【リリカル】海鳴鎮守府 騒動録【艦これ】   作:ウェルディ

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第四話 古代ベルカ

第三次世界大戦に使われる武器についてはわかりませんが、

第四次大戦ならわかります。石と棍棒でしょう。

 

                         アルベルト・アインシュタイン

 

 

 

01

 

古代ベルカ

この存在は全てを語るのに避けては通れない。

 

300年程前、日本でいうなら江戸幕府ができた頃に滅びた文明でありながら、その技術喪失の凄まじさから古代と称されている。

それ以前とそれ以降では4世代から5世代は技術格差が存在する。

産業革命の頃と現代くらいの差と言えばいいだろうか?

当然の事ながら、古代ベルカより進んでいる技術も存在はするが、それも方向性の違いでしかない。

 

戦乱期にあった古代ベルカ末期の技術は戦闘に特化している。

当時の戦略兵器に対抗するには三倍以上の戦力が必要とも言われている。

 

ベルカとは、聖王を頂点に擁く連合国家だった。

江戸幕府のような形態をとっていたと言えば解りやすいだろうか?

 

崩壊の理由としては、王家の求心力の低下。

地方の反乱が主な理由として述べられる。

 

被害が拡大した原因としては、現在ロストロギアと呼ばれている遺失技術の暴走があげられる。

 

戦略・戦術兵器として開発されたソレは単独で1惑星を消滅させられるものもあり非常に危険である。

 

戦乱の影響は深く。

ネットワークに保存された情報はネットワークごと消滅。

紙などに書き記された情報は、悉く焼き払われた。

 

技術や知識の伝承は口伝や僅かに残された資料に頼るしかなく、その技術の多くが失われた。

 

文化、芸術などに関する喪失は戦闘系技術より、さらに酷い。

単純に優先順位が低いからだ。

 

保存の為の技術が高かった事も喪失に拍車をかける。

 

高度に圧縮された情報は、多くの情報を扱うのに便利であるが、致命的な欠陥を有している。

読み取り機が健在でなくては読めないのである。

 

例えば、DVDに保存されている情報はCDの再生機では見る事ができない。

重要なビデオがあっても、DVDデッキしかなければ見る事ができない。

 

10年前に記録した情報が規格の差に阻まれて見ることができなくなるなどザラである。

名作と呼ばれるモノは最新式のデバイスに移し変えられる事はあるが、マイナーな作品は忘れ去られていく。

半世紀前のモノになると専門施設でなければ再生すらできない。

 

そんな状況で戦争が起きれば、どうなるだろう?

間違いなく、文化、芸術と呼ばれる分野の情報は散逸してしまう。

綺麗な層を描いていた文化と技術は地殻変動を起こして近代と過去の入り混じったカオスを形成する。

 

使い方は判るが、作り方が判らない。

今は動いているから見れるけど、壊れたらもう見れない。

ネットワークが寸断されて何も見えない。

ネットワークは残ってるが再生機が無い。

 

口伝や書籍化されている情報はマシだが、それでも不完全。

データー化されている情報は、断片化してしまい、ほぼ全滅。

それでも名作や主流が、ある程度残ったなら良いでは無いかという意見もある。

しかし、それは多様性の喪失であり未来に広く枝葉を伸ばす可能性の喪失に他ならない。

 

かくて、ベルカ中央の技術は多くが失われ。

その断片的な技術は地方の文化、技術基盤に吸収されて消えていく事となる。

 

深海棲艦と艦娘とは、そうした古代ベルカの残した技術の一つである。

 

鎮守府の一室で、新任提督である高町なのはに艦娘をよく知ってもらう為の授業が行われている。

先生は、眼鏡をかけた委員長気質である大淀と責任者である提督。

 

「ベルカ崩壊後に起きた『聖王統一戦争』は『ゆりかご』と『聖王家』を失った事で終結しました。

 ですが、世界間の小競り合いや小さな戦争は新暦に入るまで収まらず。

 今尚、休戦しただけで、戦争継続中の世界だってあります。

 世界内で戦争をしている所は多く。

 表面上は穏やかな次元世界は、未だ平和には遠い所にあります」

 

「大淀さん!

 なぜ、古代ベルカの人たちは、そんなになるまで戦争をしたの?

 自分達が困る事は判っていたのなら何処かで止められたはずだよ?」

 

なのはの質問に提督が答える。

 

「食べ物が、足りなかったからだよ」

 

「食べ物……」

 

その言葉に思い出すのは、深海棲艦が攻めてきた初期。

未だ艦娘はおらず。

世界の制海権が奪われて物資が困窮した混乱期。

買占めに走る者がいた。

盗みに走る者がいた。

店からは、瞬く間に食べ物が無くなり人々の焦りを加速させた。

 

喫茶店である翠屋は、その問題が直撃した当事者の一つだ。

狂ったように食料を求める人々の光景は幼い心に焼き付いていた。

 

「現在、約35ある管理世界の食料自給率です」

 

大淀が、ホワイトボードに100%と書かれた赤い線の引かれた棒グラフを張る。

グラフの中で、食料自給率が100%を越えている世界は半分に満たない。

このグラフが正しいのだとすれば、次元世界の半分以上は飢えている事になる。

 

「……全然、足りてない」

 

「そうだな。

 多くの世界は、それを人々に認識させない事に腐心している節がある。

 貧困にあえぐ一部地域を作り出し、自分達の住んでいる世界とは違う事だと認識させる。

 明日は我が身である事に目を逸らす」

 

提督は茶を飲みながら、我が事ながら無常な事だなと呟く。

 

「そうした事情があるからこそ、管理局は150を越える管理外世界に対して不干渉の姿勢をとっています」

 

言外に言う地球も含めて食糧事情の良くなく、次元外に進出する技術の無い世界に構っていられないのだと。

 

「話は、ベルカ本星が崩壊し『聖王統一戦争』がおきる数百年前に遡ります。

 先ほど話した通り、どの世界も食料事情と言う物は厳しく。

 どの時代、どの世界であろうとも餓死者は少なからずいました。

 古代ベルカ時代は、聖王家の執政部が中心となって豊作であった世界から食料を買い付け仲介する事。

 医療の発達した世界や農業の発達した世界から指導を行い食糧事情の改善に着手していました。

 そうして、ギリギリのラインで回していた物流や技術交換の流れが、ベルカ本星の崩壊と共に崩れ落ちました」

 

「たいへんなの…」

 

「そう、大変な事になりました。

 ベルカ本星の崩壊に伴って大量に発生した難民。

 巨大な次元震による次元間航海の長期にわたる不安定化。

 もの凄い勢いで消費されていく食料及び資源備蓄。

 外貨を得られず、倒産していく生産産業。

 世界に溢れる失業者の群れ。

 その日の糧を得る収入を失い飢えながら死んでいく人々。

 食料を求めて次々と上がる内乱の火の手」

 

提督が説明に注釈を入れる。

 

「その難民を率いて移住してきたベルカの騎士が我々、提督と艦娘の先祖と言える」

 

大淀は、説明を遮るなとギンッとした視線を提督におくって説明を続ける。

 

「多くの世界がそうである以上、周辺世界に救いの手を差し伸べる余裕のある世界など存在しませんでした。

 食料生産世界だって例外ではありません。

 失業者によって生産力が低下している所に周辺世界から一斉にSOSが送られてきたのですから。

 問答無用で食料生産世界に襲い掛かる工業世界だってありました。

 これに対抗する為に食料生産世界が取った手段は、多くありません。

 武力において有力な勢力、世界に食料提供を交渉材料に自世界を護ってもらう事です。

 そうして形成された勢力を中心に戦禍は拡大していきました。

 戦争を止める事などできません。

 戦うことによって糧を得ている彼らは戦いを止めれば飢えて死ぬ事を知っているからです。

 例え、大儀名分を失おうとも止める訳にはいかなかったんです。

 そうして、世界に多くの悲劇が紡がれていきました」

 

「どうやって当時の人たちは戦争を止めたんですか?」

 

なのはの質問に提督が答える。

 

「ある程度、戦乱が進むと不可侵条約や友好条約、

 隣近所での大きなグループができる。

 あとは、それを繋ぐ組織ができれば和平交渉や休戦条約の交渉が劇的に進む。

 それが、聖王教会と管理局だ」

 

「聖王教会?」

 

初めて聞く単語になのはが首をかしげる。

大淀は、金髪を結い上げ柔らかく微笑む女性の写真を新たに張る。

 

「戦争末期、最後の聖王オリヴィエ聖王女殿下に仕えていた人々の末が聖王教会の前身となる組織を立ち上げました。

 聖王教修道会。

 彼らは、戦を良しとしなかったオリヴィエ聖王女殿下の教えを説いてまわり。

 正しき、教えを広めるという使命感の下に管理世界、管理外世界に問わず。

 聖王家と関係のあった全ての世界に修道院を設立していきました。

 元々、習慣として組み込まれていた聖王崇拝です。

 一部の衝突を除いて概ね良好に各世界に根付いていきました」

 

「聖王崇拝……」

 

「そうですね。

 ですが、王崇拝という概念自体はこの地球でもありました。

 古代ベルカにおいては、さらにそれは直接的です。

 偉大なる魔法の力で、風を呼び雨を呼び、緑を生み出し、

 襲い来る外敵を雷をもって撃ち滅ぼす。

 古代において、魔法を使い民を治める王は神と同意だったんです」

 

「それで、その人たちは何をしたの?」

 

「まず、各世界に設立された修道院を通して全世界に次元間通信網を構築しました。

 なのはちゃんに解りやすく言えばそうね。

 インターネットの回線を引いたと言えばいいかしら。

 それを信者に対して格安で利用できるようにしたの」

 

「インターネット?

 便利になるのは判るけど、それが世界平和に繋がるの?」

 

「便利なものは人々に受け入れられるの。

 彼らの教えは、それと共に人々に浸透していき厭戦空気が生まれていきます。

 情報の伝達がスムーズになる事で各世界の生産事情や今までできなかった世界間のやりとりが

 身近になり隣人の概念が生まれていく。

 管理局も独自に次元間通信網は構築していたけど、それは緊急用であったり。

 世界間の調停に使われる回線であったら民間に使用させる事はできなかった。

 それに民間使用に回すだけの人員もいなかったようだしね。

 修道院から得た情報を元に各世界の商人達が活発に動き出したわ。

 必要な機械や薬、食料の買い付け、販売にと次元間経済活動が復活していったの。

 そして世界に余裕が出てくれば管理局を通して休戦、停戦の条約が結ばれていたわ」

 

「だが、利敵行為だという政府の批判は、恩恵に預かっている商人の保護でかわしたのだが。

 強硬派の現地政府に襲撃されて燃え落ちた修道院も少なくない。

 現在、組織されている教会騎士団の主な役割は修道院の守護だった」

 

そこに提督が言葉を挟むが、大淀は言葉を続ける。

 

「商人達からの寄付金、回線使用料金などで活動資金を得た教会は、孤児院、病院、学校の設立に注力していくの。

 そうした中で特に力を入れたのが管理局株の買い付け」

 

「管理局株?」

 

なのはは、突然出てきた言葉に困惑する。

 

「当時の管理局の名前は、時空航行管理局。

 いってみりゃー次元航行艦を護る警察活動をしていたんだ。

 商業活動を活発化させて次元世界を安定させる事を狙っていた教会が支援するのは自然な流れだな」

 

提督の言葉を大淀が引き継いで補足する。

 

「現在において、聖王教会は管理局の筆頭株主であり。

 どの世界よりも多くの監査官を送り込んでいます。

 そして、我々と次元世界を繋ぐ重要な後援者でもあります」

 

「後援者?」

 

「管理局は、助けても利益の出ない世界より、自分の加盟国を優先して助けなくてはならない。

 となれば我々提督は、艦娘に関する技術と引き換えに聖王教会と友好を結んだのさ。

 簡単に言えば聖王教会の修道院を誘致した。

 治安を整えて、次元世界と取引ができる最低条件を整えるのに三年かかった」

 

管理局は、その地域を管理する国から管理費を受け取り治安を管理する機構だ。

それには国からの承認が必要であり、加入条件が飲めるか?税金から予算を捻出できるか?など様々な議論と国民の理解が必要であり。

加入による周辺諸国からかけられる圧力など即時に交流を持つのは不可能である。

 

法に照らし合わせれば、宗教法人であり、魔力通信事業者である聖王協会は民間組織であり、その誘致は個人事業でも可能である。

 

「私からすれば、よく三年程度でと思いますよ」

 

と大淀は呆れたように呟いた。

 

 

 

 

02

 

ロストロギアは戦乱で失われた技術の総称であり。

一般的には製造・制御の方法が失われた魔導兵器が有名である。

 

制御を失っているが故にその兵器は次元を超えて様々な世界に散逸した。

魔法が存在している世界、魔法の存在しない世界分け隔てなくその災禍を撒き散らした。

 

深海棲艦もその一つである。

 

遮るもののない青海。

水平線は丸みをおびており世界は丸いのだと実感させられる。

 

その青い世界に墨のような黒い点が表れる。

 

「おっ、敵艦隊みゆ!!

 上々だなおい」

 

飛行機にスキー板のような足がついた水上偵察機からの視界を共有して敵を見つける。

軽巡洋艦娘である天龍は敵を発見し上機嫌に声をあげる。

 

「あら~天龍ちゃんってば上機嫌ね」

 

その声にマストを模した薙刀に愛用の14cm単装砲を構えて同じく軽巡洋艦娘である龍田が戦闘態勢を取る。

 

「ここの所、護衛任務が多かったからな。

 後ろを気にせずやれるのは気が楽でいい」

 

天龍は眼帯の位置を直しながらマストを模した長刀を抜き放ち獰猛な笑みを浮かべる。

 

「チビどもは右から回り込め。

 俺と龍田は正面から囮になる。

 確実に仕留めろよ!!」

 

「レディを小さいなんて言っちゃダメなんだからね」

 

錨のマークがついた黒い帽子が特徴の駆逐艦娘の暁が過剰に反応する。

 

「ふふふ、怖いか?

 心配ないぞ、なにせ俺達がいるからな」

                            トップスピード

そう言って笑うとスピードスケータのように腰を低く落として第一戦速で駆け出していく。

そんな天龍の後ろを「あらあら」と笑いながら姉妹艦の龍田が続く。

 

「あーもう勝手なんだから!!

 雷! 行くわよ!!」

 

「もう、暁も

 もう少し素直になった方がいいと思うわよ」

 

そう言って天龍の指示どうり妹である第六駆逐隊を率いて暁は右に舵をとる。

 

天龍は、33ノットで海を駆ける。

単純に時速に換算すると時速61キロ程であるがタンカーを代表とする貨物船が15ノット程。

客船で20ノットほどであるのを考えるとかなりの高速である。

 

深海棲艦は、軽巡洋艦、重巡洋艦とその位階を上げるごとに人型に近くなっていく。

目の前に見える重巡洋艦のリ級などほぼ人型であり、両手に駆逐艦イ級に似た艤装を備えている。

 

「いるいる。駆逐が3、軽巡が2、重巡が1.

 たまんねぇなぁオイ」

 

天龍は、さらに腰を落とすと左右に軸をぶらして稲妻のように蛇行しながら突撃する。

 

前方6艦は高速で接近する天龍に対して砲撃を開始する。

間断なく撃ちこまれる砲弾は一斉ではなく僅かに時間をずらし連続して着弾する。

 

駆逐艦や軽巡洋艦は、その快速性を維持する為に防御は最低限まで削ってあると言って良い。

防御力に力を入れればその分、速度が犠牲になる。

そのようなものにリソースを回すくらいならば速さに回す。

 

駆逐艦や軽巡洋艦は、魚雷などによる水雷攻撃から戦艦戦隊を守る為に生まれた。

高速で艦隊に迫り、戦艦すら撃沈可能な魚雷は深刻な脅威と見なされ。

大型艦をも撃沈しうる厄介な小型高速艇を捕捉し撃沈する艦艇が求められた。

 

そう、彼女らは護る為に生まれたのだ

 

外洋での行動力と一定の対艦・対空・対潜能力を兼ね備え汎用性は極めて高い。

駆逐艦や軽巡洋艦は水雷艇の役目も包含した汎用性の高い戦闘艦として進化を始める。

 

敵を発見し喰い破る使命をおびた水雷戦隊への命令を極めて単純に表現すれば

「走れ、撃て」この二つの単語で事足りる。

 

「命短く駆けよ乙女!

 天龍様のお通りだ!!」

 

隠れる場所の無い大海では距離感を制した者が全てを制する。

ギアを変則的に変えてターンの距離の変化で幻惑する。

 

至近に砲弾が着弾しようと決して速度だけは緩める事は無い。

必中の射程に入る時間が一秒延びれば自分の寿命が一秒縮むのだ。

 

ガンスモークの煙に隠れたクジラのような駆逐艦イ級に必殺の砲弾を叩き込む。

三つの丸を頂点に持つ三角形の魔法陣が展開され砲弾を加速させる。

 

「喰らえ!!

 14cm単装砲!!」

 

打ち出された瞬間、魔力により圧縮されていた砲弾は本来の姿を現し凶悪な牙を剥く。

何かを撃ちだせば当然、撃った側にも同等の力がかかる。

通常は、後ろに押される力を前に出る力で打ち消すのだが天龍は、あえて”後ろに下がる”。

弾かれたように後ろに飛ばされ独楽のように方向転換した天龍の後ろには片膝を水面につけてスナイピングスタイルで構えるの龍田。

 

「死にたい船は、誰かしら?」

 

放たれた砲弾は、過たず軽巡洋艦ヘ級の頭を打ち砕く。

のけぞるように半回転し激しく水面にたたきつけられる敵に目もくれず。

天龍を追って龍田は左に飛ぶ。

 

鮮やか、あまりに鮮やかな手並、明らかな脅威に深海棲艦の目は左に飛んだ二艦に集中する。

 

「それは、余りに私たちを舐めすぎじゃないかしら?」

 

「電の本気を見るのです!!」

 

無視された形になる第六駆逐隊の駆逐艦娘4隻から一斉に魚雷が放たれる。

魔導の力によって往時の力を再現された酸素魚雷が吸い込まれるように残った敵艦に突き刺さる。

 

前述した通り、魚雷の威力は凄まじい。

3発と喰らえば堅牢な戦艦ですら沈める事ができる程の威力を秘めている。

 

当然、それが突き刺さった駆逐艦や軽巡洋艦など一溜まりも無い。

 

爆発の中、巻き上げられた海水は雨のように降り注ぎ海域に擬似的な霧がかかる。

 

ひび割れた装甲からオイルのような粘性を伴った血を流し赤い目を怨念に輝かせながら重巡洋艦リ級が立ち上がる。

 

そのような明らかな隙を…

 

「永全不動・御神真刀流・小太刀二刀術塾生 天龍。

 参る!!」

 

日本屈指の対怪物用の剣術を収めた軽巡洋艦娘が逃すはずが無い。

魔力の支援を受けずともドラム缶程度ならば容易く断ち切る太刀筋が魔力による支援を受け。

さらに時速61㌔の加速すらも威力に上乗せて放たれる。

 

斬撃は滑りやすい頭部を避けて柔らかい肩を確実に捕らえ脇腹にかけて真っ二つに切り裂く。

海上が爆発したかと見まがう震脚は余計な力を海に逃がしながらも振るった剣に確実に威力を伝える。

その前に鉄と等しい防御力を持つはずの皮膚は紙のように切り裂かれる。

 

「成敗ってな」

 

深海棲艦のオイルのように粘ついた血を振って掃い剣を鞘に納める。

二つに分かれて沈み逝く強敵を眼下に不敵な笑みを浮かべて海戦の終了を宣言する。

 

海鳴市は少々特殊なれど、近年では日本全国で見られる鎮守府近海の哨戒戦闘である。

 

 

 

 

 

 

 

03

 

扉を開ければ、応接セットと執務机、その背後に広がるミッドチルダの景色。

両サイドを本棚が埋め尽くす圧迫感が壁一面の窓ガラスの向こうの景色へと目を誘導する。

そして、ミッドチルダを背に轟然と佇む部屋の主。

 

よくできた部屋だと言える。

彼の信念をこれほどまでに形にした部屋は此処以外にありえないだろう。

 

部屋の主の名は、レジアス・ゲイズ。

 

『地上の守護者』と呼ばれている男である。

 

「第97管理外世界か……」

 

聖王教会を通じてベルカ自治区に留学してきている人物に関する報告書を読みながら壮年の男が呟く。

 

その世界の話を聞いて世界で一番頭を悩ませたのが、この男だ。

 

管理外世界にてロストロギアの発動を確認。

 

その一報がこの男に与えた心労は計り知れない。

 

現地の政府が白旗を上げて、海の部隊がロストロギアを鎮圧した後を考えるのは、この男の仕事である。

 

紛争の終結後、現地の治安組織が機能していれば、管理局は監視や助言をしていればすむが、現実でそんな事はまずない。

一方、「治安維持」の名の下に寄せ集められた近隣世界の警官が治安を維持できるかと問われれば否である。

治安維持組織の構造や機能は、その世界にあわせて独自に発展してきたものである。

違う世界の警邏を集めても部隊として機能させるのは困難を極める。

その為、ここ半世紀は各世界間の共通事項や了承事項の制定、多世界籍での合同訓練に注力する事になる。

次元社会における半世紀の試みを検証すると、以下の教訓が引き出せる。

 

第一に紛争終結後、次元社会が、崩壊した現地政府に変わって治安を維持しなくてはならないケースが多い。

この場合、短期間で集中的に人数を入れなくては、混乱で国が崩れかねない。

これを一国で担うのは難しく多数の国家が共同で行うのも難しい。

警察と司法を違う国が担当すれば両世界の制度が異なる為に関連して機能せず、摩擦による争いがおきる。

役に立たないどころか、現地で深刻な問題を起こすことがある。

 

その為に管理局が生み出したのが次元航行艦隊であり地上部隊、次元世界法である。

短期間で十分な人数を得ることができ、日ごろから各次元世界に武装隊をプールしておく。

それと同時に、任務遂行のためお互いの技術、手法を可能な限り標準化しておく必要がある。

一口に武装隊と言っても、機動隊のような任務から交通、犯罪捜査、市民警邏まで様々である。

どの要素が、いつ、どれくらい必要か?

司法部門が機能していない地域の治安をどうやって維持するのか?

これには、大規模戦争が終結して65年の現在に至るまで明確な答えは出ていない。

 

この議論の相違によって、紛争地域が終結するごとに大規模な人員の引き抜きが行われる。

これを原因として地上部隊と次元航行部隊との溝が深くなっていくのである。

 

この訳は第二問題にある。

ある程度社会が安定してきならならば、可能な限り素早く治安権限を現地政府に引き渡すのが最良。

これが長引けば長引くほど、現地政府に対する住民の信頼は薄れ社会経済と治安を不安定にする引き金となる。

また、新政府に新種の植民地であるような疑念を抱かせてしまっては円滑な次元世界交流に影を落としてしまう。

だが、彼ら単体で治安を維持するには多大な不安が残る。

そこで、駐留する武装隊の指揮権を現地政府に移譲して管理局との繋がりを強く残しつつ社会機能維持を現地政府に引き渡す。

新しい、地上部隊の誕生である。

 

たまらないのが人員を引き抜かれた他世界の地上部隊である。

他世界の地上部隊の中核になれるような人材は、その世界においても中心となれる優秀な人材に他ならない。

それを他世界の安定の為とは言え引き抜かれてはたまらない。

その為に一から人材を育てなおさなくてはならない上、何時引き抜かれるか判ったものでは無い。

人員を引き抜かれた後には、治安維持に穴が空き。

それを理解している次元犯罪者につけいられる事態が多々ある。

新たな人材を育てる為に余裕の無い人員の中から、さらに人が削られる。

新しい地上部隊の為に新たな予算が組まれる。

そして、各地上部隊の予算が削られるなどと言うのは良くある事。

 

一番のしわ寄せが来るのが第一世界ミッドチルダであり、その地上本部を統括するレジアス・ゲイズである。

 

「艦娘か……次元世界では到底できない事をやってのける」

 

その言葉は、小気味よい笑いを含んだものだった。

管理外世界からベルカ自治区への留学。

たとえ、自治区とは言え、次元間を移動する場合、管理局の入国管理を受ける事になる。

犯罪者や違法な移民の流入を防ぐ為には必ず必要な措置である。

 

「BランクからAAランクの移動者10名にその使い魔625体」

 

明らかに桁がおかしい。

これでは、せっかくのBランクやAAランクの魔導師達が殆ど魔法を使う事ができない。

この艦娘提督と呼ばれる魔導師達は、その魔力を使い魔達に食いつぶされてEランクかFランク程度の魔法行使しかできない。

艦娘達も大半はEランクからCランクで少数のAランクが散見されるだけである。

魔導師ランクによって様々な免除が受けられる管理世界においてはありえない魔力容量の使い方だ。

 

「倫理的に問題が少なく。

 同一規格の使い魔を量産が可能」

 

艦娘は、魔力とプログラムで体を作る為、量産がしやすい。

通常の使い魔とは違って死体を利用する必要が無く心理的な抵抗が低い。

使役獣と違い育てる手間が大幅に短い。

 

数とは、最も単純な力である。

一人ではできない事でも二人いれば可能な事が多い。

 

たとえ能力が劣っていようとも一人では物理的な限界が存在する。

効率の上昇は力の大小とは別問題である。

 

ミサイルを防げる壁が一枚あるより銃弾が防げる壁が三枚ある方が圧倒的に便利なのだ。

 

部隊を運営するには、戦力が違いすぎると非常に使いにくい。

戦力が違いすぎると部隊を交代させて休ませる事ができなくなるのだ。

 

A部隊とB部隊の戦力に二倍の差があるとする。

Aを休ませるとBでは戦力が足りないので他所から部隊を持ってこなければならなくなる。

 

Aの人数を半分にしてローテーションを組むとAを分けた部隊から数の多いBを妬む声が出てくる。

 

『俺達は少ない人数でやってるのにヤツラは倍の人数でやっている』

 

給料などでその不満をカバーしてもAからもBからも不満が出る。

 

大きな駒は強力であるが使いにくい。

そうした駒を艦娘の製造技術で適度に調整する事ができれば大きな力となるだろう。

 

「問題は、それを良しとする魔導師が少ないであろうと言う事か」

 

使い魔を維持する為に魔力を取られれば自分が使える魔力が少なくなる。

ランク取得試験などで不利になる。

 

出世にダイレクトに響くのである。

 

それに自分一人ですら持て余しているのに人並の知性を持った生き物の保護責任を課せられる。

食事や住む場所の確保など課題は多い。

 

家族を持つだけの甲斐性のある人間でないと使い魔を持つのが難しいのが現状となる。

 

有用とは解っていても使い魔が普及しない理由の一つとなっている。

 

「何かを成すには人手が必要。

 人手を動かすには予算が必要。

 予算を得るには実績を積むしかない。

 だが、実績を積み上げるのにも人手はいる。

 

 何につけても予算、予算。

 全く、ままならないものだな」

 

『戦闘機人計画』と書かれた書類に目を落としながらレジアスは愚痴をこぼす。

 

誰もが問題を抱えており、

誰もが問題を打破する力を求めている。

 

 

現状の手駒で今日を凌いで明日を作り出す。

 

管理職というものは何処までいっても修羅の道である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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