「……そこまでガン見されるとさすがに恥ずかしいんだが」
部屋に戻ってきた後、レイナーレの用意した服(サイズが完璧にピッタリなので怖い。本当にレイナーレには予知能力があるのだろうか?)に着替えているのだが、皆が興味深そうに見てくるせいで着替えづらい。
イリナだけは何故か恥ずかしそうに目線を逸らしているが。イリナはもっと見ても良いと思うぞ。
ていうか、昔はよく一緒に風呂に入っていたんだからそこまで意識しなくてもいいだろ。
「大きいご主人様も良いですが、小さいご主人様に犯されるというのも気持ちよさそうですね……」
「別にそれは良いけど俺の股間部分を凝視するな」
今の体の年齢なら見せても18禁にならないんだっけ?前にそういうギャグ漫画があったし。
でも今は規制が激しいし、どっちかよく分からない。昔はアニメで乳首を映して問題なかったのに。つまらない時代になったものだ。
「さて、着替え終わったけど、次はどうすればいい?俺的には膝枕されながら頭を撫でられたりと甘えたいところなんだが」
今回は事前に勢いで抱き付くな、と言っておいたので特に問題もなく話が進む。まぁ、ルフェイ達の姿を見るとかなりギリギリだったみたいだが。
後でゆっくり抱かせてやるから我慢しろ。
自分の姿を改めて見ると本当に昔に戻ったような気になる。ただこうなるとヌイグルミがないのは落ち着かないな。
昔は家では常にヌイグルミを抱いていたからな。
とりあえず近くに置いてあった熊のヌイグルミを抱くことにした。ああ、落ち着く……。
「そうですね。では、まずこれをどうぞ」
そう言って小猫が差し出してきたのは猫の耳と尻尾だった。
「…………え~と、これは?」
「猫の耳と尻尾ですが?」
小猫が何を当たり前のことを聞くんだ?みたいな感じに首を傾げる。
いや、それは分かっている。俺もルフェイやレイヴェルによく装着させるからな。
問題はそこじゃない。
「……まさかこれを俺に付けろ、と」
「はい。そして語尾は『にゃー』です」
「…………」
いやいや、さすがにそれはおかしいだろ。
ショタ化した上に女装、それだけでもレベルが高いのに更に猫のコスプレだと。
いくら何でもマニアックすぎる。
「……駄目ですか?」
小猫が涙目になって悲しそうな顔で俺を見てくる。
くっ……。演技だと分かっていてもこれをされると俺に断ることは出来ない。
卑怯だぞ、小猫。
「……仕方ないな」
俺はヌイグルミを一旦、置くと猫の耳と尻尾を受け取って装着する。
まさか俺がこれを装着する日が来るとは。全く予想していなかった。
「これで良いか?」
「駄目です。語尾は『にゃー』じゃないと」
「…………」
今まで俺は趣味において一切の妥協をしたことがないがこれだけは言わせろ。少しは妥協しろ!
俺が抗議の視線を向けるが小猫は全く気にしない。
「ついでに口調も昔に戻してください。後、ポーズはこうです、にゃん」
小猫がいつもは基本的に無表情なのに良い笑顔でポーズをとる。
物凄く可愛いんだけど……普段なら間違いなく撫でているんだけど、これからそのポーズを俺がするのかと思うと寒気がする。
周りに助けを求める視線を送るが、やっぱり無駄だった。全員、期待するような目で見てくるし、ルフェイとレイナーレにいたっては撮影の準備が完了している。
どこにも逃げ道がない。
やるしかないのか?今までに感じたことがないレベルで恥ずかしいんだが。
間違いなく人類史上こんな経験をした人間はいないだろう。もしいたら……特に何かするわけじゃないが会ってみたい。
「……にゃ、にゃん」
プレッシャーに負けて羞恥に顔を赤らめながらポーズをとる。
……何だ、この謎の敗北感は。何に負けたのかはよく分からないが男として負けた気がする。
これ、他の奴に見られたら自殺するな、間違いなく。悪魔とか天使とか関係なく転生も拒否だ。
「……ん?」
何故か全く反応がないのでおそるおそる顔を上げてみると、そっち系の知識が疎いイリナ以外は鼻血を出して気絶していた。
レイヴェルはさっきも鼻血で気絶していたし心配だな。大丈夫か?
小猫は……まぁ、大丈夫だろう。いつものことだ。
「ダーリン、今まで見たことがないほど可愛すぎる……。何かもう本物の猫みたいに撫でたい」
イリナが目をキラキラさせながら幸せそうに悶えていた。
ああ、こういう反応が見ると恥ずかしいのを我慢をしてやって良かったと思える。
どうかイリナだけでもこっち側に来ないで純情なままでいてくれ。
「じゃあ、イリナお姉ちゃん。実際に撫でてみるかにゃ?」
若干、病んでいたせいで悪ノリで言ってしまったがすぐに後悔する。
何で自分で自分を追い込んでんだよ。俺に自虐趣味はないぞ。
「ヤバい。何か変な扉を開きそう……」
頼むから開かないでくれ、イリナ!
「で、でも撫でたいけど皆を放っておくわけにいかないし」
イリナが皆を見ながら困った様子で言う。
もう精神的に疲れきったので口調を戻して俺は答える。
「まぁ、そうだな。部屋が汚れるから先に血を拭いておかないと」
「そういう問題じゃないよ!?」
じゃあ、どういう問題なのだろうか?
イリナがいるから寝ている皆にセクハラできないし。それに、どうせ放っておいて時間が経てば復活するだろうし。
その後、床の血を拭いてからイリナに甘えることにした。まだ撫で方に雑なところもあるが、それでも気持ち良かった。
「ご主人様、次はこれはどうでしょう?」
「却下」
復活したレイナーレが差し出してきた衣装を俺は食い気味に断る。
いや、だっておかしいだろ。何だよ、スク水って。しかも名札に俺の名前が書いてあるし。
いくらなんでもマニアックすぎる。俺が引くとか相当だぞ。
「じゃあ、こち――」
「それも却下だ」
レイナーレが台詞を言い切る前に断る。
ちなみに今度はブルマだった。マニアック度的にはほとんど差がねぇよ。
「どうしても駄目ですか?」
レイナーレがさっきの小猫の真似をして涙目で要求してくる。
綺麗だし可愛いのは認める。でもレイナーレの場合は構ってやろうとは思えない。むしろ苛めたくなる。
「お前の泣き落としは通用しない!」
俺はレイナーレの顔の位置までジャンプすると、そのまま思いっきり蹴り飛ばした。
小さくなったとは言え改造人間。そこまで身体能力は落ちていない。
衝撃で壁に叩き付けられたレイナーレはいつも通り恍惚とした表情をしている。いや、心なしかいつもより恍惚としているような……。
「……ご主人様のスカートから伸びた足に女物の下着……」
「変なところを見てんじゃねぇ!」
幼女の足にならともかくショタの足に何の価値があるんだよ。
ちなみに俺は女装する時、色々と拘るため下着は女性用のものを着用している。
もちろん使用済みではない。使用済みを使うとかどんな変態だよ。
「よし、変態は無視だ。次はどうする?」
「……先輩、口調」
小猫が端的な口調で指摘してきた。
本当、拘るな。その喋り方をするたびに俺の中の何かが減っていくんだが。
「次はどうするの?」
猫耳はすでに外しているので『にゃー』はつけない。
「え~と、じゃあ、これを……」
「…………」
ルフェイが遠慮がちに差し出してきたナース服を見て言葉を失う(今日だけで何回言葉を失ったか分からない。すでに十回は余裕でいっているだろう)。
もっと一般的なものを選べよ。マニアックじゃなくても可愛い服なんていくらでもあるだろ。
ていうか、服のチョイス以前に何で今の俺のサイズに合うナース服があるんだよ。……よく考えたらスク水とブルマもそうだな。
もしかしてレイナーレの手作りか?本当に恐ろしい奴だな。
ルフェイを無視するのは心苦しいが俺はイリナに視線を向ける。
修学旅行の時よりも精神が疲れているかもしれない。甘えて癒されるはずだったのに何でこんなことになっているんだ……。
「次、イリナちゃん」
「これとかどうかな?」
イリナが出してきたのは子供に人気の某電気ネズミのキグルミだ。
さすがイリナ。一般的かどうかは微妙だが子供のコスプレとしては妥当だ。
俺がイリナからキグルミを受け取ろうとするとルフェイが文句を言ってきた。
「何でスルーするんですか!?」
「あまりのレベルの高さに疲れているんだ。頼むからもう少し妥協してくれ」
「でも趣味において妥協するな、って教えてくれたのは霧識さんですよ」
「そうだな。妥協していては人生を本当の意味で楽しむことは出来ない。だが、それでも妥協した方が良いことがあることを俺は今日知った」
まぁ、だからといって俺の生き方を変えるわけではないが。変えるのは今後、何か授業する時の教育方針だけだ。
とりあえずイリナが出してきたキグルミを着た後は他の衣装も着つつ、胸にうずくまって頭を撫でられたり、膝枕されながら頭を撫でられたりして過ごした。
そしてレイヴェルの提案した清楚なイメージのワンピースに着替えたところでノックもなく急に部屋の扉を開けられた。
「霧識、ちょっと用事があるんだけどいるか?」
そう言って入ってきたのはアザゼルだ。何でこのタイミングで来るんだよ。最悪だ。
前話の後書きで後半と書きましたが、それは間違いです。
もう一話続きます。
では感想待ってます。