【リリカル】海鳴鎮守府 騒動録【艦これ】   作:ウェルディ

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第六話 闇の書

孤独は山になく、街にある。

一人の人間にあるのではなく、大勢の人間の”間”にある。

(三木清)

 

 

 

 

 

01.

 

彼女は、死が必ず訪れるモノであると言う事を知っていた。

その訪れには予告がある時が多いが、時に死神は予告無しに訪れる。

 

彼女の両親が、正にそれであった。

 

彼女に残されたのは、空っぽの家と何時の間にかあった一冊の本。

 

深海棲艦と呼ばれる嵐は、彼女の両親のみならず。

多くの者の命を理不尽に奪って言った。

誰もが他人を構う余裕を無くし、明日の糧を心配するようになっていく世界。

優しさとは余裕の表れであり、人々は優しくあるための力を失っていった。

 

そんな中で彼女に一本の手が差し伸べられる。

 

彼女の両親の友人であるという人物がやってきて両親の残した財産の管理とこれからの生活援助をしてくれる事となった。

 

彼女の名は、八神はやて。

両親の友人を名乗る人物の名はギル・グレアムと言った。

 

グレアム氏は、海外の人であり仕事場も外国を飛び回るような仕事をしているらしい。

彼は、一年かけて一人で暮らす為の最低限のスキルをはやてに与えると。

はやてを戦場の溢れる世界へ連れて行く事はできないと言い、彼女を日本に残した。

 

そうして、彼女の一人暮らしはスタートした。

始めは戸惑う事も多かった家事であったが、

洗濯などは自動化されているし、料理については教本が多い。

彼女が元々、器用なほうであったのは幸いだった。

彼女は順調と言える滑り出しで一人暮らしをマスターしていった。

 

むろん、一人が寂しくない訳が無い。

誰も居ない家が、怖くなり、毛布をかぶって震えながら眠った夜があった。

テレビの音が響く家で、孤独を感じて膝に抱いたクッションを濡らした事もあった。

 

ああ、人が死ぬと誰もが、こんな寂しさを味わうことになるのか。

 

聡明な彼女は、周りの子供達より早く死を考え、死を恐怖した。

 

リビングで、笑っていた父を覚えている。

台所で、鼻歌を歌っていた母を覚えている。

 

寂しい、悲しい。

だが、人に迷惑をかけてはいけない。

それは、父や母とした数少ない約束の一つ。

 

彼女は、悲しみを隠して周りの人々には笑顔をみせて暮らしていた。

 

そして、定めの日が訪れる。

 

違和感は感じていた。

時折、足の反応が鈍くなる時があった。

違和感は大きくなっていった。

やがて足が上がらなくなるまで、さほど時間はかからなかった。

 

倒れた彼女は、海鳴大学病院に担ぎ込まれる事となる。

 

診断の結果は、原因不明。

神経系に何らかの負荷がかかっているため、

筋肉に指令が届かないのでは無いかと診断された。

 

主治医である石田医師の下で一ヶ月ほどの検査入院を経たが原因は判らず。

そのまま学校を休学して、学業自体は在宅教育に切り替え。

定期的に病院に通う日々を過ごすこととなった。

 

身体障害者用の学校は県に一つはあるものだが、あいにく海鳴の近くには無かった。

ハンデを抱えながら普通校に通う事となる事は、ままある。

 

そして“他と違う子供”と言うものはデリケートである。

 

両親や周囲のサポートがあるのであれば安心であろうが

“八神はやて”の特殊な事情はリスクが高すぎた。

 

病院に入院して様子を見るという手段は無い。

日本の医療事情は、非常に厳しい。

病名もはっきりとせず、

何時まで入院すれば良いのか判らないような患者に与えられるベッドが無いのだ。

重症患者ですら

入院の基準日数超過によるペナルティを恐れて放り出される時勢である。

 

増して今は深海棲艦との戦時である。

病院は常に緊急時に対応する為の余力を残しておかねばならず。

精神性の疾患で体に不調を訴えるものは多い。

彼女もそんな一人の中に埋もれてしまうのも仕方の無い事と言えた。

 

病院だって商売でありボランティアでは無い。

儲けが無くては医者や看護士を養っていけない。

保険事情が国の定める法律に寄っている以上、

医学的もしくは心情的に不適切でも放り出さざるを得ない。

 

結果、自宅療養で様子を見つつ通院。

学業は、自宅での教育で単位を取る。

 

彼女は、世間の隙間に弾き出されてしまった。

 

幼い彼女は、そんなものかと思い。

誰に顧みられる事も無く、誰の迷惑になる訳でもない状況を受け入れた。

 

断続的に襲ってくる痺れと痛みは、否応無く死を思わせ一人の家は寂しさを増した。

 

襲撃警報の音は、あの日を思い出させ動かない足を抱えて泣いた事もあった。

 

時折やってくるグレアム小父さんの手紙は、何時も自分への謝罪から始まっていた。

そんなに気にしなくても良いのにと思う一方、

気にしてくれる人が少なくとも二人は居る事が嬉しかった。

 

図書館へ通うようになった。

静かではあるが、周りに人がいる空気が好きだった。

そして、自分が居ても違和感を覚えない数少ない場所だった。

字の多い本は、読んでいて疲れる。

だが、そこには疲れを忘れさせるだけのモノが存在していた。

 

そこでの自分は、多くの騎士を従えた王であったり。

風を呼び、雨を呼び、緑を生み出す偉大な魔法使いであったり。

邪悪を打倒し正道を貫く騎士自身となれた。

 

多くの者が、苦難を乗り越えて栄光を掴んだ。

多くの者が、栄光の果ての謀略を乗り越えられず悲劇的な末路をたどった。

 

新しい物語の多くが幸せな最後を迎える。

だが、古い物語になればなるほど、多くの物語の終わりは主人公の死で最後を迎える。

 

死に近い位置にいた彼女は、幸せのうちに終わる物語より。

死をもって終わる物語に惹かれていった。

 

ある英雄は、妻の疑心によって毒をもられて死を迎えた。

ある英雄は、己の不義理を妻に恨まれ謀略によって塗炭にまみれた死を迎えた。

ある英雄は、息子の反乱によって命を落とした。

ある英雄は、身内と己の名誉を護る為に命を落とした。

ある英雄は、愛する人と幸せになる為に逃げ裏切りによって命を落とした。

 

どれもこれも家族とほんの少し行き違わなければ良かったものばかりだ。

どのような難行を乗り越えた英雄も家族には、勝つことができなかった。

 

ああ、自分は家族を大切にしよう。

たとえ、自分の終わりが家族によるものであれ、その時は微笑んでいこう。

 

「まぁ、そうは思ても……私に家族は、おらんけどな」

 

十年後に彼女が、鎮守府のお母さんと呼ばれるようになり。

ミッドチルダで新設された鎮守府にて

多くの艦娘達と共に問題を抱えた子供達を育成する事になる。

 

そんな彼女の始まりは、この小さな誓いから始まることとなる。

 

 

 

 

 

02.

 

「そうですか、新しい治療法を……」

 

ギル・グレアム時空管理局・顧問官は、中継ポートを通して

第97管理外世界の病院へと電話をかけている。

これは、週3回のはやての通院日には必ずかけるようにしている習慣である。

 

『はい、鎮守府の全面的な協力を得られるようになりまして。

 あちらの伝手を使って、ベルカの魔法疾患の資料も集めてくれるそうです』

 

現在は、イギリス軍のアドバイザーもしており。

二束の草鞋を履いて両世界の架け橋として精勤に励んでいる。

 

ロストロギア事件は、何処であろうと発生する可能性がある。

それは、それだけ古代ベルカという文明が広く広がっていた証拠であり、

戦乱がいかに広範囲を覆ったかという事でもある。

 

故郷が、ロストロギアの被害にあったと聞いた時。

ついにこの時が来たかと思い、執務官長であった頃の伝手を使い即座に動いた。

 

執務官とは、事件捜査を自分で請求できる立場であり。

証拠さえ揃っていれば、独自の裁量で犯人を逮捕する事ができる。

自由に動かせる人員としては100人ほど(ランクとしてはBもしくはC中心)

の中隊クラスの指揮権を行使する事ができる。

管理局全体で見ても6パーセントほどしかいないエリートの集団。

執務官試験は半年に一度、筆記も実技もそれぞれ合格率は15%以下の難関である。

 

そこの一部門長であったグレアムの手は広く。

かつて、部下であった者に捜査権を獲得させると

現地アドバイザーの地位に納まり事件解決にのりだした。

 

そして、事件は暗礁に乗り上げた。

深海棲艦の核を生み出す姫級と命名された上位固体。

通常のロストロギアであれば、こうした上位固体を全滅させれば、

後は下位固体を殲滅して終了である。

 

だが、彼女らは忌まわしい能力を有していた。

 

『転生機能』『無限再生機能』

 

姫級の上位固体を破壊すると転生機能が発動し下位固体に転生。

無限再生機能により、新たな姫級が誕生する。

 

ならば、と姫級の固体を封印すると下位固体が進化して新たな姫を生み出す。

 

その様は、細胞分裂で増え、環境が変化すると雌雄を生み出すアメーバーのようだ。

 

増殖力は強く。

されど、世界を破壊できるほど強くもなければ知恵も無い。

 

実に優秀な侵略兵器と言えた。

 

おそらく、送り込んだ後。

終わりの無い持久戦に引きずり込み。

相手国が疲弊して降伏するまで暴れまわらせる“だけ”の兵器なのだろう。

相手を弱らせる事に特化しており、土地が受けるダメージは最小限。

下位固体の知能は昆虫並みで話し合いによる和平も不可能。

イナゴのように人類という名の穀物を食い荒らす害虫である。

実にいやらしい。

 

相手が降伏しなかったとしても人類が全滅に近いダメージを受け。

エサが無くなった深海棲艦が全滅してから征服すれば良いだけの話。

 

もちろん、こうした危険生物がいる星にも人類は立派に生存している。

他の世界から地獄に見えても人類は生き汚く、しぶとい生き物である。

どれほど生き難い環境でも適応し、

それなりに人生をエンジョイしてしまえるのが人類という種。

 

例えば、龍種のいる世界。

人々は、魔法によって龍自身を守護者にしたてあげ。

里を護り生活している世界がある。

 

人間などひき潰せそうな巨大な昆虫がいる世界。

その世界では虫の神経系を掌握して操る魔法が生み出された。

 

では、この世界では?

 

答えは極東にて生まれた。

 

『艦娘』

 

滅びをもたらしたのもベルカの業であれば、救いを生み出したのもベルカの技。

深海棲艦に対抗する為に生まれた新たなる生命は、

瞬く間に数を増やし世界中の海で戦い始めた。

 

これは、よくある悲劇だと。

この世界でおきたロストロギア事件を軽視していた者達も目を疑った。

 

魔法技術など無く、逃げ出す為の次元航行技術も無い。

すぐに根をあげて助けを求めてくるだろうと予想されていた。

その窓口となるのは、この世界出身の魔導師であるギル・グレアムであり。

 

そこから、魔法技術がこの世界に浸透して新たな管理世界の秩序が生まれると。

 

だが、名を忘れられた騎士達が、

忘れ去られた技術共に立ち上がり無辜の民を護る為に立ち上がった。

これに喝采をあげたベルカ系の騎士も多い。

 

何より、人材不足に悩む次元世界にとって、艦娘の増え方が何より驚愕をよんだ。

魔法の無い世界で隠棲するベルカの騎士は意外と多い。

大概は、手が足りず自分の身の回りを護りつつ管理局か聖王教会に保護を求める。

 

多くを護るには、多くの手を必要とする。

どれほど力強く、大きな手でも一本だけでは救える数には限界ができる。

 

故に、彼らは強い力を細かく割き多勢である事を選んだ。

そうして生み出された小さな力を機械(デバイス)の力で増幅した。

 

ある提督が、高らかに謡う。

 

「僕達の手は小さく短い。

 だが、繋ぐ事ができる。

 繋いだ手は環となって人々を護る柵となれる」

 

現在、艦娘の技術はヨーロッパとアメリカに伝わり。

ビスマルクやミズーリなどの新たな海外艦娘を生み出している。

 

その数は、加速的に増えて数年後には深海棲艦の数を凌駕するだろう。

そして、繋がれた手は人々を護る結界となるだろう。

 

「これも運命と言うべきか」

 

誠実に生きなさい。

悪い事や隠し事をする者は相応の報いを受けるものです。

 

そう言っていた祖母の言葉を思い出す。

あれは、この世界を飛び出すと決めた日の事。

大きな大戦が終わったばかりで世界は未だ混沌としていた。

だが、明日への希望に輝いていた。

 

自分は、まだ少年で

自分の持つ特別な力と誰も見たことの無い世界への好奇心に浮かれていた。

そんな自分に祖母が贈った戒めの言葉。

それが何十年という時を越えて自分の胸に突き刺さる。

 

「祖国、海と陸の思惑、上層部同士の力学、最高評議会の方針………」

 

今、自分が行っている事は全てに対する裏切りである。

 

深海棲艦が進攻を開始する5年前。

ギル・グレアムは一つのロストロギアを発見していた。

 

『闇の書』

 

放置しておけば、暴走によって世界一つを飲み込み。

周辺世界を巻き込んで消滅しかねかない最悪のロストロギア。

本来ならば、発見した直後に対処すべきシロモノだった。

 

だが、このロストロギアとは因縁があった。

 

第六次・闇の書事件

封印を破り暴走した闇の書に次元空間航行艦「エスティア」を乗っ取られた。

その時、自分は一人で船に残り闇の書を押さえていた部下ごと、

エスティアを吹き飛ばした。

この責任をとり、執務官長を辞した自分に用意されていた。

次のポストは訓練校の校長だった。

 

これらの事実の裏に臭いものを感じ取った。

10歳の頃から管理局に関わり、魔導師として勤めるようになって40年以上。

それなり以上に組織の裏側と黒い部分を眼にしてきた。

 

自らのシンパと派閥の人員を密かに動かして探ってきた結果は、やはり黒だった。

次期執務官長と名高い人物が、整備部に工作を行った形跡を見つけたのだ。

しかし、この証拠だけでは立件には弱く。

証拠は闇の書と一緒に吹き飛ばしてしまっている。

 

泥沼の権力争いに突入しかねない。

 

組織である以上、足の引っ張り合いはある。

だが、多くを犠牲にするような諸行までは行われるはずがない。

 

では、何故このような事が行われたのか?

グレアムは、校長の業務を利用して信頼できる人材を育てながら原因の究明に努めた。

そして、彼の補佐官まで上り詰めた元部下から有力な情報を得ることができた。

 

『最高評議会の介入があったと思われます』

 

管理局最高評議会

旧暦の時代に次元世界を平定し、時空管理局設立後一線を退いた3人の人物

彼らが、その後も次元世界を見守るために作った組織。

前記の3人のみで構成され、それぞれ議長、書記、評議員の役職についている。

管理局の最高意思決定機関となってはいるが、

平時は運営方針に口出しすることはない。

 

正直、権威はあれど決議権の無い組織と言っていい。

だが、持ちえる資産や影響力は馬鹿にできたモノでは無い。

各種の研究機関は、彼らの資産力をバックボーンとしている所が多く。

正確な所は確かでは無いが、ミッドの名だたる大企業の株を多く所持、運用している。

その費用は、管理局の発行する債券や予算にも一部食い込んでおり、

支援を打ち切るなどと言われると困る部署が多数表れる。

 

「老人どもめ……」

 

悲劇の英雄であるクライドには盛大な局葬が行われた。

そして、彼の勇気と正義は称えられ管理局員の精神を打ち直した。

 

『かくあるべし』

 

偉大な背中には誰しもが夢を見る。

直接彼に関わった人物、彼の実像を知る事は無いが伝聞で伝え聞いた人々。

彼を知る人物は彼を称え、彼の背中を追う。

彼を知らぬ人々は、彼の背中を追う人々を通して彼を知り、その生き様に心を正す。

 

思えば、

いかに封印困難なロストロギアとは言え管理局が六度も取り逃すのは不自然だ。

調べてみれば、闇の書の所持者が保護を求めてきた事だってある。

 

闇の書は、何度滅ぼそうとも復活する。

そして、暴走して厄災いを振りまき……成敗される。

 

管理局には敵が多い。

次元世界の治安機関として潜在的に絶大な権能を有している。

放って置けば際限なく自己肥大して各次元世界の主権を侵しかねない。

その為に各次元世界と調整をしてきた。

 

「管理局員は、己の功績を誇らず。

 己について多くを語らず。

 あらゆることに対し自分を勘定に入れず。

 よく見聞きし分かり。

 そして忘れず。

 正しきを見極めて職務に励め」

 

基本的に管理局は、何か被害が出てからでないと動けない。

監視用のサーチャーに魔力が感知され、犯罪者を発見できたとしても

現地世界に明確な被害が出るまで介入できないのである。

放って置けば、大きな被害がでかねない。

その事に強行を主張する局員を標語の下で押さえてきた。

 

では、管理世界側の政府機関はどうやって抑えるのか?

彼らにとって管理局は主権を侵されかねない外敵である。

自分達に手の負えない魔導師犯罪やロストロギアの問題は多い。

それゆえに本格的に敵対する世界は無く。

世界間貿易の利潤の為に管理から離脱しようという世界は無い。

だが、あれこれと口出しされるのは嫌だ。

なので配分金の負担を安くしようとしたり常備艦の削減などを訴えたりする。

 

そんな彼らに管理局暗部は、こう囁くのだ。

 

ああ、次元転移して災害を振りまくようなロストロギアに襲われれば、

そんな事を言ってられないだろうな。

 

「白いばかりの組織に未来は無いと理解はしているが……」

 

人の良いだけの組織など、

各世界の猛禽どもの良いエサになるだけだと理解はしている。

猛禽を押さえつけるに足る毒を撒き、己を狙う害虫を黙らす必要がある事も。

 

「報いは必ず受ける」

 

自らの情報網やコネを使い、闇の書の新マスターを突き止めた。

本名を使い、哀れな少女を確保した。

封印に必要なデバイスを用意した。

被害が出始めれば、適当な時期に“故郷に帰り”事件に巻き込まれよう。

 

本名を使う以上、自分も必ず報いを受けるだろう。

 

その計画も三年前に瓦解する。

ロストロギア『深海棲艦』の襲撃。

 

彼は慌てた。

襲撃に刺激された『闇の書』が主を護る為に緊急起動するかもしれない。

ロストロギアの鎮圧が決定され海の部隊が地球へ行けば

『闇の書』を発見してしまうかもしれない。

そうなれば、彼の悲願は打ち砕かれる。

 

古代ベルカの技を持ってロストロギアと戦う未加盟世界。

この硬直を崩すのに『闇の書』は最適だ。

暗部の連中の跳梁を許しかねない。

 

『闇の書』『深海棲艦』『艦娘』、この三者が喰い合えば程よく消耗するだろう。

 

深海棲艦の特性上、闇の書が深海棲艦を食い尽くす前に完成する可能性もある。

むしろ、高いといってもいい。

 

だが、それは豊富なエサが管理外世界にある事を指す。

 

管理世界の被害は最小限に抑えられることになる。

 

そして、『闇の書』が破裂寸前になった時に管理局は囁くのだ。

 

『手を貸しましょうか?』

 

結果がどうなろうと、管理局は損をしない。

 

“それが、どんなに酷い判断に思えても。

 私達は最善をとらねばならない。”

 

そう言ったのは誰であったか?

責任ある者とは、自己の護る集団の利益を最優先に考えなくてはならない。

 

誰かの損失とは誰かの利益であるが故に。

 

「それでは、悲劇は終わらない」

 

『深海棲艦』と『闇の書』に引っ掻き回された被害は検討がつかない。

 

彼の手は、カード状態で待機中のデバイスを握りしめて天を睨む。

 

「闇の書は、必ず封印してみせる」

 

誰に聞かせるともなく彼は、そう呟いた。

 

 

 

 


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