「行けっ!」
ロキの命令で二匹の子フェンリルが勢いよく俺に向かって走ってくる。
「花蓮、少し離れてくれないか。二人では飛べない」
「分かったよ、お兄ちゃん」
花蓮は俺の言葉に素直に従うと、持ち前の俊足で子フェンリルから離れる。
俺は翼を広げて空中に逃げる。そして俺はルフェイに教わって練習中の魔術の攻撃を子フェンリルに放つ。
「ちっ。やっぱり効かないか」
「当たり前だ。そんな素人の魔術が効くわけないだろ」
これでも暇を見付けては真面目に練習してるんだけどな。中々上達しない。
現在はトップ会談の時の魔法使いと同レベルといったところだ。
「っ!?」
子フェンリルの一匹が口を大きく開けて勢いよくジャンプしてきた。
ちょ、これ食らったら死ぬぞ!
俺は咄嗟にフェンリルの口の中に魔術の球を撃つ。すると一瞬、怯んだ子フェンリルが地面に落ちていく。
おいおい、口の中に直撃したのにほとんどダメージを受けてないぞ。どんだけ頑丈なんだよ。
「俺を忘れてもらっては困るな」
「俺も忘れるなよ!」
ヴァーリとすでにカウントを終えていたイッセーが禁手になり鎧を身に纏う。
そしてヴァーリは光の軌道をジクザグに生みだしながら、イッセーは背中の魔力噴出口を全開にしてロキに突進する。
「これは素晴らしい!二天龍がこのロキを倒すべく共闘するというのか!こんな戦いが出来るのはおそらく我が初めてだろう!」
二天龍が襲ってくるのを見て調子を取り戻したロキが全身を覆うように広範囲の防御色魔方陣を展開する。
ロキもこういう盛り上がる展開が好きなのか?
ただロキが初めてじゃないぞ。俺も二天龍を同時に相手にしたことがある。まぁ、逃げただけだけど。
マトモに戦ったら俺が死んでしまう。
二人に続いて他のメンバーも戦闘を開始する。ここは観戦するか。
子フェンリルの実力を実戦で見る良い機会だ。
おお、タンニーン凄いな。大火力の炎で子フェンリルを攻撃している。まさしくドラゴンって感じだ。
だが子フェンリルは怯む様子はない。ダメージがないわけではないようだが。
ん?花蓮の様子がおかしいな。さっきまでとは雰囲気が違って鋭い獣みたいな感じになっている。何と言うか、お義兄さんと戦っていた時の母親に雰囲気が似ている。
これが花蓮の戦闘モードということか。目で追うのも難しいスピードでヒットアンドアウェイを繰り返しながら子フェンリルを攻撃している。
「ふははは」
いきなりロキの笑う声が聞こえた。見てみるとミョルニルを振り回しているイッセーがいた。
確かミョルニルは純粋な心の持ち主にしか使えないという話だったな。常にエロいことを考えているイッセーには使えなかったか。
これが宝の持ち腐れというヤツだな。
「う~ん……もう良いかな」
少しの間、戦闘を観察してから俺は呟いた。いや、ちゃんと戦闘に参加していたけど。
神器を使って周りをフォローしたり、子フェンリルが親フェンリルを助けようとするのを妨害したりした。
子フェンリルの性能も大体、分かってきたし俺もそろそろ動くか。でも、その前にロキをもうちょっと弄ってからにしよう。
まずは夢幻の聖剣で幻を作ってから、二天龍を相手に優位に戦闘を進めているロキに話かける。
「よぉ、ロキロキ。楽しんでいるか?」
「……幻覚か。そんなものを使わないと話かけらないほど我が怖いのか?」
分かりやすい挑発だな。俺はその程度の挑発に乗ったりしない。
「ああ、怖いね。俺は弱い人間で、相手は神だ。怖くないわけがない」
俺は肩をすくめながらそう言った。そして幻の一体を神器で、さっきの股間を押さえて悶絶しているロキだと認識させる。もちろんロキ限定で。
「ちっ……」
「何があったかは知らないが隙だらけだぞ!」
イッセーが隙の出来たロキにドラゴンショットを撃ち込んだ。ロキは咄嗟に魔方陣で防御しようとするが間に合わず、いくらかダメージを食らう。
「……これでも駄目なのか」
「これが神の力だ!」
相手が無事なことに驚いているイッセーに、ロキがお返しとばかりに魔術の球をぶつける。
イッセーは直撃を食らって地面に叩き付けられたが、すぐに支給されたフェニックスの涙で回復する。
俺はイッセーを無視してロキに話かける。
「ところでロキロキ。一つ気になっていることがあるんだけど聞いていいか?」
「……もう呼び方については諦めた。で、何だ?」
「何で真正面から攻めてきたんだ?こっちにオーフィスがいることは分かっているだろ?」
「ああ、それか。事前にオーフィスがいないことを確認してからやって来た。もし居たら変身してオーディンを暗殺する予定だった」
……作戦としては間違ってない。勝てない戦いをするのは馬鹿がすることだ。でも、何か小者っぽいな。トリックスターなんだから、もっと凄い作戦とか考えてほしかった。
よし、聞くことは聞いたし、そろそろ本気でやるか。
「おい、ヴァーリ。もう充分に戦っただろ。そろそろフェンリルの方を頼む」
「分かった。だが、ちゃんと約束は守れよ」
「…………約束は守る」
「今の間は何だ!?」
守れる自信がない。ヴァーリの要求は子供を集めたイベントを開くこと。
ヴァーリのために子供が集まるかな。子供の母親とかなら集まりそうだけど。
「ちゃんと守るから安心しろ」
仮に子供が集まらなかったとしてもイベントだけはちゃんと開こう。
「信用できないが……まぁ、いい。フェンリルは俺に任せろ」
そう言うとヴァーリはロキから離れてフェンリルのところに向かう。そして黒歌がヴァーリを鎖ごとフェンリルと一緒にどこかに飛ばした。
これでフェンリルを抑えていたメンバーも戦闘に参加できる。
そう言えばヴァーリはどこに飛ばされたんだ?良い場所を見付けたとは聞いたが具体的な場所は聞いていない。
俺は両手を広げてロキを挑発するように言う。
「ヴァーリならグレイプニルを使った上で覇龍化すればフェンリルを倒すことが出来るだろう。そして、こっちにはオーフィス以外にも切り札はある。さぁ、どうする?北欧の悪神」
まぁ、オーフィス以上の切り札はないけど。それでも他に手札があるというのは本当だ。
「こちらにもまだ切り札はある!」
ロキの足下に影が広がり、そこから巨大な蛇……いや、違うな。体が、長細いドラゴンが複数現れた。
「ミドガルズオルムまで量産していたのか!」
タンニーンがそう言うのが聞こえた。
ふーん、これがミドガルズオルム。聞いていた情報よりかなり小さいな。まぁ、サイズまで再現したら扱いづらいから当たり前か。
数は十匹。多いな。一匹ぐらいは研究用に捕獲しておくか。
「じゃあ、後は頼む」
俺はイッセーにそう言うとロキから離れてヴァーリチームのところに行く。
「はぁ!?いきなり何言ってんだ!?」
イッセーが何か叫んでいるが無視だ。
「……もう終わりそうじゃねぇか」
俺がヴァーリチームと合流すると、すでに子フェンリルは満身創痍だった。
「駄目だったでしょうか?」
この前、手に入れたゴグマゴグを召喚して遠くから魔法で皆をサポートしていたルフェイが心配そうに話かけてきた。
「いや、駄目ってわけじゃないけど……」
俺は頭を掻きながら答える。
まだグレモリー眷属が戦っている方の子フェンリルがいるから大丈夫だと思うが。最初にちょっとロキを弄っただけで終わるのは嫌だぞ。
グレモリー眷属の方を見てみると子フェンリルにやられそうな姫島朱乃が見えた。すぐにイッセーが助けに向かうとするが間に合いそうにない。
イッセーの代わりに姫島朱乃を庇ったのはバラキエルだ。背中から牙に貫かれて大量の血を流している。
すぐにイッセーが子フェンリルを殴ってバラキエルから離れさせる。そしてアーシアが回復のオーラをバラキエルに飛ばす。
堕天使幹部ともあろう奴が何やってんだか。……一応、助けるか。
「ルフェイ。子フェンリルをもうちょっと弱めて支配の聖剣で制御できたら、美候と黒歌を残してヴァーリの方のサポートに向かってくれ」
「分かりました」
俺はルフェイの返事を聞くと頭を撫でてからグレモリー眷属の方に歩いていく。
「禁手」
そう呟くと俺を中心に謎の空間が発生した。子フェンリルとロキはいきなりの謎の現象に警戒しながら周りを見渡す。
「跪け」
俺がそう言うと……否、命令すると子フェンリルは重い重力に押し潰されたかのように地面に倒れ込んだ。
だが、すぐに立ち上がるとゆっくりとした足取りで俺の方に向かってくる。
脳に十倍の重力だと誤認させたんだが。十倍では足りなかったか。さすが子供とはいえフェンリルだな。
「平伏せ」
百倍の重力を試してみる。どうやら今度は立ち上がれないみたいだ。
もちろん、俺の力はただの脳の誤認なので地面にめり込んだりはしていない。
俺は子フェンリルのところまで歩くと頭を撫でた。ついでに俺を親フェンリルと同等の化け物だと誤認させる。
さすがに子フェンリルが知らない奴は無理だが親のことならよく知っているだろう。
「おー、よしよし。俺は素直な奴は大好きだぞ」
子フェンリルの目には俺に対する恐怖が見える。
今はこれだけで充分だな。残りの調教は後でしよう。
「貴様、何をした!?」
ロキが焦ったように叫ぶ。
「言葉で説明するよりも体験した方が早い。ロキロキも食らってみるか」
俺が格好つけてフィナーレに入ろうとした瞬間、イッセーが大声でタンニーンに質問した。
「お、おっさん!乳神って、どこの神話体系の神様だ!?」
この場にいる全員が間の抜けた顔で戦闘を中断してイッセーを見た。量産型のミドガルズオルムと子フェンリルですらポカーンとしている。
時が止まったかのように誰も動かない。ギャスパーが神器を使ったわけではなさそうだ。もしかしてスタンドにでも目覚めたか?
一足先に冷静になったリアス・グレモリーが俺にあらぬ疑いがかけてきた。
「また貴方でしょ!禁手でイッセーに何かしたのね!?」
「こんなことして俺に何の得があるんだよ!?フェンリルの毒牙にでもやられて幻聴を聞いているんじゃねぇか!」
大体、どうやったら乳神なんてものが出てくるんだよ。完全に頭がおかしくなったとしか思えない。
「違うわ!確かに朱乃さんのおっぱいが自分は乳の精霊だって言ったんだよ!」
イッセーが訳の分からない弁明をする。本当に頭は大丈夫か?
「うちの娘がそんな訳の分からないものだと言うのか、おっぱいドラゴン!」
バラキエルがぶちギレた。雷光をバチバチと走らせている。
よくも俺のシナリオを潰しやがって、イッセーの野郎。もう殺ってしまえ、バラキエル。
すると何かドライグまで弁明を始めた。そうか、ドライグまで頭がおかしくなったのか。アルビオンが見たら、また泣きそうだな。
「おい、アーシア!イッセーはもう駄目だ!早くイッセーの元に向かって愛の力で戻すんだ!」
「はい!そうですね、頑張ります!」
アーシアは急いでイッセーの元に到着すると、すぐに治療を開始した。
「アーシア、さっきロキにやられたダメージはフェニックスの涙で回復したから今は無傷だぞ」
「大丈夫、私が直してみせますから」
アーシアはイッセーの言葉を無視して頭を治療し続ける。頑張れ、アーシア。今、イッセーを救えるのはアーシアだけだ。
まぁ、それは良いとしてロキの方はどうしようか。
もう面倒臭いしオーフィスを呼ぼうかな。そう思った瞬間、黒い炎が地面から巻き起こり、うねりとなって、ロキと子フェンリル、量産型ミドガルズオルムを包み込んだ。
いきなり何だ?
「この漆黒のオーラは!?ヴリトラか!?」
タンニーンが叫んだ。
ヴリトラ?と言うことは匙か。
地面に巨大な魔方陣が現れて、その中心から黒い炎がドラゴンの形となって生み出されていく。
ギリギリで間に合ったようだな。
にしてもこれがトレーニングの成果か。中々、面白いことになってるじゃねぇか。
ヴリトラは退治されて神器に封じ込まれる時、何重にもその魂を分けられた。故にヴリトラの神器所有者は多い。確か種別で分けると四種類だったか。
そのヴリトラの神器を匙にくっつけるのが今回の実験だ。まぁ、まだ完全に実験は終わっておらず暴走しているようだが。
「くっ!何だ、この炎は!?動けん!」
ロキが狼狽している。さすが龍王の中でも技の多彩さ、異質さは随一と言われているヴリトラだ。
これは後で色々、試してみたいな。
だが、今はロキが先だ。
俺はロキを子フェンリルにとって一番嫌いな奴だと誤認させる。見えているのは子フェンリルだけで、何に見えているのかは俺にも分からない。
「見ろ、あそこにお前の敵がいるぞ。さぁ、その牙で敵を噛み殺してこい」
俺は百倍の重力を解除してからそう言った。
俺の言葉を聞いた子フェンリルは勢いよくロキに向かって走っていく。まぁ、俺の言葉がなくても走って行っただろうが。
その様子を見たロキが更に焦る。
「待て、スコルよ!お前を生み出した我を殺すというのか!?」
へぇ、こっちがスコルだったのか。
スコルはロキの言葉を無視して突進。そのままロキを牙で噛み砕いた。
「……馬鹿な。我がこんな方法で負けるとは……」
それだけ言うとロキはヴリトラの黒い炎に包まれたまま気を失った。
その後、タンニーンとロスヴァイセを中心に残った量産型ミドガルズオルムを撃破。俺はどさくさに紛れて二匹ほど回収することに成功した。
書き終わってから気付いたんですけど、今回の話ってラストがコカビエルの時と同じですね。コカビエルも最後はケルベロスにやられました。
では感想待ってます。