ポケモンと嫁と地方の果て   作:南方

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第十五話:VSハヤト

 

 次の日、俺とココロ達はキキョウシティのポケモンジムを訪れていた。

 ……ん? 塔の続き? んなもん、ビビとココロが圧倒的な力で全部ばったばったと倒してくれましたよ。

 上にいた偉い坊さん――ホーホー出してきた時は少しがっかりした――とか、その取り巻きやらも無論大丈夫でした。ていうかココロの体当たりで一発って、こっちがレベル高いのかあっちが弱いのか少し気になるよな……。

 生憎『レベル』なんて概念のないこの世界じゃ、今どれぐらいの強さかはバトルの中で見て判断する必要がある。

 まあココロは、そこらへんの野性と比べて、ずば抜けて素早く攻撃力もある。それは旅を始めてすぐに分かったことだ。

 しかし驚いたのはビビの方である。ココロと同じぐらいに動けるのに加え、臆病なこともあってか、なかなかに素早い。

 ナイトヘッドは自分と同じレベル分、相手に喰らわす攻撃。ビビはこれで敵を、ほぼ確定二発分で潰す威力を持っていることから、ココロとそう変わらないぐらいの強さになっているのかもしれない。

 予想外ではあるが、嬉しい誤算だ。

 あそこで狂乱という名の殺戮を許しておいてよかった。

 ……俺としてはな。

 黒い霧に慣れ果てたゴースさん達には可哀想なことをした。

 

「さて、いよいよ最初のジム戦だ。気合い入れていくぞ!」

「ブイ!」

 

 俺の掛け声に、勢いよくココロは鳴き声を出した。いい意味での緊張が、彼女をそうしているのだろう。

 腰に付けているモンスターボール入れの中も、俺の声を聞いてフルフルと震える。入っているポケモン達が俺の声を聞いて呼応してくれているに違いない。

 静かに揺れているのは右端に付けているボール。

 入っているのはワニノコのクロル。真面目でクールな奴なんだが、戦闘に関しては多分このメンバーの中で一番やる気と根気がある。真面目な性格が功を成しているのだろうか。

 左端に付けているゴースのビビが入っているボールは、クロルの奴と比べて相当震えている。予想通り初めて訪れるジム、それどころか見知らぬ人やポケモンがいる場所にビビっているに違いない。

 今回、基本的にポッポを使ってくるここキキョウシティのジムでは、ゴースの攻撃は通らない。ノーマルタイプが飛行タイプと付随してくるからだ。なのでビビには『さいみんじゅつ』でかく乱してもらう立ち位置になる。

 ルールは挑戦者のみ入れ替えOK、というのは公式なジムでの基本ルールらしい。『さいみんじゅつ』で眠らせた後、手持ちの二匹どちらかに交代、というスタイルでいってもいいだろう。

 まあしかし、別にそこまでビビの『さいみんじゅつ』に頼らなくとも、クロルやココロがいればいけるだろうよ。

 

「さあ、行こうか!」

 

 格好をつけたような台詞を吐きつつ、俺はジムの門を開いた。

 まあ門じゃなくて、実際は自動ドアなんですけどね! 俺開けちゃいないんだけどね!

 中は……まあ普通に道がある。道の両隣にはゲームで良く見るポケモンの銅像があった。

 その片方を感慨深く眺めつつ、俺はさっさと奥に進もうとした――――

 

「おーっすトレーナー! 俺を忘れちゃあ困るぜ!」

 

 ……ふう。出来るだけ見ないように、していたんだけどなぁ。

 声を掛けて来たのは、見ていなかったもう一つの胸像近くに立っていたおっさん。サングラスかけた奇妙なおっさんだ

 もうオーラを感じるんだよな。めんどくさそうな奴特有な熱いオーラを。

 

「おいおいおーい! 無視しないでくれぇ! これでもこっちから話しかけるの珍しい方なんだからな!」

 

 さっさと行こうとしたが、道を遮られてしまった。

 ゲームだったら、普通にすっ飛ばしていってたんだけど。

 だって興味ないし。おっさんに興味なんてわかないし。

 俺が求めるのは可愛い子と可愛いポケモン、その他必要なものと親しい者だけだ。

 

「まあ少しぐらい話聞いてってもいいじゃないかぁ! こう言っちゃなんだが、ジムリーダーの情報とか教えてやることが出来るんだぞ!」

「飛行タイプのハヤト。手持ちはポッポ二体にピジョン一体。飛行タイプには電気、氷、岩の攻撃が有効。特性の鋭い目はすなかけや煙幕などの命中率を落とす攻撃を寄せ付けない」

「……そ、そうだな。その通りだ」

「それでは」

 

 完全にポカン状態になったサングラスのおっさんを置いて、俺は先を進んだ。

 ……あらら、危惧してたことが起こってた。

 やる気になってたココロが熱気に充てられてドヨンとしてる。せっかくやる気マックスで入ったのに、あの雰囲気に呑まれて興が一気に削がれちゃってるじゃんか。

 大丈夫かなぁ、と少しだけ不安になりつつも、道なりに俺たちは進んだ。

 

 

 

*****

 

 

 

「クロル! かみつく!」

「……ッ!」

 

 鳥つかい君たちとの戦闘。

 確か二人ぐらいじゃなかったっけ、と思いつつも日によってジムトレーナーの人数が違うのか、今日は三人いた。

 そして鳥つかいって、なんか青いレオタードみたいなもん来てるのかと思ってたんだけど、なんか普通に私服だったり。

 今戦ってるツバサ君もその一人。かなりラフな格好で戦っている。

 しかし扱っているポケモンはポッポとオニスズメだけなので、どうにかなりそうだ。

 

「ッポ……!?」

「ポッポ! ひるむんじゃない!」

 

 クロルのかみつくが成功し、追加効果でポッポが体を震わせて行動できなくなっている。

 序盤のかみつく、結構強いよな……。てか威力六〇の時点でワニノコの水鉄砲と威力変わらないし、なおかつ怯み効果もある。元の攻撃力もあるし、かなりのダメージソースとなる技だ。

 

「もう一度かみつけ、クロル!」

「ポッポ! かぜおこしだ!」

 

 俺の指示で飛び出すワニノコ。だが素早さはどちらかというとポッポの方があるようだ。しかしそれでも、差分は殆どない。

 怯みから立ち直ったポッポは素早く飛び上がり、かぜおこしで重い風圧をクロルへ浴びせる。小さい体は考えられないぐらい、その風は鋭い刃のように感じる。

 しかし真面目な性格なクロルは、めげることなく風の中へ特攻する。後ろからでも伝わる不屈の闘志。

 そして風の包囲網を突破し――ポッポめがけて、口を大きく開けて飛びかかるっ!

 がぶっと大きな顎でポッポを一噛みすると、甲高い苦しそうな声をあげた。鋭い牙が羽毛の内側に入り込み、直接ダメージを与える。

 さっと交差するような形で、かみつくを終えたクロルは地面に着地した。

 ……次の瞬間。力を無くしたようにポッポは体を若干揺らした後、どさっと地面に崩れ落ちた。軽く息は出来ているが、かなりのダメージが蓄積しているのは一目瞭然。

 

「……行けよ。ハヤトさんが待っている」

「ああ。早めにポケモンセンターに連れて行ってやってくれ」

 

 クロルをボールに戻し、そうして鳥つかいのツバサ君の後ろに続く道を進む。

 悔しそうな、それでいてポケモンを傷つけることになってしまって悲しそうな、そんな悲痛な面持ちを通りすぎる時に確認出来た。

 ポケモンの鍛錬を行い、衣食住も共に過ごしてきたのかもしれない。だから、こうして勝負に負けて自分のポケモンが破れるのを見て、途轍もない絶望感を味わったんだろう。

 俺も下手をすればそういった場面を目の前で味わう可能性がある。

 

「負けられない、な」

「ブイ」

 

 俺のふと零した言葉に、後ろに付いてきていたココロは小さく声を出した。

 小さいながらも意志を感じ取れるその返事に、思わず笑みを浮かべて振り返る。

 若干強張った表情を見せるココロだったが、俺の顔を見てるうちに、自然に笑みを浮かべ始めた。

 多分俺とココロ、初めてのジム挑戦に緊張に呑まれている節があったに違いない。

 だけど彼女を見ていたら、今までの緊張していた自分が途端に馬鹿馬鹿しくなってきた。

 俺たちはチームで戦うんだ。互いを信頼し、互いを認め、互いを盛り立てる。こっちが焦ってちゃ、ココロやクロル、それにビビに至っては動けるかどうかも怪しいだろう。

 あくまでも普段通りに。

 しかしその中で、程よい重圧(プレッシャー)を自分にかける。

 

「……着いたな」

 

 道なりに進んでいると、大きく開けた場所にたどり着いた。外は真っ青――つまり屋根はなく、心地よい風が吹き込んでいる。

 ジムは大きく、全貌を把握することは外では出来なかったが、まさかこうしたスタジアムのようなものがあったとは気づきもしなかった。

 そんな広いスタジアムの中心より奥。

 そこには青い独創的な袴を着て、腕を組んでいる一人の好青年。キキョウシティのジムリーダーたるハヤトが悠然と佇んでいた――。

 

「君が今回の挑戦者だな。報告を聞くには、正攻法でありながらもポケモンの扱いが上手い、と。なかなかに優秀なトレーナーのようじゃないか」

「ジムリーダーのハヤトさんにそう言って貰えると、俺としてもうれしいです」

 

 距離としては十メートルぐらいだろうか。そこまで近づいて立ち止まった所から、ハヤトは不意に話しかけてくる。

 報告、というのはここまでに戦ったジムトレーナーたちのものだろう。なるほど、ジムトレーナーはただのジムリーダーにたどり着かせないための邪魔する役目以外にも、ジムリーダーの有利となる情報を流す、そういった役割もあったのか。

 そうとなると、俺の手持ちはバレているのだろう。先ほど戦ったワニノコのクロル、俺の後ろをついてきているイーブイのココロ。

 まだ出してはいないゴースのビビはバレてはいないだろうか、今回においては戦力になるのは難しい。

 まあ役には立つことは可能だがな。いや、それどころかコイツのいる居る居ないで勝敗が変わってくるかもしれない。いわゆる今回のキーマンだ。

 

「しかし俺は負けられない。それはジムリーダーとしてでもあり、父の意志を継ぐ者としてでも」

「俺も負ける気など更々ありません。今日は勝つためにここまでやってきました」

「……っふ、良い目をするね。戦う前からこれほど高揚した気持ちになるのは久方ぶりだ」

 

 微笑むハヤト。しかし次の瞬間、キッと視線を鋭いものへと変える。表情は精悍なものとなり、纏う雰囲気も近寄りづらいものになっている。

 これが、ジムリーダーの貫録か。

 地方にたった八人しかいないポケモン種族別のスペシャリストの一人。そんな彼に、俺は挑むのか。

 

 ――楽しみだ。戦いを前にこれほど興奮するなんて、自分自身知りもしなかった。

 

 隣に立つココロも、余裕そうな表情を浮かべている。さっきまでは緊張によって少し不安そうな面持ちも窺えたのだが、今は違う。心から戦いを楽しみにしているように思える。

 気が付くと、俺とハヤトさんの間近くに、レフェリーらしき人が立っていた。胸に輝かしい何かしろのバッジを付けている。

 

「ポケモンリーグから派遣してもらっている審判だ」

「シンジです。よろしくお願いします。今回のポケモン勝負のルールは挑戦者のみ入れ替え可能の勝ち抜き戦。出せるポケモンは三体。どちらかのポケモンが全てダウン、並びに棄権などで勝敗を期します。よろしいでしょうか?」

「……それで構いません」

「はい。それではトレーナーズカードを拝見させてもらいます」

 

 まさか出せるポケモンの数まで制限があったことには驚いたが、どっちみち手持ちは三体。問題はない。

 シンジさんにトレーナーズカードを見せる。数秒ほど眺めたのち、「ありがとうございます、ジュンイチさん」と会釈した。そしてすぐに、審判はその場から距離を離し、見えやすい位置に留まる。

 それを確認してから、ハヤトは独特な衣装からモンスターボールを取り出した。

 続いて、俺も腰のベルトにつけてあるボール入れの右端のモンスターボールを展開し、手のひらで握れる大きさにする。

 

「基本、僕のポケモンは父譲り。しかし、だからこそだ。そんな尊敬すべき父の使っていたポケモンでやられるわけにはいかない」

「熱意は伝わります――ですが、今必要なのはそんな御託じゃないはずです! さっさと始めましょう、ハヤトさん!」

「ああ……そうだな。では――いざ舞おう! キキョウシティのジムリーダー、ハヤトが相手になる!」

 

 

 


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