した尼だ、つまり禰宜なのに仏教派な訳だなその女は」

 

豊後国は日向国の北、一つ上にある国だ。これは何とも都合がいい。八幡神だけではないが、八幡神は神仏習合に対し拍車をかける為、利用された。応神天皇は死後 八幡神になった訳だが、八幡神が生前は天皇だった。これが人間、豪族共にとって重要だったんだろう。その辺の人間が同じような事を言っても意味は無い。が、西の頂点に立つ天皇なら話は変わる訳だ。

その尼、禰宜の服装は、頭巾を被っていて西洋の尼僧の服装だそうだが、禰宜のくせにその女は一体何を考えている、自分が宇佐神宮の禰宜だと言う事を忘れたのかその女は。天皇が完全無欠じゃなく、瑕疵である事は俺だって理解している。神道の神も完全無欠じゃなければ俺だって完全無欠じゃない。しかし。人だとは言え、仮にも西の人間の、神道の頂にいる存在が出家とは。やはり仏教は、神仏習合は厄介で煩瑣で、煩わしい。これは本腰を入れるべきだろうか、手段を選ばず本格的に人間の敵になる本腰を。本朝の人間は外来の文化を受け入れる者が多いが、良く言えば度量がいい、悪く言えば流されやすい。本朝の人間は未知の事でも信じ込みやすく純粋ともいえるがその分馬鹿ともいえる。俺もその馬鹿の一人だ。普通、宗教が二つ以上もあったら争うのは必然。一神教なら尚更だ、最初大和で宗教戦争もあったしな。一神教であるキリスト教 イスラム教 ユダヤ教 一神教であるこの3つの宗教からそれぞれ各一人の狂信者を同じ部屋に幽閉してみろ、確実に殺し合いだ。しかし神道は多神教、仏教も多神教ともいえるかもしれんし無神論とも言えるかもしれない。本朝の人間は八百万の神の考えを持っている、だからこそ仏教が受け入れるのが早かったし、仏教を受け入れる者が多かった。そして神道はアニミズムで風習、習慣の様な物。教義も無いし仏教の釈迦の様に創唱者もいない。正直、閉鎖的で分かりにくい所が多く信教、つまり十人十色。それぞれがそれぞれの答えを持つ。

仏教は哲学が多いとは言え、ある程度は分かりやすく答えがあるし教義や世界観など、答えが基本一つだ。この違いもある。後は仏教とは身分関係なく誰にでも支えとなる。これも大きい。身分関係なく誰でもと言う所が。人間は、脆い。身分が低い物なら尚更だ。人間はいつだって何かに縋りたく拠り所を求める、自分が考えるのではなく誰かに聞いて安心したいんだろう。

人間は面倒くさい生き物だ、人の輪に入れなければ不安になる者もいれば、誰かと同じ考え、同じ価値観なら安心する生き物。しかもその同じな物、好きな食べ物や飲み物。そんなのが多ければ多いほどに。自分だけでなく、他人に自分の考えや価値観を共感、肯定してほしい考えを持つ者が多い。だから神道の信教より仏教に惹かれたのかもしれん。

人間は何でもかんでも理由を求める、理不尽な目にあった時とかは特に。鎮護国家の考えも出始めている、神道は宗教色があまり強くない、だから仏教を使い鎮護国家をしようと大和の政府は動いているそうだが、ふむ。卑弥呼を使い邪魔な衆を惑わす手もある。どうしたものか。

復古神道は出来ない、それをするにしても造化三神の神産巣日神以外はとうの昔に身を隠してしまった。俺が目指す先に、もういない神を使う訳にはいかん。嘆いている場合じゃない。俺が死ぬ最後のその時まで、後ろを振り向かず前に歩いて行くしかない。

俺は依姫に離してくれと言い、依姫はそれに従う。俺は立ち上がって依姫に背中に付いている砂などを払ってもらい、払い終えたら歩き出す。依姫を追い抜いたら首を回して背にいる依姫を見て昔の様に、都市があった時の様に言う事にしよう。

 

「行くぞ依姫。都市があった昔の様に、また俺が仕事を疎かにしない様に見張る為、俺の背に着いて来い」

 

「はい、隊長。ずっと傍にいて見ていますし、どこまでもついて行きます」

 

やはり、人間は弱い。そして、例外もいるがつまらん生き物だ。早く小町に会いたいものである。世の中、こんなものだ。いつの時代も虐げられる弱者はいる。だがおかしい事じゃない、弱者はいつの時代もいるしそんな世の中が当たり前だ。この世は平等に出来ていないのだから。俺は救世主でも、強きを挫き弱きを助けるヒーローでもない。この世から妖怪や身分の低い者の陋劣を払拭させ皆 平等はやはり無理だ、あの永琳でさえそんな事は出来ない。一部だけなら出来なくもないかもしれんがな。

いや、一つだけ手はある。皆殺しの手が。食べ物に関しては問題は無い、何故なら御食津神達がいるからだ。しかし、それでも食べ物に困っている者がいる事は少ないとは言え明白だ。百姓の親が役身折酬、金の為に人身売買で子を売る者もいる、男なら力仕事に使えるし女はセクシャリティ。遊廓に売り飛ばされ、女衒。男の性欲、その捌け口の道具になる。そして買われる前に床師に買われた女が嫌がら無い様に訓練させられたり、処女なら出来るだけまぐわいの時、行為を及ぶ際、出来るだけ痛がらない様に、処女を傷つけずする訓練だってある。他にも民家に押し入ってその住民を斬り殺し、食料や金品を盗む話もよくあるし人攫いなんてざらだ。

所詮こんなもの。それで世の中は回っているし、人間は動物じゃないとか言う者もいれば人間は動物である事を忘れがちな者が多い。しかし、理性があるとは言え本能で生きる人間も動物なんだ。五色の賤などもあるのに陋劣を払拭し皆 平等にしようなんて考えを持つ者がいたらそいつは俺にとってどれだけ危険な存在で、危殆を孕んでいるだろうか。灯台下暗しで、案外、身近にいるのかもしれん。

 

歩きながらまだ他に何かないかと頭を悩ますが、病を流行らす案だけではまだ弱い、何か他にいい案は無いかと無い頭を振り絞るが知恵熱出て苦しい。本朝にも奴隷と言える者は存在する。例えば 婢 下人 奴婢 夜都古 俘囚 他にも別の言い方があるがそんな言葉もあれば身分差別の五色の賤もある。言い方が違うだけで実質的に奴隷である事に変わりは無い。大和朝廷は奴隷階級の人間を夜都古と呼んでいるがそもそも、これは今に始まった事じゃない。昔、卑弥呼の奴が国を治めていた時、 奴婢。または生口と呼ばれる者がいて、その言葉は奴隷に近い意味があった。昔からそんな事はある、今に始まった事ではないのだ。

とりあえず西で奴隷商人から奴隷を買うか。いや、奴隷場 事買うのもいい。病が流行ったら奴隷を使って、西の各地に住む人間に神がお怒りなのだと吹き込む必要がある。金は龍神から貰った5つの龍の頸の玉が懐にある。これ、売れば国を傾ける程価値があるだろうし。渡来人が確か奴隷を売っていた筈だ。だから渡来人の奴隷商人から奴隷を買って、奴隷を各地に向かわせる。各地に向かわせる訳だからそのまま逃げるかもしれんが、まあいいか。その時は俺が回ればいい。日向国に奴隷商人がいればいいんだがな。

 

いや、案を一つ思いついた。今は神仏習合のせいで神と仏の境界が曖昧だ。神仏習合のせいで民に神と仏の区別がついて無い。仏を蕃神と言ってるし。そこで、紫に頼んで神と仏の境界を弄らせ、仏を神にし。神道の、八百万の神の一部に組み込む考えが。仏教が天竺の神を仏教に取り込み、天竺の仏教はヒンドゥー教に取り込まれた様に、仏教、または仏を神道、神道の神に取り込む案。これは神道が色んな神様がいると言う考えを持ち、多神教だから出来る事だ。

仏が怒る訳が無い、なにせ悟りを極め煩悩が無いのだから。もしもの時は、悪いな釈迦。その時はお前が開祖の宗教、取り込むぞ。神道は本朝だけの宗教だが仏教は違う。天竺から始まりそこから色んな国を渡って本朝まで来た。天竺が始まりと言っても、もう仏教はヒンドゥー教に取り込まれてしまい天竺に仏教の概念は無い。多分一時的に無いだけかもしれんが。その他にもジャイナ教とか他にもあるがそんな宗教もある。なんだ、悩むことは無かったじゃないか。紫を使う案は優先順位が高い。ただ、それをすると言う事は本朝から仏教が消えるのか、それとも仏教が神道に混ざる事を意味するのかが不明なのは難点だ。これは賭け案だな。

 

「ふむ。巫女か、依姫。巫女服着てみないか。巫女服の依姫をセクハラして辱めたい」

 

「ば、馬鹿な事を仰らないで下さい隊長!」

 

神社に着いたので神社にいる巫女を見るが。皆可愛くて素晴らしい、折角だから依姫の巫女服姿を見たかったが拒否された。ただ恥ずかしがってるだけだろうが。仕方ないので依姫の後ろに回り、依姫の髪を櫛で梳く様にリボンで押さえているポニーテールを両手の10本の指で梳く。今でも依姫は都市があった時俺が買ってプレゼントした赤色のリボンを使っている。もうあれから数億年経っているからリボンも傷んでいる、新しいの買ってやるから捨てればいいものを。依姫は急に髪を触られたのでびくつくが髪を撫でられているだけだと気付いて、されるがまま、顔は俯かせているが。依姫のポニーテールを両手で触っていたが、うなじを見たくなったのでポニテを左手で持ち上げる。俺はうなじフェチではないがうなじ、髪の生え際は見てると何だかエロイ。エロスを感じる。うなじを見ているのも悪く無い。空いている右手を使い、右手の人差指だけをうなじに当て、そのまま下に、依姫の腰まで下げる。依姫は敏感なようで体や首から痙攣するかのように動いているから感じやすいのか。もう永琳とはまぐわいはやった、だから気にする必要はない。思う存分にやろう。依姫の右尻を右手で思いっきり掴んで揉むが、驚いた依姫が振り返ったのでそのまま依姫の顔に近づけ数秒ほど口付けをする事にした。ただ触れ合うだけの口付けで数秒経ったらお互いの唇を離す。依姫の目に涙が溜まり、頬に流れる。今まで豊姫に構いすぎてて依姫をほったらかしにしすぎた。すまん、依姫。許されるとは思ってないがここは告白する事にしよう。そもそも、都市があった時俺は豊姫と依姫に愛の告白をしていない。師匠が豊姫と依姫を俺に預け、いつの間にか俺は二人に好かれていてなし崩し的に恋人に、付き合っている感じになっていた。だから好きだとも愛しているとも言った事が無かったが、豊姫は地上に残って月人を奴隷にする際、俺と永琳は琵琶湖の近くにある蓬莱山にいた豊姫の元へ向かい、豊姫は協力する代わりにキスをして愛を囁けと言われたのでした事がある。しかし依姫にキスはともかく告白を、それをしていない。してやれてないんだ。依姫も妻の一人なのに、随分寂しい思いをさせてしまったかもしれん。振り向いている依姫の目からまた涙が流れる。ポニテを持っていた左手を離し、少し乱暴に左手で頭を撫でて髪をくしゃくしゃにする。暫くは依姫と一緒だ、今までほったらかしにしてた分構いまくろう。

 

「悪かった。俺の自意識過剰かもしれんが寂しい思いをさせて本当に、すまん」

 

「本当に、そうですよ。昔からいつもいつもお姉様ばっかり。少しは私の事もちゃんと見て下さい」

 

「ああ、分かってる。依姫。数億年も待たせてしまったが。愛してる。結婚してくれ」

 

「遅いです、遅いですよ。遅すぎますよ。でも私は、都市があった時、子供の頃のあの時から、隊長に、弘さんに初めて会ったあの時から。もう、決めているんですよ」

 

依姫は後ろにいる俺に首を回し顔を俺に向けていたが、首を元に戻し前を向く。依姫が右手で顔をごしごし拭いて、体ごと振り返る。目元が赤くなっていて、依姫は左手を使い、俺の右手を手に取って手を繋ぐ。そう言えば、恋人らしい事もした事が無かった。抱き着いてプロポーズした事もあった、あれは逃げる為に言ったが1割冗談だし、あの時は上司と部下の関係だったからな。依姫は俺の右手を左手で掴んだまま歩き出した。俺は依姫に引っ張られながら歩くが依姫はさっき言った結婚しようの返答は返さなかった。俺が今まで依姫を待たせていたので、今度は俺が待たされる番と言う訳だろうか。神社にいた巫女が一部始終見ていたようで顔が真っ赤だ。あれは、処女だな。依姫が見られていた事を忘れていたようであたふたしたが、今度は逃げなかった。その際、手を繋いでいる依姫の左手に緊張のせいか恥ずかしかったからか、凄まじい握力で俺の右手を握る。永遠のお蔭でなんともないが永遠じゃなかったら俺の右手は今頃死んでいただろう。顔を真っ赤にしている巫女が頭を下げるが、ついでに巫女の胸か尻を触ったり撫でようとした、しかし依姫が繋いでいた手を離し、右手で俺の服の襟を掴み左手で背を抓る。痛くないが後が怖いのでそのまま神社の中に入るとしよう。色々真面目に考えて疲れた。

 

しかし、まだ考えはある。瀬戸内海にいる藤原純友の事だ。ちょうど俺と依姫は西の果ての日向国に向かう。ついでに伊予国に住む藤原純友に会う考えもある。はたてが言うに藤原純友は瀬戸内海にいる海賊を鎮圧しているが、鎮圧した海賊を率いて挙兵させ叛乱を企てているそうなので、西の藤原純友と東の平将門。大和朝廷を東西の挙兵で挟み撃ちにする考えも。ふむ、意外に色んな考えが出るな。歴史に残す大きな事件、全ての黒幕は俺が担うとしよう、俺は天皇が死のうが生きようがどっちでもいい、だが案がいくつか出て来て神仏習合も何とかなりそうな気がして来た。

まあいい、神社の中を歩きながら後ろに控えている依姫の腰に左手を回して抱き寄せ首筋に甘噛みをして、依姫は急で驚いて目を見開くが俺に身を任せて来る。甘噛みをやめると依姫の首筋に俺の歯形が付いているので、周りに依姫が俺の女だと自己主張が激しい。俺、独占欲はあんまりなかった筈なんだがな。まあ。依姫の処女は俺のだが。そのまま依姫に舌を出せと言い、戸惑いながらも依姫は舌を出す。はしたないからか恥ずかしがっているが俺は気にせず依姫の舌を口の中に入れて、依姫の舌を口に含み甘噛みしながら顔を近づけ口吸いをする。口吸いしながら依姫の舌を歯で甘噛みをしていたら、依姫は気持ち良かったのか腰の力が抜けて姿勢が崩れる。そして俺にもたれ掛って来たので危ないと思い依姫と触れ合ってた唇と甘噛みしていた依姫の舌を離す。依姫の息が荒い、脳のキャパシティが超えた様だ。息を荒げながら俺を見上げるが熱でもひいたのか顔が赤い、身体が疼いたのだろうか。

 

「が、がっつかないで下さい弘さん」

 

「いいではないか、夫婦なんだから。今なら二人きりだし久しぶりにいちゃつこう。これからハネムーンをしに行くんだからな」

 

俺の側頭部に面霊気。お面としてもう一人いるが、気にしないでいよう。

 

「所で話は変わるが。確か、ギリシャ神話のゼウスは実娘を、メソポタミア神話のエンキは実娘と孫娘に手を出してたよな」

 

「いちゃつくと言ったのに、何故他の大陸の神の名を出すんですか。うろ覚えですがそう、だった気がします。ま、まさか弘さん」

 

依姫。お前も知ってるだろ、大和でやった神議るの最中いたんだ、実体化していた神の中に東北の神である地祇の おしら が。懐かしい、おしらと言えば東北にある陸奥国と平将門がいる常陸国には昔、こんな話があった。ごく普通の農家に1人の娘がいたが、その娘は本当にただの人間で、神の末裔でもなんでも無かった。そして、ただの人間である農家の娘は、神でも妖怪でもなんでもないごく普通の飼い馬にその娘は嫁ぎ、馬と人間が夫婦になった話が。その後、農家の娘はおしらと呼ばれる神になった訳だが。依姫。世の中は、広いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー! 今日は天気がいいわね」

 

今は八ヶ岳の麓にいて体を伸ばして空を見る。雲一つなく太陽が燦々と輝いてるけど今日はよく寝た、鬼ころしのお酒も美味しくて酔いながら気持ちよく寝られたし。ヤマメも晴れやかな表情でよく寝られた様ね。諏訪国に来るまでは野宿、しかも固い地面や木にもたれ掛って寝ていたから久しぶりにお布団で寝て気持ち良かったわ。諏訪国ってお金は無いけど食料はあるいい国、藍が作った朝御飯も久しぶりにお腹一杯食べられて鬼女も悪路王達も満足してた。だけど藍の顔色が少し悪くあまり著しく無かった気がするけど。でも素晴らしい、生きて行く上では食べ物は必要不可欠だから。両手で自分の両頬を軽く数回叩いて気合を入れて隣にいるヤマメと、ヤマメが片手に持つ桶に入っているキスメに向かって彼に頼まれた仕事を始めましょう。猫のお燐はまたどこかに行ってしまった。今回は空を飛んでいたのである程度の方角は読めたのが幸いか、あの方角は西、間違いないわね。お燐は気紛れで飄々として、掴み所が無く困ったものよ。確か西は今、怨霊。死霊の七人ミサキがいたはずだから、七人ミサキの怨霊を支配下に置き、操って困らせなきゃいいけど。

 

「じゃあヤマメにキスメ。行きましょう」

 

「そうさね」

 

キスメも桶の中で片手を上げて返事をする。悪路王達は先に八ヶ岳に入っているから残りは私とヤマメとキスメだけ、固まらずに 散り散りになって八ヶ岳に住む妖怪を従わせにする事になった。八ヶ岳って大きいし広いし皆 集まって八ヶ岳に住む妖怪を従わせるのも面倒だからと、そう決め、森の奥に進んで木深く蓊鬱している薄暗い森を歩く。

草木や森、樹海が邪魔してか太陽の光が届いてなく、足元などがよく見えない程明るくない。そこでキスメの能力、鬼火を落とす能力を使い、辺りを灯してもらおうとキスメに頼んで私達の周りに鬼火を出してもらう。鬼火が出ると辺りが明るくなりこれで足元を気にせずに歩ける様になった。

桶に入っているキスメの頭を撫でながらお礼を言い、キスメの鬼火を灯しながら奥に進むと3尺足らずの小坊主が急に現れ、ヤマメとキスメとで近づき坊主を見下ろしているとその坊主は背が伸び始めて7,8尺から1丈の大男になる。私は大男になった小坊主を見上げて思い出すけどこれの名は確か、入道坊主。入道坊主が声をかけて来たけど、私達は死なず何も起こらない。死なない私達鬼を見て大男の入道坊主は狼狽えている。入道坊主の対処法は何だっけ。

ヤマメに聞くと、見ていたぞ、と言えば言いそうなのでそう言ってみたら消えた。入道坊主は消えたらどこから出たのか、煙が辺りにもくもくと出始めて前が見えない。誰か煙を焚いてるのかしら。煙が晴れて行くと一人の女性が地面に片膝付いて悔しそうにしている。彼女には獣耳と一本の巨大な尻尾がある、見た感じあれは狸の尻尾ね。どうやら入道坊主の正体は彼が欲しがってた神使の一匹の内の狸、化け狸、袋下げと言われる狸だった。

 

「いきなり神使の一匹ね、これは僥倖。ヤマメ。これって彼に喜んで貰えるわよね?」

 

「べた惚れだねぇパルスィ」

 

昨日の宴会で天魔に言われて、今日私は諏訪国の上空で朝日が出るのを待っていていた。理由は私が腰に差している三本の内の宝剣の一つ、顕明連を朝日に当てろとの事で。だから私は朝日が出るのを眠たさを押し殺していたけどやっとでたので顕明連を朝日に当てると三千世界が見え、そして悟った、自分の役割、天命を。そして、今までの出来事が全てではないけど殆どが偶然じゃ無い事も。天狗と河童が住んでる八ヶ岳に住む妖怪を私達、鬼女と悪路王達で知性が無く本能で生きるのは殺して、理性があるのは生かして置いている。あの人にそう言われたから私は従うけど、悪路王達はあの人に仕えてる訳じゃ無いから苛々してるけどね。悪路王達は萃香、勇儀、華扇に従ってるから。でも、生かした妖怪は屈従させてるから私達鬼の事を快く思わないでしょうけど、そうじゃなくても鬼って嫌われ者だし。

 

「くっ、馬鹿な! 即死させる事が出来ないとは鬼は面妖な妖術でも持っておるのか!? ぬかった。八ヶ岳に住む狸の長の儂が相手が鬼とは言え殺す事も、ましてや驚かす事も出来ずに敗れるとは・・・! だが、第二 第三の儂が必ずや」

 

雌の貒である狸の尻尾を生やしている女性が顔を俯かせながら片膝を地面に付いて言いながら握りこぶしをして悔しそうにしている、斬って殺す訳には行かない。彼に本能で動かず理性があって実力がある妖怪は生かし、諏訪の国に引き入れるように言われているから斬れない。それに、今の彼女が言った八ヶ岳に住む狸の長と、そう言った。これは好都合、そして彼女が八ヶ岳に住む狸の長なら八ヶ岳に住む妖怪の事を聞けると思って片膝付いてぶつぶつ言ってる彼女に近づいたら、目線を合わせる為に腰を屈めて声をかける。

 

「自分の世界に入ってる所悪いけど、この八ヶ岳に住む妖怪の事色々教えてくれない?」

 

彼女は私に声を掛けられて事に気付いて顔を上げる。彼女の頭には緑色の木の葉を乗せているけど狸らしさを出す為なのか。彼女の手を掴んで強引に立たせ、八ヶ岳に住む妖怪の事を聞いた。

八ヶ岳に住む妖怪は野守虫 笑般若 薬缶吊る 道塞ぎ、別名だと塗壁 付紐小僧 大蜘蛛 牛蒡種 芭蕉精 袋担ぎ、また名を隠し神 熊が妖怪化した鬼熊 雨女 赤子、

後は山彦に2姉妹の覚。最後に手長足長。手長足長は妖怪じゃなくてただの巨人で夫婦、その名の通り手長は手が長く、足長は足が長い巨人。二人には子供がいるらしいわね、ろくろ首、またの名を飛頭蛮の子供が。彼が言うに本当はこの妖怪たちを私達鬼に従わせるのではなく、彼の娘である 蓬莱山 諏訪子 に従わせる為に動いている。諏訪子は仮にも皇女なのに諏訪子だけに従う駒がいないからだ。

彼が八ヶ岳の妖怪を従わせなかったのは例えば、そうね。 『うわん』、『ひょうすべ』 、『輪入道』、他にもいるけど相対したら即死させられる妖怪がいるかもしれないから迂闊に手を出せなかったらしい、実際私は八ヶ岳にいて正体は狸だったけど目の前にいる入道坊主だって声を掛けられたら即死させられる妖怪だからね。だけど彼の妹のお蔭でその心配はなくなったけど、彼にはやる事が沢山あるそうなので、私達鬼がやってる訳。その私達鬼も今は死ねないけど。

 

「うえー 八ヶ岳の住む妖怪の一部がそれだけいるなんて、しかも一部よ一部? これじゃあ、さっさと終わらせる事も出来ないじゃない!」

 

「わ、私に当たるのはやめておくれよパルスィ」

 

「この程度で驚かれては困るのう。この辺りは諏訪国側の八ヶ岳じゃが。反対側、甲斐国側の方にある八ヶ岳にはマヨヒガがあり、猫又や化け猫などが住んでおる猫の里もあるのじゃぞ」

 

隣にいるヤマメの両肩に両手を置いて揺さぶると、ヤマメは酔った様に気持ち悪そうな顔をしたので揺さぶるのはやめて謝罪。ヤマメの片手、桶の中にいるキスメもヤマメを揺らした振動で目を回している。

八ヶ岳は諏訪国と甲斐国の境目にある。私達が今いるのは諏訪国側の八ヶ岳で、反対側にある甲斐国には猫の里があるなんて。ついでに聞いたら狸である彼女は佐渡に住む狸の長だったけどもっと狸を支配しようと佐渡から船を使って越後に渡って、狸を牛耳り、今度は越後の南にある諏訪国に住む狸を支配しに来たそうだ、要は本朝に住む狸の長になる為に越後より南の諏訪国、そのまた南の遠江国の狸を従えたら後は本朝の北東にある陸奥国まで行って、最後は陸奥国の北にある北州、蝦夷ヶ千島にいる渡党。アイヌの所にまで行く気だったらしい。

アイヌってあそこに住む神、じゃなくてカムイ、または神威は口喧しく煩いと有名なのに度胸あるわ、中々の野心家ね。

大和朝廷に従ってないのは本朝の東に住む平将門と興世王、蝦夷の軍事指導者 大墓公阿弖利爲 長いから阿弖流爲と呼ぶ。と、もう一人の指導者 盤具公母礼 そしてその北、北海道、北方領土に住むアイヌとカムイ。後は琉球神話の神と琉球國、琉球王国くらいかな。狸が言うには本朝の南西、西は駄目なんだって、芝右衛門狸と太三郎狸がいるから東と北しかなかったそうよ。人型になっている狸は私がいる別の方向を向いてかんらかんら。さっきまで悔しがってたのに演技と思う程の心移り。それと目が悪いのかしら、顔を向けている方、そっちに私達いないのに。

 

「で、話を聞くに。この後は儂の様に八ヶ岳に住む妖怪を力づくで従わせるのじゃろう?」

 

「人聞きが悪いわね。無理矢理従わせる気は無い、けど従わないなら諏訪国から出て行ってもらうけどね」

 

「話してる所悪いけど邪魔するわよー!」

 

周りにある草木や大樹が突風に揺れる音を鳴らしながら、空から翼を羽搏かせて姫海棠が錐揉みしながら地面に下りて来たけど、服のあちこちに木の葉や木の枝が絡まってるから相当急いでいたのね。天狗は空を飛べるから八ヶ岳を登る苦労は無い、私も神通力で空を飛べるけど。この八ヶ岳って高すぎなのよね、駿河国にある富士山より高いんだもの。だからこそ天狗は八ヶ岳に住んでるんでしょう、出来るだけ外敵が来ない様にね。だけど姫海棠の言葉を聞いて私は有無を言わさず強襲され、精神的衝撃を受けそのまま打ちひしがれ、近くにある大樹にもたれ掛る。

 

「速報よ速報! なんと、あの男の妻の一人が妊娠しているそうよ。それで先日に続いてまた今日も宴会を、どうしたのパルスィ」

 

「ちょっと、ゴメン。待って。暫く私、立ち直れない」

 

そう言えば、今でも富士山には天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命と富士山の女神である木花咲耶姫は今でも富士山にいると彼に聞いた。昔、第7代孝霊天皇の時代に木花咲耶姫は良人である天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命と夫婦喧嘩。それで富士山は噴火して、それから何度も富士山は噴火している。それに困った第11代垂仁天皇はこれを憂い噴火の原因である神を鎮め奉る為に浅間神社を富士山の麓に建て、姫神の協力の元の水徳で噴火は鎮火。天邇岐志と木花咲耶姫。噴火に関係なかった岩長姫と浅間大神、計4人を敬慕の念に信仰して噴火が収まった。天邇岐志と木花咲耶姫は反省したけど巻き添えにされた岩長姫と浅間大神はいい迷惑よね。

 

 

 

風になびく 富士の煙の 空にきえて 行方も知らぬ 我が思ひかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本には三種の神器と呼ばれる物が3つ存在する。一つ 八尺瓊勾玉 一つ 八咫鏡 この二つは天岩戸の時に出る物だが、最後の天叢雲剣、草薙剣 これは須佐之男が八岐大蛇を斬り刻んだ時に八岐大蛇の尾から出てきた剣だ。

しかしこの中の一つ、神器の事件。天智天皇、その時代に盗難事件の話がある。

神社の庭が広いので竹2本以上を地面深くに突き刺し、竹の上辺に縄が括ってあり、それぞれ並んだ2本以上の並んだ竹には縄が高やかな所で縛られ、横に吊るされている。平行に土に突き刺さっている竹に繋がっている横に吊るされた縄に洗濯物を被せる様に置いて干す為だ。竹で出来た物干し竿を使い藍は洗濯物を干し始め、その光景を視界に入れながら永琳は目の前に立っているが 射命丸 文 と 犬走 椛 二人に永琳はある頼み事をしている。永琳は姫海棠 はたて に一つ報告を受けた。諏訪国にある守屋山に物部守屋がいるとの事、物部守屋の性別は女だ。大和で起きた宗教戦争から命からがら逃げて来たそうで。物部の生き残りは、もう一人いた様だ。

 

「分かりました、その沙門を探せばいいんですね」

 

「ええ。椛に文、悪いけどお願いね」

 

「お任せ下さい! もう私達は弘天さんと永琳さんの神使ですからねー」

 

射命丸 文 はどこで習ったのか軍人の様にビシッ!と敬礼して、犬走 椛は永琳を見ながら頷き、二人は話が終わったら空を飛んで椛の能力を使いながら新羅から来た僧、沙門を探しに行く。

永琳は諏訪国に戻る前に天照に一つ頼まれ事をされたのはいいが、どうも三種の神器の一つである天叢雲剣。草薙剣盗難事件が起きた様だ。盗んだ犯人は沙門だそうで、その沙門は天叢雲剣を持って本国である新羅に逃げようと出港するかもしれないとの事。そこで新羅に逃げられる前に、諏訪国と盟友である天狗の力を借りたいと天照は永琳に頼み。文と椛が永琳に捜索を頼まれた訳だ。三種の神器の一つである天叢雲剣と言えば、現人神である天皇の持つ武力の象徴だ。それを盗まれると言う事は天皇、ひいては朝廷に武力が無くなる事を示す、盗まれた挙句逃げられたらこんなの醜態もいい所だ。盗まれてる時点で現人神である天皇や、大和朝廷の面子を潰されていると言うのに。

普段は動かない天照も子孫の為に今回は動き、八咫烏を使って沙門を捜索中。永琳と諏訪子に神奈子の三人は諏訪国に戻って来た。

役目を終えた永琳は疲れを癒すために永琳、諏訪子に神奈子と一緒に神社の縁側並んで座り、それぞれには湯呑に入った熱い緑茶と煎餅を持って食べながら洗濯物を干そうとしている藍を見る。あまり働くなと永琳は昔に言われていたとはいえ、念の為に今回は動いておいたのはいいが。余計な事をしてしまったかと溜息を出してしまって藍に気付かれこちらを向く。藍は感情が薄いので表情からは感情が読み取りにくいが、藍の瞳から憂懼の気持ちが窺える。

 

「永琳様、お疲れの様子ですが肩でもお揉みしましょうか」

 

「気にしなくていいのよ藍。貴方は働き過ぎなんだから、寧ろもう少し私を頼ってもいいと思うのだけど」

 

藍は首を横に数回振りながら断り洗濯物を干す為に桶に入った洗濯物を取り出す。藍の隣にいるてゐは背が低いので手が縄に届かない。だからてゐは桶に入っている洗濯物を広げてから藍に渡す役目だ。そんな藍を見て永琳は苦笑。諏訪子と神奈子は湯呑に入った緑茶を飲んで煎餅をバリボリ音を鳴らして食べているが、藍は働きすぎている、諏訪国の相談役もしていれば元々、神社の 掃除 洗濯 料理 などは永琳がしていた。

しかし藍が弘天に拾われ、永琳に命を助けてもらってから藍は弘天と永琳に仕える事になり、神社の巫女になった。料理については藍の担当はお昼だけでそれ以外の朝と夜は永琳が料理担当だが。永琳がいない時などは三食とも藍が作る事になる。

料理を作られるのは今の所、永琳に藍にレティくらいしかいない。永琳はともかくレティに関しては冷たい料理しか出ないので夏以外では食べられた物ではない。今は春とは言え、まだ風も冷たく肌寒い。皆、藍を手伝おうとしても藍はそれを拒否。藍は弘天と永琳、二人を支える事、それを生き甲斐としている。だから藍を手伝いたくても皆は手伝えない。手伝うと言う事は藍の生き甲斐を奪う事になるのだから。永琳は神社の縁側に座りながら藍に淹れてもらった湯呑の中から湯気が立っている熱い緑茶を口に含み、喉を鳴らしながら永琳は大和の出来事を想起。

 

 

 

弘天と依姫が昼になったので大和から日向国に向かった後、永琳は豊姫に頼んで諏訪国に戻る前に弘天が言った病を流行らす一計、まだ物足りない、生温いと考えた永琳は駄目押し、念の為にもう一手打っておくべきだと思案。ヤマメに頼んで西の人間に病を流行らす事にした訳だが、もう少し何か欲しいと永琳は思考を重ねて思いついた。諏訪国だけではなく他の国もだが食料に困った生活をしているのは鮮少。

何故なら稲田の女神である奇稲田姫や神大市比売の息子、穀霊神の大歳神もいれば食物を司る神、御食津神達である 豊受比売 宇迦之御魂 若宇迦売 そして大宜都比売 保食神 この大宜都比売は本来、須佐之男に殺されている神だが殺されていない、生きている。そして月読に殺された保食神は一度死んだ、しかし神産巣日神に命じられ遣わされた 枳佐加比売命に蛤貝比売、そして物部氏の祖神、饒速日命がかつて天照大神が持っていた十種神宝によって蘇生している。火之迦具土と天稚彦もだ。

十種神宝は饒速日命が天照大神から授かった物だが今は持って無い、饒速日命は神裔にソレを授けた。その神裔は物部氏、その生き残りの現人神が持っている。この御食津神だけではないが神を使って西の民を食糧不足に陥らせ、朝廷に対し民に蜂起を起こさせようと考えた永琳は二姉妹で秋の神、その妹である穣子を呼び出す事にして動く。

 

「穣子。確か貴方、豊穣の神だったわよね」

 

私は朝 目覚めて春の女神である佐保姫といつもの様に口喧嘩をしていた、だけど口喧嘩をしている最中に知恵の神である八意永琳が割り込み、佐保姫に今は口喧嘩を押さえて私を貸してくれないかと言い佐保姫はそれに承諾。私は八意永琳に大事な話があると言われ神社から外に出て私は太陽を眺めながら立っている。もう昼のようだ。近くにいる八意永琳も太陽を眺めているが一体何を考えてるのか全く読めない。この女、あいつの前だと人間の様に表情、感情豊かだがあいつがいなくなるとまるで別人。隣にいる八意永琳は太陽を眺めながらとんでもない事を言い出す。

 

「西に住む人間の、今年の作物を不作にしなさい」

 

開いた口が塞がらなかった。私は確かに秋の神で豊穣の神、だから人間の秋の作物を豊穣にさせたり不作にする事は出来る。例えば稲、今の時期。人間は稲の田植えをしている時期だ。そして秋の季節に稲刈りをする。しかしそれをすると言う事は人間が食べ物に困ると言う事。いくら八意永琳に言われても本来なら頷く事は出来ない、私は人間の敵じゃないんだから。けど、私はあいつと八意永琳には逆らえない。かつて大和が諏訪国を支配しようと使者である八坂 神奈子を送った、が、あいつと八意永琳は一瀉千里に動き大和から諏訪国に使者を送って一日も経たずにどうやってかは知らないが、大和に来て三貴神、大和を乗っ取った。いや、乗っ取らせる為に三貴神は動いたともいえる。乗っ取る時に神々がその場にいた。私の姉、そして私もその場にいたんだ。私は大和が諏訪国に乗っ取られてる事を知っている内の1人で天岩戸の関係者でもある、私の姉もその1人。だからこそ逆らえない、あいつと八意永琳には。私、そして私の姉も西の神だから。しかも太陽神はあいつに御頸珠、御倉棚神を渡した。それが一体何を意味するか私や他の神も知らない訳が無いし、八意永琳も意味を分かっているのは間違いない、受け取った本人は気付いて無かったけど。

 

「な、何言ってるのよ! そんな事したらどうなるか知恵の神であるあんたじゃなくても」

 

「悪いけど、拒否権は無いの。何も考えず言われた通りに動いてくれたら私は貴方に何もしない」

 

八意永琳は右腕を弓の弦に入れて右肩に弓を乗せ、その弓の藤頭の部分にハンカチが巻いてあって、そのハンカチを八意永琳は左手で触りながら話す。

私は神だけど戦いは得意ではない。私では八意永琳には敵わないし、抵抗しても無駄だろう。この女、私じゃなく須佐之男の妻である奇稲田姫、神大市比売とその息子 大歳神、そして娘の倉稲魂。天照の世話役である御食津神の1人、豊受比売にまで言うそうだ。徹底している、一体何を考えているのだろうか。人間の作物を不作にすると言う事は西の人間が餓死する恐れがある、人間が減ると私と姉が困る。が、それは昨日までの話。はっきり言って私達にもう人間は必要じゃない。永遠に、独立した個体的存在になるからだ。

あいつと八意永琳が人間にとっていい神。とんでもない、考える事がぶっ飛びすぎ。たまに二人の事頭がおかしいと、まともじゃないと思う時がある。今回だってそうだ、八意永琳はあいつの言う事しか聞かないしあいつの為だけにしか動かないし考えない。あいつが人間を皆殺しにしろと言ったら間違いなくそうするだろう。だからこんな事を言うのは今回もあいつが関わっている筈。仁心や仁恕などの感情は持ち合わせていないのだろうか、頭がいかれてる意味では、本当に、似た者夫婦。そんなんだからあんた達二人は、

 

「この、邪神夫婦」

 

従う余地しかないと、そう理解した私は背を向け、憎々しげに捨て台詞を吐いて早歩きで神社に戻る。その時、風が勢いよく吹き、風に乗ってか知恵の神が嬉しそうに言う声が聞こえた気がした。罵倒されたのに嬉しそうに言うとは思わなかったわ。

 

「私にとってその言葉、最高の賛辞よ」

 

その後、大和にいた八意永琳は諏訪子と神奈子を連れて諏訪国に戻る為に豊姫の元へ向かった。

 

 

 

縁側に座っていた永琳は大和の出来事を思い出し物思いにふけっていたが、藍が手に持っていた洗濯物を右手で掴んでいたが地面に落としてしまう所が視界に入り意識を戻す。徒然は駄目ねと永琳は藍を見る。藍がてゐに渡された洗濯物を地面に落としてしまったせいで、藍の隣にいるてゐが地面に落ちた洗濯物を拾い桶に入れながら、何やってんのさ。と藍に苦言を呈し、藍はてゐにすまんと謝罪しながらもう一度洗濯しなおさなくては溜息を出した藍は、落とした洗濯物が最後だったので、もう桶には洗濯物が入って無いから汚れた最後の洗濯物を桶に入れ、後で洗おうと思った藍は一先ず干している洗濯物のしわを両手を使いながら伸ばし始める。てゐが落とした洗濯物を洗濯しに行こうとしたが藍は自分でやると引き留めたので、てゐは返事をしながら頷いて、縁側に座っている三人の元に行き、煎餅を貰ってお礼を言いながら齧り、藍の元へと戻る。てゐはもう一枚煎餅を藍に渡す為に貰っていて藍の隣に来たてゐは、煎餅を藍に差し出そうとするが藍の様子を見てやめた。今の光景、洗濯物を藍が落とす所を視界にいれていた永琳は珍しいわねと思う、体調でも悪いのかと思い聞こうとしたが、藍の事だから何かあったとしても言う訳が無いと思い言うのはやめ、前から気になっていた事が確信に変わったので聞く。

 

「藍、貴方。身籠もってるわね」

 

「何だ、おめでたか。弘天の子を孕んだのか。おめでとう、藍」

 

てゐは永琳の言葉を聞くと体をびくりと震えるが、これでは藍がどれだけ隠しても永琳で無かろうと手に取る様に分かる。神奈子は素直に祝福したがそれを聞いた諏訪子は口に含んでいた緑茶を吹き出して吹き出した緑茶で虹が見えた。諏訪子は咳き込むが、永琳と神奈子の間に座る諏訪子は、諏訪子の両脇に座る永琳と神奈子に背中を撫でると、諏訪子は二人にお礼を言いながら永琳から差し出されたハンカチで口元を拭く。永琳は冬の季節から藍を見てずっと疑問に思っていた。昔と今では何かが決定的に違うと、そう感じたからだ。例えば歩き方がおかしい様な気がすると前に思った、そして会った当時藍は少女で子供だったのに今では体型も大人の女性に成長し、出る所は出て、色気を放つ。そんないい女になっている。しかもその色気が人妻が放つ様な、そんな色気。永琳は藍に遠まわしで聞かず直球で聞こうと思い孕んでいるか問うた。遠まわしに聞いても藍が分かるかどうか微妙だったから、だから直球で聞く、藍が孕んでいるかどうか聞かれたら、洗濯物を干す為に神社の庭にいた藍の動きが止まった。藍は縁側に座っている永琳に背を向けていて永琳は藍が今どんな顔をしているか分からない。藍はいつもより小さな声で永琳に問う。

 

「てゐに、聞いたのですか」

 

「いいえ聞いてない。強いて言うなら実体験をして、藍を見た勘よ」

 

藍は、一緒に洗濯物を干していた隣にいるてゐを睨むが、てゐは い、言ってない言ってないと両手の掌を藍に向けながら首と連動する様に振るので、違うのかと藍はてゐを睨むにはやめる。永琳はもう生娘でも、おぼこでもない。今でも股が痛く、縁側に座っているのも正直辛い。痛いなら寝ころんだ方がまだ痛みがましになるのだが、しかし永琳はその痛みが嬉しいから今でも股の痛みを感じる為に縁側で座っている。数億年かけてやっと抱かれたから。そして永琳は抱かれてやっと理解する、冬の季節に藍は抱き枕として弘天の部屋に呼ばれていた。その数日後、藍の歩き方が少しおかしいと感じた、何故歩き方がおかしかったのか。自分が一番目じゃなくて非常に腹立たしいが先に藍だった様だ。とは言え、永琳は抱かれる以外の事、口吸いや手淫、口淫などは弘天と昔から普通にしていたのでイーブンと言え、無いか。藍は、申し訳ありません。小声で永琳と神奈子に謝罪、永琳と神奈子はなぜ謝罪したのか一瞬理解できなかったが理解したら永琳は右手でおでこを押さえ、神奈子は右目を瞑りながら気にする必要が無いだろうと言いながら2人は呆れた。諏訪子は話について行けてなく、藍に淹れてもらった傍にある急須を掴み、急須を傾けて湯呑に緑茶を入れる。少し温くなった緑茶を飲みつつ音を豪快に出しながら煎餅を食べ、呑み込む。

 

「嬉しいけどさ、信じ難いよ、私に腹違いの弟か妹が生まれるかもしれないなんて。父さん手を出し過ぎ」

 

「いや、一国の王なのにむしろ今まで手を出さなさ過ぎだ。大和の皇帝である天皇などは、女を囲いまくっている。良かったじゃない、これで末っ子じゃ無くなる。しかもお姉さんぶれる」

 

「お姉さんぶるかはともかく、まあ嬉しいけどさ。でも意外だね、神奈子は女を囲う事には寛容なんだ」

 

「大和でもそうだったし王とは、子を残すのも仕事だ。その辺り、私の様な考えが一般的だと思うが」

 

諏訪子と神奈子はあまり深く考えず話しているが実際はとんでもない話になる。帝国である諏訪国の皇帝、また女皇は弘天と諏訪子しかいなかった。弘天はともかく諏訪子は弘天と永琳の信仰が混ざって生まれた、そしてその信仰は諏訪国の民によって齎されたのが諏訪子。だからこそ諏訪国の王女足りえた。そこにもう一人追加される、諏訪子と言う女王ともう一人女王が増えるか、もしくは大祝の者が産まれるかもしれないのだ。国の、諏訪国の大騒動な話だ。永琳は一番聞きたい事があるので未だに背を向けている藍を問い詰める。

 

「そんな事気にしなくてもいいの。でもね、これは聞きたいわ、藍。抱かれて孕んだのか抱かれないで孕んだのか。どっちなの」

 

「あ、の。その。抱かれ、ました」

 

「じゃあ出された回数もついでに教えなさい」

 

「う。えっと、滾られていたご様子で、私も無我夢中だったのでよく覚えていませんが、中で子胤、性を放たれたのは。片手の指だけでは足り無い事は明瞭です」

 

藍は永琳にも仕えているので嘘は言えずただ正直に言うしかない。背を向けていた藍は無表情で片手を見ながら答えるが、普段なら淡々と答えているのに今回はちぐはぐで拘泥で切々な言い方だ。その時、藍の隣にいたてゐは、両目を閉じている藍の両頬が思わず頬に紅を差している様に見えたが、藍はその時の事を思い出して珍しく照れてるのかもしれない。女として自覚が出て来たのだろうか、なら荒療治だったとは言え、やっと藍は女としての人生を歩み始めた事になる。表には出さないがてゐが腹の中では暫くからかうネタが出来たとにやけている。藍が正直に答えてくれたので、永琳は笑顔の表情を顔に張り付けたまま頬を引き攣らせているが何も言わなくなった。しかし、藍は神奈子に祝福され、永琳に気にしなくてもいいと言われて心が安らいだ。孕んだのは藍が初めて、だから地上に残った時の順番だが、1番目と2番目に妻になった二人を差し置いて3番目の自分が最初に孕むのは罪悪感しかなかった。2番目に妻になった神奈子はおめでとう そう言ってさっき祝福したが、神奈子については今までが今までで正直あまり懸念は無かった。が、1番目の妻になった永琳はそう言ってくれるか不安でしかなく、主に貰った子種、それが形になった子供をおろす事も出来なかったからので藍はほっとする。おろせなんて誰も言わない事は藍も分かっているが主の子供を孕んでしまい藍は憂虞の感情しかなかったのだ。だが、どこか心の片隅に喜悦の気持ちがある事は否めない。藍は感情は薄く分かりにくいが、分かりにくく感情が薄いだけでちゃんと感情はあるから。永琳は自分のお腹を撫でながら、少し気が早いかしら そう思いつつ藍に子供の名を決めているのか聞く事に。

 

「それで、子供の名を決めているの?」

 

「はい。名はもう決めています」

 

藍は永琳と会話しながら右手で少し膨らんで来たお腹を撫でていたが、子供の名を永琳に言おうと藍の背にある神社の縁側に座っている永琳に振り返る。今まで藍は感情が薄く、笑った事が無い。お揚げをあげた時、8本ある狐の尻尾の振り具合のお蔭で喜んでいると分かるが、表情は無表情で変わらないしそれ以外では滅多に感情を表に出さない女だ。藍の主である弘天や永琳でさえ笑った所を見た事が無い。だが、この時 永琳は。藍が振り返った時に一瞬とはいえ藍が表情を崩した所を見た、気がする。

 

「真名は願掛けの為に言えませんが、名は童子丸にしようかと」

 

藍が言うに、子供の真名は稲に関わる語彙だそうだが永琳は深く聞かずただ、そう。と 温くなった渋茶を飲んで一息つく。おかしな話だ、藍は元妖怪とは言え今は神なのに願掛けをするのだから。産まれてくる子は間違いなく現人神になるだろう。辺り一面に霧が立ち込めて来たが、萃香が話を終えたタイミングを見計らい出て来た様だ。永琳はこの立ちこむ霧を見て萃香も藍が孕んでいたことを知っていたのだろうと考える、タイミングが良すぎるし。永琳は煎餅を口の中に入れて歯で砕き、口の中で咀嚼音を響かせながら呑み込む。萃香は霧のままだが欣喜雀躍、喜びの声で藍を祝福し始め、喜んでいるのは子供が出来たからでもあるが、しかしもう一つ理由がある。鬼女や悪路王達が加わったのであの萃香が危惧しているのだ。

 

「おめでとう藍! いやー 目出度いよ、早速 諏訪国の民に知らせて来るね!!」

 

辺り一面に霧が立ち込めていたが、萃香がそう言うと霧が薄くなっていき最後には霧が視界に映らなくなった。藍が止めようとしたが時既に遅し、今頃霧になったままで民に言いふらしている最中だろう。めでたい事ではあるし萃香もめでたいと思っているが萃香にはもう一つ本音がある。それは宴会を開いて鬼ころしを鱈腹飲む事だ。先日宴会をしたばかりなのに次の日にまた宴会を始めようと動いている。鬼ころしは有限で弘天か永琳が作らなければ鬼ころしは無い。無限に鬼ころしがある訳では無いので、飲み過ぎたら鬼ころしを作っている永琳に注意されるが、宴会なら鬼ころしをどれだけ飲もうと問題は無いから注意されることも無い。萃香から藍が妊娠したと聞いた鴉天狗の一人、弘天の神使の一人になった姫海棠はたてが、これは天狗と八ヶ岳に行っている鬼の皆に知らせなくてはと考え空を飛んで八ヶ岳に向かった。永琳が空になった湯呑を右手で持ったまま太ももに置き、藍を見て微笑む。

 

「あの人の妻の誰が最初に孕もうと、あの人の妻が妊娠するのは諏訪国にとって朗報でしかない。今日くらいは私達に宴会の準備をさせなさい。もう1人の体じゃないんだから」

 

「そうだよ藍。藍も私の母さんの一人なんだから。ほら、神社に入ってゆっくりしなよ」

 

「藍。洗濯物は私に任せなさい。こんな時くらい休めばいい」

 

「そうそう。私達に任せておけばいいんだよ」

 

ちゃんとお腹の子の事を考えてあげてねと永琳は立ち上がり宴会の準備をする為に動き出す。宴会のついでにヤマメには例の件を頼める、諏訪子は藍の右手を掴んで仕事をさせない様に見張る為、急がずゆっくり歩いて神社に連れ込み、神奈子は藍が途中までしていた洗濯物をしようと替わり、桶に入っている洗濯物がさっき藍が落として汚れていたのでもう一度洗濯する為にてゐと共に井戸まで向かった。この時藍は諏訪子に引っ張られながら神社に連れ込まれる時、分かりづらいが、確かに笑っていた。永琳は皆を呼び出す為に紫にお願いしようと神社玄関の前に立ち、右手で指を鳴らす、すると隣にはスキマが開いて中から紫と白蓮が出てくるが、どうやら二人で遊んでいた様だ。スキマの中から紫は大きな傘を持っていて、それに見覚えがあった永琳は懐かしそうに傘を見て懐旧に浸る。この傘は確か雨が降っていた大和で弘天が女将に貰い、永琳とてゐとで傘の中に入って諏訪国に戻った時の傘だ。

 

「あら紫 その傘、あの人に貰ったの?」

 

「うん。私の名、紫と同じ色だから。お父さんに貰っちゃった」

 

紫は傘の手元を両手で持ちながら、右手を使いくるくる 傘を回転させて笑顔で答える。永琳は神社の玄関にいた紫に話しかけるが、紫が持っていたのが茄子色の傘でかつて弘天が大和で拾って来た傘だ。はっきり言ってその傘は紫色でただ大きいだけの傘。人によっては不気味に見えるし、お洒落でもなければ可愛さなんて微塵もない。しかし紫は気に入ったようだ。自分と同じ名の色をした傘で、妖怪である紫には不気味な傘が合うかなと考えたのかもしれない。永琳は紫を呼び出した用件を言って皆を呼ぶように頼むと紫は、任せてお母さん とスキマに入って皆に伝えに行った。紫はスキマに入って行ったので残った白蓮はきょろきょろしていて落ち着きが無い。そこで永琳に聞いた方が早いと思ったのか白蓮はトコトコ歩き、永琳の独特な服装である赤と青色のスカートを右手で握り締める。

 

「比売神様ー 氏神様はどこー」

 

「あの人は、当分帰らないのよ。ごめんね、白蓮」

 

永琳は腰を屈め白蓮と目線を合わせながら答えるが。右手で白蓮を撫でながら微笑むが傍から見たらまるで親子、下手をすれば姉妹に見える。

 

「氏神様いないの? 私 寂しい」

 

「私も寂しいわ白蓮。そうだ。寂しい者同士今日は宴会が終わったら一緒に寝ましょうか」

 

「やった。その時はご本読んでー あ、それとね私に妹が出来たの!」

 

「あら。それはおめでたいわね。今日宴会をするから藍と聖、2人一緒にお祝い宴会をしなきゃね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             気霽れて風は新柳の髪を梳り

 

 

 

ここは、どこだ。ああ。ここは富士山か、久しく見る。私の生前に著した富士山記が頭に浮かぶ。なぜ私が山頂にいるか分からんが、一度死んだ私がこうして富士山の山頂から本朝をお目にかかる事が出来るとは。気紛れらしいがあの仙狸には感謝せねばならん。生き返るきっかけを与えてくれたのだから。蘇生させたのは仙狸じゃなく鬼だったが。しかし、世の中何が起こるか分からぬ。山頂にいる故、風が強く、着ている服も靡くがいい景色だ、一度死んだせいか山頂でも呼吸が苦しくない。いや、呼吸など死んだ時からもうしていないか。富士山、霊山を御神体にしているのは浅間大神様、そして木花咲耶姫様に岩長姫様だったかな。次に行くのは、そうだな。富士山の山頂から見えているあの山、富士山と対をなす山、八ヶ岳を著して富士山記ならぬ八ヶ岳記を著してみようか。勿論顔は隠すが山城国に戻り、大和にある平城京。その南面の正門、朱雀門にいる鬼、天邪鬼を見るため久方ぶりに会いに行くのもいい。また双六で負かしてやるのも一興。しかし、折角富士山の山頂にいるのだから浅間大神様に会いに行こう。

 

 

                                      

         三千世界は眼の前に盡きぬ 十二因縁は心の裏に空し




サブタイトルが『徳』の34話で藍が抱き枕として弘天の部屋に行く話、ついでに言うならその話で四霊の 麒麟・霊亀・応龍・鳳凰 後は四神の青竜、朱雀、白虎、玄武を出した回です。まあ。抱き枕の話、あれは既成事実を作らせる前準備の為に必要で書きました。その話でやったのかは言わないけど。だからまぐわった話は書いておりません。え、まぐわう話を書けと仰いますか。こやつめ、ハハハ。本当は別に濡れ事を書いてもいいんですけどね。どうでもいいかもしれませんが弘天と永琳はまぐわって無いと今まで書いてきましたがまぐわい以外は書いてないだけで普通に犯ってます。永琳にフェラとかパイズリとか素股とか、勿論合意の上ですけど。だとするとどの話から二人は犯ってたんでしょうね。まさかその話も書けとか言わないですよね。しかし、今回書いた話はあれですね。昔の農家などは収入、または食べ物が少ないと子供を売るなんて歴史的に見てよくある話です。卑弥呼の時代はともかくとして昔の女性は立場も弱かったので親と性欲とお金の被害者とも言えるかもしれんね。人攫いや家に押し入られて金品を盗まれる話も歴史的に見てよくある話ですし。

藍は伝説上の狐の名前と言われている葛の葉の話を藍に混ぜているのでこうなったんだ、だから、藍も最初の内から必要だった。紫と幽香も今回の話とは別に必要だった、が。紫と幽香の話を書くべきかどうか、そこが問題だ。童子丸・・・一体何 安倍晴明 なんだ・・・。有名ですが長野県には安倍晴明の墓と言われる物があります、晴明には晴明神社もあり、長野県には小野神社もありますし。歴史的に見て人間だった者が死後、人神として扱われるのはよくあります、例えばこの作品で出た小野篁や平将門とか有名な祟り神の菅原道真とか。

それと。鹿御前が持っていた顕明連は朝日に当てると三千世界が見え、それを見た鈴鹿御前は天命を悟り若くして亡くなる話がありますので今回パルスィは天命、寿命の事では無い事を悟ってもらいました。今までの出来事って全部じゃないけど偶然j しつこいけど『稲に関わる語彙』を絶対検索してはいけません。誰の事か分かるから検索しちゃいけないんだ、絶対だかんな! 検索してしまい誰か分かり楽しみが減って後悔してからじゃ既に遅いんですよ!! まあエタルけど。

今回のパルスィの地の文で出した妖怪一覧の殆どは諏訪国(長野県)の妖怪でして、入道坊主なども長野県の妖怪で、長野県では入道はタヌキやムジナが正体と言われているそうですのでこうなりました。山彦も長野県の妖怪だそうですのでこうなりましたし、雷獣を出したのも雷獣が長野県の妖怪だと言われていたからです。後、足長手長は中国では妖怪で手長足長は九州では妖怪だそうですが他ではただの仙人とか巨人と言われているそうです、ここの手長足長が妖怪かどうかは悩んでいますので妖怪かどうかは書いていません。しかも諏訪大明神の家来で仕えているとの話があるんですが、ここでの諏訪大明神は弘天になっていますので手長足長を出しました。それと手長足長は手が長く足が長くこの二人が夫婦だと言われている、ならその子共は首が長くできる事にしようと考えここでの子供はろくろ首になってます。覚に関しては長野県の妖怪ではありません、長野県の隣にある岐阜県の妖怪なんですが、ここでは東方の設定の一つにある妖怪の山に覚もかつては住んでいたと言う設定を使っているのでこんな感じに。マヨヒガ、または猫の里も以下同文です。朱雀門についてですが長谷雄草紙と言うのがあり、羅生門の鬼と似た話で朱雀門に鬼が住んでいる話があります。そこで双六勝負があるのでそれを使いました。本当は子鬼などの天邪鬼ではなく鬼が出てくる話なんですが天邪鬼も鬼の一種なので使う事に。覚に山彦に天邪鬼に猫の里に住む猫に狸にろくろ首、または飛頭蛮・・・一体、何者なんだ・・・・ 長野県、ひいては八ヶ岳の妖怪をやっと出せました、特に覚。この覚の能力が特に欲しかった。今まで八ヶ岳などの妖怪に手を出せなかったのは入道坊主などがいるせいでした。何せ、入道坊主から声を掛けられたら死んでしまいますし。だからこそ神を永遠にする為と、入道坊主の様な妖怪を相手にするには輝夜がどうしても必要でした。他にも『うわん』とか『輪入道』とか『ひょうすべ』とか そりゃあ弘天だけじゃなくて、いくら鬼でも永遠にしなきゃ死にますからね。だいぶ出しましたが旧作はともかくとして一番最後に出てくる東方キャラは一体誰になるのでしょうね。

物部守屋についてですが。長野県にあり、八ヶ岳の近くにある守屋山には守屋神社があります。で、物部守屋が蘇我氏との神仏戦争に敗れ守屋山まで落ち延びて、守屋山に祭られたそうですのでこうなりました。関係ないんですが地方によって天邪鬼は山彦と同一視されてるそうですね。後 保食神と火之迦具土と天稚彦。3人の神が生き返っていると地の文で書きましたがこれは大国主の再生神話を使っていて、稚日女尊や猿田彦も本来は死んでいますが二人の話で死んだのはオリキャラなのでここでは生きています。

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