ハイスクールD×D 日常謳歌のファントム   作:二重世界

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第84話 借り物競争

今から借り物競争が始まるところだ。ルールは参加者が審判である仁村の空砲で一斉にスタートして机に置いてある紙を取る。そして、そこに書いてある物を持ってきて審判に見せてOKをもらえばゴールになる。

ちなみに一度、取った紙は変更できない。つまり運が重要になる競技だ。

て言うか、何で生徒会の仁村が審判をしているのだろうか?普通は教師がするものだろう。まぁ、どうでもいいけど。

 

パンッ!

 

空砲が鳴り響き参加者は一斉にスタートする。

他の参加者は運動が苦手な奴が多いらしく、軽く走ったが俺が一番に机に到着した。

俺は適当に裏向きになっている紙を取る。

 

「……は?」

 

俺は紙に書いてある文字を見て驚いた。何故なら紙には『生徒会長の生写真』と書かれているのだ。

しかも丁寧なことに机の端にカメラが置かれている。

他の参加者達もどんどん紙を取っているが、どうでもいい。俺はお題を無視して審判のところに向かう。

 

「どうしたんですか、七瀬先輩」

 

俺が何も借りないままやって来たことに仁村が驚いている。

俺は仁村に無言で借り物競争のお題が書かれた紙を見せる。

 

「……え~と、これは何ですか?」

 

仁村が予想外の物を見たかのように唖然とした顔をしている。事実、予想外のものを見たのだろう。

 

「俺が取ったお題だ」

 

「……どうしましょう?」

 

「俺が聞きたいぐらいだ」

 

まぁ、撮ってこいと言われれば撮ってくるけど。て言うか、会長の生写真ぐらいなら家にある。

 

「はぁ?木場と男子生徒のキス写真だと!?何でそんなものを撮らないといけないんだよ!?」

 

「生徒会長の眼鏡!?どう考えても無理だろ!」

 

他の紙に書かれているお題もおかしいようだ。

他の参加者の叫びを聞く限り、どうやらお題は会長とBL関係に偏っているらしい。どういうことだ?

 

「他の紙も見ていいか?」

 

「そうですね。見てみましょう」

 

どう考えても異常事態なので許可してくれた。

仁村も一緒に紙が置かれている机に向かう。そして俺は一枚の紙を取る。

 

「「…………」」

 

その紙に書かれているお題を見て俺と仁村は絶句した。

何故なら、そこに書かれていたのは『生徒会長の下着』だったからだ。どう考えても犯罪じゃねぇか。

 

「……確か借り物競争の紙を用意したのって匙だったよな?」

 

「……そうですね。自分から立候補して異様にやる気でした」

 

仁村が俺の質問に遠い目をしながら答えた。

つまり犯人は匙か。学校行事なら真面目な会長は逆らえないと考えたのだろうか?

さすがの俺でもこれは最低だと思う。

 

「仁村、マイクを貸してくれ」

 

「どうぞ」

 

仁村はマイクの使い道を聞かずに持っていたマイクを渡してくれた。

仁村は今、自分の好きな人が犯罪者だという、どうしていいか分からない現実と戦っているのだろう。

俺はマイクを受け取ると学園中に聞こえるように大声で叫んだ。

 

「二年生の生徒会書記である匙元士郎は体育祭を私的利用し借り物競争のお題に生徒会長の――」

 

「オォォォォォイッ!大声で何てことを言ってやがるんだ、てめぇは!」

 

匙が物凄い勢いで校舎の方から走ってきた。余裕で短距離の世界記録を塗り替えれそうな速さだ。

 

「それはこっちの台詞だ。これは何だ?」

 

俺は『生徒会長の下着』と書かれた紙を匙に見せる。

 

「はぁ?何だ、これ!?こんなの知らないぞ!」

 

「往生際が悪いぞ。借り物競争の紙を用意したのはお前だということは割れているんだ。諦めて自首するのが自分のためだぞ」

 

俺は匙の肩に手を置いて諭すように言う。これ以上の言い訳は自分の罪を重くするだけだ。

 

「犯人に自首を勧める刑事みたいなことを言うな!本当に知らないんだ!」

 

嘘をついているようには見えないな。本当に知らないのか?

 

「じゃあ、こっちは?」

 

俺は最初に取った『生徒会長の生写真』と書かれた紙を匙に見せる。

 

「いや、これは……その」

 

匙が目を逸らした。

どうやら、こっちは心当たりがあるみたいだ。

 

「……匙。今のはどういうことですか?」

 

修羅が現れた。

おっと、間違えた。修羅じゃなくて会長だった。でも修羅に見えるぐらい怖い。

 

「違うんです、会長!そう、これは騙されたんです!」

 

「……騙された?霧識くんにですか?」

 

会長が俺を睨んできたので首を激しく振って否定する。物凄く怖かった。

て言うか、何で俺が疑われないといけないんだ?生徒会ではマジメは働いているのに。

 

「じゃあ、誰に騙されたんですか?」

 

「……え~と、その……」

 

何故か言いづらそうにする匙。

そんな匙に会長が追い打ちをかける。

 

「誰なんですか?」

 

「……通りすがりの美人メイドに」

 

「「……は?」」

 

「…………」

 

会長と仁村はポカーンとした表情をしているが俺は微妙な表情をしている。

二人は匙が言ったことの意味が理解できなかったのだろう。

だが俺は違う。犯人に心当たりがある。

ふと観客席の方を見るとメイド服を着たレイナーレがウインクしながら親指を立てていた。

ハァー。やっぱりお前が犯人か。何考えてんだか。

気付いたら俺もレイナーレに親指を立てていた。

 

「……匙。どうやらお仕置きが必要なようですね」

 

会長が匙の体操服の裾を掴んで引きずっていく。

 

「ちょ、助けてくれ!俺は騙されただけなんだ!」

 

「今回はお尻叩き千回で済みそうにないですね」

 

俺は会長に引きずられていく匙に合掌した。

安らかに眠れ。今日ぐらいは覚えておいてやる。

 

「ところで仁村。一つ聞いていいか?」

 

俺は合掌をやめると仁村に質問した。

 

「何ですか?」

 

「まだ匙のことが好きか?」

 

「どうでしょう?よく分かりません」

 

まぁ、そう簡単に心の整理は出来ないか。後で花戒のところにも行こう。

その後、借り物競争は中止。他の競技にも何か細工がされていないか調べることになった。

 

 

 

 

 

現在は午前の競技が終了して屋上にシートを敷いて弁当を食べている。本来は出入り禁止なのだが俺が勝手に使っている。屋上は俺のサボりスポットの一つでもある。

ちなみに弁当は俺とルフェイとレイナーレの三人で作った。

 

「なるほど。そういうことだったのか」

 

シートも敷かれていない冷たい床に寝転んで俺の椅子になっているレイナーレから借り物競争の事情を聞き終わった。

最初は四つん這いにさせようと思ったが弁当を食べづらいのでやめた。

話を要約すると詐欺師の如く甘い言葉で匙を取り込んで、あんなことをさせたらしい。目的はもちろん写真だ。確認してなかったが木場以外にも俺に関係するお題もあったようだ。

ちなみに二人三脚障害物リレーもレイナーレの仕業だ。これは他の生徒会メンバーと教師を取り込んでやったらしい。

本当、厄介な奴だ。

 

「ところで、ご主人様」

 

「ん?何?」

 

普通の奴なら『弁当を食べさせてくれ』なんだがレイナーレは違うだろう。こいつがそんな普通なことを言う訳がない

 

「今回は言葉責めも鞭もなくて物足りないのですが」

 

予想通りの回答だ。

 

「他の連中もいるのにする訳がないだろ」

 

「私としては見られている方がいつもより興奮するのでヤってほしいのですが。と言うより、ご主人様に座られているだけで体が火照ってきました。今すぐ私を欲望のままに無茶苦茶にしてください!」

 

途中から息が荒くなってきて怖い。

最近、レイナーレに構ってないから色々と溜まっているのだろうか?

 

「家に帰ったらな」

 

「いえ、我慢できません!何なら皆まとめてヤりましょう!」

 

「俺の体力がもつ訳がないだろ。何人いると思ってるんだよ」

 

俺はレイナーレのお尻を叩きながら言う。

何か気持ち良さそうに喘ぎ声を出しているが無視だ。

 

「食べる?」

 

レイナーレの様子がおかしいのを見て心配になったのかオーフィスが食べ物を掴んでいる箸を差し出した。

俺から見たらいつもより少しテンションが高い程度だが。

 

「ありがとうございます、オーフィス様!そんな犬に餌を与えるような扱いに私は――」

 

「オーフィスに変なことを言うな!」

 

俺はレイナーレが最後まで言い切る前にスカートを捲し上げて下着の上からお尻の穴に箸をぶち込む。

もちろん食べ物を掴む細い方ではなくて太い方からぶっ込んだ。

 

「あぁぁぁぁぁんっ!」

 

変な声を出すな。オーフィスが不思議そうに見ているだろ。

 

「レイナーレは大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だぞ、オーフィス。……頭以外は」

 

俺は最後にボソッと付け足した。

 

「じゃあ、はい」

 

オーフィスがレイナーレは食べそうにないので代わりに俺に箸を差し出してきた。

 

「ありがとう」

 

俺が食べるとオーフィスは嬉しそうにしながら元の場所に戻っていった。

そう言えば箸をレイナーレに使ったから、もう使えないな。

 

「ルフェイ。念のために持ってきていた割り箸があったよな。それをくれ」

 

「はい、どうぞ」

 

「どうも」

 

俺はルフェイから割り箸を受け取る。

 

「やっぱりお兄さんは鬼畜だね!」

 

「私達の時と一緒だね!」

 

イルとネルが弁当を美味しそうに食べながら言ってきた。

 

「別に俺は鬼畜じゃない。……て言うか、何で一緒に昼食を食べているんだ?」

 

「そりゃ、私達が弁当を持ってきてないからだよ!」

 

「それにせっかくお兄さんに会いに来たのに、あれでお別れは寂しいからね!」

 

まぁ、それもそうか。録に会話もしてなかったからな。

 

「だからお兄ちゃんのことを兄と呼んでいいのは私だけなの!」

 

花蓮が勢いよく立ち上がってイルとネルに文句を言う。

 

「何で私達がお姉さんの言うことを聞かないと駄目なの?」

 

「それにお兄さんが駄目なら何て呼べばいいの、お姉さん?」

 

「お、お姉さん……」

 

花蓮がお姉さんと呼ばれて嬉しそうにしている。そう言えば実際に呼ばれたことはないんだったな。

 

「私はそんな言葉で許すような甘い姉じゃないからね!」

 

持ち返したように見えて持ち返せてないな。自分のことを姉って言ってるし。

 

「じゃあ、勝負すればいいんじゃないかにゃ」

 

「勝負?」

 

黒歌の言葉に花蓮が可愛らしく首を傾げる。

 

「そうにゃ。困った時は勝負で白黒つけるのが手っ取り早いにゃ」

 

黒歌にしては良いこと言うな。

明日は天変地異か?

 

「……何か失礼なことを考えなかったかにゃ?」

 

「何のことかサッパリ分からないな」

 

俺は弁当を食べながら適当に誤魔化す。

妹と同じで相変わらず鋭い。

 

「……勝負。なるほど、その方法があったか。さっそく勝負だよ、イルちゃんにネルちゃん!」

 

「いいね!それに勝ったらお兄さんをお兄さんって呼んでいいんだね!?」

 

「それに体育祭を見ていて、ちょうど体を動かしたかったし!」

 

どうやら二人もノリ気のようだ。

でも、ここでバトルを始められても困る。

 

「ルフェイ。三人をいつもの場所に飛ばしてくれ」

 

「分かりました」

 

そして三人はルフェイによってヴァーリチームがいつもトレーニングに使っている場所に転移させられた。

午後の競技が始まる前くらいに回収すればいいだろ。

 

「七瀬さんは相変わらず女の子にモテモテですね。その調子で男とも仲良くしてくれると私しては嬉しいんですが」

 

気付いたらさっきまでイルとネルが座っていた場所に知らない制服を着た女子中学生が座って勝手に弁当を食べてた。

 

「……何でここにいるんだ、アン」




まさか今回でも終わらないとは。とりあえず、もう一話続きます。

では感想待ってます。

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