放課後、俺はレイヴェルに呼び出されて屋上に向かっている。
……もう放課後か。久し振りに登校したのにほとんど授業に出てないな。
出たのは一時間目と四時間目だけだ。
二時間目と三時間目は小猫の相手、五時間目はレヴィアたんの相手をしていた。六時間目に関しては遅刻が確定していたのでサボって生徒会室でのんびりしていたし。
もう出席日数がギリギリだな。二年生も残り僅かだし、最期ぐらいは真面目に登校するか。
そういや、副会長の方もそろそろか。
木場は体育館裏に呼び出しておいたけど副会長、ちゃんと来るかな。まぁ、怖じ気づいて来なかったとしても問題ないけど。
待っている間、草下はのんびり木場を観察できるから不満はないだろう。それに木場は放置されることになるけど、木場だからどうでもいい。
これこそ誰も損をしない作戦だ。
そんなことを考えながら歩いていると屋上に辿り着いたので扉を開けて外に出る。
「遅いですわ!女性を待たせるなんてどういうことですの!?」
俺よりも先に来ていたレイヴェルが可愛らしく怒ってくる。
一応、予定時間には間に合っているけど女性を待たせるなんて男として失格だ。ここは誠心誠意しっかり謝ろう。
俺は屋上の冷たいコンクリートに頭をグリグリと押し付けながら土下座する。
「本当にすまなかった!煮るなり焼くなり好きにしてくれ!」
「いきなり何をしているんですの!?別にそこまでは望んでいませんわ!頭を上げてください!」
レイヴェルが俺の奇行に激しく動揺する。
そういやルフェイには何回も土下座しているけどレイヴェルには初めてか。意外だ。
……いや、土下座しまくっている方がおかしいか。
とはいえ動揺しているレイヴェルが可愛いので、もうちょっとこれを続けよう。
「いや、それじゃあ俺の気が済まない!このまま俺の頭を踏んでくれ!」
「私にそういう趣味はありませんわ!そういうのは私じゃなくて小猫さんに頼んでください!」
確かにレイヴェルはMだからな。踏むよりも踏まれる方が好きか。
レイナーレと違って常識の範囲内だが。レイヴェルとヤる時はそこら辺が難しい。
並の攻めでは満足しないけど、レイナーレの時みたいに激しすぎるのも駄目だからな。
ちなみに小猫はドS。普段は普通にしているけど、行為が始まると急に乗り気になる。
「じゃあ、俺はどうすればいいんだ?」
「……あー、え~と、そうですわね……、私の頭を優しく撫でながらキスしてくれたら許しますわ」
そんなことでいいのか。足の指を舐めろ、とかでも良かったのに。
ルフェイや小猫にはよくしているし。
俺は立ち上がると未だ動揺しているレイヴェルに抱き付いて強引にキスをする。
「んっ!?」
レイヴェルが驚いた顔をするがそんなことはお構いなしに右手で頭を撫でながら左手でお尻を揉む。
お尻の要求はなかったけどサービスだ。相変わらず弾力があって素晴らしいお尻している。
「い、いきなり何をんぐっ!」
レイヴェルが両手で俺を押し退けようとするが、またすぐに唇を奪う。
するとレイヴェルもスイッチが入ったのか、蕩けた顔になると抵抗をやめて激しく舌を絡めてきた。
「あ……」
急に第三者の声が聞こえてきた。
誰だ?
視線だけずらして見ると屋上の入口に俺にチョコをくれたコスプレ研究部の女の子がいた。
そういや、さっきコスプレ研究部に行った時、いなかったな。部長に屋上に行くと言っておいたから、それを聞いて追いかけてきたのだろう。
もうチョコは渡しているのに何の用があるのだろうか?
だが、コスプレ研究部の女の子は用事を言うことなく気まずそうにしながらどこかに行ってしまった。
全く誤解はないだろうが、後でフォローしておくか。気にしているとは思わないが念のためだ。
ちなみにレイヴェルはキスに夢中になっていて第三者が見ていたことに気付いていないようだ。
それから五分ほどお互いに口内を貪りあったところでキスをやめて手も離す。
レイヴェルが口から伸びている唾液を手で吹きながらジト目で俺を見てくる。
「……もういきなり何するんですの?それにこんなところでして誰かに見られても困りますし」
「レイヴェルが優しく頭を撫でながらキスをしたら許してくれる、って言ったから」
「……全く優しくなかったんですけど。むしろ、いつもより激しかったぐらいですわ」
「いやいや、そんなことはない。頭を撫でている手は優しかったぞ」
「あんなに激しくされていたら気付きませんわ」
酷いな。胸を揉みたいのを必死に我慢しながら頭を撫でていたのに。
それに激しくしていたのは俺じゃなくてレイヴェルだろ。俺は普段よりも少し激しい程度だったのに、レイヴェルがどんどんエスカレートするから大変だったんだぞ。俺の中の獣を抑えることとか。
ここが誰も来ない屋内だったら押し倒しても良かったんだけどな。
そんなことは関係なくこんな真冬の屋上みたいな寒いところでレイヴェルの服を脱がす気にはなれないけど。
まぁ、レイヴェルは不満げな口調だけど怒っていないようだから良いか。
「ちなみに誰かに見られていたぞ」
「見られていたんですの!?」
「ああ、見られていた」
俺がハッキリ言うとみるみる顔が真っ赤になっていく……と思ったが意外なことに呆れた表情をしていた。
慣れてきたか?
レイヴェルがキスに夢中になっていたせいで足元に落としていたチョコを拾うと俺に差し出してきた。
「はぁー、別にいいですわ。それより私が愛情を込めて作ったチョコです。有り難く思いながら食べてください」
「ああ、有り難く一週間ぐらいかけて食べさせてもらう」
「……別にそこまでしなくていいですわ」
俺が頭を優しく撫でながら言うと、レイヴェルは照れたのか少し頬を赤らめて視線を逸らしながら入口に向かう。
あれ?もう帰るのか?
レイヴェルの後ろをついていき屋上から出ると、不意にレイヴェルが話かけてきた。
「ところで一つ聞いていいですの?」
「何でも聞いてくれ。俺に答えることなら何でも答える」
「遅れた理由って何ですの?いつもなら最低でも三十分前には待っていますのに」
別に遅れてはないんだけど、そこはツッコなくていいだろ。
「時間に余裕があったから普段、仲良くしている部活に行っていたんだよ。そうしたら予想よりも絡まれてしまってな」
俺が少しコスプレしたぐらいであそこまで騒がなくてもいいだろ。これじゃあ来年の文化祭でコスプレをやる予定だったけどやめた方がいいな。あれが学校規模になると大変だ。
「俺も一つ聞いていいか?」
「構いませんわ」
「何で屋上に呼び出したんだ?寒くて待ち合わせ場所には不向きだと思うんだが」
寒いのは苦手じゃないけど、それでもキツい。特に今日は冷えているし早く帰って炬燵でのんびりしたいぐらいだ。
「……それは私も後悔していますわ。放課後の屋上なら雰囲気が出ると思ったんですけど、これなら普通に教室にでも呼び出せば良かったですわ」
そう言ったレイヴェルの体は寒さで震えていた。
確かに俺もそっちの方が良いと思う。抱き合いながらキスをしたおかげで少しは暖まったけど、まだ寒い。
そういやコスプレ研究部の女の子のところにも行かないといけないな。校舎内にいる間に見付けないと。
「……何これ?」
コスプレ研究部の女の子にフォロー(追い掛けてきた理由は俺が恋人と二人っきりの様子を観察したかったかららしい。それで予想外にキスを――しかもかなり激しくしていたので恥ずかしくなって逃げたようだ)をした後、何故か誰も待っていなかったので一人で寂しく家に帰ってくると玄関に大きな箱が置かれてあった。
箱の上には「開けてみて」と書かれた紙がある。罠か?
とりあえず開けてみよう。ここで無視するのは俺のポリシーに反する。
「…………」
俺は箱の中に入っていたものを見て言葉を失った。
箱の中には最低限の量のリボンで大事なところを隠しているイリナがいたのだ。胸元にはイリナが作ったと思われるチョコがある。
……え~と、サプライズか?でも、イリナがこんなことをするとは思えないし。
恐らく誰かの入れ知恵だろう。真っ先に思い付くのはレイナーレだが奴は違う。
レイナーレは今朝、自分をプレゼントにするという同じようなことをしているからな。レイナーレがそんな芸のないことをするはずがない。
となると誰だ?イリナが相談する相手となると……ゼノヴィアか!
「……食べて」
結論に達したところでイリナが羞恥で頬を赤らめながら俺を誘ってきた。体をモジモジさせており緊張しているのがよく分かる。
これはヤバい!俺の理性が飛ぶ!
だが待て、俺。ここは子作り部屋の外。もし今、襲ったらイリナが堕天してしまう。
後でイリナはお持ち帰りするとして、まずは犯人をどうにかしないと。
「おい、ゼノヴィア!見ているんだろ!?出てこい!」
「何で私だと分かったんだ?」
俺が大声で呼び掛けるとゼノヴィアが階段から不思議そうにしながら降りてきた。
やっぱり見てやがったか。
「ただの消去法だ。それより何でこんなことをしたんだ?」
「イリナに相談されてな。どうすれば霧識が一番喜ぶのかと。そこで私がする予定だった作戦をイリナに譲ったんだ」
お前がする予定だったのかよ。もし箱の中にいたのがイリナじゃなくてゼノヴィアだったら、そのまま外に放り投げていたぞ。
まぁ、確かに俺が喜ぶ方法ではあるけど。
でもイリナもゼノヴィアに相談する必要なんかなかったのにな。イリナが俺のためにチョコを作ってくれたというだけで物凄く幸せなのだから。
「そうだったのか。後でゼノヴィアにはお礼をしないとな」
「そういうことなら私も一緒に――」
「イッセーに相手してもらえるように手配しておいてやる」
ゼノヴィアの言うことは分かっていたので先回りする。
ゼノヴィアが不満そうな顔をしているが俺には関係ない。大体、お礼としては申し分ないだろ。
イッセーが得していることだけは微妙だが。
「じゃあ、イリナは服を着ろ」
「……え?何で?」
俺が胸元のチョコを取りながら言うと、イリナは落ち込んだ表情をする。
俺は嬉しいけど、天使としてそれはどうなんだ?積極的に行為を求めるようになったら堕ちるぞ。
「もうすぐ夕食の時間だからな。プレゼントを食べるのはその後だ」
そう言いながら俺は箱を持ち上げる。さて、イリナを部屋に持っていくか。
「ちょ、やっていることと言っていることがおかしくない!?後でヤるなら何で今、持っていくの!?」
「そりゃ味見をするためだ。そんな格好で誘われて我慢できるわけないだろ」
ちゃんと発散しておかないと夕食の時間まで持たない。軽く一発は抜いておかないと。
そろそろネタ切れなので次回で一旦、休憩しようと思います。
次回はベンニーアが登場します。時間軸はベンニーアがソーナの眷属になる少し前です。
では感想待ってます。