【リリカル】海鳴鎮守府 騒動録【艦これ】   作:ウェルディ

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第8話 艤装

賢人は、妨げうる不幸を座視することはしない一方、

避けられない不幸に時間と感情を浪費することもしないだろう。

                       (ラッセル『幸福論』)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

01.

 

海に並べられた標的が波に揺れている。

岸辺には、明るいオレンジ色の服を着た大人しそうな女性が5人の少女を連れてきている。

 

「では、訓練を開始します。

 皆さん宜しいですか?」

 

「はい、神通(じんつう)さん」

 

髪をツインテールに纏めて何時もの制服姿で、高町なのはは元気よく返事をする。

 

「レディたる者、何時だって準備は万端よ」

 

「дa、準備は万全さ」

 

ツンと澄ました少女の暁、冷静沈着そうな少女、響。

 

「私は、大丈夫なんだから」

 

「なのです」

 

元気溌剌とした少女の雷、その後に続く電。

似通った四人の少女は、これからの訓練に気合を入れる。

 

「では、皆さん。

 艤装の展開、出航を始めてください」

 

神通は、パンと手を叩き上に掲げた手から光が広がり体を覆うように広がっていく。

腕には砲塔がバンドで固定されスカートは花びらのように可憐に舞う。

腰に魚雷の発射管が装着され右肩下に水偵を発艦させるカタパルトが展開される。

展開を終えた神通は、ふわりと海面に立つ。

 

「暁の出番ね」

 

「響、了解した」

 

後に続けと暁が飛び出し海面に飛び込む。

ジャンプの為に踏み出した足が光に包まれ船を模したシューズが展開される。

空中に飛び出して伸びた背筋に燃焼と魔力の精製を補助する高温高圧缶が装着される。

右肩には砲塔、左肩には防盾が展開される。

 

響は、幅跳びのように両足を揃えて海面に着地する。

展開される艤装は、姉妹艦である暁と瓜二つである。

勢いを殺すようにクルリと一回転すると、キュッと帽子の鍔を斜めに被りなおす。

 

「いくのです」

 

「さぁ、出航よ」

 

双子のような姉妹である雷と電が二人同時に海に飛び出す。

二人で手を繋ぎ、踊るように飛び出した二人は着地の衝撃を二人で支えあい。

その衝撃を利用してお互いを放り投げるように手を離して加速する。

 

「高町なのは、大和型艤装、展開します」

 

少女の全身が光に包まれて、手足がスラリと伸びる。

胸は大きく、その体を包み込むように船を半分に割ったような艤装が展開される。

両舷と背中には体の半分はある巨大な三連装の砲台が装着される。

大和型の象徴である46㎝三連装砲。

その最長射程は40キロに及び、船に搭載された火砲としては史上最強を誇る巨大砲。

さらに両舷に左右2基づつ、合計4門の15.5cm三連装砲が展開される。

ミニスカートのセーラー服と鋼の首輪には菊の御紋。

その全体的な意匠は、巨大化変身をして三分で怪物を倒して去るヒーローを連想させる。

素肌をのぞかせる眩しい太ももには銃帯がまかれて大型砲専用のカートリッジが装着されている。

対地対空用の三式弾、対装甲用の九一式徹甲弾。

いずれも凶悪な魔法が仕込まれた破壊に特化した専用弾である。

 

そこには、展開した艤装にあわせて19歳程の大きさ変身した高町なのはがいた。

 

「大和型戦艦、高町なのは押して参ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私だって、私だって、いつか立派なレディになるんだから…」

 

「わぁ、凄いのです」

 

海上では胸を押さえてコンプレックスを刺激されている少女達がいたのは全くの余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

02.

 

私立聖祥大付属高校のグラウンド。

空を見上げれば空に設置されたコースを飛ぶ生徒達が見える。

スピードは、走る程度でずいぶんとヨタヨタと飛んでいる印象がある。

聖王教会の海鳴市進出に伴い、ザンクト・ヒルデ魔法学院と聖祥大学が姉妹校提携を結び。

付属高校裏手の山に海鳴教会支部と教会騎士の訓練施設が併設された。

それに伴い、高等部には魔法学科とデバイスマスター科が新設される。

当然影響は大きく。

日本初のデバイスマスター科は外部からの入学希望者が殺到し恐ろしい倍率となっている。

 

「おーやってるなぁ。

 ウチの空母や航空戦艦達も似たようなものだが」

 

そんなグラウンドを見上げながら、海鳴提督が空戦への道は遠いなぁと呟く。

艦娘にデバイスを持たせて空戦適性があるか調べた時、

空母系、航空戦艦系、航空巡洋艦系の艦娘に空戦適性がある事がわかった。

やはり、普段から航空機を操作しており、空を飛ばすという感覚を持っている事が大きかったようだ。

航空戦艦の日向など「これからは航空戦艦の時代か」と感慨深げにうなずいていた。

 

とは言え、燃費は最悪。

艤装とデバイス。

考えてみれば当たり前だが、二つを同時に使うのだから燃費は倍になる。

艤装に空を飛ぶ機能を追加できないか?

大学部に設立されている艤装の研究をしている研究室が異様な情熱をもって取り組んでいる。

 

「では、提督。

 明石は研究室の方へ顔を出してこようと思います」

 

「あっ、私もついていくね。

 木曽(きそ)、提督の護衛よろしくー」

 

明石と名乗った天然パーマのかかった紅色の長髪の女性。

動きやすいように髪をまとめた夕張と呼ばれる高校生くらいの少女。

 

「ああ、教授達に宜しくと伝えてくれ」

 

「オレがいるんだ、提督の安全は万全だ。

 そちらこそ、妙な暴走をするなよ」

 

眼帯、マント、迷彩がかかったセーラー、腰にはサーベル。

男心をくすぐると言うか、色々な意味で突き刺さる格好をした重雷装艦『木曽』。

高町道場にも熱心に通っている。

海鳴鎮守府の武闘派の一人である。

 

現在、大学工学部の教授達の暑い情熱により艤装の生産は可能になっている。

工作艦である「明石」には艤装の整備、修理、艦娘のメンテナンス機能がそなわっており。

兵装実験艦である「夕張」は、各種艤装に対する知識がインストールされていた。

これらを研究して現在の提督用艤装は生産されている。

 

だが、未だに艦娘本体の製造に関しては妖精さんにしかできない。

大規模鎮守府の最奥にて護られている妖精さんのスケジュールは超過密。

新人提督の艦娘から資材に余裕のできた古参提督まで、建造予約で埋まっている。

 

提督達が教会支部の方に歩みを進めれば、魔法訓練場が見えてくる。

 

「ほぅ、広い練習場だな」

 

「ああ、陣取り合戦もできるように作ってあるからな10メートル四方の小規模な砦型の陣地……。

 まぁ砦と言うよりはトーチカか。

 両脇を天然の森に囲まれ小高い丘を中心に対峙するように作ってある。

 何にせよ陸戦というのは基礎だ。

 先天資質でA以下だと飛行しながら戦闘をするには魔力を効率よく運用する技術が求められる。

 空を飛ぶには魔力量、制御力は必須だ。

 そもそも、指導できる人間が希少だしな」

 

「まぁオレ達は、基本的に砲戦だ。

 もちろん、一足の間合いに踏み込んできたら叩き切るがな」

 

魔法で実際の砲撃射程を再現している彼女達の射程は長い。

駆逐艦の砲でおおむね8キロ、戦艦でおおむね22キロから40キロ程の距離まで飛ばせる。

ちなみに、人間の狙撃ギネス記録が概ね2.5キロほどである。

もちろん最大射程での命中率は、とても悪い。

五階くらいのビル屋上から地上に置いた半紙に墨汁を落として当てるようなものである。

これを観測射撃で当てていた当時の砲手の腕前は想像もつかない。

それ故に、普通の空戦魔導師が戦うロングレンジは彼女らにとっては目と鼻の先。

「至近距離まで近づいてくれたぜ」とおかしな事を言ってのけることになる。

 

「まぁ、聖王教会騎士との陸上演習はやる予定だ。

 今は、アポを取って待たせているシスター・ヨランダに失礼が無いようにするのが先だ」

 

「ああ、陸戦だろうとオレ達を相手にする愚かさを教えてやるだけさ。

 艦娘として撃ち、永全不動・御神真刀流の剣士として切るだけだ」

 

「すまん、相手にする常識的な教会騎士が可哀想になってきた」

 

杖をつきながら歩く提督は、上機嫌に「オレを誉めても何もでねぇぞ」と笑う艦娘を連れて教会へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

03.

 

水平線の彼方、目をこらせば見える黒い点。

 

「方位0-2-0 距離……7870」

 

水上に浮かぶ6人の人影。

大人しそうな印象を受ける神通は一歩後ろでチェックボードを持ち前の5人を観察している。

5人の中で一際背の高い変身した高町なのはが、艤装に備わったレーダーで標的の方位と距離を割り出す。

 

「こちら暁、目標を視認。

 全艦停止、各主砲に装填を開始するわ」

 

「照尺距離、苗頭修正完了。

 さて、射撃訓練に入るよ」

 

それを受けて、暁が全員に指示を出し、響がそれをサポートする。

 

「はわわわ」

 

「うち~かた~ はじめ!!」

 

そして、5人が空気を叩くような轟音と共に砲弾を撃ちだす。

数秒の時間をおいて着弾した砲弾は激しい水柱を生み出してビリビリと大気を振るわせる。

 

『着弾』

 

着弾地点を観測していた神通が、観測機からの報告を受けて結果を発表する。

 

「『暁』遠・中」

 

「うっ…」

 

神通の笑顔で通達されるプレッシャーに少し涙目になる暁。

 

「『響』遠・近・夾差」

 

「まずまずだね」

 

結果に満足そうにうなずく響。

 

「『雷』遠・近」

 

「もー、なんで当たらないのよ」

 

「『電』遠・遠」

 

「はわわ」

 

雷電姉妹は結果に目をまわす。

 

「『高町なのは』夾差・近・夾差。

 惜しかったですね」

 

「次は当ててみせます」

 

両手をグッと前に出して気合をいれる高町なのは。

 

5人の前にでた神通がクルッと回転すると全員に総評を伝える。

 

「響と高町さん以外。

 照尺距離が合っていませんね。

 もっと下げてください。

 砲身には旋条が施されていますから定偏苗頭も忘れないように」

 

私の指導力不足です。

と受講者の胸を抉るような仕草で受講者の良心をえぐる。

 

「つっ…次は命中させてみせるのです」

 

「レディは、地道に階段を登っていくものよ」

 

「神通さんには何の落ち度もありません」

 

そんな仕草に容易くつれる生徒達に幸せいっぱいの笑顔を浮かべて神通は死刑宣告を告げる。

 

「そうですか、では皆さんが標的を全て撃破するまで訓練を続けますね。

 標的は低速で動きますますので頑張りましょう」

 

その宣言に顔を引きつらせる暁型駆逐艦一同。

標的は、まだ数十基用意されており。

全てを撃破するとなると日が暮れる。

次の日の昼まで標的撃破に時間のかかった睦月型駆逐艦達の屍ような様子が脳裏に蘇る。

 

「睦月(むつき)ちゃん達…徹夜だったって……」

 

「根をあげそうになると……後ろで思いつめた感じで見つめてくる神通さんがプレッシャーだったって」

 

「レッ、レディの笑顔って怖いものなのねっ」

 

絶望の表情を浮かべる暁達と対照的に特訓大好きな血筋の高町家は目をキラキラさせながら気合を入れる。

 

「高町なのは、頑張ります!!」

 

深夜遅く、最後の標的を高町なのはの副砲が粉砕するまで砲撃訓練は続けられた。

 

 

 

 

 

 

04.

 

 

提督の真髄は、ただ一文で言い表す事ができる。

 

『資源を集めてバケツで殴れ』

 

艦娘の運用には燃料、弾薬が必須であり。

負傷した艦娘を癒すには鋼材、燃料が必須である。

 

素の状態の艦娘は、せいぜい電柱を殴り倒せる程度である。

しかし、カートリッジ(弾薬)を用いて艤装でパワーを増幅させれば砲撃でビルを薙ぎ倒せる。

 

負傷をしても鋼材で艤装を修理して燃料で魔力を生産すれば良い。

魔力構成体である彼女達は自らを形作るプログラムに沿って体を再生させる事ができる。

 

バケツと呼ばれる高速修復材を使えば即座に戦線に復帰する事も可能だ。

 

資材の続く限り、艦娘は戦い続ける事が可能であり。

多数の艦娘で効率的なローテーションを組んで勝つまで波状攻撃を続ける事こそ艦娘の真価である。

 

 

管理局との交流が深まった数年後。

 

管理局の戦技披露会の集団戦闘において、

倒しても倒しても、後方で液状になるまで圧縮された魔力をバケツでかけられ戦線に蘇る艦娘。

後方でバカスカ砲撃しながら随伴艦にバケツをかけて戦線に送り出す提督。

提督の周辺を固める格闘戦に特化した護衛艦隊。

 

相手をしたどの部隊も口を揃えて「白い悪魔がいた」と後述している。

 

 

 

 

 


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