作者の間違いがございました。
ダメおし は
かくとう× → あく〇 でした
訂正します。ご了承ください。間違いを指摘してくださったかたどうもありがとうございます。
それに加え、若干の内容訂正がございます。ごめんなさい^^;
「ナギサ君。誰ですか、その子供は」
女の子の誘導のおかげですんなりとロケット団さんの幹部に遭遇することに成功。
ていうか、地下の井戸で紅茶啜ってるお前は一体どんなセンスをしているんだ……なんてツッコミはもうしないことにした。
とりあえずさっきの手紙を見てから、俺は怒っているというより、物凄くやるせない気持ちになっている。
我慢していたが、どうも無理みたいだ。ギャグのノリで超えられるようなものではない。
どうにかしてこのセンチメンタルな気分を晴らしたいものだ。
「ラ、ランス様……! この方は、その……」
「ヤドンを解放するように言われてきたアルバイトです。以後お見知りおきを」
背負っていたナギサという名前らしい女の子をおろし、一歩前へ出る。
とりあえず、この歳で年上を背負うには筋力が少し足りないようだ。
かなりきつかったのは秘密である。乙女を悲しませるわけにはいかない。
「……またもや君は、一体全体どうしてこうも判断ミスを犯すのでしょうか」
一瞬だけ、鋭い眼光がナギサを射抜く。
ヒッと小さく声を漏らす彼女。
邪推だが、もしかすると裏ではお仕置きという名のお楽しみが繰り広げられているのではないか。
なんだかわっくわくしてきたぞ俺。見れないのが残念だな。
「いいですか? とりあえず俺が勝ったら、さっさと撤退してくださいね。居座るようなら問答無用でポケモンたちがぶっ飛ばします」
「……っふ、ふはははははは! 面白いことを言いますねェ、君は」
少しだけナギサに注がれていた刃物のように鋭い視線が、俺を捕える。
紛れもない冷ややかな憤怒が混じっていた。しかし、俺としても奴らの所業は許せない。
「一つ忠告しておきますが、私はロケット団で最も冷酷と言われた男――引き返すなら、今ですよ?」
「上等だコノヤロー」
敬語を取る。少しだけ声に怒気を含ませた。
それだけでぎょっとしたように顔色を変えるこの男は、ヤドンの尻尾を切ったようにやることはやるんだろうが、それでも冷徹とは言えないだろう。
さて、いつまでたっても会話なんて、面白くないだろうよ。
そろそろおっ始めましょうか。
――――叩きのめす。
「ビビはそのままでいてくれ。……ココロ。出番だ」
手を前に伸ばす。
恰好をつけるつもりじゃなかった。本当に無意識だ。そんな自分に興じれるほど、なぜだか気分が昂っている。
俺の指示で、ココロはゆっくりと前に歩み出る。
小さいながらもひどく頼もしい背中に見えるのは、言うまでもないか。
好戦的な瞳が、設置されている照明によって爛々と輝く。しっぽは緩やかに揺れ、すぐに始まるだろう戦いを心待ちにしているかのようだ。
「私たちの仕事の邪魔などさせはしませんよ、小僧!」
ギリッと歯を噛み締め、ロケット団幹部――ランスは、懐からボールを取り出した。
*****
先手はゴルバット。
実際に見ると、羽を広げたその姿は俺の身長より大きいだろう。
ギラギラとした眼光と鋭い二つの牙が、不気味でおぞましい。
「ココロ、先手にでんこうせっかだ!」
新たに覚えたようである技を、俺は宣言した。
どうやらキキョウシティでのバッジ戦以来、ココロは二つの技を覚えたようだ。
これがその一つであるでんこうせっか。ハネッコに突っ込んでいく際に無意識に発動していたようで、それ以来使えるようになっていた。
どうも技というのは、ぱっと分かるようになるものじゃないらしい。
この技が使えると分かったのはジム戦から何日か経っていたからなぁ。
「ゴルバット、つばさでうちなさい!」
かくいうゴルバットも、ふわふわと宙に舞っているだけでない。
大きな翼をさらに広げ、一直線にココロへ目掛けて突進する。
すぐさま衝突。そして生々しい音。洞窟のような井戸に低く響き渡る。
「ギイィィィイイ!」
そして次の瞬間、甲高い声を発してゴルバットが苦しむ。
対してココロは静かに着地し、次への行動に対する指示を待っていた。つばさでうつのダメージが蓄積しているのだろうが、ゴルバットへ注いだ一撃ほどではないのだろう。
一直線に突っ込んだこともあってか、翼が上手く当たっていなかったのだろうか。何にしても好都合だ。
「もう一度だ」
「ブイッ!」
畳み掛けるように突き進むココロに、ゴルバットの顔が恐怖に歪む。
まさか自身よりも小さな相手に、ここまでの攻撃力があるとは思ってなかったのだろう。
「避けるのです! その後かみつくッ!」
すぐさま体勢を立て直すようにランスが指示を出す。
ゴルバットはバサバサと翼を振り、すぐさま回避行動へと移る。
でんこうせっかは一瞬で距離を詰められる利点があるが、そのかわり攻撃が一直線すぎて避けることが容易い。
あと少しの所で避けられたココロはそのままゴルバットの横を通り過ぎる。
続けてすぐにかみつく行動へと走ったゴルバットが、そのままココロの首元へとかみつき――
「……ギィ?」
噛んだはずなのに、相手に手ごたえがない。そう感じたのだろう。
ゴルバットがココロの瞳を見た。
その瞬間、奴の動きが固まる。声も出ないほどに動揺しきったゴルバットは、ココロをぎゅっと噛みつける。
どんな瞳をしているかは考えないことにした。僕の持つポケモン達は怖すぎです。
「跳べ、ココロ!」
そのまま跳躍させる。
並大抵ではない脚力によってすぐさま天上へと届くココロとゴルバット。
さぁ、そろそろフィニッシュといこうか。
「そのまま地面へと突っ込めッ!」
天上に足を付け、勢いよく蹴りつけた。凄まじい勢いで、そのまま下へと突き進む――!
「は、離れるのです!」
ようやく自分の失態に気付いたランスは、かみつく行動から次へと移るように指示する。
しかし彼の思いは叶わない。
ぎゅっと前足で大きな翼を握りしめているココロから、動くための翼が封じられている。
恐怖の色がゴルバットの顔から滲む。
――――転瞬。
井戸中に響き渡る轟音が耳を劈いた。続いて訪れるは静謐なひと時。天上から落ちる水音がやけに大きく聞こえるのは、決して俺だけではないだろう。
数秒経ってから、華麗に飛び退いたのはココロだった。
首に喰らったかみつくは、あまりダメージとして通っていないようだ。
「よくやった」
「ブイ」
当然、とでも言わんばかりに声を漏らすココロ。
まあ、それもそうだろう。
ここに来る前までの一週間は、ゴルバットなんかより数段の力があるワンリキーたちと肉弾戦を繰り広げて成長したのだ。決して慢心などなく、ココロは自らかみつく攻撃を受ける事にしたのだろう。
クロルとも戦わせたことがある。その時は指示なしに、自分たちの考えるように動かせた。
その際に、クロルは幾度となくココロにかみつくを行っていた。それでだろうか。かみつくへの対処が上手に窺える。
「さて、一匹ダウンだぞ」
胸を張るココロに同調し、俺もドヤ顔でランスに言ってやる。
「ふぅ……どこの街にも、私たちに逆らう輩がいるのですね。敵うはずがないというのに」
ゴルバットをボールに戻し、調子よく言うランスだが、額に汗が浮かんでいるところを見ると余裕がなくなってきたように見える。
といってもまだポケモンはいるはずだ。先ほど奪ったポケモンを使っていたロケット団員のように、そういった輩を使うことがあるのかもしれない。
といっても、それじゃ話にならないものだ。
普通に捕まえたポケモンの方が、なつきやすくそれでいて強くなる。
交換ではなく、奪ったポケモンは決して強くはならないのだろう。
「さて、この子で君を倒してあげますよ……」
そうしてモンスターボールを放り投げる。
洞窟内で輝かしい光を浴びて出てきたのは、体に髑髏印の付いているポケモン。
ある意味ビビと似通っている部分もあるだろう。
「ドガースか」
さて、ドガースといえば。
早い段階でダメおしという悪タイプの技を覚えることが出来た、ということを俺は覚えている。
そしてこの技。相手がダメージを受けていたら二倍のダメージになる。
現在、つばさでうつ、かみつくを喰らったココロでは、高い確率でワンパンされる可能性がある。
なおかつスモッグも放てる。あまり味方を毒状態にしたくないのは確かだ。
ココロが苦しむ姿なんて決して見たくはない。ていうか相手を殺してしまう可能性が出てくる。
「……そうだな、ビビ、行って来い」
一瞬クロルを出そうかと思ったが、別段としてビビでも大丈夫そうだな。
相手が覚える技はノーマル、毒以外ほぼないに等しいのだ。
つまるところ、ビビに通用する技はダメおし一択。近づかなければ物理技は通らない。
ゴーストタイプの技は遠距離でも通るのでモーマンタイだ。
「ナイトヘッドだ!」
すぐさまナイトヘッドをドガースにお見舞いする。
何かしろ黒い影がドガースを包み込み、続いてドガースが突然呻きだす。
どう受け取れば分からない攻撃であるが、なかなかに惨たらしいものなのだろう。
精神的にくる、というやつ。
俺は受けたくないな。
「ダメおしです!」
「すぐに回避! 当たったら死ぬぞ!」
「ゴ、ゴォォオォオオオオ!?」
そこまで言っちゃう!? と言わんばかりに空気中に紛れるゴース。
毒ガスポケモンのゴースは、こうして空気に紛れるのが得意だ。風が吹き荒ぶ空間なら間違いなく飛ばされて死んでしまう可能性もあるだろうが、こうした洞窟内なら安心して同化出来るのだろう。
咄嗟に目の前から消えた対象に、攻撃を止めるドガース。
「もう一度ナイトヘッドだ!」
既にドガースの後ろに回り込んでいたゴースが、再びナイトヘッドをお見舞いする。
この攻撃、どうやって避けるのかは俺には分からない。
黒い影のような奴はどこまで動けば消えるのだろうか?
「っく――!」
あそこまでダメ押しという攻撃に警戒されては、為す術ないだろう。
大抵はある技を警戒すれば、他の技が通りやすいという点が出来る。しかし今回の場合、ドガースはこのダメ押し以外に有効な手立てがないのだ。
ゴースの場合、攻撃技を警戒されたらあやしい光、催眠術といった補助技に切り替え、その後じっくりと捩じるのが鉄則だ。
そうした鉄板の技構成はしていると思うのだが、今回の場合、上手くはいかない。
「どくガスです!」
焦ったランスは、そうしてどくガスをドガースから放たさせる……って!
狙いは俺かよ! やけにいやらしい笑みを浮かべてると思ったら! ゲスイぞやってること!
――やめろこっちくんな!
とか思っていたけど、ビビが目の前にいたのでどうにかなった。毒ガスを吸い込んで、ビビの体が若干大きくなるだけで毒ガスの効果がなくなる。
ビビがいれば、毒攻撃は全て無効にできそうだな。
「本当に、邪魔をしに来たのですね……」
顔がここにきて歪む。
この様子だと、もう手持ちはいないようだ。俺の勝ちがきまったようなものである。
俺はビビに再度ナイトヘッドを進言しようとした、ところでだ。
「えんまく!」
その瞬間を待っていたんだ! とでも言わんばかりに、ドガースが瞬時に煙幕を広げる。
この手際の良さ、何回も煙幕を練習や実践でやってきたに違いない。
狭い井戸の中に籠る煙ったい空気。視界が曇り、近場でさえ眺めることが困難になる。
すぐさまビビに、煙幕を吸い込むように指示を出す。
と言っても、そんなに素早く井戸を包み込む煙幕を吸い取れるわけではなく。
気付けばランスとドガースは、風のようにこの場から消えていた。
「…………あー、ちくしょう」
小さく零す言葉。
残ったのは俺たちと、キョトンとした表情で俺を見つめるナギサと呼ばれた少女。
そして勝ちを目前で取り逃がしたという、何とも言えない焦燥のみ――