天界から戻ってきて、すぐに自分の家に帰ろうと地下の転移室から一階に上がると、リビングの方から笑い声が聞こえてきた。
ちなみにグリゼルダとは天界で別れて、花蓮もデュリオくんともうちょっと話していくとかで向こうに残った。
何となくその声に聞き覚えがあったので様子を見に行ってみると、イッセーの母親が牧師の服を着た栗毛の中年の男……イリナのお父さんと話していた。
企画の立案者はおじさんだったのか。
おじさんは俺達……というより俺に気付くと立ち上がってこっちに来た。
「やぁ、霧識くん。久し振り。私のことを覚えているかな?」
おじさんが笑顔で手を出してきたので、握手しながら俺も答える。
「もちろん覚えているよ、おじさん」
「そうか。霧識くんが幼い頃に会って以来だから覚えていてくれて嬉しいよ。後、これからは私のことはおじさんじゃなくてお義父さんと呼びなさい」
もうその話は伝わっていたのか。
多分、イリナが手紙か何かで嬉々として報告したのだろう。
それ以外の方法で知ったとは思えない。俺の女性関係の重要なところは一般には漏れないようにしているからな。
特にレヴィアたんのことを知っているのはアジュカぐらいだ。後、ファルビーはどっちだろうか?まぁ、知っていても特に気にしないだろう。
「パパ!いきなり現れて何を言っているの!?」
イリナが顔を真っ赤にしながら会話に入ってくる。
これは弄りがいのある展開だ。
俺とお義父さんは手を離して目線を合わせるとお互いに考えていることが分かり無言で頷いた。
「マイエンジェルも久し振り!元気にしてたかな?」
「元気だったけど、それよりも恥ずかしいこと言わないでよ!」
「別にお義父さんは恥ずかしいことなんて言ってないだろ?普通に挨拶しただけだ」
「何でダーリンも普通にパパのことを『お義父さん』って呼んでるの!?」
「変なことを言うね、イリナちゃん。イリナちゃんと霧識くんが結婚したら、霧識くんは私の息子になるんだからお義父さんと呼ぶのは当たり前だよ」
交互に俺とお義父さんがイリナを追い詰めていく。
久し振りに会ったけど、思ったよりも息が合うな。本物よりも俺の父親のような気がする。
「ほ、本当に何言ってるのよ!?私達、まだ高校生なのよ!?け、け、け、け、結婚とかまだ早いわ!」
結婚という言葉にイリナが激しく動揺する。
イリナはもう結婚できる年齢なんだから早くないだろ。
それにしても結婚か。そういうのは特に考えてないな。それでもイリナを一生、愛し続ける覚悟は出来ているけど。
……良いこと思い付いた。
「そういえばお義父さんに会ったら言いたいことがあったんだよな」
「ん?何だい?」
これ以上ないぐらい照れているイリナを面白そうに見ていたお義父さんが、興味深そうに俺の方を見る。
俺の真剣な表情を見て、何か悟ったのかお義父さんも真剣な表情になる。
「娘さんを私にください!」
俺は丁寧に頭を下げてお願いする。
イッセー達は急展開に頭がついていけてないのか唖然とした表情をしており、イリナももうどうしたのいいか分からないといった表情をしている。
「お前に私の可愛い娘はやれん!」
「えぇぇぇぇぇ、何で!?さっきお義父さんと呼べって言っていたのに!?」
お義父さんの強い否定の言葉にイリナは更に困惑する。
さっきまで肯定している雰囲気だったのに、急に何で百八十度意見を変えたのかは俺にも理解できない。
何かアドリブだけで漫才をやっている気分だ。
「イリナちゃんは霧識くんと結婚したいのかな?」
「……え?……その、結婚とか深く考えたことないけど、出来るならしたいかな。私だって女の子なんだからウェディングドレスとか憧れるし……」
お義父さんの言葉にイリナは一瞬、驚いた顔をするとすぐに恥ずかしそうに俯いて人差し指と人差し指を合わせながらボソボソと呟き出した。
次に幸せな妄想をし出したようで手を頬に当てながらウットリとした表情をする。何か子供とか言い出した。
そのあまりの可愛さにお義父さんもデレデレしながら見ている。
イリナが望むなら結婚するのも良いな。ウェディングドレスは俺がデザインして製作は天界に頼もう。そっちの方がイリナも喜ぶだろう。
他のメンバーは今は放置して後で話を聞いたほうがいいと判断したのか解散して休憩し出した。
慣れたものだな。リアス・グレモリーも頭に手を当てて溜め息を吐きながら姫島朱乃に紅茶を入れるように頼んでいる。
「……って、そうじゃなくて結婚に反対ってどういうことなの!?」
イリナが冷静に戻ったのかお義父さんに質問する。
残念だ。もう少し愛でていたかったのに。
「実は昔からイリナちゃんに彼氏が出来たら言おうと思っていた言葉があるんだ」
「……言おうと思っていた言葉?」
「娘が欲しかったら私に勝ってからにしろ!」
急に大声で叫ぶお義父さん。
その表情は険しいが、何故か楽しそうだ。
「……え~と、それはパパがダーリンと戦うってこと?いくらパパが元エクソシストだからってやめた方が良いと思うよ。最近のダーリン、強いよ?」
別に俺自身はそこまで成長してないけどな。
ちゃんとトレーニングをしているが強くならない。技術は上がっているけどな。
後、武器が充実しただけだ。エクスカリバーやデュランダルのレプリカも手に入ったし。
そして現在は聖剣のレプリカ技術の応用でジークの魔剣のレプリカも作ろうとしていることだ。こうなったら他の伝説の武器のレプリカも作りたくなってくる。
「勝負の方法は戦闘じゃないよ。確かにイリナちゃんの結婚相手には、私の大事な娘を守れるだけの力は要求するけど、今回は別だ」
「じゃあ、何だ?」
俺が促すとお義父さんは「フフフッ……」と意味深な表情をする。
さすがに今のはウザいな。イリナも同じ気持ちなのか微妙な顔をしている。
「それはイリナちゃんをちゃんと愛しているかを証明してもらう!やっぱり幸せになるにはお互いを愛していることが重要だからね!」
「……え~と、今からキスでもすればいいのか?」
お義父さんの言いたいことは分かる。確かに愛は重要だ。
でも形のない愛を証明することは不可能に近い。人間は嘘をつく生き物だ。いくら言葉で愛を囁こうと、情熱に抱き合おうとそれが真実とは限らない。いや、まだ抱き合ってないけど。
魔法か何かで心を読めれば証明できるんだろうが、俺の場合は神器で自分の心さえも騙せる。
確かに俺は心の底からイリナを愛しているし、イリナもそのことは理解している。
だが、それをお義父さんに証明するにはどうすればいい?
「違う!霧識くんには今から私とどっちがイリナちゃんの可愛さを知っているかで勝負してもらう!」
「……なるほど」
確かにそれならイリナを愛していることを証明できる。
その勝負なら嘘を使って勝つことは不可能だからな。
さすがお義父さん!これなら俺のイリナに対する思いを伝えることが出来る!
「じゃあ、今から俺の家に行って勝負しよう」
「大した自信だね。私は霧識くんよりもずっと長い間、イリナちゃんといるんだ。勝てるものなら勝ってみなさい!」
お互いにそれだけ言うと、言葉を交わした訳でもないのに示し合わせたかのように同時に玄関に向かう。
そんな俺達にイリナが後ろから声をかける。
「ちょっと企画の話し合いはどうするの!?」
「それは勝負が終わってからすれば良い!」
今の状況においてお義父さんに俺とイリナの関係を認めさせる以上に重要なことはない。
その後、家に着くと同時に勝負を開始。一旦、夕食の時間を挟んで、勝負は夜中まで続いた。
時刻は夜中の11時頃、部屋には息を切らしながら倒れている俺とお義父さん、そして恥ずかしさのあまりベッドにうずくまっているイリナの姿があった。
それ、俺のベッドだから後で余計に恥ずかしくなるんじゃないだろうか?
まぁ、それはそれとしてやっと終わった。疲れた……。
「……霧識くん、君の勝ちだ……」
お義父さんが息を整えてからそう言った。
それにしてもお義父さん、負けたのに嬉しそうな顔をしているな。娘のことで俺と語り合えたことがそれだけ嬉しいのだろうか?
というより、そのための勝負だった気がする。
「……終わったの?」
静かになったのでイリナが様子を見るために布団から顔を上げた。
「ああ、イリナが俺の枕の匂いを嗅いでいる間にな」
「そんなことしてないわよ!?」
すぐに否定の言葉を言うが、やっと俺のベッドだということに気付いたようでまた顔を赤くする。
本当、イリナのリアクションは何回見ても面白い上にか可愛すぎる。
「……これで俺とイリナの結婚を認めてくれるのか、お義父さん」
「そういう約束だったからね。それに霧識くんがイリナちゃんのことをどれだけ愛しているかも分かった。反対する理由はないよ」
良かった。
まだルフェイとレイヴェルの親には挨拶してないからな。これが初めての家族公認か。
……まぁ、小猫のところは特殊だから計算に入れなくていいだろう。
「そして私に勝った君にはプレゼントがある」
そう言うとお義父さんは体を上げて近くに置いてあった鞄から何かを取り出す。
……ドアノブ?意味が分からない。何に使うんだ?
お義父さんは立ち上がって俺の部屋のドアノブを交換しながら言う。
「これをどこでもいいので、扉に取り付けてください。今あるドアノブを一旦取り外して、これをつけて開くと」
開いた先は廊下ではなく、見たことのない広い部屋だった。
どういうことだ?
俺とイリナも立ち上がって部屋の様子を見る。
天使の像や聖人を扱った絵画などが飾られており、信心深そうな内装をしている。
特に気になるのは中央にある天蓋付きの巨大なベッドだ。他には……ここから見える範囲では特に変わったものはないな。
「この部屋は天使が子作りをしても問題ないように作った特別な部屋だよ。このドアノブが専用の異空間に繋いでくれる」
これが子作り部屋。完全していたのか。
ミカエルも会った時に教えてくれれば良かったのに。サプライズのつもりか?
「じゃあ、後は若い二人で頑張ってくれ。私は喉が痛くてしんどいので、ちょっと下で休憩してくるよ」
これは気を使っての言葉というより本心だろう(気も使っているだろうが)。その証拠に声が少し変だ。
娘が女になるのに父親がこれで良いのか、とは思うがお義父さんの気持ちは分かる。
俺も喉が痛いからな。叫びすぎた。
お義父さんが出ていって、部屋には俺とイリナだけが残された。
「どうする?早速、使うか?」
「え~と、今すぐしたい気持ちはあるけど、出来れば覚悟を決める時間がほしいかな……?いきなりのことでまだ心の整理が」
「OK。俺は休憩しているからのんびり考えてくれ。夜はまだ長いんだから」
イリナが悩んだ結果、今日ヤれなかったとしても問題ない。
俺もイリナの気持ちを無視してまで強引にヤるつもりはないからな。
それに子作り部屋があれば、いつでも出来るんだ。焦る必要もない。
いつになったらイリナのRー18は書けるのだろうか?
番外編の方まで書く暇がない。もうすぐ短編のネタが切れるし、その後なら……。
次回は少しシリアスな話です。
では感想待ってます。