織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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飛騨編 始まりです


第一話 主と姫と三つの怪異
1‐1


 私達はお日様にずっと願っていました。

 私達のささやかな願いが叶う事を。

 でも、それが叶わない事も知っていました。

 なぜなら私達は怪異と呼ばれる者だから。

 

 

 

 

 清洲の街を出て数日が経っていた。

 現在俺と雫は……………道に迷っていた。

 道に迷うと言うのは言い過ぎかもしれないが、今の状況を説明しろと言われれば道に迷っていると言わざるを得ない。

 

「雫さんや。」

 

「なんじゃ?お前様よ。」

 

「なんでこうなった?」

 

「お前様が滝を迂回しようと言ったからじゃろ。」

 

「普通は迂回するだろ。」

 

「わらわは見たかったなー、お前様が竜になるところ。」

 

「俺は滝を登らないし、あの滝も登竜門じゃない!」

 

「登ってみんことには解らぬぞ。」

 

「じゃあ、お前も登れ!」

 

「それは無理じゃな。わらわが登ると九尾のドラゴンが出来上がるからの。ひょろ長い体に九本の尻尾、絵にならん。」

 

「だったらお前はどうやって滝を登る気なんだ?」

 

「竜になったお前様がわらわを乗せれば良いだけじゃろうが。そのまま天竺まで行ってもよいぞ。新婚旅行もかねての。」

 

「西遊記かよ。」

 

「うむ、猿と雌豚と河童はおらんがな。」

 

「……今、一個だけ18禁混じってたろ。」

 

「エロはだめかや?」

 

「可愛く無邪気な雫ちゃんとしてはダメだろ。」

 

「そうじゃった。可愛く素直で無邪気なわらわとしては失策じゃった。」

 

「一個間違いがあったが、まあいい。それより、その恰好はなんだ?」

 

 へんてこりんのコーディネートの内で唯一のオリジナリティーであった巫女装束を現在の雫は着ていない。

 その代わり短めの未来で言うワンピースに半ズボンと言う服装だ。

 麦わら帽子にワンピースに半ズボン少女がランドセルを背負っている。

 夏休みの登校日、そうにしか見えなかった。

 

「その衣装どうした?」

 

「清洲の街を散策しておる時にあつらえた物じゃ。これから暑くなりそうだしの。」

 

「しかしお前、よくそんなデザインを思いついたな。」

 

「ふん!わらわの未来知識はお前様譲りなのを忘れたか。」

 

「そう言えばそうだったな。」

 

「犬にも一式譲ってやったぞ。」

 

「犬ってなんだ?」

 

「あの茶髪の小姓とか言うておったな。」

 

『ふーん』と会話を続けようとした俺に

 

「お前様!」

 

 と緊張した雫の声が会話を切った。

 

『どうした?』と言う俺に『賊かもしれん。』と告げて来た。

 俺達は木の陰に身を隠して様子を見る事にした。

 

「こっちの方で声がしたみたいなんだが?」

 

 いかにもと言った感じの盗賊風の男達がズラズラと俺達の下へ近づいて来た。

『どうだ!いたか!』などとガラの悪いヤツの典型とでも言うような行動だ。

 何とかやり過ごせるかと思った瞬間

『いたぞ!』見つかってしまった様だ。

 武器も無い状況。

 ここはお得意のハッタリしかないかと思った時、俺達の上から幼女の声がした。

 

「お前達、何をしているのでごじゃるか!」

 

 おもいっきり噛んでいた。

 

「親分!いや、此処いらに不思議な恰好の二人組がうろついているって言うんで賊かどうかの確認に出向いたしだいで。」

 

「確認に来たお前達が賊と間違われちゃらひょんみゃちゅちぇんちょうでごにゃる。」

 

 また噛んだ。

 その言葉を聞いてその場にいた男達は『うおー!親分が噛んだー!』と激しく萌えていた。

 俺は表では平静を装いながら内では激しく動揺していた。

 盗賊風の男達数人が幼女が噛んだだけで涙を流さんばかりに感動している姿は言っていいのか解らないが不気味だった。

 雫は雫で俺の腰に手を回し顔が見えない様に足に顔を押し付けカタカタと震え……………いや、笑いを堪えていた。

 何かゴニョゴニョと言っている様だったので耳を澄ませると

 

「ごにゃる?ごにゃる?」

 

 ツボにはまったらしい。

 親分と呼ばれた幼女が俺達の前に降りて来た。

 銀色の髪に真っ赤な瞳を持つ忍びの様な恰好をした幼女が俺達に向き合い話しかけて来た。

 

「お二人はこんな所で何をしていたのでごにゃるか?」

 

 噛み噛みなのはしょうがないと頭の中の翻訳機を作動させる。

(そんな物があればだが)

 雫は酸素が足りないのかしゃくり上げる様な声を洩らしながら『ごにゃる、ごにゃる』と呟いている。

 こいつはアテにならないと思いつつ噛み噛み幼女との話しを進める。

 

「俺達は飛騨のとある里を目指していたんだが、滝にぶつかってしまってな、迂回しようとしたがなぜか道に迷ってしまった訳だ。」

 

「ほほう。どちらの里に?」

 

「何でも川のそばで、其処には怪異譚が三つ語られているらしい。」

 

 そう俺が言うと部下の一人が『親分、もしかして芽衣殿の居られる里では?』と言って来た。

 

「恐らくそうでござろうな。」

 

 と噛み噛み幼女が頷き、こちらを振り向く。

 

「ここで出会ったのも何かの縁。里の近くまでお送りいたちまちょう。あ!ちぇっちゃはちちゅきゃぎょえもんともうちゅものじぇごにゃる。」

 

「すまん。後半をもう一度。」

 

「う!ちぇっちゃ長台詞が苦手ゆえ。」

 

 こほん。と一息ついて

 

「拙者、蜂須賀五右衛門と申す。まだごちゅくんはおりまちぇんが、ちのびにょもにょでごにゃる。」

 

 忍び?なるほど忍びの棟梁とその朗党か。

 

「ああ、俺は真中五十鈴。こいつは連れの雫だ。」

 

 例によって俺は偽名を名乗った。

 雫はまだおれの背後でプルプルしていた。

 それを見た五右衛門が

 

「おお、可哀そうに、よっぽど怖かったのでごにゃるな。」

 

 最大限雫を気遣ってくれた。

 だが、相手は我らがやんちゃ姫『もう、だめじゃ』と一言言い残し

『ごにゃる?ごにゃるごにゃる?ごにゃる?』と連呼して腹を抱えて笑いながら転がり回る。

 転がり続ける雫をジト目で見つめた五右衛門が一言

 

「う、うるちゃい!」

 

 噛みながら一喝した。

 何時までも笑い転げる雫を制してお前も礼を言えと諭す。

 雫も『そうじゃの』と一息ついてから

 

「みなのもの面をあげーい!わらわが超絶美少女、雫ちゃんである。心して見よ!」

 

 またバカな大見得を考えた物だと呆れていたが、調子に乗った雫は

 

「みんな、よろしくでごにゃる。」

 

 わざと噛んだ。

 それを聞いた五右衛門や手下の者達の目の色が変わる

 俺は『マズイ』と一瞬のうちに雫を抱き上げおもいっきり尻を叩く。

 パーンパーンと山中に尻叩きの音と『うにゃー』と言う雫の叫び声がこだました。

 

「うー、すまんかったのじゃ。調子に乗りすぎたのじゃ。」

 

 と涙目でペコリと頭を下げる。

 これで手打ち言わんばかりに『では案内いたす』と先導してくれる。

 ほどなくして道が開け田畑が見えて来た。

『このまま道なりに進めば目当ての里でごにゃる』と毎度の様に噛みながら教えてくれた。

 

「この里には加藤芽衣(かとう めい)と言う者が住んでおるのでございまちゅ。まじゅはちょのもにょをたじゅねりゅがよきゃりょう。」

 

 と後半はよく解らなかったが五右衛門がアドバイスをくれた。

『では、われらは此処まで』と言い再び山中へ戻って行った。

 言われた通り道なりに進んで行くと農作業中の人達が目に付いた。

 俺は雫に視線を送り『あの人達に聞いてみるか?』とアイコンタクトを取る。

 雫もコクンと頷き肯定の態度を取る。

 

「すみませーん!お話しいいですか!」

 

 わりと大きめの声で一番近くにいた少女に声をかけた。

 長い黒髪が印象的で勝気な印象を受ける瞳も全体の素朴な雰囲気によって愛らしく見える、そんな少女。

 その少女は俺の声に気付いて周りをキョロキョロ見渡した後俺達を見つけ『おったー』と声を上げ田んぼの中をザブザブと早足で歩いて来た。

 いや、もっと早い、小走りと言っても良かった。

 その姿を見ていた俺達は妙な違和感を感じていた。

 

「なんですかー?おきゃくさま。」

 お客様?奇妙な事を言う娘だなと感じていると

 

「里にごようじゃないんですか?」

 

 そう首を傾げながら聞いて来た。

『なぜそう思った?』俺は努めて優しく少女に質問した。

 

「だって、このあたりは迷うようなみちもないし、作物もまだたべられるほど実ってないし、だったら里へのごようかなって。それに…」

 

 そこで少女は言い淀んだ。

 俺は少し興味深そうに『それに?』と続きを促す。

 

「ただの、たびの人じゃあなさそうだし。」

 

『ふーん』と相槌を打ちながら、この少女の洞察力に少しばかり驚いていた。

 それにしてもポワンとした話し方をする少女だ。

 話しをしているとなんだか和んで来る。

 これが癒しと言う物だろうか?

 

「お見事、確かに俺達は少しばかり奇妙な用でこの里を訪れた者だ。」

 

「きみょうですか?」

 

「ああ、だがその前に道案内をしてくれた者から加藤芽衣と言うお方を訪ねるといいと言われてな、その人物をご存じ無いか?」

 

 少女は少し考える様な仕草をして

 

「その道案内のひとって五右衛門ちゃんですか?」

 

『えっ!』思わず間抜けな声を挙げてしまった。

 

「わたしが加藤芽衣です。」

 

『えっ!』またしても間抜けな声を挙げてしまう。

 なんとか心を落ち着かせ里に来た目的を目の前の少女に話す。

 

「三つの怪異譚ですか。たしかにありますね、里のみんなもこわがっていますから。かいけつするならみんな喜びますよ。でも、そう言うことなら里長様のところへうかがうのが一番ですよ。」

 

 利発な娘だ。

 雫と一つか二つしか違わないだろうに。

 

「では芽衣殿、案内を頼んでも?」

 

「はい、いいですよぉ。」

 

 すんなり引き受けてくれた。

 一緒に農作業をしていた人達に断りをいれ芽衣は俺達を案内してくれる。

 道すがら『はー、きよすからぁ』などと話しながら歩いていると妙な事に気付いた。

 この芽衣と言う少女、普通に歩いているだけなのに右へ右へと逸れて行く。

 なぜだ?と不思議そうな顔をしていると

 

「お前様よ、小娘の髪型を見よ。」

 

 雫が小声で話しかけて来た。

 

「髪型?」

 

 俺はマジマジと少女の髪型を見る。

 未来で言う片ポニテと言う髪型だ。

 一束にした長い髪を頭の中心ではなく右側にオフセットした髪型だ。

 まさか!と言う顔で雫に目を向けると

 

「あれだけ長いとさぞ重かろう。」

 

『マジで!』『マジじゃ!』俺は目の前の少女の将来が心配になって来た。

 二人がそんな会話をしている前で『あらあら、おっとっと』などと言いながら軌道修正しながら歩いている。

 

「さあ、つきましたよぉ。わたし、里長様におはなししてきますので少しまっててくださいねー。」

 

 と言って里長の屋敷に入っていった。

 外で雫と二人、暇を持て余していると、屋敷の裏から誰かが姿を現す。

 それに気付き二人してそちらに視線を向けると、水桶を持った少女と目が合った。

 目が合った瞬間その少女は急に視線をそらし僅かに恐怖の混じった顔をして急いで屋敷に入っていった。

『お前様』と雫が話しかけてきたが、俺は聞こえていない振りをする。

 一瞬だけではあったが、その少女の印象は“白”だった。

 幼女忍者の五右衛門もかなり色素が薄かったがそれの比ではなかった。

 髪などは銀髪を通り越して白髪であり、染み一つ無い真っ白な肌に妖しく光る赤い瞳、印象的な少女だった。

 白い少女の事を考えていると屋敷の中から芽衣が出て来た。

 

「おはなしして来ましたー。だいじょうぶですって。むしろ大歓迎だそうですよぉ。」

 

 芽衣はほがらかに言った。

 




どうでしたか?

今回のゲストは五右衛門ちゃんでした。
原作開始前と言う事で少し語尾を幼くしてみました。


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