ポケモンと嫁と地方の果て   作:南方

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第八話:三〇番道路②

 翌日、俺とコトネさん、そしてココロは早起きして三○番道路を引き続き北上していた。

 戦闘でいえば、ワニノコとココロは一日に一〇匹ぐらい敵を倒すノルマを課して進んでいる。ワニノコの方は最初苦戦していたが、レベルがあがってきたのか今では楽に敵を圧倒できるようになっている。

 ココロはここら辺のポッポやコラッタ、現在居る三〇番道路に出るビードルやキャタピーに苦戦することはない。二九番道路を通っていた時も思っていたのだが、反撃を喰らう前に倒してしまう。

 元のレベルが高いのもあるかもしれないが、特性が適応力だからだ、という可能性もある。

 基本ココロの攻撃は体当たりのみだが、タイプ一致の補正を二倍までに増やす適応力によって、ダメージソースが四〇から八〇に。

 かなり序盤にしては高威力になっていると言わざるを得ない。

 

「……ブイ♪」

 

 そして今日は朝からココロのテンションがすこぶるいい。時々スキップしながら俺の方に振り向いてチラチラ見てくる。

 これ以上可愛いポケモンはいない。萌えモンでもいない。

 あ、でも萌えモンのキュウコンは俺の嫁候補ではあったな、うん。

 

「すごく気分良さそう。何かしたのジュンイチ君?」

「昨日の夜、いつの間にか抱きしめて寝ててさ」

 

 顔見て寝てたら、寝ぼけて抱き枕のようにしちゃってたみたいで。

 起きたらココロがめっちゃ笑顔で俺のこと見てて恥ずかしかった……。あの時の気持ちを言葉で言い表すことは不可能である。

 

「本当に仲がいいね。私はちょっと怖くて寝る時出すの躊躇っちゃった……」

「アイツは仲良くなっても出さない方がいいと思う」

 

 一瞬、特性が闘争心かと思うぐらいに同性嫌いまくって、異性に寄りたがるチコリータのワカバ。

 おかげで俺のチコリータに対する印象ズタボロなんだけど。おかしいな。可愛いはずのポケモンが、今では嫌いで嫌いで仕方がない。

 主な理由は俺のココロに迫るから。何かやったらぬっ殺す。

 

 ――と、そんなことを考えている所で、前方の草むらが揺れているのを確認する。

 

「…………あ、コラッタが二体。半分貰うわね」

「ああ。俺もクロルを戦わせたかったんだ」

 

 ココロがここで戦っても、経験値的においしくないと判断した俺は、今日一日はクロルことワニノコを基本戦わすことにしていた。

 ちなみにクロルとはワニノコのニックネームです。ワニっていえば、クロコダイル。それを略してクロル。

 おいこら、安直とか言わない。いいだろ、ふと頭に過ったんだから。

 俺は直感で生きる男なんだよ。

 

「よし、ココロ。あのつがいのコラッタの間に割り込んで距離を離して」

「ブイ!」

 

 小声で指示をするやいなや、超特急でココロはコラッタの間に突っ込んでいった!

 元気がよくて何よりです。

 

「コラ!?」

「ッ……!?」

 

 突然の襲撃で、思わず距離を離すつがいのコラッタ。まずは予定通りといったところか。

 

「右は俺が貰うから、コトネさんは左よろしく」

「分かったわ」

 

 すぐさまコトネさんはチコリータのワカバを繰り出し、そして左へと流れていったコラッタを追いかける。

 俺も俺ですぐさまベルトに掛けてある、クロルの入ったモンスターボールを投げる。

 パカンと音を鳴らし、ボールから眩い光が漏れる。続いて無言のままクロルはスタっと地面に降り立った。

 やっぱコイツ、ポケモンの癖してイケメン雰囲気出すぎだろ。俺のココロが惚れなければいいのだが……。

 ワニノコのレベルは九ぐらい。ぐらいというのは、なんかリアルポケモンは、覚えた技を必ず最初に使って示してくれるのだ。

 多分その示した技をトレーナーが使わなくなると忘れていく、というシステムであろうと俺は考えているが、まだよく分かっていない。

 今のところ、つい昨日いかりを使ったのを確認したので、とりあえず九レベルぐらいであろうという判断している。

 序盤にしては、技のレパートリーはバッチリだろう。

 

「クロル、水鉄砲!」

「……ッ!」

 

 俺の指示通り、無言でワニノコは前方の戦闘態勢になっていたコラッタへ水鉄砲を放つ。

 元々特防が低いコラッタ。そしてこっちはタイプ一致で四〇の一.五倍、六〇のダメージソースを持つ水鉄砲。下手すると一撃だ。

 しかしコラッタはもろに喰らいながらも、普通に耐えきっている。どうやらここらでもレベルの高い四から五ぐらいのコラッタらしい。油断ならない。

 コラッタはクロルの元まで寄ってくると、その勢いのまま体当たりを仕掛けようとする。

 予想外に早い――! これは避けさせるのは無理か!

 

「防御の構えだ!」

 

 腕を交差させ、クロルは体当たりの衝撃を吸収する。

 ゲームじゃやったらやり返す方式だが、リアルならではのダメージを半減させる方法である。

 つっ立ったまま攻撃を喰らう訳にはいきませんよ。ダメージはあるだろうが、それでも威力は普通の時より減っていると思われる。

 

「クロル、睨みつける!」

「……ッ!」

 

 後方からでは見えないが、睨まれたコラッタが若干体を震わしたので、効果はあったのだろう。

 引き続いて体当たりしてこようとするコラッタを見て、俺はすぐに左へ避けるよう指示。

 身を引いて体当たりを避けたクロルに、そのままひっかくを指示して戦闘を終わらせようとした――

 

「――っ! 避けろ、クロル!」

「ワニッ!?」

 

 通り過ぎた後、地面に足を付けるやいなやコラッタが切り返し、クロルに超特急で突っ込んできた。

 防御もままならず、体全体でコラッタの攻撃――電光石火を喰らうクロル。

 

「大丈夫か!?」

「……」

 

 無言で俺の方を向いて笑みを浮かべるクロル。

 まだ大丈夫そうだということは分かったので、思わずほっとする。

 電光石火を繰り出したコラッタは、クロルから少し距離を離している。

 ひっかくをさせようとすると、その間にまた電光石火を喰らうかもしれない……。

 ならば、だ。

 

「もう一回水鉄砲だ!」

 

 俺の指示に従い、クロルはコラッタへと水流を解き放つ。

 勢いよく放たれた水鉄砲によって吹き飛ばされたコラッタ。のろのろと起き上がろうと足を踏ん張るが、すぐに崩れ落ちて目を回すことになった。

 瀕死状態。少し危なかったが、勝利である。

 

「結構強かったな。クロル、大丈夫か?」

「……」

 

 本当に何にも喋らないけど、無言で首を縦に振っているところを見ると、まだまだ戦闘させても大丈夫そうだ。

 種族値的に防御は序盤では高い方に位置するのがワニノコ――つまり俺のクロルだ。打たれ強いのであろう。

 これがヒノアラシだった時の絶望感はいざ知れず。

 

「今度はもっと上手に指示できるよう頑張るから。今は休んでいてくれ、クロル」

「……ワニ」

 

 小さく鳴き声を零したクロル。それを肯定だと捉えて、俺はボールの真ん中のボタンを押した。

 ボールに戻っていくクロルを見つつ、俺もまだまだトレーナーとしては未熟だと実感する。攻撃をいなした後、攻撃が切り返される可能性があったのを、一撃を決めることを急いでしまって見逃すことになった。

 次は上手く戦況を観察することを誓いながら、クロルの戻ったボールを眺める。

 

「しかし、よくこんなんに戻れるよな……」

 

 本当にどういうシステムなんですか? 魔法なんですか? どう考えてもこの中にワニノコ戻るのは無理だと思うんですけど……。

 発展した科学は魔法うんたらかんたら言うけど、これはオーバーテクノロジーすぎる。

 家庭生活では最近になって携帯電話的なポケギアが開発されたっていうのに、モンスターボールだけ何世代も技術が飛躍しすぎじゃないですかね?

 

「ジュンイチ君、終わった?」

「あ、コトネさん先に終わってたんだ」

「うん、はっぱカッターが急所に当たったみたいで。すぐ終わっちゃった」

 

 既こちらには戻って来ていたコトネさんは、そう言ってニコッと微笑んだ。

 本当に美少女ですねコトネさん! ココロが居なかったら、間違いなく惚れてましたよ俺。

 

「それじゃ行きますか、コトネさん」

「うん」

 

 ここでのんびりしてる訳にもいかない。さっさとポケモンおじさんのところにいって用事を終わらせましょう。

 

 

 

 

 




第八話でした。

では次話でまた。

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