織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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今回でこの章も最終回。


骸の八

 ぞろぞろとキラキラと妖しげな集団は寺を目指し移動する。

 長い山道の階段を上り一同は寺の門前へとたどり着いたが、当然と言うべきか寺へと続く門は固く閉ざされている。

 有脩は閉ざされた門をコンコンとノックした後

 

「ごらいあす、やれ。」

 

 言葉と共にごらいあす、巨人の一人?が進み出て大きく振りかぶった後、門に殴りかかる。

 が、大きな音は立てるが門はびくともしない。

 ごらいあすは拳を見つめながら「■■■■」と声にならない声をあげ、チョコンと首を傾げる。

 大きな身体の割には随分と可愛い仕草だが、その行動を茶化す者がいた。

 

「ぷぷー。でっかい図体して非力なことー。これだから低級式神はー。」

 

 るしふぁーだった。

 二人?の行動を黙って見ていた有脩だが、さすがにごらいあすが可哀そうになったのか、るしふぁーが調子に乗っているのがイラッと来たのか、たぶん後者なのだが

 

「ならるしふぁーよ、お前がやれ。」

 

 言われたるしふぁーもまさか自分に振られるとは思ってもいず慌てた様子で

 

「あっ! わたしはー……一仕事してますし、そう言うのは妹達に」

 

「ふむ、そうじゃな。では誰にするかのう。」

 

「えーと、二番三番、四番はダメだろうから、五番の三人で。」

 

 さらっと生贄を差し出す。

 有脩は「では」と一言漏らすと

 

「顕現せよ。煉獄が七姉妹の次姉、三姉、五姉、れびあたん、さたん、まもん」

 

 有脩は力ある言葉と共に三本の杭を上空に投げる。

 三本の杭は落下の途中でピタリと動きを止めその場でクルクルと回転しだした。

 まるで迷って居る様に。

 その光景を眉をひそめながら有脩は見つめていたが、るしふぁーは声を荒げる。

 

「なにやってんの! 早く行きなさいよ!」

 

 クルクルと回っていた杭はるしふぁーの叱責に覚悟を決めたのか一直線に門へ向かって突撃を開始した。

 ………………直後。

 

「いったーい!」

 

「あふん!」

 

「いった!」

 

 門前で頭を抱える少女三人。

 一人は肩まで伸ばした翠色の髪をクルクルと巻き毛風にした次女れびあたん。

 一人は腰まであるウェーブの掛った銀色の髪を持つ三女さたん。

 一人は栗色のストレート髪の五女まもん。

 この少女達の登場に驚いたのは兼相達三人だけ。

 だが驚くのも当然だろう。

 門へ向け一直線に杭が向かったと思ったらゴンッ!と言う激突音を立て、直後少女達が現れたのだ。

 しかし驚きの兼相達をよそに会話は続く。

 

「あんた達なにやってんの! 私に恥をかかせる気!」

 

 るしふぁーがまくし立てる。

 

「なによー!」

 

 れびあたんが唇を尖らせながら抗議の声をあげる。

 

「なによじゃ無いわよ! まったく、使えない妹達ね!」

 

 るしふぁーは苛立ちと共にまくし立てる様に口を開く。

 

「自分の事を棚に上げて何よ! 罵倒するだけなら誰にでも出来るわよ!」

 

 憤怒の表情でさたんが言う。

 まもんは口を閉ざしているが、明らかにるしふぁーに何か言いたそうな顔だ。

 るしふぁー、れびあたん、さたんはギャーギャーと姦しく(かしましく)二対一で罵倒し合い、まもんはじっとるしふぁーを睨みつける。

 そんな姦しい自身の上級式神を有脩は怪しい仮面の下でうんざりした表情を浮かべながら

 

「うるさいのー。もう良い。黙れ。」

 

 怒気を込めた声色で言う。

 言われた式神達は日ノ本では見慣れない啓礼のポーズを取り

 

「「すいませんでしたー!」」

 

 謝罪の言葉を口にした。

 兼相達がボーゼンとする中、有脩は「まあ良い」と事を収めごらいあすに再度命令を下す。

 

「ごらいあす、もう一度じゃ。」

 

 言われたごらいあすは表情こそ変わらないがじっと自身の拳を見て悲しそうな雰囲気を醸し出す。

 それを見た有脩は一つため息を吐くと

 

「一人で無理なら皆でやれば良かろう。お主らは妾の式神の中で破壊力と強靭さはピカイチなのじゃぞ。自信を持て。さあ! 門を砕き妾の進路を開け、妾達の主を傷つけた者達へ恐怖を届けようぞ!」

 

 ごらいあす達は有脩の鼓舞に即座に反応すると五体全員で門を殴りつける。

 

「「■■■■!」」

 

 声にならない声をあげ五体のごらいあすは門を殴り続ける。

 それほど時間をかけずに門は音をあげた。

 ドゴッ!と言う破裂音を立てながら門は役目を終える。

 それと同時に金色の蝶が寺へ侵入し周りを黄金の世界に変える。

 その光景を確認し満足げに有脩は頷き

 

「行け。煉獄の七姉妹。」

 

「「はいっ!」」

 

 煉獄の七姉妹、るしふぁー、れびあたん、さたん、まもんは自身の姿を杭に変えると一直線に寺の中へと飛び込んで行った。

 ごらいあすは先ほど見た行動と同様にじっと己の拳を見てうなだれる。

 しかも五体全員が。

 表情こそ解らないが恐らく心情は “頑張ったのに……ほめてもらえないの?” だろう。

 この光景を横目で見ていた有脩は

 

「不思議じゃのう。最近の式神はなぜか人間臭い。なぜじゃろうな~。まあよい。ごらいあすよ良くやった、しかし仕事はまだあるぞ。寺から出て来る糞坊主共を蹴散らせぃ。」

 

 褒められ次の指示まで下されたごらいあすのテンションはこれでもかと上がる。

 

「「■■■■!」」

 

 声に成らない雄叫びと共にごらいあすは走り出す。

 その背後から有脩は珍しく声を張り上げ

 

「良いか! 殺すで無いぞ! 良いな!」

 

 言われたごらいあす五体は同時に振り向き親指を立てるサムズアップで応え走りだす。

 ほどなくして寺から十名程の若い僧が走り出して来た。

 後からは杭が二本、僧を追い立てる様に飛来する。

 それと呼応する様にごらいあすの一体が進み出て僧の一人を殴りつける。

 ボコッ!と言う音と共に僧の一人が直角方角へ飛んだ。

 五メートル程空中を飛行した後地面に打ちつけられ意識を失う。

 一連の行動をとったごらいあすの一体は嬉しそうに、自慢げに有脩に向け力瘤を鼓舞するポーズを取る。

 見せられた有脩も心情では“めんどくさいヤツじゃのう”と思っているのだが微塵も表に出さずに拍手で答えた。

 それを見た他の四体のごらいあすも我も我もと若い僧に拳を振るう。

 それは………地獄絵図の様だったと後々兼相は語る。

 一方的な暴力が繰り出される光景の中、有脩の背後に一人の少女が立った。

 それは杭から人間の姿に変化したまもんだった。

 まもんは静かで冷静な声色で

 

「有脩様、お目当ての人物と思われる輩を発見致しました。場所は本堂です。今はるしふぁーとさたんが足止めをしています。」

 

 まもんの言葉に有脩は了解の意を示し本堂へと歩を進める。

 一歩一歩と本堂が近付くにつれヒュンヒュンと言う甲高い音と何やら喚き散らす男の声が聞こえて来る。

 有脩は本堂の前まで来ると両の手を本堂の表戸に掛け力一杯開く。

 扉は軽く滑る様に左右に開いた。

 その瞬間有脩の脇を抜け二本の杭が本堂の中へと突入する。

 二本から四本に増えた鉄製の杭は本堂内を縦横無尽に飛来する。

 欄間を突き破り柱を削り本堂の中に居た三人の男の鼻っ先をかすめる様に。

 一人は寺の住職。

 僧正と呼ばれていた男。

 本尊の前でドッカリと腰を下ろし身動き一つしない。

 だが、その眼は眼前で繰り広げられる超常現象に恐怖の色を示している。

 一人は村長。

 床に尻もちを付き、奥の柱まで後ずさりした様子は、完全にこの場の空気に飲まれている。

 一人は元志郎。

 宵闇の仲間の一人であり、若頭を務めていた男。

 腰から短刀を抜き、訳の分からない言葉を発しながら振り回していた。

 有脩は眼前の光景に満足げに頷くと一歩本堂に足を踏み入れる。

 その瞬間、黄金の蝶が一気に本堂へなだれ込み本堂内を異界へと変える。

 一歩、また一歩と男達に近づく有脩。

 その有脩に兼相は小声で話しかけた。

 

「姐さん。左の奥、見て下さい。」

 

 言われた有脩はゆっくりと視線をその方向へと向ける。

 そこには全裸で倒れ込む少女が一人。

 有脩はじっくりと少女を観察する様に見た。

 仮面の下の表情が歪む。

 少女の背中、脇腹、隅々まで見るが生の息吹が感じられない。

 極めつけは少女の首、いや、頭部。

 少女の頭部は曲がってはいけない方へ曲がっていた。

 もうこの少女は者では無く物へと変わっていた。

 兼相は一度有脩の瞳に視線を合わせると静かに少女だった物に向け歩を進めた。

 それと同時に有脩の背後から宵闇が怒りの表情で前に出る。

 しかし有脩は右手を水平に伸ばしそれを止めた。

 まるで出番はまだだと言わんばかりに。

 そうしながらもゆっくりと確実に有脩は歩を進める。

 対する者は僧正と言われていた男。

 対峙する仏僧と陰陽師。

 怪しげな仮面の下で値踏みする様に見つめる有脩。

 下から若干の恐怖が混じった視線で返す仏僧。

 先に口を開いたのは仏僧の方だった。

 

「キサマら、仏前でこんな事をしてタダで済むとでも思って……」

 

「ふん。腐れ坊主が仏前とは。恥さらしが。」

 

 有脩が言葉を遮る。

 

「此度の妾達への襲撃、お主の企みで相異ないな。」

 

有脩の言葉は質問では無く確認だった。

 

「何の事……」

 

「そこで踊っておる阿呆(あほう)を使ってしでかした事じゃよ。」

 

 未だに小刀を振り続ける元志郎を指差しながら再度有脩が言葉を遮る様に口を開く。

 会話など不要だと言う事らしい。

 

「腐れ坊主との会話など不要じゃ。妾が穢れるわ。貴様は只頷けば良い。」

 

 袖口で口元を隠しながら汚物を見るような視線で有脩は言う。

 しかし仏僧も危ない橋を何度も渡って来た者

 

「知らんな。あの男は一晩の宿を貸しただけ。」

 

 言って仏僧はニヤリと蛙の様な笑みを漏らす。

 しかし有脩も狐の笑みを漏らしながら

 

「知らぬか、ホントかのう。………………るしふぁー、さたん。」

 

 その呼びかけに二本の杭は即座に反応する。

 ストンと軽い音をさせながら二本の杭は胡坐(あぐら)をかいた仏僧のふとももを貫き床に縫い付ける。

 ギャア!と言う悲鳴とも雄たけびともつかない声を上げ仏僧の上半身は後ろに倒れ込んだ。

 それを見下ろしながら有脩は再度先ほどと同じ言葉を繰り返す。

 

「此度の妾達への襲撃、お主の企みで相異ないな。」

 

 仏僧は痛みの為か声を発しず首を左右に振り続ける。

 その行動に有脩は「ほう。」と短く言葉を発した後

 

「れびあたん、まもん。」

 

 残りの二本の杭に声をかける

 先ほどと同じように二本の杭は仏僧めがけて襲いかかる。

 似たような音を立て二本の杭は仏僧に突き刺さる。

 相違点は一つだけ。

 今回貫いた場所は両肩だと言う事。

 仏僧は両のふとももと肩口で床に張り付けにされる。

 その光景を有脩はさも楽しそうに眺めながら三度同じ言葉を口にする。

 その声色は次は無いと言う様に。

 

「此度の妾達への襲撃、お主の企みで相異ないな。」

 

 仏僧はゆっくりと首を縦に振る。

 有脩はその行動に満足げに頷き仏僧よりも奥に視線を移しながら

 

「あれも一枚噛んでいると理解して良いな。」

 

 仏僧は再度首を縦に振る。

 この動作を尻もちを付きながら見ていた男、村長は

 

「そんな! わしは脅されていただけじゃ! 全てはその男の……」

 

「黙れ。今さら言い訳か? どうせ金子(きんす)での繋がりじゃろう。大人しく裁きを待つが良い。」

 

 そう有脩は言い切り近くにあった長さ一メートル程の蜀台と油壺を手に持ち視線を再び仏僧に移す。

 

「さて、次の沙汰じゃ。そこの娘、あの様にしたのはキサマで間違いないな。」

 

 仏僧は黙って頷く。

 しかし有脩の詰問は終わらない。

 

「がしゃどくろによると幾人もの娘をあの様にしているそうじゃが………相違ないな。」

 

 言って油壺を仏僧の股間めがけて傾ける。

 当然の如く仏僧の股間は油まみれになった。

 なにをされるのか、そう考える仏僧の動きは止まっていた。

 それすらも楽しむ様に有脩は言葉を繰り返す。

 

「幾人もの娘をあの様にしているそうじゃが………………相違ないな。」

 

 ゆっくりとした言葉、それが仏僧の精神を恐怖と言う形で支配して行く。

 宵闇も道順も身動き一つできなかった。

 怪異が支配した本堂で動く者は冷たくなった少女に自分の羽織をかける兼相と正気を失ったかの様に小刀を振り続ける元志郎、そして蝋燭の炎だけだった。

 その中で仏僧はゆっくりと三度首を縦に振る。

 

「さようか。しかし娘の件、キサマ一人の所業かえ?」

 

 新しい問いに仏僧は口を開こうとするが言葉が出ない。

 

「良い良い喋るな。キサマの声など聞きとうも無い。目線で良い相棒は誰じゃ?」

 

 仏僧の視線は本堂の奥に向けられた。

 

「そうか。あの小者かや。素直でよろしい、大変よろしい。褒美じゃ、受け取れ。」

 

 言って有脩は蜀台を仏僧の股間に近づける。

 ボッ!っと言う小さな音を立て仏僧の股間が燃え上がる。

 

「!!!!!!!!!!!!!!」

 

 本堂に仏僧の悲鳴が響き渡る。

 有脩は興味が失せたとばかりに仏僧から離れ戸口に向かう。

 本堂の中心付近で少女を抱いた兼相が合流してきた。

 

「姐さん、これで宜しいんで?」

 

 兼相の質問に有脩は優雅に微笑みながら

 

「これで良い。妾達の大切な御方はまだ生きておる。あの二人の結末は奪われた者達が選ぶ。」

 

「奪われた者?」

 

 兼相は首を傾げるが謎めいた言い回しは幻灯館主人や有脩のもはやお家芸なので気にするのを止めた。

 有脩は一度後を振り返り

 

「アレの始末は地味娘、お主に任せる。妾達が納得いく落とし前、期待しておるぞ。」

 

 言って兼相と二人本堂を出る。

 残されたのは宵闇、道順。

 宵闇は置いてあった水桶を手に取ると元志郎に向け中の水を浴びせた。

 

「か、頭?」

 

 どうやら正気に戻った元志郎。

 そんな元志郎に

 

「此度の件、全て解ったわ。あなたに此処までさせてしまったのは頭領である私の責、ごめんなさい元志郎。」

 

 言われた元志郎は驚きつつも安堵し

 

「かしら………」

 

「だから、だから私が裁く。それが頭としての責務。」

 

 宵闇は懐から墨火式の短銃を取り出し………

 

 

パァァン!

 

 

 銃声が一つなり響いた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 村から離れた墓地、がしゃどくろの怪異譚の出本である場所の水場で有脩は杭を洗いつつ後ろを振り返る。

 

「よう燃えておるのう。」

 

 有脩の視線の先、それは先ほどまで居た寺。

 今は大きな炎に包まれた寺であった物。

 銃声が響いたのと有脩達が本堂から出るのはほぼ同時であった。

 そんな有脩と兼助が見た光景は本堂の前に居並ぶ村の民。

 その眼は血走り表情は怒りに満ちていた。

 

「全て聞いておったか。」

 

 有脩が仮面を外しそう問いかけると、村人皆一様に首を縦に振る。

 

「さようか。あれらの裁きはお主らに委ねる。好きにせい。それよりもまず、この娘の縁者はおるかえ?」

 

 言って兼相の胸に抱かれる少女の顔を見せる。

 すると

 

「お里ー!」

 

 一組の年老いた男女が走り出る。

 男性が兼相から少女を受け取り、女性と共にその場で崩れ堕ちた。

 おそらく少女の両親だろう。

 有脩は静かに目を伏せると

 

「お悔やみ申し上げる。」

 

 そう声を掛けこの場を後にする。

 兼相も本堂から出て来た宵闇、道順と共に村人達に丁寧に頭を下げると有脩の後を追った。

 その後の出来事が寺の炎上である。

 村人達が仏僧達や村長をどうしたのか有脩達は知らない、だが恐らくは生きてはいないだろう。

 

「して、あの阿呆はどうした?」

 

 有脩は視線を宵闇に向ける。

 

「生きてはいます。ですが、右肩を打ち抜きましたから二度と鉄砲稼業は出来ないでしょう。鉄砲と共に生きて来た私達にとってそれは死んだと同じです。」

 

「さようか。」

 

 その答えに納得したのか有脩は兼相に目をやりにっこりといつもの笑顔を見せる。

 もうこれで手打ちだと。

 兼相はまだ思う所もあったのだが頭を掻きながら「へい。」と短く返事を返す。

 

「さて戻るかの、夜が明けると主様も子狐達も心配する。」

 

 その言葉を合図に四人は帰路についた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「成程な。そうなったか。」

 

 宗意軒の小屋近くの小川で涼を取りつつ幻灯館主人は事の顛末を聞いていた。

 顔の左側は白い布で覆われていたがそれ以外は異常が無い様だ。

 だが、傷が化膿しない様に毎日消毒をしなければいけない為、暫くの間、この村に居る事にした。

 汗が傷に入るのを防ぐ為、なるべく涼しい所で休めとの宗意軒の進言により日がな一日小川近くの木陰に陣を取っている。

 それでも暑かろうと宵闇と道順がせめてものお詫びにと変わる変わる団扇で仰いでいた。

 そんな中、有脩から顛末を聞いている。

 有脩の話は所々端折られぼかされていたが自身に恥じる行動はしないだろうと言う信頼から幻灯館主人はあえて聞かなかった。

 有脩の話が一段落した頃、幻灯館主人は宵闇に向け口を開く。

 

「なああんた、あんた達はこれからどうするんだ?」

 

 突如の質問に宵闇は驚きつつも答えを返す。

 

「あ、あの、何も決まってはいないです。どうしたらいいのか解らなくて……あなたへの贖罪も。」

 

 幻灯館主人は「そうか。」と一言つぶやき

 

「なら、ウチで働かないか? あんた達は雑賀の出で鉄砲の腕もかなりの物なんだろ。」

 

 突然の勧誘に宵闇は驚きを隠せず

 

「そんな! 私達はあなたを狙った者達の仲間なんですよ。」

 

 宵闇が正論を言う。

 が、そんな物で動く幻灯館主人では無い。

 それを僅かでも知る有脩は苦笑いを浮かべる。

 

「狙った者達の仲間だったと言うだけであんた達が狙った訳でもあるまい。それに雫や芽衣が懐いているようだしな。違うかいヤマダさん。」

 

 言われた宵闇の瞳からブワッっと涙が溢れる。

 幻灯館主人は何事かと驚き有脩に視線を向けるも

 

「おやまあ小娘を泣かすとは主様も悪い御方だこと。」

 

 と愉快そうに笑うだけだった。

 

 

 

 

 

 

~追記~

「お嬢、何やってるんです?」

 

 宗意軒の小屋の中で真剣に筆を走らせる雫に兼相が問いかける。

 

「うん? 何でものうこのままじゃと我が旦那様の顔が崩れて来るそうなのじゃ。」

 

「顔が崩れる! ホントですかお嬢!」

 

 興奮気味の兼相に

 

「ホントじゃぞ。宗意軒のおっさんが言うとった。何でも左目を摘出したのが原因らしい。」

 

「あのおっさん!」

 

 兼相は慌てて外へ駈け出そうとする。

 

「あーもー! 話は最後まで聞くのじゃ! サルか! ああ、サルじゃったな。宗意軒のおっさんは悪う無い。問題は崩れる前にどうするかじゃ。」

 

「そうなんですかい。」

 

「そうじゃ。」

 

 雫は上唇と鼻で筆を挟みながら書いていた物を兼相に見せる。

 

「お嬢、これは?」

 

 その紙には一つの円と寸法が描かれていた。

 

「それはのう我が旦那様の新しい目じゃ。」

 

 




有脩の式神は五行を基にしています。
蝶は紙での召喚ですので木気。
ごらいあすは素焼き、土を焼いたものですので土気。
煉獄の七姉妹は鉄の杭ですので金気。
となります。

原作で前鬼など式神が鉄砲に弱いと言う記述がありますが、古来<未来と言う図式のほかに呪符(紙)で召喚される半兵衛の式神達は鉄砲の球、つまりは鉛、金気に木気が負けると言う五行の関連もあるのでは? という考えからです。
詳しくはいずれ活動報告にて。

次章の投稿までは少々間があきますがお待ち頂けると幸いです。
感想お待ちしております。

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