織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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清洲編の始まりです


前話が余りにも読みにくかったので少々変えて見ました。
心情や文章中のセリフに使っていた“”を『』に変えて見ました。
こちらのほうが読みやすいと感じていただけるなら前に書いた物も変更していきます。

では、お楽しみ下さい。


清洲の街 其の一

「思ったより遠かったのうー。」

 

 元気いっぱい雫ちゃんもさすがに“井ノ口〜清洲”は疲れたらしい。

 

「とっとと宿を探すからもう少し頑張れ。」

 

 雫を励ましながら清洲の街を連れ立って歩く。

 宿は意外と言うかあっさり見つかった。

 豪華とは言えないが質素でもない中の上と言った感じの宿だ。

 疲れもあったのか早々に夕食を食べ後は二人して爆睡するだけだった。

 

 

 

 

 翌日、目が覚めたのは昼近くの事だ。

 

「爆睡じゃったのお前様。で、今日の予定は?」

 

「これと言ってないが飛騨までは遠い、そのための情報や兵糧なんかの下調べかな。」

 

「あい分かった!さっそく出かけるぞ。」

 

 宿屋の主人にあいさつをし清洲散策に出かける。

 プラプラと店を覗きながら歩いていると後ろから甲高い女の子の声がした。

 

「ちょと!そこのあんた達待ちなさいよ!」

 

『面倒事か?』と思いながら振り返ると、そこには三人の少女がいた。

 十一歳ぐらいの茶色がかった髪をした勝気そうな眼をした少女。

 茶髪少女と同年代ぐらいの長い髪をポニーテールにしたおとなしい少女。

 前の二人より少し年上、十五歳ぐらいのおっとりとした少女。

 三人が茶髪の少女を中心に横一列に並んで俺達を呼び止めていた。

『めんどくせー』と思いながら目線を横にむけると。

『なんじゃ、もめ事か?』とわくわくしている雫がいた。

 しかたが無いので取り敢えず返事をしておく。

 

「なんだい?お嬢さん達、俺達に何か用かい?」

 

 当たり障りの無い返事を返す。

 すると茶髪の少女が目をランランとさせてズイッと前に出て

 

「ええそうよ!そっちの女の子の恰好なんなの?南蛮風?でもバテレンや南蛮人とも違うし教えてくれない。」

 

 興味津々でまくし立てて来る。『興味があるのかい?』と探りを入れる様に聞いてみると

 

「ええそうよ!私はね新しい物とか珍しい物とか大好きなの!それにこの子、とってもかわいいじゃない!」

 

 顔を真っ赤にして詰め寄って来た。

 そう言われて元来のお調子者の雫は悪い気がしない。

 

「お前様よ、少しくらいなら良いじゃろ?」

 

 なんて事を言いだしたからもう諦めるしか無かった。

 

「俺達は少々腹が減っているんだが、そこの茶屋でも入らないか?もちろんお代はこっち持ちだ。」

 

『お嬢様危ないですよ』『なんか怪しいです』とお付の二人は止めていたが……止める事は出来なかった。 茶屋に入り隅の方に陣取った途端茶髪はまくし立てるように質問を開始しる。『まあまあ落ち着け』といなし取りあえず自己紹介から始める事にする。

 

「俺は八房美津里、こっちは…」

 

「わらわは雫、この男の妻じゃ。」

 

 言いやがった!それを聞いた少女二人は思いっきり引いていたが茶髪は『ふーん、幼女趣味なのね』とあっさりと受け入れやがった。

 そして今の事が無かった様に自分達の紹介を始める。

『まずは私ね!』と茶髪が率先して言い

 

「私は吉、ういろう屋の跡取りよ。」

 

 次に名乗りを挙げたのは少し年上の少女。

 

「私は万千代と申します。」

 

 と言いペコリと頭を下げる。

 よく出来た娘だ。

 最後はポニーテールの少女だった。

 

「私は………権六(ごんろく)。」

 

 消え入りそうな小さな声だった。

 

『権六か。女の子には勇まし過ぎる名前だ。それが恥ずかしいのだろう』

 

「権六?」

 

「はい。」

 

 顔を真っ赤にして更に小さな声で答えた。

 目にはうっすら涙まで浮かんでいる。

 なんだか可愛いそうな気分になる。

 そこで一つの提案を持ち掛ける事にした。

 

「名前の頭に濁点が付くのはなんだかしっくりこないな。権六の六を取って六(りく)と呼ぶが構わないか?」

 

 そう言うと権六いや六はハッと顔を上げて『はいっ』と元気良く返事をした。

 その様子を見ていた二人の少女は、クスリと笑って安心した様な顔をしていた。

 

 

『しかし清洲の街で吉に万千代に権六?まさかな……。』

 

 

 その後、茶髪いや吉が雫や俺が身に付けている物に関してあれやこれやと質問をぶつけて来た。

 あらかた質問が終わった頃、万千代が『お二人は何をしに清洲へ?』と聞いて来た。

『ああ、それはな』と前置きをして

 

「飛騨で怪異の噂があるんでそれを収集に行く途中だ。」

 

「バッカじゃない!怪異なんてあるわけ無いじゃない!」

 

 吉が横槍を入れて来た。

 俺はクスリと悪党の笑みを浮かべ

 

「吉。お前はとんでもない思い違いをしている。」

 

 俺も逆に横槍を入れる。

 それが気に入らなかったのか顔を真っ赤にして

 

「何よ!何が言いたいのよ!言ってみなさいよ!」

 

 とまくし立てて来る。

 俺は冷静に吉に向かい合い

 

「吉、怪異が本当に有るか無いかそれは大した問題じゃ無いんだ。」

 

「どう言う事よ?」

 

 少し冷静になったのか吉は俺の話に乗って来た。

 

「いいか吉、火の無いところに煙は立た無い。怪異の噂がある所には必ず原因がある。俺はそれが知りたいんだ。俺にしてみれば、この戦国乱世も怪異その物だ。俺はその先が見たい、この時代の誰も見た事がないその先をだ。」

 

 そこで一旦言葉を切り再度話を続ける。

 

「山の向こうが見たいんだ。……いや違うか、この日ノ本の民に山の向こう側を見せる事が出来るヤツを見たいんだ。」

 

 俺の話を聞いた少女達は身を固くして自身の中で何かを考えていた。

 ただ一人六をのぞいて。

 

 

 

『小栗鼠の所から清洲に着くまで結構な数の葬列を見たからのう。大人も子供も男も女も。

死が身近なこの時代、なにかが我が旦那様を変えたのじゃろうな。もしかしたら我が旦那様がこの時代にきたのは……………考えても仕方がないかのう。』

 

 

 

「ねぇ美津里。明日もう一度会えない?」

 

 そう問われ横の雫をちらりと見ると、わらわは構わんぞと言う顔をしたので『では明日同じ時間にこの場所で』と言って三人と別れた。

 

 

 

 その後街の散策を続けていると一軒の空き家を見つけた。

 どうやら元々店を構えていたらしい。

 その空き家を見上げながら。

 

「雫、長五朗のじい様との約束、覚えているか?」

 

「うむ、清洲に店を出すとか言うやつじゃろう。」

 

「ここでどうだ。」

 

「ここかえ?いいんじゃないのかや。」

 

 お互い顔を見合わせ悪党の笑顔をしながら宿屋にもどった。

 

 

 

 

 翌朝、宿屋の主人に昨日見た空き家の事を訊ねるとどうやら知人の物らしく格安で譲ってくれると言う事だった。

 主人にいくらかの金(仲介料)を渡し話をまとめてもらうよう頼み雫と共に清洲の街に繰り出した。

 約束の時間まで間があったので清洲城の近くまで行ってみる。

 清洲城の門前まで来ると未来と同じで城門に続く橋があった。

 感慨深く橋を見ていると雫が

 

「お前様、お前様はこの橋の上から来たのかや?」

 

「ああ、たぶんそうだ。」

 

「そうかや。何者かは知らぬがわらわはその者に感謝せねばな。」

 

 突然雫が俺の足に抱きつき嬉しそうな笑顔で

 

「わらわとお前様を引き合わせてくれたのじゃからの。」

 

 俺もつられて笑い『ああ、そうだな』と言いながら雫の頭を麦わら帽子ごとクシャクシャと撫でてやる。

 お互い顔を見合わせ『そろそろか』と呟き煙管を吹かしながら茶屋へと向かう。

 

 

 

 

「やっと来たわね!」

 

 昨日の三人娘がすでに待っていた。

二人は昨日とそう変わり無い恰好だったが一人、六だけは違っていた。

 昨日はあまり飾り気のない恰好だったが今日は薄い紫色の小袖を着て頭のポニーテールはお団子にまとめて赤い玉飾りのかんざしを刺していた。

 店にはいる途中、万千代が寄って来て昨日六と呼んでもらって優しくしてもらったのが嬉しかったらしいと教えてくれた。

 昨日と同じ席に付き注文の品が届いた後、吉が口を開く。

 

「ねえ美津里、私あれから考えたのよ。やっぱり、あんたの言う通り今の世は間違っていると思うのよ。だから古い物を全部壊して新しい日ノ本にする必要があるんじゃないかって。」

 

「そうか。だがな吉、その答えでは50点だ。」

 

「美津里どういう事?」

 

 吉が簡単に答えを求めて来たので俺は少し意地悪をしようと決めニヤリと笑う。

 

「壊すべきなのは物じゃない。解るか?」

 

『うーん』と吉は頭をひねる。

 その間に俺は煙管に火をつけ六を見つめる。

 

「今日のその出で立ち可愛いな。似合っているぞ。」

 六の顔は見る見る真っ赤になって『ありがと』と一言呟いた。

 

「だめ。解らない。」

 

 周りの事など耳に入っていなかった吉がとうとうギブアップした。

 

「そうか。答えはこうだ。壊すべきは物じゃない価値観だ。」

 

「価値観?」

 

「そうだ。古い価値観を壊し新たな価値観を作り出す。それが山の向こう側に行く唯一の方法だろう。」

 

「じゃぁ、古い価値観を全部ぶっ壊せば良いのね!」

 

「30点。」

 

「じゃぁじゃぁ!古い物と古い価値観を」

 

 

「0点。」

「ならどうすれば良いのよ!」

 

「宿題だ。明日俺達の泊まっている宿屋に答えを書いて持ってこい。」

 

 そう言った瞬間万千代が『無礼な!』と言いかけたが吉が止める。

 

「分かったわ。絶対に正解してやるんだから!」

 




どうだったでしょうか。

織田信奈いえ吉ちゃんは正解を出せるのでしょうか?
次話で幕間一終了です。


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