【リリカル】海鳴鎮守府 騒動録【艦これ】   作:ウェルディ

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第七話 スクライア

どんな馬鹿げた考えでも、行動を起こさないと世界は変わらない。

 

                     (マイケル ムーア)

 

 

 

 

01.

 

スクライアと呼ばれる一族がある。

考古学を営むその一族は主な職業として教職を営んでいる場合が多い。

管理世界の現地政府からの統一戦争時代の遺跡発掘依頼、

都市開発などで発見されたロストロギアに対するアドバイザー。

管理局などの危機対処部門からは暴走したロストロギアに対する諸賢を求められたりもする。

 

発掘に赴くとなれば、身の安全を確保できるだけの武力の準備は必須である。

 

故に、魔力資質を持った子供には英才教育が施される。

 

身を護る事に特化した防御魔法、結界魔法。

被弾面積を減らして逃げる事に特化した変身魔法。

危険な魔法生物やロストロギアを封印する為の封印魔法。

 

そして、戦乱の時代に関する深い知識。

 

マルチタスクと呼ばれる魔導師が行う多重思考術式は特に重視される。

高位魔導師に至っては必須を言える技能である。

 

違う作業を同時にできるメリットに関しては説明するまでもないだろう。

 

数学を学びながら歴史を学ぶ。

思考を二重、三重と展開して、学習速度を加速させていく。

 

同じ事であっても同時に二つの事ができるメリットは計り知れない。

例えば、治癒魔法を二つ同時に行使できれば二人同時に救える。

砲撃の火力は単純に二倍となり、防壁は倍になる。

 

元々、早く社会に出て活躍して欲しい魔導師には詰め込み教育が行われるものだが。

ユーノ・スクライアという少年は、そんな中でも頭一つ飛びぬけていた。

 

次元世界大戦が終結した直後であるのならばともかく。

終戦より65年の歳月がたった現在であれば、

学校という堅牢な枠組みの重要性は嫌というほど認識されている。

 

単純な事だ。

当時、飛び級によって早期に社会に出た魔導師達。

彼らが大人となり壮年となり、退職を目の前にした時。

同僚、や友人達とする会話の中でスッポリと抜け落ちているものを発見したのだ。

 

学生時代。

 

その輝かしくも尊く、美しい時代。

 

人の倍学び、人の倍走り続けてきた。

そして、ふと周りを見渡せば一人ぼっちの自分を見つける。

もちろん友人はいる。

だが、それも魔導師の友人ばかり。

戦後の不安定な時期、失った友人も多い。

だが、その葬儀はどうであったか?

周りは大人ばかりで同年代の子供など一切見かけた覚えなどない。

 

生き残った彼らは一同に思った。

 

これはマズイ。

 

早急にカリキュラムの変更を行った。

権力も力も持った思春期を失った大人達は、強権を行使した。

自分の後輩達を学園という揺り篭に押し込める為に。

 

魔導師に対しては、マルチタクスで対応の難しい実技を中心とした学習に切り替え。

可能な限り長く学園生活を過ごせるように。

その中で友人を得て、長く続く人生をより豊かに過ごせるように。

 

義務教育期間を設定して15歳以下の子供達を学園に押し込める事には成功した。

 

だが、親の心、子知らずというのは万国共通の真理でもある。

 

才能のある子ほど、その揺り篭を窮屈がり。

早々に卒業単位を取得した少年少女たちは外へと飛び出していく事となる。

 

ユーノ・スクライアもそんな子供の一人だった。

 

第一世界ミッドチルダ 次元港。

その外観は、地球にある空港や港と変わらない。

広めのロビーと待合室があり、建屋の隅には土産物屋や食事処が並ぶ。

要所要所では、警備員と思わしき職員が巡回をしており。

管理局の警邏詰め所も複数配置されている。

 

「管理外世界への渡航―――」

 

並ぶカウンターの一つではオペレーターの女性と十歳くらいの少年が渡航手続きをしている。

だが、オペレーターの顔はかんばしくない。

管理内世界であるならば、快く送り出してあげられる。

だが、少年が目指すのは管理外世界である。

 

次元の海には、いくつもの世界が存在する。

治安維持組織である時空管理局の管理を受け、

文化交流を行っている世界を『管理世界』

そうでない世界を『管理外世界』と呼ぶ。

管理世界のほとんどと管理外世界の一部には「魔導」と呼ばれるエネルギー運用技術が存在する。

一般的に使用される「魔法」もその一部であり、

優れた術者が魔導師と呼ばれるのもここに由来する。

近年の魔導技術は科学と深く融合して一般生活に浸透している。

 

魔導の観測されていない管理外世界ならば、まだ良い。

表示されている彼のパーソナルデーターは、Aランク。

少々の荒事ならば潜り抜けられる実力がある。

 

「渡航の目的はロストロギアの探索?」

 

「はい」

 

だが、第97管理外世界には独自魔導が存在し、

ロストロギア由来の魔法生物の活動が観測されている。

 

「あの……

 管理外世界での発掘や探索行為は……」

 

聖王教会の出先機関があるとは言え。

治安が不安定な土地の火に油を注ぐようなまねは推奨されたものではない。

 

「いえ、違います。

 発掘では無く。

 なくしものでなんです。

 輸送中に事故があって、その世界に落ちているはずだって……」

 

その言葉に益々顔をしかめるオペレーター。

言葉には出さず、手元の端末を操作して注意情報を追加していく。

 

「なるほど、捜索対象は危険指定物ですか」

 

渡航許可書のサインを確認して、これが公務である事を確認する。

全ての端末に警告情報を流して第97管理外世界への渡航制限を呼びかける。

火に油はすでに注がれていた。

 

「管理局には連絡済で、

 先行調査の許可もとっています」

 

情報を追加しながら、近くの航路を通る次元航行船にチェックを入れる。

おそらく管理局からは情報の通達が出ているだろうが朝のブリーフィングで出なかった以上。

これが最新情報だろう。

資料を航行管制室に転送、判断はチーフの仕事だ。

 

「それから、現地での魔法使用許可と

 魔導端末(デバイス)の持込も」

 

「かしこまりました、それでは端末を確認させていただきます」

 

彼と彼の保有していた魔導端末は後に

高町なのはと接触する事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

02.

 

日本 海鳴市 市街地。

海と山に挟まれた。

日本であれば何処にでも見かける変哲のない地形。

二階建ての母屋に庭には道場。

深海棲艦の襲撃によって海沿いの土地の地価が下がっているとは言え豪邸といってよい規模。

海鳴市、藤見町に高町家はあった。

 

時刻は7時45分。

会社に学校と人々が揃って動き始める時間。

世界的に見ても几帳面と言われる日本人の性質はどんな状況でも変わらないのか。

それとも皆であわせる事によって精神の安定をはかっているのか?

 

まぁ、そんな考えも時間的合理性の前には戯言でしかない。

 

「なのは、はい お弁当!」

 

「ありがとう。

 おかーさん!」

 

毎朝の儀式のように母は笑顔で娘に手作り弁当を渡し。

娘は笑顔で、それを受け取る。

 

「うん、いってらっしゃい。

 気をつけてね」

 

「うん、いってきまーす!」

 

母の言葉に元気に答えて娘は学校へと向かう。

 

高町なのはは、喫茶店経営の両親の下。

三人兄弟の末っ子として生まれる。

 

数年前まで海域を脅かし続けていた深海棲艦は倉庫街に新設された海鳴鎮守府によって追い出され。

 

学校の勉強。

春休みに買ってもらった携帯電話。

同じクラスになれた仲良しの友達。

 

そうした平凡な幸せに囲まれた。

ごくごく普通の小学三年生“だった”。

 

将来の夢は何?って聞かれたら。

 

「皆を護る為に戦いたいと思います」

 

と答えるしかないのが最近の悩み事。

 

「ま―――

 そりゃ普通とは言いがたいわね。

 普通の小3は未来の夢なんて決まってないわよ」

 

「わたしもだよ。

 ぼんやりと『できたらいいな』って思ってるだけ」

 

友人である。

日本では珍しい金髪の少女アリサ・バニングス。

黒く艶があり、光の加減によって紫にも見える長髪の少女 月村すずか。

二人にそんな相談をすれば、このような答えが返ってきた。

 

「でも、アリサちゃんとすずかちゃんは、もう決まってるんでしょ?」

 

「んーでも全然漠然よ。

 深海棲艦のせいでウチは三年前に一回潰れかけたから。

 その時、パパとママを助けなきゃと思ったくらいだし」

 

弁当のおにぎりを豪快に口に放り込んだアリサは口の端についた米粒を指で拭いながら言う。

 

「その時、鎮守府の提督さんがウチに来て。

 『船を出してください。必ず艦娘達が護ります』ってパパを説得して。

 それからウチは持ち直したの。

 だから、ああ…こうなりたいなって、そう思ったの。

 幸いと一艦隊まかなえるだけの魔力はあるみたいだし勉強と体力作りね」

 

フォークに刺した春巻きを咀嚼して飲み込んだ後、すずかが自分について語る。

 

「私は、機械系や工学系が好きだし。

 ウチでお姉ちゃんが、明石(あかし)さんや夕張さんと艤装を組み立てているのとかを見て。

 楽しそうにキラキラしてるのがいいなって。

 まぁ、実際は油まみれで肌も日焼けとかしてたけど。

 一緒にできたら、うれしいだろうな――って」

 

そんな親友達の答えを聞いて、面映いようになのはは笑う。

 

「……そっか、じゃぁ三人とも艦娘関係だね」

 

バニングス海運、月村工房。

この二つは、艦娘の誕生当初からの関係である。

 

戦線を広げ、生活圏を確保して戦線を維持する。

そこに必要なのは万全な補給線であり後方支援である。

 

提督が打った手は三つ。

 

信頼のおける技術者による艤装の解析と複製。

スポンサーである船会社の得る。

自身と艦娘達の社会的な保障を海自に行う技術提供によって確保すること。

 

この三人の少女達は、艦娘誕生からの激動の時代。

それを当事者達のすぐ傍で見つめ続けてきたといえる。

 

「先に行って、待っていなさい。

 すぐに私も追いつくわ」

 

「じゃぁ、なのはちゃんや艦娘さん達の艤装は私が修理するね」

 

「ふふ、超弩級戦艦 高町なのは。

 押して参ります」

 

少女達は顔を見合わせて笑いあう。

 

その日の晩の事である。

21個からなる、エネルギー結晶体が海鳴市に降り注ぎ。

それを奪い合う、深海棲艦と艦娘達。

空を駆ける黄金の魔導師による壮絶な争奪戦が繰り広げられる事となる。

 

 

世に言うPT事件の幕開けである。

 

 

 

 

 

 

 

 


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