「……おほほ。面白いことを言う小娘ですわねん」
ゴスロリの女が立ち上がって顔を引き攣らせながら花蓮を睨む。それに対して花蓮は不思議そうに首を傾げるだけだ。
「私、何か面白いこと言ったけ?」
その言葉がゴスロリの女を更に苛立たせる。
下手なことを言ったら今にも攻撃してきそうな雰囲気だ。やめてくれよ、お前が暴れたら被害が凄いことになるから。
仮にシャルバが死ぬのはいいけど、プレハブ小屋が燃えるのは困る。ここにはリゼヴィムに貸し出している漫画や他の人に見せられないテロ関連の資料があるからな。
「…… 自分が言ったことを思い出してみるといいですわん」
「う~ん……」
言われて花蓮は腕を組んでとりあえず考えてみるが、すぐに諦めたのか俺の方に視線を向ける。
「それよりこのオバサンって誰なの?」
「紫炎のヴァルブルガ。
「へぇ。このオバサン、デュリオくんと同じ神滅具所有者なんだ。じゃあ、安心だね」
花蓮はヴァルブルガに対する興味を完全になくしたようで、また俺に抱き付いてくる。
でも、何が安心なんだ?神滅具所有者なら危険人物だろ。
「……また私のことをオバサンって言いましたわねん。私はまだ二十代ですわよん」
「……だから何?」
花蓮が露骨に嫌そうな顔をしながら殺気を発して、それにヴァルブルガが怯む。
興味のない奴が話かけると毎回こんな感じだから俺は慣れたけど、相変わらず凄い殺気だな。人間の発していい殺気ではない。
赤龍帝であるイッセーもよく怯えているし。
「ヴァルブルガはオバサンと呼ばれたことが気に食わないんだと思うぞ」
「あ、そういうこと。オバサンって呼び方に拘るからね」
う~ん、それはどうだろうか?一番気にするのは中途半端な年齢の女だと思うが。
本物のオバサンは逆に開き直っているイメージがある。まぁ、俺の周りにいる連中は年齢と見た目が合わないことも多いからよく分からないが。
「じゃあ、何て呼べばいいの?」
花蓮がヴァルブルガの方を見ずに質問する。
基本的に兄と妹と美味しいお菓子以外に興味がないのは知っているが、少なくとも会話する相手の顔ぐらい見てやれよ。……まぁ、ヴァルブルガは特に気にしていないようだけど。
「そうねん。お姉さんかヴァルブルガさんとかどうかしらん?」
「お姉さんは私と被るから駄目よ」
ジャンヌが会話に割り込んでくる。
いや、その心配はいらないだろ。誰もお前をお姉さんと呼んでいるとこは見たことないぞ。俺も何回も呼ぶように言われているが一回も呼んだことないし。
「ということはヴァルブルガさん?……何か他にない?」
どうやら花蓮は呼び方にしっくりきていないようだ。ここは俺が兄としてどうにかしないとな。
とはいえ、俺にもオバサン以外の呼び方は思い付かない。
……こうなったら他の奴に聞くしかないか。
「シャルバ、別の呼び方を考えろ」
「何故、私がお前に命令されないといけないのだ!?」
「シャルバさん、お願いします!」
「言い方の問題ではない!」
何が不満なんだ?この俺が珍しく下手に出ているというのに。
……グレイフィアさんと会話する時だけは常に下手だけど。あの人は本気で怖い。サーゼクス関連の遊びが何個潰されたことか。
「ちっ」
「……今の舌打ちは何だ?」
シャルバが機嫌を損ねたようだがどうでもいいので無視する。意味もなく振ってみたが、こういうのでシャルバが役に立つとは思えないからな。
次は曹操にでも聞くか。
「何かないか?」
「ヴァルブルガおばちゃん!」
「燃え萌えにするわよん!」
手を上げながら何故か代わりに答えたジャンヌにヴァルブルガが怒鳴る。
数回しか会ったことないけどヴァルブルガのキャラ的に怒鳴るとは思わなかった。それだけイラついているということか。
俺が意外な展開に少し驚いていると更に驚くことが起きた。
「え~と、クロウさん……だっけ?」
花蓮がクロウの旦那に話かける。
花蓮が初めて会う男と普通に会話するとは珍しいな。というか俺の知る限りでは初めてだ。仲が良い男は俺以外だとデュリオくんと曹操ぐらいしか知らないし。
「ああ」
「クロウさんには何で最初からさん付けなのよん!?」
旦那が頷くと同時にヴァルブルガが激しくツッコむ。
でも花蓮は聞こえていないのかスルーする。……さすがにヴァルブルガが少し可哀想になってきたな。そして多分、今以上に可哀想なことになるような気がする。
「何か良い呼び方ない?」
「……女」
それはないだろ。いくら何でも適当すぎる……。
ヴァルブルガだけだったらまだ良いけど花蓮とジャンヌもいるんだぞ。
「俺は――」
「……やっぱりオバサンが一番!」
曹操が何か言おうとしたのを花蓮は無視して結論を出す。
さっきから神滅具所有者の扱いが酷いな。そういやイッセーとヴァーリも同じような扱いだし、花蓮は神滅具所有者と相性が良いのかもしれない。我が妹ながら恐ろしい話だ。
「もう我慢でき――」
「……こんなところで暴れないでよ。お兄ちゃんに迷惑がかかるでしょ?」
ヴァルブルガが攻撃しようとするが、その前に花蓮がレプリカのエクスカリバーを首先に押し付ける。
曹操とクロウの旦那も反応していたが花蓮が動くのを見てやめたようだ。今のに反応できるとか二人とも化物だな。俺なんか花蓮の動きすら見えなかったのに。
「ていうか、オバサンって喋り方が変じゃない?服装もダサいし」
花蓮がヴァルブルガを煽り始めた。
今ので完全に戦闘狂としてのスイッチが入ったみたいだな。俺に迷惑をかけようとしたことで怒りもプラスされている。
こうなったら俺でもとめられないぞ。
後、ヴァルブルガの喋り方については俺も思っていた。
「……少しはやるですわねん、小娘。でも、この程度で調子に乗らない方が良いですわよん」
珍しくヴァルブルガもやる気になっているし。
二人の力は把握しているから戦われても俺に利益がないんだが。ただ面倒臭いだけだ。
「やるなら外でやれよ」
「そのぐらいのことは分かっているよ、お兄ちゃん」
俺の言葉に花蓮は素直に頷くが、ヴァルブルガは不適な笑みを浮かべる。
「良いのかしらん?私と戦ったら貴方の可愛い妹が火傷まみれの嫁にいけないような体になるかもしれないわよん?」
「そんなことにはならないから大丈夫だ。仮に花蓮が油断していたせいで、そうなっても俺が治療するから問題ない」
「おほほ。面白いことを言いますわねん。後悔しても知らないですわん」
ヴァルブルガは顔を引き攣らせながら捨て台詞を吐くと部屋から出ていく。
俺はヴァルブルガの言う通りにならないことを祈るばかりだ。もしそんなことになったらヴァルブルガをみじん切りにしないといけなくなるからな。
「じゃあ、ちょっと遊んでくるよ。私が勝ったら勝利のキスをよろしくね、お兄ちゃん」
「それは良いけど殺すなよ。ヴァルブルガも俺の駒の一つなんだから」
「それも言われてもなくても分かってるよ」
花蓮が笑顔で手を振りながらヴァルブルガの後に続く。
花蓮のことだから大丈夫だとは思うが少し不安が残るな。ここは保険をつけるか。
俺は部屋の扉が閉められたところでジャンヌに話かける。
「おい、ジャンヌ。念のため様子を見に行ってくれ。ついでに撮影もよろしく」
「え~、何で私が?」
「そう嫌そうな顔をするな。ちゃんと報酬も用意するから」
「報酬って何?」
……何にしようか?全く考えてなかった。もうジャンヌに対する報酬はネタ切れだぞ。
……ギャスパーを貸し出すか?いや、これは最悪の場合だ。……そうは言ってもすぐには思い付かないしここは先伸ばしにするか。
「後で考える。もし思い付かなかった場合はギャスパーを――」
「行ってくる!」
ジャンヌが物凄い勢いでカメラをもって部屋から出ていく。……まだ最後まで言っていないんだが。
相変わらずギャスパーはモテモテだな。とはいえ、最近のギャスパーは捕まえるのが難しいからな。どうしたものか。
ギャスパーが色々と受け入れてくれれば楽なんだが。
「よし、女性陣がいなくなったところで会議を始めるか」
俺はそう言いながら部屋の隅にある冷蔵庫の前に移動すると中身を確認する。
結構、揃っているな。いつもはアルコールを飲むことが多いんだが、今日はリンゴジュースにしよう。何となくそういう気分だ。
「ああ、シャルバも何か飲みたかったら自由に取ってくれ。代金は冷蔵庫の上にある貯金箱に入れてくれればいい」
「金を取るのか!?」
「当然。一本、二百円だ」
「……小銭なんて持ってないんだが」
何という金持ち発言だ。財布を忘れてきたとかなら分かるが、小銭を持っていないって。
嫌味な奴だな。
「それよりお前の妹は大丈夫なのか?相手は神滅具所有者だぞ」
「俺の可愛い妹のことを心配してくれるのか?」
俺はジュースを飲みながら茶化すように答える。
この言葉は全く予想していなかった。シャルバも俺に振り回されて少しは変化してきたということか?
だったら興味深いんだが。
「別にそういうわけではない」
「ふぅーん」
「何だ、その目は!?」
「別に。深い意味はない」
ただシャルバのツンデレは気持ち悪いな、と思っていただけだ。可愛い女の子ならともかくオッサンのツンデレに需要はない。
弄ったら面白そうではあるが。
「まぁ、花蓮なら大丈夫だろ。ヴァルブルガとは相性が良いし、もしピンチになったしても俺の妹だ。どうにかする方法には長けている」
「曖昧な説明だな」
「ハッキリしている奴よりも曖昧な奴の方が厄介だからな」
って、こんな話をしている場合じゃない。早く会議を始めないと。
女性陣が帰ってきたら、また面倒臭いことになって会議どころじゃなくなる気がする。
次回に続きます。
では感想待ってます。