お義父さんがやって来た日の翌日の夜、家のリビングで二人でビールを飲んでいた。
何でも息子と一緒に飲むのが夢だったらしい。この調子なら他にも色々と付き合わせされそうだな。
まぁ、たまにならこういうのもいいか。
ずっとなら面倒臭いけど。
「やっぱり一仕事終わった後の一杯は最高だね!」
お義父さんがドンッとジョッキを机に置きながら言った。
あれ、小猫からお義父さんは途中でアザゼルに誘われて怪しい店に行ったって報告を受けているんだが?
……いや、店には付き合いで行っただけで、すぐに切り上げて仕事をしたのだろう。俺はそう信じる。
ちなみに俺はクリスマスの企画には一切参加していない。他のクリスマスや年末に向けての仕事で忙しいからな。
年始用は他の奴に任せている。さすがにそこまでしたら休めないからな。
俺が今、特に頑張っているのはおっぱいドラゴンの年末特番だ。これに関してはイッセーやヴァーリにも頑張ってもらわなければならない。
ああ、今年の仕事は早く終わらせてルフェイやイリナ達と一日中イチャイチャしながら過ごしたい。
「ところで、私のプレゼントは使用したのかな?」
お義父さんがそれを望んでいるかのような表情で言ってきた。
普通、娘を溺愛している父親はこういうのに反対するイメージがあるんだが。しかもお義父さん、教会の人間だし。
「もちろん有効活用させてもらった」
最初は緊張していたけど、初めての大人のキスをしてからはスイッチが入ったのかやる気になった。
やっぱりイリナも我慢していたんだろうな。今までに溜まっていたものを一気に発散するかのように激しかった。
今後も使わせてもらうものだし、終わった後に子作り部屋を見学したのだけど隠し要素とか凄かった。ミカエル、必要のないところまで凝りすぎだ。
ミカエルも使うつもりじゃないだろうな、とツッコミたくなるほどの拘りっぷりだった。
「そうかそうか。それは良かった。イリナちゃんが天使になった時は、孫の顔はもう見れないと諦めたものだが、これなら私の夢が叶いそうだよ」
本当に嬉しそうに言うお義父さん。
なるほど、そういうことだったのか。
天使でも子供が作れないわけじゃないが、かなり難易度が高いからな。特に俺には無理だ。確かに孫は諦めるしかない。
でも、それを諦める必要がなくなったんだ。テンションが上がっても仕方ない。
だが、こうなると逆に心配になることがある。俺がずっと誤魔化してきた問題だが良い機会だ。
男として覚悟を決めて立ち向かおう。ここで逃げるようならイリナに顔向けできない。
「……でも本当に俺で良いのか?」
「……どういう意味だい?」
俺の真剣な様子にお義父さんが怪訝な表情をする。
俺がこんなことを言うとは思っていなかったのだろう。まぁ、普段の俺の性格を知っていたら当たり前だな。
自分の欲望に常に全力の俺が後ろ向きな発言をするなんて、ルフェイ達以外では想像も出来ないはず。
「自分で言うのも何だが、俺は周りから見たら女誑しだ。実際、かなりの人数の女性と肉体関係にある。娘がそんな男が付き合うことに不安はないのか?」
俺の言葉にお義父さんは考え込むようにしながら一旦黙る。
不安になりながら返事を待っていると、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「……君って女誑しじゃないのかい?」
「……へ?」
俺は思わずマヌケな声を出す。
今、気にすることか?……いや、確かに重要な問題ではあるけど。俺が聞いているのは心配かどうかなんだが。
とりあえず考えてからお義父さんの質問に返事する。
「……どうだろう?自分ではそんな意識はないんだが。自分から告白したこともないし」
行為をヤる時だって相手から誘われたのが大半だ。もちろん強姦もしたことがないわけじゃないけど。それでも相手が本当に嫌がることをしたことはない。
それにルフェイと付き合い始めてからは遊びの関係みたいなのも減っているし。
「じゃあ、君は付き合ってもない女性に可愛いって言うということかな?」
「それは可愛かったら言うに決まっている」
「それはすでに女誑しだと思うけど」
……う~ん、そうなのか?俺は別に口説くつもりで言っているんじゃないんだが。ただ思ったことを正直に伝えているだけだ。
でも、そう言われてもみればそんな気もする。
「そういえば昔、紫織さんと話したことがあるんだよ。霧識くんは将来、凄いプレイボーイになるって。後でイリナちゃんに聞いた話だと当時からプレイボーイだったみたいだけど」
懐かしむように語り出すお義父さん
紫織さんって確か俺の母親の名前だったな。そういやハロウィンの時にコスプレをしている二人がテレビに映っているのを見たな。物凄くどうでもいいけど。
ていうか、俺ってそんな昔からプレイボーイだったのか?いや、プレイボーイって言い方は何となくシックリこないけど。
……ああ、でも今思い出してみると心当たりがあるな。昔から周りにいたのは女の子ばかりだったし。
で、何回か「大人になったら霧識くんと結婚してあげる」という台詞を言われていた気がする。
当時は興味がなかったから適当に聞き流していた。そして俺が神器に目覚めて学校をサボるようになってから自然消滅したんだったな。
まぁ、うろ覚えだから正確かどうかは分からないけど。
お義父さんは軽く笑いながら更に続ける。
「それに要領がいいからハーレムを作るんじゃないかとか、その中にイリナちゃんがいるんじゃないか、とかも話したよ。有り得そうな話だとは思っていたけど、まさか本当になるとはね。ビックリしているよ」
大半はあの女の意見だろう。あの女の直感は予知レベルだからな。
「ふーん、でも予想していた時は笑い話でも、現実になると不安になったりしないのか?」
「正直に言うとここに来るまで不安もあったよ。霧識くんのことは信用しているけど、それでも君の言う通りハーレムを作っているんだ。それに物凄くモテるようだし。今は好きでも将来、イリナちゃんに飽きて捨てるんじゃないか、って。でも、それは昨日の勝負で杞憂だと分かったよ。君は本気で私の大事な娘のことを愛している」
お義父さんが確信しているかのように断言する。そこまでハッキリ言われると照れ臭いものがあるな。
俺はその恥ずかしさを誤魔化すためにビールを一気に飲む。
「……今までこんな性格だからあんまり人に信用されたことがなかったんだ。だから、どういうリアクションをしていいか分からないな。それに真面目な話をすること自体がほとんど経験ないし」
「そうかい。でも、すでに私は知っている。君はハーレムの人数が増えてもイリナちゃんのことを忘れないし、どんなことがあってもイリナちゃんを幸せにする。確かに君は快楽主義者で娯楽を優先するけど、そのために愛している女性を不幸にしたりしない愛に満ちた人間であることを」
そういえば前にルフェイが言っていたな。
俺が複数の女性と付き合いながらも、全員を同じように一般の恋愛と比べても深く愛せるのは、俺の愛は一人に向けるには巨大すぎるものだからと。
まぁ、それには納得できるな。だったら俺の愛は何人までなら同時に愛せるのかという疑問はあるが。
それに俺の趣味の広さも世界を愛しているが故だとも言っていた。これに関しては同意しきれないが。
それは退屈すらも愛しているということだ。俺は退屈だけはどうしても好きになれない。
「というか、今の質問って意味があったのかい?仮に私が反対したとしても、君は気にせずイリナちゃんと一緒にいるだろう?」
まぁ、確かにそうだな。
俺にとって重要なのは本人達の意思だけで、周りの意見なんてどうでもいい。邪魔するならどんな手を使ってでも潰すだけだ。
「俺が気にしなくてイリナは気にするだろ。本当の意味で幸せにするために不安は残したくない」
「やっぱり君は優しい男だね」
お義父さんが優しげな表情を浮かべながら言う。
可愛い女の子達からはよく言われるけど、それ以外から言われるのは初めてだ。
外道はよく言われるけど。主に実験動物……間違えた。フリードとコカビエルから。
「まぁ、本音を言えば霧識くんにはイリナちゃんだけを愛してほしいけどね。でもイリナちゃんは幸せそうなようだし、私が口出しするなことじゃない。……でも、もしイリナちゃんを泣かせたりしたら、どうなるか分かっているね?」
さっきまでとはまるで別人みたいな鬼のような迫力のお義父さん。
かなり怖い。視線だけで人を殺せそうだ。
だが同時に娘に対する愛も感じられる。お義父さんは本当に娘のことを大事に思っているんだな。
俺の両親とは大違いだ。少しイリナが羨ましい。
「そんなことは万に一つも有り得ないから安心しろ」
「君がそう言うなら信用するよ。じゃあ、後は子供だね。孫を頼んだよ」
物凄く良い笑顔で言うお義父さん。
さっきからコロコロ表情が変わるな。酔ってきているのか?
「それは最低でも高校を卒業するまでは待ってくれ」
「何故?」
いや、何故って……。普通、在学中に子供は作らないだろ。
学校にバレたら卒業できなくなるぞ。
「俺はある程度、自由にスケジュールを操作できるとはいえ忙しいからな。それにイリナもミカエルのAだから忙しくなるだろう。だから、ちゃんと子育て出来る環境を先に作りたいんだよ。他人任せにするんじゃなくて自分で育てたいからな」
とはいえ、どうやってするかは難しいところだが。趣味を減らすつもりはないし。
それにルフェイやレイヴェル、小猫との子供のことも考えると。ていうか、何人の子供を生むことになるんだ?……俺、そのうち過労死しそうだな。
「それは良い心構えだね。でも、もし子育てに困ったら私に頼りなさい。イリナちゃんの子供なら可愛いだろうから面倒を見るよ」
「最初からそのつもりだ」
俺の周りの連中は変態ばかりだから頼めない。特にレイナーレ。後、ヴァーリは論外。あんな奴等の影響を受けたら、録な人間にならない。
それに比べてお義父さんは多少変なところがあっても常識的だからな。安心できる。
「ああ、でも私が預かるのはイリナちゃんの子供だけだからね。他の女性との子供までは知らないよ」
「……さすがにそこまで頼るつもりはねぇよ」
そんなことを軽く言われても困る。俺はそこまで非常識な人間じゃないぞ。
その後、飲みながら適当に雑談しているとイリナが扉を開けてリビングに入ってきた。
「あれ、ダーリンにパパ。二人で何してるの?」
「一緒にビール飲みながらちょっとな。イリナの方はどうしたんだ?」
「……どうしたって。ダーリンとパパがサボっている分を私が頑張っていたからこんな時間になったんだけど」
あれ、イリナ、怒ってる?
まぁ、その視線は俺じゃなくてお義父さんに向いているけど。
昼はアザゼルと怪しい店、今は俺とのんびり飲んでいるんだから、優しいイリナでも怒っても仕方ないな。
俺に関してはそこまで参加に期待していなかったのだろう。最初から参加するつもりはないと言っていたし。
だが、お義父さんはそのことに気付いてないのか俺を冷やかしてくる。
「駄目だよ、霧識くん。妻にばかり働かせていたら、いつ見限られてもおかしくないからね」
「……いや、俺はちゃんと働いていたから」
「私が言っているのはパパのことだよ!」
イリナがお義父さんに対して怒鳴る。これに対してお義父さんは予想していなかったのか驚く。
普通に考えたら当たり前だろ……。もう完全に酔ってるな。
でも二人とも楽しそうだ。
何か新鮮でいいな。今まで家族の温もりなんて知らなかったし、それを大して気にしたこともなかった。
こういうのも気持ちいいな。今度、お義母さんにも会いに行こう。
後、正月にでもフェニックス家に挨拶に行くか。ルフェイの家に関しては色々と複雑みたいだし、もう少し様子を見てからにしよう。お義兄さんのこともあるし。
黒歌は……必要ないな。
この主人公、生まれたのが娘なら物凄い親バカになる未来が想像できる。
次回は主人公の誕生日を予定しています。
全く話が思い付いていない。早く考えないと。
では感想待ってます。