織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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物語は動き出します。


骸の四

 幻灯館メンバーが宿を取っている村は南北に小高い山が存在する。

 その両山の中腹あたりに、南の山に四人、北の山に五人の者が潜み様子をうかがっていた。

 南の四人は全員男、北の五人は女が二人の男三人と言う組み合わせである。

 

「元志郎さん。本当にやるんで?」

 

 南の四人の内、一番小柄な男が傷だらけの屈強な男に話かける。

 元志郎と呼ばれた男は一度北の山へと視線を移した後

 

「当たりめえだ。俺達は頭領なら何かしてくれると思ったから孫市の元を離れたんだ!そうだろお前ら!」

 

 元志郎の言葉に小柄な男以外の二人が大きく頷く。

 

「なのにあの小娘ときたら鉄砲の腕はピカイチのくせに道理が通らぬとか志無き殺生は誇りに傷が付くとか下らねえ事ばかり言いやがって。おかげで俺達は何時まで経っても冷飯食いだ! ここらで一発当ててあいつらとはオサラバだ! そうだろ。」

 

「「そうだ! 俺達は雑賀の傭兵だ!」」

 

 小柄な男以外の二人の声に元志郎は満足げに頷き、愛用の鉄砲を準備しながら小柄な男に

 

「おめえも覚悟を決めな。村長と糞坊主の依頼をこなしてオサラバだ。」

 

 元志郎の言葉に男三人は決意を込めて黙って頷いた。

 

 

 

 

 

 

 一方北の山。

 若い女二人と壮年の男三人が小声で現状の確認を行っていた。

 

「ねえ、やみ~。」

 

「なに。それに宵闇(よいやみ)」

 

「名前の呼び方なんてこの際どうでもいいよ。」

 

「それで何?」

 

「なんかさ~おかしくない?」

 

「何が?」

 

「今回の依頼だよ~。」

 

 会話を続ける二人の女性。

 宵闇と呼ばれた女性、年の頃は十五~十七程度。

 肩甲骨辺りまで伸ばした髪を襟足辺りで一つに括った鋭い眼をした女性。

 服装は濃いめの黒にも見える藍色の小袖に同色の袴。

 対して軽い言葉遣いの少女。

 名は伊賀崎道順。

 肩までの髪を頭頂部で括ったパイナップルの様な髪形。

 大きなたれ目気味の瞳が印象的な少女。

 年は十二、三と言った所。

 二人は村を監視しながら言葉を交わす。

 

「あの人達、旅の人だよね~。」

 

「ええ、そう聞いているわ。」

 

「それなのにさ~。なんで監視なんてするの?」

 

「朝話したじゃない。あいつらが人食いのがしゃどくろと関係があるからよ。」

 

「ほんとかな~」

 

 懐疑的な道順。

 

「お坊様が仰っているのよ。間違う訳無いじゃない。」

 

「う~ん。おじさん達どうおもう~」

 

 道順は後ろに控えている男三人に話を振った。

 その中の一番年齢の高い、恐らくは五十台の男が代表して口を開く。

 

「全ては楓(かえで)。いや、宵闇様の御言葉に従うのみ。」

 

「あったま硬いな~」

 

「出て来たわ。」

 

 宵闇の言葉が問答は此処までと制する。

 北と南、両者の視線は村の中央、とある集団に注がれた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「さて、これからどうする?お前様よ。」

 

 俺はうなじに手を当て首をコキコキと鳴らしながら

 

「三佐衛門に会う方法を………」

 

 そこまで言った時、風が吹いた。

 南風が。

 普段なら良い風だと言う所だろうが……不吉な香りを連れて来た様だ。

 俺は隣に居た兼助の腹部に回し蹴りを入れ、腰を折らせると同時に声を上げる。

 

「伏せろ! 鉄砲だ!」

 

 皆は俺の言う事をすぐさま理解してくれたのか地面に伏せる。

 兼相に回し蹴りを入れた回転を利用し腰のダマスカス刀を抜きにかかる。

 体は自然に反応し頭は匂いが流れて来た方角を探す。

 僅かな火の匂いと………硝煙の香りの出所を。

 俺の視線と頭脳は即座にその場所を特定する。

 その瞬間

 

 

 “パァァン”

 

 

 発砲音が響いた。

 刹那、腰のダマスカス刀を滑らせる。

 だが、俺の行動は僅かに遅れた。

 理由は単純だった。

 刀の長さ。

 以前使用していた小太刀よりも僅かに長い刀身、それが致命的だった。

 体を神則状態に持って行ったにも関わらず僅かに遅れた。

 飛んでくる弾丸を認識しながらも弾き返す事が出来ずに軌道を逸らすのが精一杯だった。

 刀と弾丸は“キィン”と言う小さな金属音をさせながら邂逅する。

 刀は弾丸の軌道をそらし、それた弾丸は………………

 

「お前様!」

「主様!」

「ごしゅじんさま!」

「マスター!」

「大将!」

 

 

 俺の視界が赤く染まった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「小鴉(こがらす)! 人を割け!」

 

 有脩の対応は早かった。

 皆、兼相でさえ顔の左側を血で濡らす幻灯館主人に驚き注目している中、芽衣に指示を飛ばす。

 その叱咤する様な声色に刺激され芽衣は

 

「みんな! みなみのやま! おさるさんといちごちゃんはきた!」

 

 言って北の山に駆け出す。

 兼相とブリュンヒルデはお互いの瞳を一瞬だが見つめ合い芽衣の後を追って駆け出す。

 南の山へは建物の影などに潜んでいた鉢屋衆の面子が駆け出す。

 その走る速度は常識を逸していた。

 皆、自身の主人が受けた狼藉に怒りを越していたのだ。

 その光景を見つめながら有脩は立ち上がり幻灯館主人の下へ。

 自身の着ているセーラー服の胸元に付いている白いスカーフをほどきそっと血塗られた顔の左側を圧迫する。

 そして

 

「子狐、何をしておる。村の者に医者はおらぬか聞いて来ぬか。」

 

 しかし言われた雫は

 

「あ、……あう。お……おまえさま。」

 

 事を理解出来ずにいた。

 有脩は無理もないかと思いながらも。

 

「雫! 何をしておる! 早ようせぬか!」

 

 声を荒げた。

 雫は有脩の聞いた事もない厳しい声に何とか正気を取り戻し

 

「う、うむ。解ったのじゃ! お前様!少し辛抱せいよ!」

 

 言って走り出す。

 

 

 

 

 ~北の山~

 

「どう言うこと……」

 

 山の中腹で監視を続けていた宵闇は声を絞り出す。

 目の前の状況が理解出来ない。

 自分達に課せられた任務は監視のはずだ、なのに……監視対象が狙撃された。

 撃ったのは間違いなく自身の郎党。

 その事実に驚き、また……狙撃された人物にも驚愕した。

 普通なら不可能な事を目撃したからだ。

 

「何で解った? 何で弾く事が出来る?」

 

 その二言を喉の奥から絞り出すのが精一杯だった。

 隣で同じ光景を見ていた道順も

 

「すごい。神業だよ。もう少し刀が短かったら……」

 

 ポツリとそれだけ言うのが精いっぱいだった。

 だからこそ発見が遅れた。

 自分達の下へ常識外れのスピードで向かって来る影を。

 その影は四足歩行の動物の様に姿勢を低くして地面すれすれを突進する。

 山の斜面を駆け上がり木々が生い茂る様になると木の幹を踏み台にして飛ぶように一直線に向かう

 宵闇、道順、三人の男達が身を隠していた頭上の木々がガサリと音を立てる。

 宵闇が頭上を確認しようと上を向いた瞬間、自身の肩に僅かな重みを感じた。

 ぞくりと背筋に冷たい物が流れる。

 その冷たさを感じた瞬間、自分の身体は後方に叩き付けられていた。

 誰も動けない。

 いや、誰も解らなかった。

 一体何が起こったのか。

 状況を説明するとこうだった。

 芽衣は走りながら髪をほどき頭に付けていた面を被り体を神則状態に持って行く。

 お稲荷様モードで突進を続けた。

 別にお稲荷様モードになったとしても超常的な力が備わる事は無い。

 すでに神則と言う人の持てる以上の力を得ている。

 ならば何故か?

 芽衣は見られたく無かったのだ。

 自身の表情を。

 仲間達に、何より空で見ているだろう自身の父に。

 怒りで、憎しみで彩られた表情を。

 そして、宵闇達を発見すると一度頭上を通り越しUターンして背後から宵闇に裏霞を仕掛けた。

 その後の芽衣の行動も早かった。

 宵闇を地面に叩きつける瞬間、首に巻きつけた自身の足のホールドを解き宵闇のドスンと言う叩きつけられた音と同時に前方に飛ぶ。

 道順は困惑する。

 道順も忍だ。

 そして何人もの忍を見て来た。

 だからこそ解らない。

 自身の隣に居た宵闇の意識を奪った者、その者の速度は常識を逸していた。

 人はこれほどの速度を出せるのだろうか?

 答えは是であった。

 なぜなら自身の目で見たから。

 そして………

 

「えっ?」

 

 その影は自身の目の前まで来ていた。

 白面黒毛の怪異。

 それが自分の胴体めがけて突進してきた。

 避ける事は無理。

 それほどの速度。

 

「!」

 

 レスリングのタックルの要領で白面黒毛の怪異は右肩を道順の鳩尾に当てる。

 一瞬道順の息が詰まる。

 刹那、道順は自分が持ち上げられているのを意識した。

 後はもう一瞬の出来事だった。

 白面黒毛の怪異は左手で自身の顔の横にある道順の足を掴み、右手は自身の腰の位置にある道順の頭を抱え……… 真っ逆さまに地面に突き刺す。

 それだけだった。

 それで十分だった。

 道順の意識を刈り取るには。

 意識を失った道順をまるでゴミを捨てるかの様に拘束を解き白面黒毛の怪異は腰にある二本の小太刀を抜いた。

 敵はあと三人。

 白面黒毛の怪異はじろりと三人の男達へ視線を向ける。

 そして

 

 

 

「容赦しない。」

 

 

 

 一言だけ呟く。

 三人の男達は自分達の頭が一撃で意識を刈り取られた事に一時は驚愕し体が固まっていたが、すぐに持ち直し腰の刀を抜き白面黒毛の怪異に向き合う。

 白面黒毛の怪異、芽衣は刀身をギラリと輝かせると一番近くに居た男に切りかかる。

 自身の持つ最大の数を重ねた神則で。

 男の目の前で一度身体を沈めその場で左へと回転する。

 回転の遠心力を利用しながら男の脇腹へ左の小太刀を打ちつける。

 “バキッ!”と言う音と共に男は左方へ吹き飛ばされた。

 その衝撃で左の小太刀は茎を残し刀身を失う。

 それでも引く事はしない。

 二人目の男にすぐさま近づき、まるでVTRを見ている様な動きで右の小太刀を振るう。

 相違点を挙げるとすれば三つ、振るったのは右の小太刀である事と、右回転である事。

 そして、二人目の男が右に吹き飛んだ事。

 白面黒毛の怪異、芽衣は一度目と同様に砕けた刀を握りしめ三人目の男と向かい合う。

 

「お主は……いったい。」

 

 目の前の光景が信じられなかったのか、三人目の男は辛うじて言葉を絞り出す。

 が、白面黒毛の怪異はまるで声が聞こえてない様に

 

「許さない。」

 

 一歩、また一歩と三人目の男への距離をゆっくりと詰める。

 二人の間にはピンと張りつめた空気が流れる。

 

「っ!」

 

 先に我慢出来なくなったのは三人目の男だった。

 刀を上段に構え白面黒毛の怪異との距離を一気に詰め振り下ろす。

 しかし白面黒毛の怪異はバックステップでそれをかわすと柄だけになった刀を納刀すると頭上へと跳躍する。

 男の頭頂部に白面黒毛の怪異は逆立ちの状態で右手を付き体の向きを百八十度回転させ

 

 “ドン!”

 

 首筋に膝、無月を打ちこむ。

 三人目の男は前方へ打ちだされる様に倒れ込む。

 何事も無かった様に白面黒毛の怪異はその場に着地すると、脇に落ちていた男の刀を手に取る。

 柄をギュッと血が滲むほど握りしめ

 

「……ころす。……ころす。ころす。ころす。ころす、ころす、ころす、ころす、ころす、ころす、ころす、ころす、ころす!」

 

 呟きながら一歩一歩と意識を失っている者達へと歩を進める。

 コツンとつま先に何かが当たった。

 それは、意識を失った男の身体。

 白面黒毛の怪異はふらふらと体を揺らしながら手に持つ刀を振りかぶる。

 そして……感情無く振り下ろした。

 

 “キィィン!”

 

 刃先からの金属音と共に白面黒毛の怪異の肩が掴まれる。

 

「芽衣殿、もうその辺で。」

 

 背後から兼相の声が聞こえた。

 白面黒毛の怪異は正気に戻る様に声を上げる。

 

「なんで? なんでとめるの? この人たちがごしゅじんさまを……」

 

「それでもです。」

 

 芽衣の右側からも声がかかる。

凛とした冷静な声、女性の声、ブリュンヒルデだ。

 

「こいつらが何者で、なんで大将を狙ったのか、それを聞き出すまでは……」

 

「…………わかった。」

 

 言って芽衣は仮面を外した。

 

 




主人公行動不能。

幻灯館メンバーはどう行動するのか。

がしゃどくろの真実とは?

次回、お楽しみに。

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