【リリカル】海鳴鎮守府 騒動録【艦これ】   作:ウェルディ

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第一話 海鳴鎮守府

運命がカードを混ぜ、われわれが勝負する。

                   ショーペンハウエル

 

 

 

結論から言うと彼女は逃げ遅れた。

海鳴市に鳴り響く警戒警報は耳障りな唸り声をあげて町中に響き渡り。

彼女は、もう誰もいない海岸線を焦りと共に駆け抜けていた。

 

「迷惑をかけちゃダメ。早く逃げないと……」

 

こうした避難自体は、全国的に見て珍しいものではない。

 

数年前より出現しはじめた「深海棲艦(しんかいせいかん)」

その姿は最も多いのが駆逐艦型と呼ばれるクジラのような形をしたもの

人型に砲塔や魚雷を生やした軽巡洋艦型、重巡洋艦型

頑健な装甲、驚異的な威力を有した砲塔を多数装備した戦艦型と多岐に渡る。

その姿は総じて女性体であり、その理由は諸説多岐に噂されている。

 

ただ、確実に言えるのは…彼女らは人類と船舶に限りの無い恨みを抱いている。

その一点のみである。

 

彼女らは、その分類された通りの能力を持っており。

戦艦型は戦艦に匹敵する防御力と攻撃力を持っており多くの港町を焼き尽くした。

 

勿論、軍隊は何もしなかった訳では無い。

 

現代兵器は、人間程の小さな標的でも正確に捉えその弾丸を命中させる。

例え相手が戦艦並みの装甲を備えていてもミサイルを数発命中させれば打倒は可能である。

しかし、人類は追い詰められ深海棲艦に制海権を奪われていた。

 

「きゃぁっ!!」

 

突然、少女の前方にあった防波堤が爆音と共に吹き飛ぶ。

衝撃によって起こった風は激しく彼女のツインテールを揺らし。

その振動に耐え切れなかった少女は尻餅をつく。

 

そして、壊れた防波堤の隙間から見えるのは数十体を越える白と黒のコントラストに彩られた絶望の軍団である。

 

現代兵器は、高性能である。

「深海棲艦」の戦力評価は第二次世界大戦における艦船と同程度。

この程度の敵であれば一対一であるのならば負けは無い。

ならば、近代兵器が悉く敗北した訳は、ただ一つである。

『弾の数より、敵が多かった』

この一点に集約される。

ミサイル一発数千万が当たり前の昨今。

数万以上の数が湧き出る敵を相手にしていては予算が持たない。

 

「ひぃ」

 

少女、高町なのはは、後ずさる。

彼女達「深海棲艦」は湧き出る数によって各国の軍隊を磨り潰し。

世界中の制海権を奪って海岸線上にある港町に襲い掛かってくる。

幸い、上陸して進攻してくる事は無いので多くの国は内陸に退いて命脈を保っている。

 

「電の本気を見るのです!!」

 

だが、その絶望を横合いから殴り飛ばす者達がいる。

ドン、ドンという太鼓に似た砲音が鳴り響き。

大きな口から舌のような砲を出し少女を狙っていた駆逐イ級を吹き飛ばす。

 

「艦……娘……」

 

艤装と呼ばれる船の機関部と似ているものを背負い。

連装砲、単装砲と呼ばれる大砲や魚雷で武装した少女達が海を滑るように駆ける。

 

『艦娘』

 

それは、魔法の力によって生み出された人類の希望。

かつて、この世界で勃発して二度目の世界大戦を戦い抜いた戦舟の記憶を持つ少女達。

彼女達は、魔法の力で駆動する戦闘艦の武装を模した魔法の杖で絶望を打ち払う。

 

白い髪をした10歳ほどに見える少女が海岸から上陸し、高町なのはを確保。

後ろに庇って海岸線に押し寄せてくる敵艦に対して砲撃を開始する。

その轟音に耳を押さえていると高校生くらで髪を長いツインテールにしている女性が立ち塞がるように海岸線に滑り込んでくる。

 

「要救助者発見、これより救助活動に移る」

 

「第六駆逐隊は、要救助者を連れて鎮守府へ!!

 ここは五十鈴(いすず)に任せなさい」

 

「いきや、提督が奮発してくれた流星、烈風や」

 

その後ろからは赤い帽子にコートを羽織った自分より、少し年上くらいの少女が巻物のようなものから飛行機を具現化させて飛ばす。

ふわり、と風を掴み優雅に舞う飛行機に目を奪われる。

緑色に塗装されたソレは春風に舞う新緑の葉を思わせる力強さを纏い少女の目を惹きつける。

 

「制空権確保、道は開いたで早よいきっ」

 

烈風と呼ばれた機体は体と同じくらいの球型の頭を持った深海棲艦が口から吐き出す人の口がついた蟲のような艦載機を叩き落す。

流星と呼ばれた機体は、その名の如く流星のような降下と共に放った魚雷で道を塞ぐ駆逐イ級を消し飛ばす。

爆発により水しぶきが雨のように降り注ぎ虹を作る。ある種幻想的な光景に高町なのはは意識を奪われる。

 

「さっ、行くのです」

 

「もっと私を頼っていいんだからね」

 

気がついた時には顔のそっくりな二人の少女に両脇を抱えられて持ち上げられていた。

見かけによらない力持ちである。

 

「あっあの、すみません」

 

「大丈夫よ、私は雷(いかずち)。

 雷(かみなり)じゃ無いんだからねっ」

 

「私は、電(いなづま)助けられる命は助けたいのです」

 

何処か、怯えるように謝る少女は怒られるのを恐れる幼子のようで。

双子のような艦娘は、そんな事は無いよと笑って自己紹介しながら海へと飛び込む。

 

「ひやっ!!」

 

浮遊感と共に海の上に浮かび上がる。

船底を模したスケート靴のような靴からフロート系の術式が展開され高速で海の上を滑り出す。

 

「大丈夫、私達にかかれば鎮守府まであっと言う間なんだから」

 

「ごっ、ごめんなさい!!

 御迷惑をおかけします!!」

 

雷と電姉妹に挟まれて海の上を走り出すと進路を確保していた少女に声をかけられる。

セーラー服に錨のマークがついた黒い帽子をかぶった髪の長い少女である。

 

「特Ⅲ型駆逐艦一番艦の暁(あかつき)よ。

 レディーが、そんな暗い顔をしながら謝っちゃダメよ。

 そんな時は、笑顔でありがとうって言いなさい」

 

「あっ…ありがとう!!」

 

どこか、金髪で気が強い自分の親友アリサ・バニングスを思わせる少女の言動にクスリと笑いを浮かべ。

高町なのは、今日一番の笑顔を見せて礼を述べる。

 

「いい笑顔だね。響(ひびき)、三人と同じ特Ⅲ型駆逐艦さ」

 

「あの、お姉さん達は?」

 

殿についた撤退を最後まで支援していた白い髪に暁と同じ帽子とセーラー服を纏った少女が挨拶してくる。

なのはは、最後に残った女性二人を心配して声をかける。

 

「心配いらないわ、龍驤(りゅうじょう)さんと五十鈴さんはウチの鎮守府でも古参の艦娘よ錬度だって抜群なんだから」

 

「それに援軍が来たのです」

 

それに答える雷と電につられるように空を見る。

すると空を埋め尽くすように飛ぶ百以上の飛行機が目に入ってくる。

 

「わぁっ」

 

正面で肩に盾のような航空甲板をつけ短パンに改造した袴をはいた弓道服と防具をつけた二人の女性が次々と弓を射ている。

矢は航空機へと変じて次々と空に飛び立っていく。

 

「赤い袴が赤城(あかぎ)さん、青い袴が加賀(かが)さん。

 ウチの鎮守府の正規空母のトップ2よ」

 

誇らしげに暁が二人を紹介する。

赤城は、こちらに微笑みかけ、加賀は黙々と弓を放っている。

そんな二人とすれ違うと先ほどとは比べ物にならない轟音が空間を引き裂く。

肌にまでビリビリと感じるような轟音。

振り返って後ろを見れば着色された四色の水柱は逆さに落ちる滝のようだ。

人間の数倍以上の水柱を起こした砲弾を放ったのは四人の女性。

 

「ヘイ、私達がここに来た以上。

 もう、ノープロブレムね」

 

そう言って、自身満々の笑顔を見せる肩の大きく開いたミニスカの巫女服を着込んだ女性達。

 

「お姉さま、油断は禁物ですよ」

 

「私の戦況分析によれば、ここが最後の襲撃場所です」

 

どこか控えめな女性と眼鏡をかけ髪を六四ほどで分けた女性が後に続き。

 

「気合!入れていきます!!」

 

短髪の腕白といった女性が前に出る。

 

「金剛型の四姉妹ね。

 前から一番艦の金剛(こんごう)さん、さっき前に出てきたのが二番艦の比叡(ひえい)さん。

 後ろにいるのが三番艦の榛名(はるな)さん、眼鏡をかけているのが四番艦の霧島(きりしま)さん」

 

「ウチの鎮守府で一番出撃の多いメイン火力なのです」

 

放たれる砲弾の力強い響き、粉砕される敵艦の姿を目を丸くして見つめる高町なのは。

空を制する美しい艦載機の飛行、敵を粉砕する砲弾の力強い響きと威力。

この二つの光景は、彼女を生涯を決定づける重要な要素となり。

 

後に46cm砲を連射し、空を埋め尽くす艦載機を操り、

200隻以上の艦娘を配下に収める日本の三大提督の一人となる高町なのは提督の原風景となることとなる。

 

 

 

 




ネタですので、微笑ましく笑ってください。

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