蓬莱山家に産まれた 作:お腹減った
今回の話も元ネタがあります
名はかぐやか、俺の妹と同じ名だが偶然なのかそれとも本人なのか。かぐや本人だとして豊姫は何を考えてるのか、かぐやは豊姫に任せてるからな。考えてても分からんし、会いに行ってみるか。山城国は大和の近くだし1日かけたら行けるだろう
「丁度いい。今から山城国に向かう事にしよう、かぐやは山城国のどこにいるんだ」
「え、本当に今から行く気かよ。かぐやはある老夫婦の所にいるらしいがそれ以上は知らんな」
知らないのか、どうするべきか。虱潰しで探すのをいいかもしれんがあまり時間をかけ過ぎると面倒だし。誰か山城国に詳しい人物はいないだろうか。俺の周りにはそんな人物はいないしな
「仕方ねえな。じゃあ一筆認めてやるよ、それを山城国にいるある人物に八咫烏に頼んで渡してもらうか、烏だから空を飛べるしな」
「おっ、気が利くじゃないか。その人物って誰だ」
「そいつの名は 小野 篁 妖怪のスペシャリストで最近地位を上げて来てる人物だ。だが何でも屋でもあるらしいから道案内を頼んでおく」
ふーん。小野篁ね、しかも妖怪のスペシャリストとは、かなりの腕なのだろう。妖怪専門で地位を上げて来てるか、何だかその話どこかで聞いた気がする。
「あ、忘れてたな。俺が一筆を認めてる間に紹介しておく。入ってくれナズーリン」
ふすまを開けて女の子が入って来た。クセ毛があってセミロング。髪色は黒に近いグレー、頭には丸くて鼠の耳らしき物がある。腰から鼠の尻尾みたいのがあって、結構長い。尻尾の先にはバスケットを吊っていて中には子鼠が数匹いる、服装はセミロングスカートだが、先のほうが切り抜かれた奇妙スカートだ。肩には水色のケープを羽織って首からはペンデュラムみたいなのを首から下げている。片手には二本のダウジングロッドがある、ダウジングなのかあれ
「初めまして。私の名は ナズーリン ご主人様、どうか幾久しくよろしくお願いします」
ナズーリンは俺の前に来てから跪いて敬意を表してきた。これで新しい神使が増えたし藍も少しは楽になるだろう、ナズーリンは気まぐれで神使になったと聞いていたんだ違うのだろうか。いい加減な性格と思いきや真面目に見えるんだが
「俺の名は 蓬莱山 弘天 だよろしく、ナズーリン」
「はい。よろしくお願いします」
ナズーリンは跪いたまま顔を俯かせていたが、顔を上げてお互いのこれからをよろしくしあった。ナズーリンと話したら能力を持っていてナズーリンの能力は探し物を探し当てる程度の能力だそうだ、あの片手に持ってるダウジングロッドらしき物を使い探すそうだ。ナズーリンには悪いけど一緒に山城国に行くか、かぐやって女が気になるし。何だか最近忙しいな、やる事が増えて来てる
「ナズーリン。早速で悪いが今から山城国に行くことになった、悪いが着いて来てくれ」
「はい、ご主人様。私も共に行きます」
「そうか、それじゃあな須佐之男。大和を頼んだぞ」
「おう。任せろ、気を付けて行きな。最近物騒だからな、それと1日で着くとはいえ山城国に行くなら食料と縄を持って行け、弘天が倒れたら八意が発狂しちまう」
俺とナズーリンは立ち上がって部屋から出ようとしたが須佐之男に呼び止められた
「待て待て、ナズーリンの頭にある鼠耳が見えるのは不味い、神使とはいえ妖怪なんだから隠せ、騒ぎが大きくなれば面倒だ。何か頭を隠す帽子みたいなのをやるよ。笠があるからそれを使え」
あ、そうか。忘れていたが諏訪の国と大和は妖怪がいても問題は無いが、山城国は違うかもしれん。民は妖怪を見たら大声を上げて皆に知らせるだろうし鬱陶しいからな、一歩間違えたら大和を巻き込んだ諏訪の国と山城国との戦争になる。諏訪の国と大和は表向きは同盟国だからだ、それと頭耳を隠す為に使う笠は今の時代では一般的に使われているので、別段おかしくはない。須佐之男にお礼を言い、ナズーリンと一緒に神社を出たら巫女に食料を貰って大和の国から山城国に向かった。紫がいないのでスキマですぐには行けない、だから1日歩きだ。
今は山を越える為山道を歩いてる。夜中だから暗い、月明かりのお蔭で前は見えるので歩けるが。ナズーリンを見たが全く疲れてない、意外にやるなナズーリン。俺はもう疲れて来た、ナズーリンと歩いてたらナズーリンが俺の隣に来た、密着した状態で小声で俺に話しかけた
「ご主人様。誰かが後ろから来てる」
「よく気付いたな、俺は気付かなかった。やるなナズーリン」
「ご主人様からお褒めに預かり恐悦至極。私は耳がいいんだよ、弱い妖怪だからね。危機管理能力が優れてるんだ」
歩きながら耳を澄ました、確かに足音がする、山道の地面には落ち葉や木の枝が落ちてるからそれを踏んで音が聞こえるようだ。だがその音は小さく微々たるもので俺は気付けなかったが。気にせず俺は巫女から貰った焼いた鮭を食いながら歩いてた、ナズーリンはさつま芋を食べてる、好物だそうだ。バスケットに入ってる数匹の子鼠もさつま芋を食べてる、俺は鮭を食べながら歩いてたら足元にある石に躓いて顔から地面に倒れた。鼻打った鼻、痛い。立ち上がり鼻を擦ってたらナズーリンが右手で俺の服の裾を掴み軽く引っ張った、ナズーリンは俺の後方を見てる
「ご主人様、後方にいた奴が走って来てますよ。どうやら私たちを喰い殺そうとしてるみたいですね」
「何を落ち着いているんだ。ナズーリン、もう少し危機感を持ってくれ」
「大丈夫でしょう。ご主人様は弱くはないですから」
俺は振り返り後ろを見た、見たら藍やてゐ。ナズーリンのように頭に獣耳をした女が走って来てる、容姿は女の人間しか見えないが、獣耳があるので妖怪かもしれん。俺たちを襲うと言う事は腹が減ってるのだろうか、ならば焼いた鮭を食わせるか。その前に取り押さえるがどうするべきだ。考えてたらその女はナズーリンの方に走っている。弱そうな奴から襲って喰うと言う事か。俺は前に出てナズーリンを背中に置いた。ナズーリンとの距離を開けて、あれをする事にした。
俺は構え、女が走って来ていたのでその推進力を利用しようと、既に目前へと迫って来ていた女の片手を掴み、流れるように背負い投げをした。
「ぷぎゃ!」
蛙が潰されたような声を出して咳払いをしてる。綺麗に決まった。美鈴から教わっていて良かった、まさか役立つときが来るとは。背負い投げは、相手の力を利用する技だそうなのでそれを使った。俺は女が仰向けの状態だったのでうつ伏せにして女の両手を背中でクロス状態にさせ抑えた、
「いたたたたたたたたた!痛い痛い!」
「気にするな、痛いのは最初だけだ。ナズーリン、須佐之男から貰った縄をくれ」
「はい、ご主人様」
ナズーリンから縄を貰い女の両手を縄で縛った、やったぞ生捕った!身動きが出来ない女を眺めているのもなかなかどうして悪くない。お腹が減ってるだろうし焼いた鮭を食わせよう
「ほれ、食え。腹減ってるんだろう」
「何これ」
「鮭。魚だ、気にせず食え。鮭は素晴らしい食材だからむしろ食え。あ、骨には気を付けろよ。それと食べて美味しくないと思ったら無理して食うな他の食べ物をやる」
女はうつ伏せで縄で縛られて両手が使えないんで体を捩りながら首だけを動かして焼いてある鮭を食べてる。何だろう、動けない相手に何かを食べさせるって何か変な感情が芽生えそう、開いてはいけない扉を開くのか俺。ナズーリンは俺の隣に来てさつま芋を食べながら見てる。ナズーリンは小声で
「尻尾の先のかごに入ってる子鼠にこの女を喰わせますか」
と聞いて来た。さすが妖怪だ、本来妖怪とはこんな生き物だ。諏訪の国にいる妖怪は本来の妖怪での生き方では無くなっているからナズーリンが言ったことはおかしくない。むしろ普通の妖怪からしたら諏訪の国にいる妖怪は異端だろう、妖怪の食糧、人間と仲良くしてるんだから。そんな妖怪での普通な事とか俺は知った事ではないが、妖怪の常識くらいぶち壊して貰わねば困る、俺の妻なんだから。一部妻じゃないのもいるが。女は鮭を少し齧って食べた、噛んで味を確かめてるが美味しかったのか歓喜の表情だ
「何これ美味しい!全部食べていいの!?」
「うむ、気にするな。もっと食え、ナズーリン肉まんをくれ」
「どうぞ、ご主人様」
ナズーリンから肉まんを受け取り食べる、喉が渇いたので水を飲む。女が鮭を食べながら見て来た、初めて見るのだろうか、それとも水筒は知っていて水が欲しいのだろうか
「なんだ、喉が渇いたのか。飲ませてやるからうつ伏せから仰向けにするぞ」
俺は女の体を掴み仰向けにして女の顔を月がある空の方向に向かせた。水筒を女の口につけ水筒に入った水を飲ませた、一気にやると飲めないだろうから少しずつ飲ませてる。もういいかと思い水筒を女の口から離して俺も水筒の水を飲む
「久しぶりに美味しい物が食べられたよ、飲み水も美味しかった。ありがとう」
「気にするな、それでお前、名は何て言うんだ。俺は 蓬莱山 弘天 だ」
「私の名はナズーリンだよ。よろしく」
女は仰向け状態で首を動かし俺とナズーリンを見て名乗った。女は月夜に照らされて綺麗だ、仰向けだからなんか情けないし鮭を食べながら話し始めてるし
「私は 今泉 影狼 だよ」
今泉 影狼 か、珍しい苗字と名だ。今泉って苗字はこの大陸で聞いたことが無いし、一体何の妖怪なのだろうか。気になるから聞いてみよう
「見た所、影狼は妖怪の様だが何の妖怪なんだ」
「私は狼の妖怪。二ホンオオカミって名の狼の妖怪だよ」
狼か、丁度いいな。欲しかった神使の動物が目の前にいる、手懐けて引き込むか。頭はあまりよくないかもしれんが体力はありそうだし力仕事なら出来るだろう。後は狼だからか足も速かったし連絡役にも使える、諏訪の国の民を襲いそうだが萃香がいるし、他の皆もいるから大丈夫だろう。俺はこんな時の為に懐から紙を出して紙に書いて置く。墨は小さい瓶の中に入ってるのが懐に入れてあるので、それを使って書く。後は影狼が諏訪の国に行ってこの手紙を見せたら問題は無い、手紙の内容も監視は常にしとけと書いて置いたしこれでいいだろう。向かう途中手紙を影狼が見ても問題は無い、見て諏訪の国に来なくても俺は困らないし。来たら儲けものと言う事だ、影狼は字を読めるかは知らんが
「なあ、美味しい食べ物がお腹一杯食べられる国があったらどうする影狼」
「そんな国があるの!?あるなら行きたい行きたい!」
純粋な女め、もう少し疑う事も覚えた方がいいぞ、俺は楽に事が運ぶから構わんが。食べ物で釣って興味を促し諏訪の国に行くよう仕向けなくては、俺が連れて行けばいいんだが、かぐやを見に行かなくてはいけないし連れて行けないんだ。だから影狼がちゃんといけるか心配だがそこは影狼の鼻次第だな。影狼の両手を縛ってた縄を解き影狼を立ち上がらせた。お腹が空いてなければ襲う理由は無いだろう。襲っても返り討ちにするけど、ナズーリンが食糧を持っていて袋に入れて置いた食べ物を少しだけ持たせて俺は右手でさっき書いた手紙を揺らして影狼に話しかける
「そうか、その国の名は諏訪の国って言うんだが。俺が持ってる手紙を諏訪の国の関係者に渡せばお腹一杯食べ物が食べられるが」
「諏訪の国だね!手紙を渡せば食べ物をお腹一杯食べられるんだよね、じゃあ早速行って来るよー!匂いを辿れば分かるからねー!」
影狼は言うが早いか俺が右手で持ってた手紙を奪い取り走って行った。猪突猛進な女だ、影狼が諏訪の国に着くかどうか気になるが。まあ、大丈夫だろう。気にせず山を越え山城国に向かおう、ナズーリンと歩き出してその場を後にした
今回の話は高知県に伝わる送り狼と言う話です。有名なのは送り犬ですが、あの話も山犬だったり狼だったりと地域によって若干の違いはあります
困った事に影狼は満月時の容姿は分かってるんですが、満月時じゃない時の容姿がまだ分かってないんですよね。慧音の様に変わるんでしょうか、気になりますね
余談ですが、今で言う送り狼は女性にいい顔をして女性を女性の自宅に送り悪さを働くのを送り狼と言いますが、この妖怪の話、送り狼の妖怪伝承が由来だそうです