ポケモンと嫁と地方の果て   作:南方

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第六話:二九番道路

「それにしても、ジュンイチ君って本当に十歳?」

「そうだけど、どうしてそんな質問を?」

「だって振る舞いとか喋り方とか、私の過去を振り返ってみてもその歳でそこまで大人びてなかったから、ってこと」

「そんなことないって。ほら、年上相手にため口で喋ってるほど生意気だけど?」

「私がため口でいいって言ったからでしょ?」

「そうとも言う」

「そうとしか言いません」

 

 はははっと二人で笑い合う俺とコトネさんは、現在一緒に二九番道路を西へと進んでいる。

 実はあの後、例のポケモンおじさんから変な卵をゲット云々かんぬんという電話を受けたウツギ博士が、俺たちに卵を取って来てほしいとお願いをしてきたのだ。

 普通に行けば往復で一週間ぐらいかかるので、無駄な時間を過ごしたくないってことだろう。

 まあ俺たちも初心者だし、このあたりで野宿などに慣れておいた方がいいというウツギ博士の判断だったからかもしれないが。

 そんな訳で、俺とコトネさんは次の日――つまり今日出発して現在に至る。

 年上だし話しにくい……なんてことはなく、普通に話は出来ている。こちらの世界の話題や流行には疎いが、ある程度の知識は四か月の間に身につけたのでなんとか会話は成立していた。

 まあポケモンのことが大体だったからかもしれんが。

 

「イーブイ、疲れてないか?」

「ブイブイ!」

 

 俺の斜め後ろについてきているイーブイに声をかけると、元気な返事が返ってくる。

 いやぁ、しかし俺のイーブイ可愛いすぎだろ。萌えっ子もんすたぁでも通用する可愛さだよこれ。

 ……てか萌えっ子もんすたぁじゃないよね本当に? 

 俺の視線を受けて軽く小首傾げてる仕草が、本当に俺の中の何かを刺激してるんだが。

 

「しっかし、ジュンイチ君のイーブイ可愛いすぎだよ。取っちゃいたいぐらい」

「それだけは天地天明が開闢する以前から求められても無駄とだけ答えましょう」

「意味が分からないけど、とりあえず絶対許してくれ無さそうというのは分かったわ」

 

 あったりまえだろ。むしろ絶対だろ。

 イーブイだよ? 俺の嫁ですよ? そんなことした奴は普通にボッコボコのギッタギタですよ。

 

「はぁ、私見た目重視で選んでワカバにしたけど、昨日で色々分かっちゃったしなぁ。これならビクビクしてたヒノアラシの方が可愛かったかも」

「……何かあったんですか?」

「外に出して寝てたら、いつの間にか私の体まさぐって来ててびっくり! すごい変態さんだった、ってことね。後で気付いちゃった」

 

 やりかねんと思ってたことを、チコリータは実行したようだ。まああの女性にのみ送るしつこい視線は、並みの変態親父にも出せないぐらいねっとりしてたからな。すげぇ怖いぜアイツ。

 今日外に出していないのもその理由だったのかとはっきりした。昨日の今日でここまで扱い変わるってすごく惨め。

 そんなことを考えていた中、コトネさんの先ほどの会話からあることについて疑問を持った。

 

「ねぇ、ワカバってチコリータの名前?」

「そうだよ。昨日家に帰って考えたの。私の住んでる街の名前でもあって、私と同じビギナー。それでも、いずれ若葉は葉脈を広がせ、そして立派な葉っぱへと成長する。それってまさしく私たちのこれからじゃないかって思ったの。丁度草ポケモンだったしね」

「な、なるほど」

 

 すっげー。よく考えてるなぁ。俺が中学生だった時とは大違いですよ。

 今でもここまで考えて名前つけるなんて思わないけど。

 俺が感心してる様子を見て、何だかドヤ顔になっていってる。そういうところはやっぱり中学生というかなんというか。

 

「ところで、ジュンイチ君はイーブイに愛称つけてあげないの?」

「…………今すぐつけましょうここで」

 

 おい俺! なにニックネームつけるの忘れてんだよ! 真っ先につけるべきだったぞコレ!

 だってさ、イーブイって学名でしょ? つまり、例えば俺が柴犬を飼ってて、ソイツの名前をそのまま柴犬にして呼んでるのと同じってことですよね? 現在の状況。

 おいおい普通に考えてありえねーよ。ここはゲームじゃなくてリアル。そんなこと許されてたまるかってんだい。

 

「ありがとうございますコトネさん。貴女のおかげで俺は自らの過ちに気付けました」

「普通に学名で呼んでる人も多いし、別にいいんだけどね。……あー、でもとりあえずどういたしまして?」

 

 苦笑気味にコトネさんはそういうと、すぐに顔を晴れやかにして言葉を続ける。

 

「それにしてもイーブイの名前何にしよっか!?」

「……コトネさんだったら、どうします?」

「私!? 私だったらなぁ……」

 

 なんかすげぇ「私に聞いてよ!」的な雰囲気を放っていたので、話を振ることにした俺。

 空気は読める男だからな。

 

「うん、モカちゃん! 茶色だし、可愛い名前じゃないかしら!」

「貴重なご意見ありがとうございました。さてどんな名前に……」

「採用しないの!? ていうか無かったことに!?」

 

 だって、いずれは茶色じゃなくなる予定だし。強くして進化させますよ。

 あとそんなニックネームをつけて呼んであげる自信がありません。恥ずかしいです。

 それにしても、他人のものになると適当に考えるって、よくあるよね。この人がいい例。自分のポケモンにはすごく深い理由があるのにね。

 まあ一応体裁は取り繕った。自分で考えていきましょう。

 

「さて、お前の名前何にしよっか?」

「……」

 

 付いてきているイーブイを見て俺がそういうと、少しだけ微笑んでこちらを見るイーブイ。

 君につけてもらうなら、何でもいいよ――っていう解釈でいいですかい? そうとしか受け取れないよ君の笑顔眩しくてもう。

 さて、おふざけはここまでにして、ちゃんと考えていきますか。

 しかし何て名前にしようか……。これといって俺は「これじゃないとやだ!」っていう名前ないんだよな……。

 

「ブイ……」

 

 ああ、そんな悲しげな表情をしないでくれ! 

 別に名前つけるの諦めてるわけじゃないから。ただどんなのがいいのか分からないだけだから。

 イーブイは一心にこちらを見て、俺の放つ次の言葉を待っている。

 その一生懸命な眼差しが…………あれ、何か似たような目の子を、知ってるような――

 

「――ココロ、でいいか?」

「ブイ! ブイブイ!」

 

 すごく喜んでいらっしゃいます。よし、んじゃこれで決定ですね。

 ちなみにココロっていうのは、俺が中学の時に初恋をした女の子、心ちゃんから。

 すっげぇ目が似てたのよ。もうキラキラしてんの。この名前しかないと思ったね。

 

「いい名前。ココロちゃんかぁ……。ところで、何でこの名前にしたの?」

「優しい心を持った子になってほしいという願いからです」

「それ、どこの親なの?」

 

 ぷっと噴き出すコトネさんに、俺も釣られて笑ってしまう。

 しかしイーブイは怒ったように俺の膝あたりを前足でゴシゴシする。まあ自分の名前で笑われては怒っても仕方ないだろう。

 しかしその行動は、俺につけてもらった名前をとことん気に入っている証拠でもある。

 

「これからもよろしくな、“ココロ”」

「ブイ!」

 

 イーブイことココロの笑顔は、今日も輝いてます。

 

 

 

 




第六話でした。

では次話でまた。

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