レーティングゲームが終わってから数日後の日曜日、レイヴェルと小猫が俺の家に来ている。レイヴェルは俺とお菓子作りの勝負をするためで小猫はその審判だ。勝負内容は小猫の提案でチーズケーキ。
「おい、レイヴェル。道具はこれを使ってくれ」
「必要ありませんわ。自分で持ってきていますから」
それは凄い気合いの入れようだな。レイヴェルが出した道具はどう見ても俺の道具よりも本格的だ。
「楽しみにしてます」
小猫がソファに寝転んで漫画を読みながら言ってきた。
「手伝ってくれ、とは言いませんけど別の場所に移動してくれませんか。そこにいられると気が散りますので」
「この程度を気にするレイヴェルが悪い」
俺的にはそこにいてくれた方が助かるが。黒歌やレイナーレが変な物を持ち込んでいた場合、それを見られたら困るからな。
「そういや、ライザーの調子はどうだ?」
無言で作るのも退屈なので雑談を開始する。
「お兄様の調子ですか?」
「レーティングゲームに負けてヘコんでるじゃないかと思ってな」
「……アレからずっと引き込もっていますわ」
まさか、そこまで引きずっていたとは。まぁ、格下だと舐めきっていた相手に敗北して女を取られたんだ。引き込もってもおかしくないか。俺には全く分からないが。
「今度、遊びに行くか」
「やめてください。貴方に弄られて今以上に落ち込まれては世話をするのが大変ですわ」
失礼だな。さすがに落ち込んでいる奴に追い討ちをかける趣味はないぞ。ただ落ち込んでいるライザーを見て笑うだけだ。
て言うか、レイヴェルが世話していたのか。そんなものライザーの眷属に任せればいいのに。
そこで後ろに人の気配を感じた。
「なるほど、チーズケーキに媚薬を仕込んで年下二人を食べるつもりなんですね。さすが、ご主人様。鬼畜ですね」
「違う。……って何でお前がいるんだ!?」
後ろを振り返ってみると何故かレイナーレがいた。認識できないようにして部屋に待機しているように命令しておいたのに。
くそっ!能力を弱めにしていたのが失敗だったか。弱めの場合は声をかけたり触れたりして相手に認識された時点で効果が切れる。強めにした場合は疲れるが、相手を殴っても存在を認識されることはない。
まぁ、『変身マスク』をしているあたりはレイナーレなりの気遣いなんだろうが。
「少し用事がありまして」
用事?今すぐ言う必要があるような用事があるとは思えないが。
「……何ですの、その変な格好をした人は?」
レイヴェルが怪しい者を見るような目をして言ってきた。そう言えば慣れてしまったがレイナーレは首輪にメイド服という、どう見ても犯罪の臭いしかしない格好をしている。こんな変態がいれば警戒するのも当然だろう。ちなみに犬耳はしていない。
「……霧識先輩、それは犯罪です」
小猫が漫画を読むのをやめて軽蔑するような目で言ってきた。犯罪に関しては今更な気もするが。
「待て!これはこいつが趣味で勝手にしているだけだ!俺の趣味ではない!」
「そんな人がいるわけ――」
「私の趣味ですよ」
「ありましたね」
本当、こいつの趣味には困ったものだ。俺はもう『犬の首輪』は外していいと言っているのに勝手に風呂と寝る時以外は着けている。多分、俺の調教とは関係なく元々変態だったのだろう。
ガチャ。
急にリビングの扉が開いて誰かが入ってきた。
「遅いですけど、どうしました?レイナ――」
俺は何故かいるルフェイを目にも止まらぬ速さで別の部屋に連れ込んだ。何故、いる!?今日はヴァーリの冒険に着いていくから来ない予定のはすだ!だから小猫とレイヴェルを呼んだのに。
「え、え~と、いきなりでは私も心の準備が……」
顔を赤くしてモジモジしている。明らかに何か勘違いしている。
「待て、そんなつもりはない」
「それは私がレイナーレさんと違って貧相な体をしているからですか?」
何か悲しそうな目をしてルフェイが言ってくる。何だ、この超展開は?
とりあえず話を誤魔化そう。
「それよりも何で、家にいるんだ?」
「実はちょっと忘れ物をしまして。それがこの後、必要なんですよ」
忘れ物?もしかして、さっきレイナーレが言っていた用事もこれか?
「さすがの私でもお客様を待たせた状態で始めるのは関心しません。まぁ、見せたいと言うなら別ですが」
声が聞こえたので振り返ってみると、そこには楽しそうなレイナーレと俺を軽蔑する目で見ている小猫とレイヴェルがいた。
確かに暗い部屋の中で俺はルフェイの肩を掴んでいるんだ。そう見えるのは分かる。
「……最低です」
「同感ですわ」
これって俺が高一の夏休みにアザぜルに拉致られた時よりもピンチなんじゃないだろうか?
一時間後、何とか落ち着いて五人で席に座っている。普通ならどんなピンチでも五分あれば言い訳が終わるのに。レイナーレが余計なことを言うせいでかなり時間がかかってしまった。まぁ、黒歌がいないのが不幸中の幸いだな。あいつがいたら言い訳も出来なかっただろうからな。
「つまり、この二人は二日ほど前から霧識さんの家に泊まってる従兄弟なんですの?」
「……ああ、そういうことだ」
咄嗟に思い付く嘘としては、これが限界だろう。ちなみにレイナーレは偽名で怜奈と名乗らせた。本名を縮めただけだな。さすがに小猫もいるのにレイナーレはマズイ。
「ところで何でメイド服なんですの?」
「そいつの趣味だ。俺の知ったことではない」
本当は俺がさせたんだが。さすがに言えない。
「じゃあ、何で隠していたんですか?」
「隠していた訳じゃない。別に言う必要がなかっただけだ」
「でも、急にそんな話、不自然じゃありませんの?」
「知るか。俺の両親は何を考えているか分からない変人だ。逆に言えば何をしてきてもおかしくない」
これに関しては本当だ。俺が中学に上がった時に入学祝が届いたが中身が拳銃と避妊具だった。一緒に同封されていた手紙には『もし苛められたら撃ちなさい。責任は多分、別の誰かがとってくれるから。後、子供を作るならちゃんと覚悟を持ちなさい。私も中学に上がった時に初めてしたけど、やっぱり順序は大事よ』と書かれていた。あの時は生まれて初めて大声で手紙にツッコこんで近所の人に注意された。
いや、マジで俺の両親はどんな人物なんだ?そして、どんな中学生活を送ったんだ?て言うか、本当に日本人なのか?そして誰かが、って誰だ?疑問しか浮かんでこない。
「何か二股がバレて焦っている男性みたいですね。いや、この場合は六股ですか」
「何、さらっと自分を混ぜてんだよ。て言うか、六って何だ?ここにいない奴も数にいれてるのか?」
人間、怒りが頂点を越えると逆に冷静になるらしい。一つ、新しいことを学んだ。
「じゃあ、九股ですか?」
「……男まで入れるな」
何だ、こいつには俺が周りにいる連中は性別種族、関係なく口説いている節操の無い奴にでも見えているのか?俺は可愛い奴と面白い奴にしか興味がないんだが。
「……見損ないました」
「男まで範囲内とは……。お兄様以上ですわね」
レイナーレのせいで俺の株がどんどん下がっていく。これはどうにかしなくては。
「ルフェイ、フォローを頼む」
「霧識さんは優しい人ですよ。よく一緒にゲームで遊んだり、お風呂に入ったりしますし」
最後の一言はいらなかったな。
「……ロリコン」
グッ!何か精神的にこたえる物があるな。ヴァーリなんかと同じ扱いを受けるなんて。
何かもう収拾をつけられそうにない。話を誤魔化すしかない。
「ところでルフェイ。用事はいいのか?」
「露骨に話を逸らしましたね」
小猫が何か言っているが無視だ。
「はい、用事があるのは夜からなので大丈夫です」
今度はどこを冒険してんだ、ヴァーリの奴。まぁ、明日にでも聞けばいいか。
「じゃあ、ルフェイもお菓子を食べていけ。レイヴェル、続きを始めるぞ」
「まぁ、いいですわ。せっかく遊びに来たのに、このまま貴方を責めているだけでは面白くないですから」
そして俺達は作業を開始する。レイヴェルが物分かりの良い奴でよかった。
ルフェイと小猫は仲良そうに話している。やっぱり可愛い女の子が仲良くしている様子を見るのは癒される。レイナーレは変態でも耐えられないレベルのお仕置きを後でするか。
ちなみに勝負はルフェイとレイナーレも審判に加わって満場一致で俺の勝ちだった。その結果にレイヴェルが審判に不公平性を感じると訴えてきて、別の審判を用意して再戦することが決定した。
現在、考えている主人公の両親についてですが決まっている設定だけでもかなりヤバいです。物凄い変態で変人です。こんなキャラ出して、どうやってストーリーをまとめたらいいか分からないほど。
では、感想待ってます。