俺達は今、地下の転移室に来ている。予想通りサボっているメンバーもいるがどうでもいい。
レイナーレに関してだけは俺が待機を命令したが。
というか、来ていないのは天界の『システム』に影響を与えそうな変態ばかりだから、むしろ都合がいいぐらいだ。
床に描かれているのはグレモリー眷属がいつも使用している悪魔文字で展開する転移型魔方陣ではない。
イリナとグリゼルダが祈りのポーズをしながら聖書の一節を口にしており、小猫とレイヴィル以外の悪魔達は頭を重そうにしている。
小猫とレイヴィルが無事なのは勿論、俺が神器で認識できないようにしているからだ。
イッセーにも痛みを消すように頼まれたが断った。何で俺が男に優しくしないといけないんだよ。
ちなみに俺達の頭の上には輪っかが浮いていて光っている。
これはグリゴリや悪魔側からの技術提供があって出来た天界で天使以外の種族が動いても『システム』に影響を与えにくくするものだ。
完全というわけではないが、よっぽどの事がない限りは問題ない。
アーシアとゼノヴィアは「天使になったみたいだ」と喜んでいるが、俺としては死者のイメージなのであまり嬉しくない。
とりあえずルフェイ達の写真を撮りまくっていると、転移室に巨大な両開きの扉が現れた。雰囲気があって俺好みのデサインだ。
扉が音を立てて開いていく。
「さぁ、どうぞ」
グリゼルダが俺達に門の中に入るように促す。
「ほらほら!皆も早く!これ、上までいく天使用のエレベーターなの!遠慮なく入ってちょうだい!」
いつもよりテンションが高いイリナが先に入って案内する。
俺が仕事を手伝う時もそうだが、イリナは天使であることに誇りを持っていて、いつも楽しそうにしている。
仕事に誇りを持てるのは素晴らしいことだ。
俺達も天界へのエレベーターだという門を潜ると白い空間に飛び出した。すると足下に金色の紋様が輝きだしていく。
そして体全体が上空に放り投げられたかのような浮遊感を感じ、次の瞬間には周囲の風景が一変していた。
周りを見渡すと、そこは雲の上で白く輝く広大な景色が広がっており、前方には巨大な門がある。
ふーん、これが天界……。話に聞いていた通り美しい場所だな。
俺が感心していると巨大な門が開いていく。イリナとグリゼルダが開かれていく門を背に俺達に言った。
「「ようこそ、天界へ」」
天界は全部で七層あり、目的地はミカエルのいる第六天だ。
イリナから天界の説明を聞きつつ目的地に向かう。
最初についたのは第一層……第一天と呼ばれるところだ。第一天は天使達の最前線基地みたいなもので、イリナやグリゼルダは基本的にここで働いている。
そしてミカエルの『
何とも面白い光景だ。漫画などでは見たことがあるけどリアルで見ることになるとは思わなかった。
記念に写真を撮っていきたいが事前に目立つようなことは絶対にするな、としつこく釘を刺されたので出来ない。
俺、信用ないな。
第二天と第三天の見学は残念ながら出来なかった。
第二天ではバベルの塔の関係者が囚われている。
第三天は一般的に天国と呼ばれている場所で一番広い階層だ。何でも広すぎて端が把握できていないとか。
まぁ、天国に悪魔が行ったら大騒ぎになるから行けないよな。人間である俺やルフェイだけでも行かせてほしいと頼んだが無理だった。
第四天は別名エデンの園。アダムとイヴの話で有名だ。そういや、リゼヴィムから自分の母親であるリリスが盗んだ知恵の実と生命の実を煉獄の奥地に隠した、って話を聞いたな。
見に行きたいけど、まぁ、無理だろ。
第五天は天使だった頃のグリゴリメンバーがいたところで、現在は研究機関の多い階層となっており『
ここは後で見学させてもらおう。
「ねぇ、ダーリン。天界って良いところでしょ?」
第六天に続くエレベーターが見えたところで、イリナが含みのある笑みを浮かべながら話かけてきた。
「ん?まぁ、そうだな。冥界とは違った面白さがあるし、色々と探索したいな」
それに隠していることとかありそうだし。そういうのは調べたくなるんだよな。
主に聖書の神が残した『システム』とか。
「じゃあさ、ダーリンも天使にならない?」
「……まだ諦めてなかったのかよ」
再会した時から誘われていたけど、最近は何も言ってこないから諦めたと思っていた。
まぁ、最初は天使じゃなくて教会の戦士だったけど。
「だってイッセーくんやゼノヴィアは悪魔だからもう無理だけど、ダーリンは一応、人間でしょ」
「一応ってなんだ、一応って。確かに俺は改造人間だけど生物学的にも精神的にもれっきとした人間だぞ」
イリナは俺のツッコミを無視して話を続ける。
天然でスルーされると空しくなるからやめてくれ。
「で、ダーリンが天使になって一緒に働いてくれると嬉しいな、って」
イリナが期待するような目で俺を見てくる。
俺をそんな目で見るな!頼みを聞きそうになってくるじゃないか!
俺は何とか冷静を装いつつ返事する。
「そう言われてもな……。俺が天使に転生したとしてもすぐに堕天するぞ」
「う~ん、ミカエル様でも大丈夫なんだし、ダーリンも意外とどうにかなるんじゃない?」
ミカエルを本当に尊敬しているのか疑いたくなる台詞だ。
でも、妙な説得力があるな。何か本当にどうにかなるような気がしてきた。
……いや、なるつもりはないけど。
「仮に大丈夫だったとしても天使になる気はない」
「何でなの?天使になれば天界の色んな場所を見ることが出来るよ。それに天界が開発しているものとかにも興味あるでしょ?」
「確かにそれは非常に魅力的だな」
三大勢力で研究結果を共有しているとはいえ、全ての情報を開示しているわけじゃない。
実際、グリゴリにも隠している研究がある。……まぁ、主に趣味で研究していることだが。でも、こっちの方が色々な意味で危ない。下手したら和平が台無しになるレベルで。
簡単には見れないだろうが、天界の秘密研究の成果を見れる可能性があるというだけでも、イリナの提案に乗る価値はある。
「でも断る。まだ冥界でしたいこともあるし、仕事が残っているからな」
「それっていつ終わるの?」
「さぁ?次々に増えていくから想像も出来ない」
というより、自分で増やしているのだが。
俺の好奇心が尽きることはない。
「むぅ、仕方ないね。でもダーリンが人間をやめるまでは諦めないよ」
イリナが可愛らしく頬を膨らませながら渋々といった感じで一旦、引く。
俺が人間をやめるまで、って何だよ。俺は死ぬまで人間のつもりだぞ。
まぁ、死んだ後はどうなるか分からないけど。
「天界のルールなのですが、人間界や冥界ほど俗世のものに強くありません。つまり邪なものに脆いのです」
第六天に続くエレベーターに入ると、グリゼルダが思い出したようにそう口にした。
まぁ、そうだろうな。三大勢力でやった運動会の時とか女性の胸を見ただけで墜ちそうになっていたし。
「じゃあ、イッセーはエロいことを我慢しなければならないわけだ。例えガブリエルの素晴らしい胸が目の前にあっても」
「くっ……」
我慢できる自信がないのかイッセーが難しい顔をする。
イッセーじゃあ、どんなに覚悟を決めていてもあの胸を前にして性欲を抑えるのは無理だ。
ガブリエルの胸は大きさといい形といい本当に極上の胸だからな。
それに誰も見たことも触ったこともないという話だ。俺は透視で見たことがあるけど。
そんな話を聞くと生で揉みしだきたくなってくる。絶対、どこかでチャンスを見付けてやる。
「いえ、イッセー先輩よりも霧識先輩の方が気を付けないといけません」
「どういう意味だ、小猫」
俺の場合はどんな危険な発想を持っても神器でどうにかなるんだが。
「最後のところでチキンなイッセー先輩は手を出す勇気がないのである意味では安全です」
「小猫ちゃん、そこまで俺を罵倒する必要はあるのか?」
若干、涙目になっているイッセーを無視して小猫は言葉を続ける。
確かにイッセーはチキンだよな。いつもエロい発言をしているのに、最後で戸惑う理由が俺にはわからない。
見ているこっちがムカつく。本当にハーレム王になるつもりならもっと積極的に女性を口説いて抱け。
「でも霧識先輩は違います。霧識先輩は禁止されれば禁止されるほどやりたくなる人です。もしかしたら天使を口説いて堕とそう、とか考えているかもしれません」
俺、本当に信用ないな。さすがに俺でも天界では自重するぞ。
まぁ、そんなことを考えていたのは確かだけど。
天使を天界で堕とすとか、非常に背徳的で考えただけでも面白い。
「ふむ。小猫はこういうことを言っているのか?」
「え?」
俺はいきなり腰に手を回されて驚いているイリナをそのまま力強く抱き締める。
そして「あわわ……」と顔を真っ赤にしてパニクっているイリナの耳元で周りに聞こえないようにしながら二言三言、愛を囁く。
「……だから人前でそういうのは。いや、別に嫌ってわけじゃ。むしろ嬉しいけど、でも、その……」
俺が離れるとイリナは恥ずかしそうに俯いて、人差し指と人差し指を合わせながらブツブツと呟きだした。
もちろん背中の翼は白黒と点滅している。
このぐらいなら堕天しないだろう。イリナが相手の時は自重しているけど、たまにもっと凄いことしてるし。
「……実際にやらなくていいです。後で私にはもっと凄いことをしてください」
イリナの様子を見ながら小猫がそう言った。
後半の台詞は天界で言っていいのだろうか?まぁ、するけど。
「…………」
グリゼルダが顔を真っ赤にして固まっている。
いきなりどうしたんだ?……ああ、なるほど。そういうことか。
「熱烈なハグをしながら耳元で愛を囁いてやろうか?」
「い、い、い、いきなり何を言っているんですか!?私はそんなふしだらな行為に興味なんてありません!」
焦ったように早口で否定するグリゼルダ。
この反応、間違いない。グリゼルダも教会出身だからその手の経験がなく免疫がない。
でも反応したということは興味はあるということだ。
いくら天使とはいえ女性。やっぱりこういうのには憧れるということか。
「いやいや、愛する人に愛を伝えるのはふしだらじゃなくて尊い行為だと思うぞ」
「別に愛を伝えるのは問題ありません!私は人前でするのが駄目だと言っているのです!それよりも早くミカエル様に会いに行きますよ!」
そう言いながらグリゼルダは逃げるように先に進んでいく。
天使の反応は堕天使と違って純粋で面白いな。堕天使達の前でやると冷やかされた上に何をされるか分からない。
やっぱり一人ぐらいは天使を堕としてみたい。
そんなことを考えていると小猫がジト目で俺を睨んできた。
「……また何か変なことを企んでいますね?」
「俺は常に何か企んでいるぞ」
俺は嘘を言わずに適当に誤魔化しながら第六天に向かう。
グリゼルダを口説く展開が想像できてしまった。
とはいえ、他に先に書かないといけないシーンがあるし。どうしたものか。
では感想待ってます。