織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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がしゃどくろの真実。
狐に選ばれし王。



骸の六

「有脩殿。先程、主殿の事を王と言っておられましたがそれは一体?」

 

 宗意軒の問いに全員が頷く。

 有脩はその光景を確認した後、「ふむ」と一息漏らしてから口を開いた。

 

「これは大陸の伝承……いや、怪異譚と言った方が良いかも知れぬな。」

 

「たいりく?」

 

 芽衣が疑問の声を上げる。

 兼相や拘束された者達も同様の様だ。

 

「うむ。明や印度、この日ノ本から海を渡った場所には広大な土地が広がっておる。三国志などを読んだ事が有る者なら解ろう?」

 

 しかし先ほどの者達の頭には?マークが浮かぶ。

 だが、そこは有脩様。

 

「一つ賢くなったのう。しかと覚えておくがよい。」と言い切り話を続ける。

 

 

 

「そこには三つの狐の話が有るのじゃ。

 

 

 一つは黄金色の狐

 その姿は見目麗しく気高い

 しかし、振るう力は一つの国をたやすく滅ぼす

 何者にも媚びず、何事にも抗う誇り高き存在

 しかし、その寵愛を受ける者が居れば、その者は世界を作りかえる力を得る事が出来よう

 

 

 一つは白き狐

 その姿は儚げで慈愛に溢れる心優しき者

 この者、民を安寧に導く者の前に現れ寄り添う者

 その寵愛を受けし者、圧政から民を解放し幸福な時代へと導く

 

 

 一つは黒き狐

 その姿は凛々しく孤高

 この者、力により世界を変える者の前に現れる

 その寵愛を受けし者、強大な力により全ての古き物を破壊し新たなる国の王となる者

 

 

 

と、言うことじゃ。解ったかえ?」

 

 

「しかし姐さん、それと大将にどう言った関係が?」

 

 兼相が説明を求めたが、有脩は信じられない者を見るような目つきで一睨みした後

 

「なんじゃ。サル相は解らんのか。」

 

 と、言い捨てる。

 

「この三つの狐の怪異譚、これは決して揃う事のない物じゃ。」

 

「なんでー?」

 

 芽衣の問いかけに有脩は優しげな笑みで

 

「力を持ち慈愛に満ち新たな世を創造(つくる)者。そんな完璧な人など居る訳が無かろう。もし居ればそれは大いなる脅威に成るからであろうな。たとえ伝承、怪異譚であっても。」

 

「だれがきょういにかんじるの?」

 

「その時々の力ある者達。今の日の本ならば将軍家か? いや朝廷かのう。」

 

 言って有脩は意地の悪い狐の笑みを浮かべる。

 

「じゃがな、じゃが偶然かはたまた必然かこの時代、この乱世に現れた。本来ならば有りえぬ三つの狐に愛されし者がな。」

 

「それが大将だと?」

 

 兼相はまだ納得出来ない様子。

 

「さようじゃ。金色(こんじき)は子狐、白は源内殿、そして黒は妾。」

 

「いや!お嬢は金色でしょうけど……白と黒は。」

 

「何を言うサル相よ。源内殿が以前何と呼ばれておったか忘れたか?」

 

「源内殿が以前?」

 

 兼相は首を傾げる、が

 

「ななちゃん!」

 

 芽衣が元気よく答える。

 

「そうじゃな。しかし小鴉もう一つあったじゃろう?」

 

「白山坊………白き慈悲深き狐じゃな。」

 

 淡々と雫が答える。

 有脩は満足げに頷き

 

「そして黒き狐。それは妾の祖である者の母君の姿。」

 

「その血統に連なる姐さん……」

 

 兼相がボソリと呟く。

 

「しかしFOX……狐、ですよね。皆さんは人じゃあ。」

 

 今まで沈黙を守っていたブリュンヒルデが口を開く。

 

「ふん。いかにも西洋人らしい言葉じゃなヒルデよ。」

 

 有脩は皮肉げにブリュンヒルデの発言に返事を返す。

 

「確かにこの話では狐と言っておるが、一言も獣じゃとは言っておらん。」

 

「あっ。」

 

「この怪異譚の狐は比喩じゃ。」

 

 言って有脩は宵闇達を見つめニヤリと笑みを漏らす。

 

「まあ、主様に関しては信じるのも妾の妄想や狂言と笑うのもそれぞれが決めるが良い。」

 

 有脩はここで一度言葉を切り視線の先の宵闇に話かける。

 

「地味娘よ。何故にお主の郎党は主様を狙ったのかのう、思いつく限りの理由を話せ。」

 

 有脩は自身の前言をあっさりと翻し宵闇に詰め寄る。

 しかし宵闇はうつむいたまま沈黙する。

 有脩はそんな事承知済だと言わんばかりに言葉を続ける。

 

「主様が、いや、妾達が狙われた理由………がしゃどくろ、じゃろ?」

 

 宵闇は驚きと共に顔を上げる。

 

「恐らく主様ががしゃどくろの触れてはならん、いや、触れられとう無い事柄に近づいたからじゃろう。違うか地味娘。」

 

 有脩の言葉に宵闇は驚きの表情のままだ。

 なぜなら宵闇自身も幻灯館主人が狙撃された訳を知らないのだから。

 

「のう姉さま、我が旦那様を狙ったのはこ奴らの郎党の一存なのかのう。」

 

 雫が根本的な質問を口にする。

 だが有脩の答えはもっと現実的だった。

 

「違うじゃろうな。こ奴らは傭兵、小者、考え無し、金で雇われた守銭奴じゃ。主様に危機感を持っておったのはこ奴らの雇い主じゃろうな。」

 

「しかしその雇い主が解りませんね。」

 

 ブリュンヒルデが悔しげに言い捨てる。

 しかし有脩は獰猛な狐の様な笑みを浮かべ

 

「雇い主なら見当はついておる。」

 

「「えっ!」」

 

 全員の驚きの声が重なった。

 

「こ奴らの雇い主、それはあの寺があった村の村長あたりじゃろう。いや、村長一人では無いな。主様の話を聞く限り村長では肝が小さすぎる。ひょっとすると寺の腐れ坊主共も噛んでおるやも知れぬ。どうじゃ? 地味娘。」

 

 有脩の問いかけに宵闇は視線を外す事で応える。

 そして

 

「全ては人喰いのせいです。」

 

「人喰い?」

 

「人喰いのがしゃどくろ、その男の事です!」

 

 言って宵闇は宗意軒を鋭い目で睨み付けた。

 

「お坊様は仰っていました。この男は怪異、がしゃどくろだと。そしてこの男は、いえ、がしゃどくろは真新しい遺体を掘り返し胆を食らっていると!」

 

 有脩以外の幻灯館メンバーは宵闇の発言に驚きを現したが、有脩はつまらなそうにため息を吐く。

 そして宗意軒は悔しさを滲ませながら俯いている。

 意を得たりと言った感触でさらに宗意軒の悪しい部分を突こうと宵闇は口を開くが、その行動は有脩によって妨げられる事になった。

 

「つまらぬ。」

 

「えっ?」

 

「つまらぬと言うておるのだ。人語も解せぬ様になったのかや、地味娘よ。」

 

 宵闇は有脩の突然の乱入に困惑する。

 しかしそれは宗意軒も同位であった。

 自分のしている医療と言う行為を理解できない者には何を言っても無駄だと言う諦めにも似た境地だったからだ。

 過去、戦場の近くで腹を鉄砲で撃たれた侍大将らしき人物と出会った事があった。

 宗意軒は早く弾を取り除かなければと思い話しかけたが……腹を切るのは武士にとっての恥と言い張って結局は自分の目の前で死んで行った。

 そんな経験は指の数では足りない程あった。

 だからこそ宗意軒は諦めていたのだ。

 そう、誰にも語りはしなかった自身の号、宗意軒を口にした彼に出会うまでは。

 宗意軒は治療をしながらずっと思っていた。

 彼を必ず救うと、そして話をしようと。

 そのためならば、その時が訪れるのならば、どんな恥辱にも耐えようと。

 だから宗意軒は宵闇の暴言に対しても決して口を開かなかった。

 だが隣の女性は「つまらぬ」の一言で切り捨てた。

 彼女に医療行為が解っているとは思えない、ならば何故? 宗意軒の頭脳は疑問の声を上げる。

 しかし心は暖かな物で満たされて行く。

 

「人喰い? それがどうした地味娘よ。この御方は我が主様が全てを委ねた御方。その御方が人を喰っていようが虫を喰っていようがそれは些細な事なのじゃよ。それにのう地味娘よ、お主、この御方が人を喰らう所を見たのかえ? 見て無いであろう? 違うか? 妾の言葉が違い無いのならば………二度とそのような虚偽の発言をするでない! 一度目は褒美として見逃す、しかし二度目があった場合………その舌、妾自ら引く抜く! 良いな!」

 

 有脩の迫力に誰も言葉が出ない……一人を除いて。

 有脩は自身のスカートが引っ張られるのを感じ振り返る。

 

「のう姉さま、褒美とは何じゃ? ヤマダは何か良い事を言ったのかや?」

 

 雫の問いに有脩は宵闇へと向けた表情とは打って変り驚く程の優しい表情で

 

「無論じゃ子狐。地味娘は主犯を告げてくれたのじゃ。これは良い事じゃろ?」

 

 言ってにこりと宵闇に笑顔を向けた後、宵闇の襟をむんずと掴み引きずりながら

 

「さーてどうしてくれよう。糞坊主共唯で済むと思うなよ。」

 

 有脩はらしくない言葉遣いで宿にしていた空き家に足を向けた。

 

「待ってくだされ!」

 

 しかしそれを引きとめる者が居た。

 宗意軒だ。

 足を止める有脩に宗意軒は苦しげな表情をしたのち

 

「これは黙ってはおれぬ状況ゆえ、儂の罪と奴らの罪を聞いてくださらんか?」

 

 宗意軒はじっと有脩の瞳を見つめる。

 懺悔と熱意の籠った眼差しで。

 

「良かろう、聞かせて貰おうか。」

 

 有脩はゆっくりと頷いた。

 宗意軒は地面に腰を降ろし一つ一つ思い出す様に丁寧に言葉を選びつつ話を始めた。

 

「儂が墓をあばいて遺体を盗んでおったはそこのお嬢さんの言う通り本当の事じゃ。」

 

「やっぱり! むぎゅ!」

 

 話の腰を折る様に宵闇が口を開いたが、とっさに有脩が頭を踏みつけ阻止を行う。

 抗議をしようと下から有脩を睨みつけるが有脩の鋭い眼光に見つめられそれ以上何も言えなくなった。

 有脩はそれを確認すると宗意軒に視線を移し話を続ける様に促す。

 

「儂が墓をあばいておったそれは本当の事じゃ。だが、それは胆を喰う為などでは決して無い。儂が遺体にしていた事は………」

 

 宗意軒の告白に場の全員が息を飲む。

 

「それは………腑分け(ふわけ)ですのじゃ。」

 

「ふわけ? ふわけってなに?」

 

「腑分け……聞いた事ないですね。」

 

「腑分け……俺も聞いた事ないですねぇ。」

 

 芽衣、ブリュンヒルデ、兼助がそろって首を傾げる。

 有脩も平静を保っているが皆と同意見の様だ。

 もちろん宵闇、道順なども同様だ。

 唯一違うのは雫だった。

 雫は頭を左右に振りながら慎重に口を開く。

 

「腑分けと言うのはのう、うーん、なんと言えば良いのかのう。簡単に言えばぁ」

 

「「簡単に言えば?」」

 

 全員の声が重なる。

 

「解体じゃな。」

 

「「解体―!」」

 

「そうじゃ。もっと簡単に言えば………」

 

 ゴクリと言う唾を飲む音が皆から聞こえる。

 

「腹を裂いて中身を見る事じゃ!」

 

「キャァァァァァァァァァ!」

 

 女性陣から悲鳴が上がる。

 それを確認した雫は満足げに話を進める。

 

「まあ怪談的な言い回しはこれまでとしてじゃ、はらわたの種類とかぁ、位置とかぁ、形状とかぁ、まあそう言うもんを調べて学ぶことじゃな。」

 

 なるほど、と腑分けについては理解出来た。

 しかし

 

「そんな事知ってどうするんですか?」

 

 もっともな疑問を口にするブリュンヒルデ。

 

「ふむ。もっともな質問じゃ。」

 

 相当な上から目線での雫の発言に皆総じてイラっとするがいつもの事なのでスルーを決め込む。

 道順は先の脅えが取れていないのかダンマリを決め込み宵闇にいたっては未だに頭を踏まれ続けているため声を出せないでいる。

 

「それは簡単な事じゃよ。全ては医療の為! 全ては医学の進歩の為! のはずじゃ。」

 

「はぁ。それ答えになって無いです。」

 

「そうかや?」

 

 優雅な行動が先に立ち気が長そうに見える有脩だが実際の所その気の短さは幻灯館一ともいえる。

 そんな有脩が雫の焦らしの会話術に耐えられる訳もなく、誰にも知られない様に貧乏ゆすりを開始する。

 だが、その行動に一人気づく者が居た。

 有脩に後頭部を踏まれている宵闇、その人だった。

 

「で、子狐、知ってどうなるのじゃ? 妾に解る様に説明してはくれぬか。」

 

 笑顔を顔に張り付けながら有脩は雫に迫る。

 

「そ、そうじゃな。その通りじゃな。腑分けの意味! それは……切って縫って盛って削る! いや、盛って削るは違うのう。切って縫う為じゃな。」

 

「切って縫ってどうするのじゃ?」

 

「手術じゃからな。切って縫う。」

 

「ほう。してしゅじゅつとは?」

 

「切って縫うのじゃ!」

 

「ふむ。してしゅじゅつとは?」

 

「切ってぬ!」

 

 そこまで言った雫の顔面は有脩の白くて細い白魚の様な指でガッチリとホールドされていた。

 

「で、子狐。しゅじゅつ、とは?」

 

 左足で宵闇の後頭部を踏みつけ、右手で雫を拘束した不動明王もかくやと言った有脩が優しげに語りかける。

 雫は内心“やりすぎた!”と感じたがもうすでに時は遅し、だが懸命に会話を続ける。

 

「ひゅむ、ひょうひゃな! しぇしゅめぇしぇんしょな! ひはひはらわがしぇしゅめぇしゅりゅひょりおっひゃんにひいはほうがひょいはもな。(うむ。そうじゃな! 説明せんとな! しかしわらわが説明するよりおっさんに聞いた方が良いかもな。)」

 

 有脩は雫の必死の言い訳にコクリと頷き視線を宗意軒に向ける。

 宗意軒はその意を理解したのかコクリと一度頷き口を開く。

 

「そうですな、手術とは腹の中の病(やまい)を切り取って治す事の総称ですな。」

 

 全員の顔が驚きに染まる。

 

「ど、どうやってですか。」

 

 ブリュンヒルデが慌てて反応し問いかける。

 

「無論腹を切ってですな。」

 

「そんなことしたらしんじゃうよー。」

 

 芽衣も慌てて言い返す。

 その言葉に宗意軒は優しげな笑みを浮かべ芽衣のポ二テとお面で面積の狭くなった頭をなでながら。

 

「その為の技術。その為の腑分けなのじゃよ。」

 

 宗意軒のその言葉に皆納得の意を表す。

 

「成程のう。宗意軒殿の罪とはその事か?」

 

 有脩の問いに

 

「はい。儂の罪は墓あばき、遺体泥棒、腑分けでございます。」

 

「さようか。そなたの罪、この有脩が許そう。」

 

 この発言に皆の顔はポカンであった。

 その心の声は「コイツ何様だ」だ。

 しかし当事者の有脩はどこ吹く風で話を進める。

 

「それで、もう一つの罪。糞坊主共の罪とは?」

 

 宗意軒は「気分の良くない話なのですが……」と前置きした後話を始めた。

 

「儂が墓をあばき腑分けの為に連れ去った遺体は老若男女さまざまなのですが、その中で年若い少女の遺体を検分し腑分けする際異常に気が付いたのです。」

 

「異常とな。」

 

「はい。総じて年若い少女の遺体は傷み過ぎておりまして。」

 

 皆黙って頷く。

 

「痛みと言っても腐敗などでは御座らん。文字通り傷。青痣、火傷、鞭で打った様な細長い傷、それに……」

 

「それに?」

 

 有脩は続ける。

 気にするな、覚悟は出来ていると。

 宗意軒は再度頷き話を再開する。

 

「年若い少女の遺体には凌辱された後が見受けられましてな。」

 

「間違いは?」

 

「儂は医療を行う者、間違いは御座らん。」

 

 ブリュンヒルデの問いに宗意軒は断言で返す。

 

「だが、儂が最も胸が痛んだのは少女達の死因。」

 

 ゴクリと誰が発したか解らない唾を飲む音だけが聞こえる。

 宗意軒は眼光鋭く皆に視線を移した後

 

「殺されておった。皆総じて。首に掌の跡が残るほどの力で首を絞められてな。」

 

 哀れなと苦虫を噛み潰す様な表情で宗意軒は語る。

 皆の表情を確認した訳では無いが、恐らく、いや、その表情は同じであろう。

 たった一人を除いて。

 その者はスッと視線をずらした。

 まるで自分には何の関係も無いとでも言う様に。

 有脩はその人物を見つけると足早にその者の下へ駆け寄り腹を踏みつける。

 不意を突かれたその者は「ガハッ!」っと空気の抜ける様な悲鳴を上げる。

 有脩は何度も何度も踏みつけながらその者に言葉を投げつけた。

 その者は南の山での唯一の生き残り。

 ゴスッ! ゴスッ! と言う音が有脩の足もとから発せられる。

 その音に混じり有脩の怒声も響く。

 

「キサマ! キサマ! 知っておったであろう! ええ! 知っておった筈じゃよな! そうでなければそんな顔は出来んからのう!」

 

 有脩にさんざん腹を蹴られ男は意識を失うが有脩の怒りは収まらない。

 自分の元居た位置、宵闇の下に向かい怒声を浴びせる。

 

「地味娘! これが貴様らの守ろうとした雇い主の正体じゃ! お主は頭領として何をやっておったのじゃ! これは全て頭領としての貴様の責任ぞ!」

 

 宵闇は宗意軒によって告げられた言葉に愕然とする。

 嘘だと言い張る事も出来るが、今回の依頼は頭領の自分に内緒で何の関係もない幻灯館主人への狙撃など怪しい事が多すぎた。

今、告げられた言葉の方が真実味がある。

 

「わ、わたしが、私が何とかします。」

 

「ほう。お主が落とし前を付けると?」

 

「はい。」

 

 宵闇の発言に有脩は値踏みする様にじっとりとした視線で見つめ。

 

「却下。」

 

「はい?」

 

「却下じゃと言うておるのじゃ。」

 

「何故ですか!」

 

 宵闇の必死の声も有脩は届いていないのか楽しそうな声色で

 

「当たり前じゃろう。彼奴らへのお仕置きは妾が行うからじゃ。まあ、サル相共々荷物運びぐらいは手伝わしてやろう。」

 

「行くぞ。」の声と共に宵闇を引きずりながら宿となっている空家へと有脩は進む。

現代の距離にして十メートル程進んだ所で有脩は振り返り

 

「サル相早う来んか。子狐と子鴉、それとヒルデは留守番じゃ。主様を頼む。」

 

 有脩はそれだけ言うと再び宵闇を引きずりながら歩を進める。

 兼相はしばしの間茫然と今の光景を見つめていたが、これ以上遅れれば有脩からどんな折檻を受けるか解らない。

 それに気づいた途端、脱兎の如く走り出した。

 

「せわしないのう。」と呟く雫に声がかかる。

 

「あの~。」

 

「なんじゃ、たんぽぽ。」

 

 雫に話しかけた者、それは道順。

 綿埃にたんぽぽ、もはや狐姉妹は名前を呼ぶ事を放棄した様子。

 拘束され寝転がっている道順と目線が合うように雫は膝を折り言葉を返す。

 

「私も付いて言ってもいいですかね~。」

 

 道順の発言に雫は首を二度三度と傾げながら

 

「なんでじゃ?付いて行ってもいい事はないぞ。姉さまにこき使われるだけじゃ。」

 

 雫の言葉に「そうでしょうけどね~」と道順はニヘラと笑う。

 

「たんぽぽもたんぽぽで思う所もあるのじゃろうな。芽衣、縄をほどいてやるのじゃ。」

 

「いいのー?」

 

 芽衣の問いに雫は頷きで返す。

 拘束から解放された道順は幻灯館メンバーに一礼すると有脩達が向かった方向に走り出した。

 




 作中で語られた狐の怪異譚、三つの内金色の話は私の捏造です。
 だいたい白面金毛九尾を手なづける事なんてできませんしね。
 ですが白と黒の怪異譚は存在します。
 ですが少しだけ改変しています。
 その部分は、狐は後に現れるそうです。
 人々を圧制から解放した者の前に白き狐は現れ、力によって新たな国を作った者の前に黒き狐は現れるそうです。


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