ハイスクールD×D 日常謳歌のファントム   作:二重世界

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バレンタイン3

昼休み、教室でイリナが作ってくれた愛妻弁当(かなり上達していて普通に美味しかった)を食べた後、意外なことに誰からも呼び出しがなかったので久し振りに生徒会室に向かっていた。

まぁ、弁当を食べている途中で押し掛けが二人ほど来たけど。

 

「……ん?」

 

歩いている途中で妙に機嫌のいい匙を見付けた。

変な妄想をしている時のイッセーみたいで気持ち悪い。

とはいえ目的地は同じだから無視するのは無理だろう。だったら生徒会室につくまでの暇潰しになってもらうしかないな。

 

「よぉ、匙。チョコが全く貰えなくて頭がおかしくなったのか?」

 

「いきなり現れて失礼な奴だな。違うわ」

 

?俺は首を傾げる。

いつもならもっとちゃんとツッコんでくるのに、今日は妙に余裕を感じられるな。

イラッとくる。

 

「むしろ逆だ、逆」

 

「逆?つまり俺の現段階で貰っている二十五個を越えているってことか?」

 

「お前、どんだけ貰ってるんだよ!?」

 

そこまで言うほどの量でもないと思うが。

彼女がいなかったら、もっと貰っていただろうし。

 

「じゃあ、何なんだ?」

 

「会長からチョコを貰えたんだよ」

 

嬉しそうに言う匙。

ふぅーん、会長からねぇ……。それで機嫌が良かったのか。

その気持ちは分からないでもないな。好きな人からなら義理でもチョコを貰えるのは嬉しいものだ。

まぁ、俺の場合は想像の話で実際に体験したことはないけど。

だって好きな人からは本命しか貰ってないし。

 

「でも、義理なんだろ?」

 

「うるせぇ!別にいいだろ!」

 

「いや、別に文句を言っているわけじゃないぞ。俺が言いたいのは義理で喜んでいる暇があったら早く告白しやがれヘタレ野郎、ってことだ」

 

「……ぐっ」

 

今のには堪えたのか匙が顔を歪める。

本当のことを言うと、もし仮に有り得ないことだけど匙と会長が付き合うようなことになったら困るんだけどな。俺的には花戒あたりと付き合ってほしい。

そっちの方が面白そうだ。

 

「まぁ、気にするな。他の生徒会メンバーにもチョコは貰えるだろ。もしかしたら、その中に一つぐらいは本命があるかもしれないぞ」

 

「さすがにそれはないだろ」

 

俺の言葉を匙は適当に聞き流す。

誤魔化しているとかではなく本音で言っているようだ。お前はラノベの主人公か。

こういうのは見ているとイライラする。

 

「あ、会長。お久し振りです。副会長も久し振り」

 

生徒会室が近くなってきたところで会長と副会長を見かけたので挨拶する。

 

「久し振りですね、霧識くん」

 

「お久し振りです」

 

二人が俺に挨拶を返す。

四人で歩き始めたところで会長が匙に目線を送る。

 

「匙が霧識くんと一緒に歩いているなんて珍しいですね」

 

「……さっき偶然、会ったんです」

 

匙は少し不機嫌そうに答える。

俺と一緒にいるのがそんなに嫌かよ。お前にも恋人が出来るように裏でたまに画策してやっているのに酷い奴だな。

まぁ、成功する気配が全くないけど。会長が駒王学園を卒業してからが勝負だな。

 

「あ、あの七瀬くん……」

 

副会長が緊張した様子で俺に話かけてきた。

少し頬を赤らめており恋する乙女といった表情をしている。ルフェイ達ほどではないが、いつものクールなイメージとのギャップでそこそこ可愛い。

 

「何か用か?」

 

本当は何が言いたいのか分かってはいるが続きを促す。

こういうのは自分の口から言わないとな。

 

「き、木場くんに私の代わりにチョコを渡してくれませんか……?」

 

…………あれ?

予想と違うんだが。俺の予想では木場にチョコを渡すからそのお膳立てをしてくれ、だったんだが。

それなら喜んでするのに。木場には誰でもいいから女性と付き合ってほしい。

女性の良さが分かれば、あのアブノーマルな性癖も改善されるはずだ。

 

ちなみに副会長は木場の性癖を知らない。というよりオカルト研究部と家のメンバー、英雄派以外は知らないはずだ。

俺が外に漏れないように情報を操作しているからな。木場がホモだということが分かって、木場に詰め寄る女性が減ったら困る。

 

「自分で渡せ。そして、そのまま告白しろ」

 

「いや、さすがにそれは恥ずかしいと言いますか、その……」

 

激しく動揺する副会長。ヘタレか!

匙といいシトリー眷属にはヘタレが多いな。

いや、これが普通で俺がおかしいのか?

でも、こういうのはある程度なら面白いけど、長くなるとイライラする。エッチ以外では焦らされるのも焦らすのも嫌いだ。

仕方ないな。

 

「放課後、体育館裏に来てくれ。木場と二人っきりになれるようにセッティングする」

 

「いきなり何言っているんですか!?」

 

「これは決定事項です。変更は認められません。後のことは自己判断にお任せします」

 

俺が丁寧な口調でハッキリ言うと、副会長は言葉を失う。

俺が本気だと分かって、この急展開をどうしようかと本格的に悩め始めたようだ。

うんうん、青春に試練は付き物だ。頑張れ、副会長。

そして俺を助けてくれ。

 

とりあえず副会長の勇姿は草下と一緒に撮影しよう。

いや、無理だ。俺も放課後は呼び出されているからな。こうなったら草下にグリゴリが開発した透明マントを渡しておくか。

これで撮影がバレることはないだろう。

 

「……ちっ」

 

生徒会室の目の前に来たところで急に会長が不機嫌そうに舌打ちした。

いきなりどうした?匙がまた余計なことでも言ったか?

会長の視線の先を見てみるとその予想が違うことが分かった。

 

「ソーたん!」

 

生徒会室の前にいたレヴィアたんが会長に気付くと、満面の笑みを浮かべながら会長に抱き付いた。

会長が舌打ちしたのは姉がいたからなのか。

 

「ちょ、お姉さま、人前で抱き付くのはやめてください!恥ずかしいです!そして『たん』付けもやめてください!」

 

「え~、良いじゃない?久し振りに会ったのよ。もっと仲良くしてもいいと思うの。具体的に言うとこんなことやあんなことをしてもいいと思うの」

 

会長が両手で押し退けようとするが、レヴィアたんは気にせず頬擦りをする。

これ自体は珍しくないし、俺としては歓迎すべき光景だ。

だが、それよりも気になることが俺にはある。匙や副会長もそれは同じようでレヴィアたんを見て驚いた顔をしている。

具体的にと言いつつ中身が全く分からない『こんなことやあんなこと』も物凄く気になるが今は置いておこう。

 

「というより何でお姉さまが学園にいるのですか!?しかも制服まで着て!」

 

そう!会長の言う通り今のレヴィアたんは駒王学園の制服を着ているのだ!

かなりレアな姿だ。初めて見た。似合っていて物凄く可愛い。似合っていて物凄く可愛い。大事なことなので思わず二回言ってしまった。

これは絶対に写真を撮らなければならない!

 

「いつもの格好じゃ目立つって前にソーたんに怒られたからね。だから今日は制服で来たの。それにソーたんとお揃い」

 

レヴィアたんが一旦、会長から離れて嬉しそうにしながら説明する。

いや、充分に目立っていると思うぞ。何というかオーラ的な意味で。

 

「どう、似合ってる?」

 

「……知りません」

 

レヴィアたんがクルッと回転して全身を見せるようにしながら感想を求めるが、会長は視線を逸らしながら雑に返事する。

もう色々と諦めているようだ。

会長の反応にショックを受けたレヴィアたんが涙目になりながら今度は俺に抱き付いてくる。

 

「ソーたんに嫌われた!」

 

「おー、よしよし。大丈夫だぞ。会長も本当に嫌っているわけじゃない。恥ずかしがっているだけだ」

 

俺はレヴィアたんの頭を撫でながら子供をあやすような優しい口調で慰める。

レヴィアたんは俺に撫でられるためにわざとやっているような気がするけど。でも、可愛いし断る理由もないから普通に撫でる。

あー、癒される……。

 

「……本当?」

 

涙目のまま首を傾げながら上目遣いで見てくる。

……ヤバい。その不意打ちはやめてくれ。あまりの可愛さに一瞬、意識が飛んでしまったじゃないか。

 

「……魔王相手に凄いな」

 

匙が呆れたように呟く。

そんな凄いことでもないが。

お前が勝手に魔王だということで緊張しているだけだ。レヴィアたん以外の魔王もフレンドリーな性格をしているんだからプライベートの時は普通に接しても問題ないと思うぞ。

 

「ところでお姉さま。まだ学園に来た理由を聞いていませんが?」

 

会長の言葉にレヴィアたんは俺に抱き付いたまま視線だけを移動させて答える。

 

「愛しのソーたんに私の愛情たっぷり手作りチョコを渡しに来たに決まっているでしょ?今日はバレンタインなんだから」

 

……レヴィアたんの手作りチョコ、大丈夫か?全く料理できるイメージがないんだが。

失敗しているイメージならあるけど。

会長が微妙な顔をしているのが更に俺の不安を煽る。

 

「じゃあ、部屋の中にチョコを置いてあるから取りに行こう!」

 

レヴィアたんは俺の手を引っ張りながらテンション高めに生徒会室の扉を開ける。

さっきのやり取りがまるで嘘みたいに感じられるほどの変わりようだ。やっぱりわざとだったか。

ところで鍵は最初から開いていたようだけど、もしかしてレヴィアたんが開けたのか?

 

「あ、そういえば冷蔵庫に私が作ったのとは違うチョコがあったけど、あれってソーたんが作ったの?」

 

部屋に入ったところでレヴィアたんが思い出したように言う。

この言葉を聞いた匙が扉の前で固まる。おいおい、そんなところにいたら後から来る他の生徒会メンバーが中に入れなくて困るだろ。

 

「な、何を言っているんですか。そんなわけじゃないですか。恐らく別の誰かでしょう」

 

会長が動揺するのを抑えて冷静に答える。

それでも内心は激しく動揺しているんだろうな。そんな可愛い会長のもっと可愛い姿を見るためにここは弄ってみよう。

 

「隠さなくていいですよ。会長が俺のために作ってきてくれたチョコでしょう」

 

匙の方に視線を向けながら『俺のために』を強調しながら言う。

すると匙が凄い勢いで俺の胸元を掴んで怒鳴る。

 

「どういうことだ!?まさか、お前……か、か、会長まで……」

 

「余計なことを言わないでください!」

 

匙はその続きを想像もしたくないのか途中で言葉をとめ、会長は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしている。

二人とも分かりやすい反応だな。

何だがこういう反応は落ち着く。やっぱり変態の相手ばかりだと精神的に疲れるからな。

 

「もしかしてソーたん、霧識ちゃんに惚れちゃった?」

 

レヴィアたんが頬に指を当てながら首を傾げて可愛らしく言う。

その展開はレヴィアたん的にはアリなのだろうか?気になるところだ。

 

「そんなの俺は認めねぇぞぉぉぉぉっ!」

 

匙が答えも聞かずに叫びながら廊下を走っていく。

校則違反だから廊下は走るな、と忠告しようと思ったがその前に匙の姿は見えなくなった。

走るの速いな。匙は中学時代、陸上をやっていたりするのだろうか?

 

「お姉さまが変なことを言うから匙が勘違いしてしまったではないですか!?」

 

「だって、わざわざ手作りチョコを作るからそうだと思ったの。違うの?」

 

「違います!」

 

そこまでハッキリ否定されるとショックだな。告白していないのにフラれた気分だ。

 

「じゃあ、お姉ちゃんに作ってくれたとか?そうだったら嬉しいな」

 

レヴィアたんが期待するかのように目をキラキラさせながら会長を見る。いや、それはさすがにないだろ。俺の台詞をちゃんと聞いていたか?

会長は気まずそうに視線を逸らす。

 

「それも違います。……この前、勝負に負けただけです」

 

「勝負?」

 

「少し前に霧識くんとチェスで勝負したんです。その時に『バレンタインが近いから負けた方が手作りチョコを作る』って話になって、私が負けたから作ってきたんです」

 

会長とはよく賭けチェスをしている。まぁ、グリゴリでギャンブルする時みたいに大金を賭けたりはしないが。

 

「そういうことだったの。でも、ソーたんがチェスで負けるなんて珍しいね」

 

「私だって負けることはありますよ。霧識くんは強いですから」

 

レヴィアたんが意味深な表情で会長を見ているが、別に会長がわざと負けたということはない。手抜きをされたら気付く。

それに最近は俺の勝率が上がってきているからな。それでも三割ほどだけど。早く勝ち越したい。

 

「さっき元ちゃんが奇声を発しながら廊下を走っていましたけど、何かあったんですか?」

 

花戒が不思議そうな顔をしながら生徒会室に入ってきた。後ろには全員ではないが他の生徒会メンバーもいる。

花戒の質問に会長が「気にしないでください」と一言だけ答えると事情を知らないメンバーが更に不思議そうにする。頭の上には?マークが浮かんでいることだろう。

 

「一人いないけどチョコを配るよ。皆も分も用意しているから安心してね」

 

匙以外の全員が集まったところでレヴィアたんがそう話を切り出した。

ちなみに俺と会長の分は手作りチョコで、他の皆の分はデパ地下とかで売っていそうな高級なチョコだ。

手作りチョコの出来は意外と良く会長が不思議そうにしている。これに関しては俺も意外だ。誰かに教わったのだろうか?




もちろん、この後、主人公は五時間目をサボって誰もいない生徒会室でセラフォルーとヤることをヤっています。

次回はレイヴェルです。余裕があればイリナも書きます。

では感想待ってます。

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