ハイスクールD×D 日常謳歌のファントム   作:二重世界

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第124話 妖刀

「……妖刀ムラマサ?」

 

母親は子供のように可愛らしく首を傾げながらも、その目は獣みたいにギラギラとしながら俺が持っている妖刀を見ている。

俺に向けられた視線でもないのに寒気を感じる。そりゃ、花蓮と言えどこんな化け物と戦えば疲労で倒れて当たり前か。

俺は戦いにならないように気を付けなければ。

 

「そう。昔、悪魔など魔なる存在を倒すために人間が作った刀だ」

 

俺はそれを人間を倒すために使うって言うんだから皮肉だよな。

 

『お、何々?やっと私を使う気になったの?』

 

妙に軽い声が頭の中に直接響いてくる。

これは妖刀ムラマサが俺に語りかけてきたのだ。妖刀ムラマサには意思がある。

これが非常にうるさくて面倒臭い。特に戦闘になるとうるさい。

ちなみに俺が会話している時は静かにしてくれる。最初はうるさかったけど無視しているうちに段々と大人しくなった。

 

ムラマサを手に入れたのは夏休みに会長の夢を馬鹿にした老害の家に行った時だ。

何でも、ある悪魔が興味本意で妖刀ムラマサを手に入れたのだが、その一ヶ月後に謎の死を遂げたらしい。その後も次々に所有者が死んでいき周りに回って老害のところに来たようだ。

これに関しては老害も偶然だとは思っていても怯えていた。そのせいで俺が持っていくと聞いて感謝されたのだが非常に不愉快な話だ。まぁ、ムラマサ以外のもの(特に金と女)を巻き上げた時は「やめてくれ!」って懇願してきたから少しはスッキリしたけど。

 

ちなみに俺以前の所有者が死んだ理由は呪いとかではなくムラマサの能力にある。

ムラマサは所有者の精神を吸うことで力を発揮する。で、こいつが勝手に戦闘でもないのに精神を吸いすぎたせいで所有者が死んだのだ。

俺の場合はムラマサに気に入られているので日常生活の影響が出ない範囲で精神を吸われている。ムラマサ曰く俺の精神は美味しいので死なれては困るとのことだ。

 

ムラマサが意思を持っているのは老害に聞いたら『魔なる存在を斬りすぎて呪われたせいだ』だと言っていた。

だが実際には違う。だって本人……いや、本刀が言っていたし。

本当は付喪神みたいなものらしい。道具を百年使うと魂が宿るとか言われているアレだ。

妖刀の付喪神。響きだけ聞くと凄く恐ろしい。

ムラマサには所有者の精神を吸う以外にも、斬った相手の血で切れ味が上がるというものがある。呪い云々の噂はこれが原因だ。

悪魔の血を吸って力が上がるのだから呪われたと間違われても不思議ではない。

 

『うるさい。たまには静かに戦えないのか?』

 

俺は声を出さずに直接ムラマサに語りかける。

 

『無理無理。だって主ったらたまにしか斬らせてくれないから欲求不満なんだもん』

 

『お前、テンションが上がると俺の精神を一気に吸うからな。あれ、疲れるんだぞ』

 

特に強い相手との戦いになると確実に大量に精神を吸っていく。

禁手ほどではないがムラマサもかなり使い勝手が悪い。まぁ、その分、性能は高いけど。

 

『ハハハハ。ちゃんともらった精神分の仕事はするから安心してよ。主って今まで食べてきたどの所有者の精神よりも美味しいし。色んな味が混じりあっているのに、何故か味としてはまとまっているんだよね。本当、人間の精神とは思えないほどイカれているよ』

 

誉められているのか分からない。と言うか、絶対に誉めてないだろ。

 

『まぁ、それはいいとしてアレが今回の相手?あの剣も特別なもののようだけど』

 

『アレは聖剣アロンダイト。かつて円卓の騎士のランスロットが使っていた剣だ』

 

『……アレが聖剣?んー、まぁ、そうなのかな……?』

 

何か納得していない様子だ。どうしたんだ?

だが、今はそんなことを気にしている暇はない。

 

「妖刀か……。私、今までに色んな相手と戦ってきたんだけど妖刀は戦ったことがないから楽しみ」

 

まずは遠足前の小学生みたいに目をキラキラさせている母親の相手だ。

 

「お兄ちゃん、今回は私が霧識ちゃんと戦うから邪魔しないでね」

 

「俺が可愛い妹の頼みを断るわけないだろ」

 

そう言うと父親は一歩下がる。

こいつらって二人で一人ってイメージ(もちろん一人でも人間とは思えないほど強いけど)があるのに個別で戦うことが多いんだな。

何でだ?

 

「じゃあさ、パパ。今回は私と戦わない?」

 

花蓮がポテチを食べながらこっちに歩いてくる。

うん、まずはポテチを置こうか。お兄ちゃんはそんな態度の悪い妹に育てた覚えはないぞ。

 

「う~ん、可愛い女の子には俺の可愛い妹と戦ってほしいんだけどな。まぁ、たまには可愛い娘と遊ぶのも良いか」

 

どんだけ可愛いを連呼するんだよ。可愛いのゲシュタルト崩壊だ。

 

「んじゃあ、さっそく!」

 

そう母親が宣言してゲームが開始した思った次の瞬間、すでに俺の懐に入ってきていた。

速い!

だが花蓮との訓練で慣れているし、何よりこの程度のことは読んでいた。

俺は右側からやってくる斬撃をムラマサでガードしようとする。

 

「っ!?」

 

右と見せかけて左か。

素早い手捌きと華麗な剣捌きで残像が見えるほどのハイレベルなフェイントだ。

俺はそれにギリギリで気付き初撃をガードすることに成功する。今のフェイントは読めなかったからギリギリだけどな。

母親は一旦、俺から距離を取ると感心したように拍手する。

 

「お!これを防ぐなんてやるね!」

 

「……読み合い騙し合いは俺の得意分野だ。こんな単純なフェイントが通じるなんて思うなよ」

 

これはただの強がりだ。

でもフェイントを入れてくるとほんの一瞬だけどスピードが落ちるから、俺としては好都合だ。

 

「いや、今のはフェイントじゃないよ。防がれると思ったから途中で斬撃の方向を変えたんだよ」

 

……何それ。相手の動きを見てから攻撃方向を変えれるなんて反則だろ。後出しの権利かよ。

そりゃ読めるわけないだろ。

 

「今、私の攻撃を防いだのはもしかしてその妖刀ムラマサとか言うのに秘密があるのかな?」

 

「……さぁ、どうだろうな。自分で考えろよ」

 

俺は適当に誤魔化す。本当に鋭いな。

妖刀ムラマサは寄生型と呼ばれる刀だ。所有者とムラマサは精神で繋がっており、精神をムラマサに与えて性能が上がると所有者の身体能力も上がる。

元々、ムラマサは魔なる存在に倒すために作られた刀だが鋭いだけでは意味がない。人間では身体能力が劣っており、まず攻撃を当てるのが難しいからだ。

そのための対処策がこれだ。

魔なる存在を倒すために作られたのに、色々と怪しい力を使いすぎとはツッコまない。

 

隣では花蓮と父親も戦闘を開始している。父親が使っている武器は薄くて綺麗な刀にからくり?

からくりが何か刀を持って花蓮を襲っているが。あれも完成形変体刀というヤツか?

 

「そうだね。自分で確かめよう!」

 

母親が再度、斬り込んでくる。

俺の目的は戦うことではない。

相手の攻撃を避けて受け流すことに徹しろ。下手に反撃なんてしたらやられる。

 

『ちょっと何で攻めないのよ?これじゃあ退屈じゃない』

 

ムラマサが頭の中で文句を言ってくる。

黙れ。そんな余裕はないんだよ。

 

「ちょっと何で攻めてこないのよ?これじゃあ退屈だよ」

 

前からも同じように文句を言われる。

ウザい。相性が良さそうだしお前らで組めよ。

俺は平和に可愛い女の子とイチャイチャしておくから。

 

「そうだ。一つ聞きたいことがあるんだけど」

 

俺がそう言うと母親は攻撃を続けながらも惚けてきた。

 

「ん?何?もしかしてママのスリーサイズでも聞きたいの?さすがにそれは無理かな」

 

「そんなものに興味はねぇよ!」

 

クールにやろうと思っていたのに思わずツッコんでしまった。

大体、そんなものを聞く必要はない。透視能力を利用すれば相手のスリーサイズなんてすぐに分かる。

 

「上から85、56――」

 

「言うのかよ!」

 

予想外の展開だったのでツッコミが遅れてヒップ以外は言われてしまった。

くっ……。俺のペースに持ち込めない。

計算じゃ天然には勝てないのか。

 

「私のスリーサイズじゃないの?」

 

「当たり前だろ」

 

むしろ、どういう思考をしたら俺がお前のスリーサイズなんかを聞きたいと思うんだよ。

 

「いやぁ、さすがにお兄ちゃんのスリーサイズは教えれないよ」

 

『……おい、俺の精神を吸っていいぞ』

 

『本当!やったー!』

 

ムラマサが子供みたいに喜ぶと同時に疲労がきて力がみなぎるのを感じる。

この野郎、思った以上に持っていきやがったな。

今は禁手の疲れから完全に回復していないから無理は出来ないんだが。まぁ、これぐらいなら問題ないな。

それにイラッときているし。

 

俺は唾競り合いから母親を押し返す。

 

「急に力が上がったね。もしかしてそれが妖刀の力なのかな?」

 

「さぁ、どうだろうな?」

 

「霧識ちゃんがそういう態度なら力ずくで聞き出してあげる」

 

そう言って襲ってきた母親の斬撃はさっきよりも鋭い。

一撃一撃が重くて手が痺れる。

しかもまだ余裕がありそうだ。どんだけ強いんだよ。

 

オオォォォォォッン!

 

急に大きな獣の咆哮が聞こえてきた。

俺も母親も一旦、戦闘を中断して声があった方向を見る。花蓮と父親も同様だ。

あっちは二条城か。フェンリルと大体同じぐらいの大きさの狐の怪物が見える。

あれは九尾だな。九重が九尾を見て不安そうな顔をしている。

もう実験はスタートしているのかよ。あいつらが遅れているせいで遅刻じゃないか。

いつになったら来るんだよ。……って、やっとか。

 

「ほぉ、中々面白いことになっているな」

 

「そうですね。私が戦いたかった相手もちょうどいますし」

 

すでに禁手になって白龍皇の鎧を纏っているヴァーリと聖王剣コールブランドを構えているお義兄さんが現れた。

 




本編終了間近にして少しモチベーションが落ちてきています。
いや、モチベーションがなくてもここまで来たからには最後まで書くつもりはあるんですよ。
でも出来ればモチベーションを保ったまま楽しく最後まで書きたいので感想書いてくれると嬉しいです。
感想があればモチベーションも上がるはずです。

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