織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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謎が謎呼ぶ三話めです。


骸の三

 次の村に到着し村長の家に挨拶を済ませた後、俺達はおのおの情報収集に向かう事にする。

 日暮れをタイムリミットとし、その後は借りた空家で情報のすり合わせをすると言う計画で。

 雫、有脩、ブリュンヒルデ組と俺、芽衣、兼相組の二班に分かれての捜索と言う事になった。

 ぶらぶらと散歩をする様に村を見回る。

 まだ日が高いせいか、村の人々は畑で盛を出す姿が見受けられた。

 その姿をぼんやりと眺めていると妙な違和感に襲われ俺は思わず声を漏らした。

 

「うん?」

 

「どうしたんです、大将?」

 

「どうしたの、ごしゅじんさま?」

 

 呟きに反応する様に兼相と芽衣が俺に声をかけて来る。

 俺は顎に手をやり首を傾げながら

 

「ああ? うん。何だかな? 妙な違和感と言うか……」

 

 芽衣と兼助は俺につられるかの様に畑で精を出す村人を見つめ首を傾げる。

 

「なあお前ら、何でも良いからあの人達で気づいた事を言ってみてくれないか。」

 

 俺の言葉に二人は不思議そうな顔をしながら

 

「畑仕事をしています。」

 

「おとこのひとがおおいね。」

 

「鍬持ってますね。」

 

「きものきれいだね。」

 

「え!」

 

 俺の驚きの声が聞こえ無かったのか兼相は

 

「なに言ってんですか芽衣殿。普通の野良着じゃあ……」

 

「良く見ろ兼相。芽衣が言っているのは質じゃあ無い。汚れの方だ。」

 

 兼相は小さく「えっ?」と声を漏らし村人を再度見つめ

 

「ホントですね。良く見ないと解りませんが汚れの質といいますか……」

 

 俺は村人を見つめながら

 

「でかしたぞ芽衣。これが突破口になるかもな。」

 

 言って芽衣の面積の狭い頭を撫でる。

 もう一班がこれに繋がる情報を持ち帰る事を期待しながら俺達三人は帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

「と、言う事があってな。」

 

「ふむ、なるほどのう。着物の汚れか………」

 

 俺の話に有脩が興味深そうに相槌を打つ。

 その表情が妙に気になり

 

「それがどうかしたのか?」

 

「うむ。妾が一番気になったのはのう………厠なんじゃよ。」

 

「厠?」

 

「うむ。この村はのう、村共有の厠が有るのじゃよ。」

 

「ほう、村共有の。」

 

 俺は感嘆の声を挙げる。

 この村には公衆便所が有ると言うのだ。

 

「しかしまたなんで?」

 

「それはじゃのうお前様よ。」

 

 俺の疑問の声に雫が反応する。

 

「何年か前にこの村では流行病が猛威を振るったそうなのじゃ。」

 

「流行病?」

 

「そうじゃ。たしか………コロリじゃったかのう。」

 

「それで?」

 

「うむ。その時村にふらりと現れた男がこの村を救ったそうなのじゃ。汚物を埋め、病にかかった者の着物を焼き隔離した。」

 

「………………。」

 

 俺は無言で頷き、雫に続きを促す。

 

「お前様よ、此処からが重要じゃ。よいか。その男は細い管で病にかかった者の身体の中に水を入れたそうなのじゃが……」

 

「点……滴。」

 

「じゃよなあ。」

 

 雫は胡坐をかきながら腕を組み頭を左右に揺らしながら問いかけて来る。

 他の者達は俺と雫の会話についていけないのかじっと俺達の言葉に耳を傾ける。

 たった一人、有脩を除いて。

 

「会ってみたいな、その男に。名は?」

 

「わらわは知らんぞ。」

 

「妾も聞いてはおらんな。村の者もそこだけはひた隠しにしておったしな。」

 

「そうか。」

 

 俺は残念だとばかりにそう言うしかなかった。

 

「私、知ってますよ。三佐衛門さんと言うそうです。」

 

 ずっと聞き役に徹していたヒルデが突然口を開いた。

 俺は一瞬言葉に詰まったが、それ以上に驚いたのは雫と有脩だ。

 

「ヒルデ! お主どこで!」

 

「苺よ! でかしたのじゃ!ようやったぞ!」

 

 ヒルデは手を頭にやり「いや~」と照れながら

 

「厠の前で子供達に聞いたんですよ。これを作ったのは誰ですか?って聞いたら」

 

「きいたら?」

 

 ヒルデの隣に座っていた芽衣が相槌を打つ。

 

「三佐衛門さんだよって。」

 

 俺は成程と一言漏らし

 

「苗字は?」

 

「えーと。確か………西村、西村三佐衛門。」

 

「何だって!」

 

 急に挙げた俺の大声に全員がビクリと体を硬くした。

 

「その青年、河内から来た者じゃないか?」

 

「そこまでは私も………子供達から聞いた話ですし。」

 

「そうだな。」

 

 そう言って俺は諦めかけたが

 

「確かそうじゃったはずじゃな。村の雀(女衆)がその様な事を言うておった。」

 

 有脩から助け船が出される。

 俺の中で今までの事がパズルのピースの様にカチカチとはめ込まれて行く。

 しかし物事はそう簡単には行かなかった。

 

「なあお前様よ。考え中悪いのじゃが………青年では無く、おっさんじゃそうじゃぞ。」

 

「へ?」

 

「おっさんじゃ。」

 

「誰が?」

 

「三佐衛門が。」

 

「何処の?」

 

「河内出身の西村三佐衛門がじゃ!」

 

 俺の問いにイラついたのか雫が俺の耳を引っ張りながら大声で怒鳴る。

 皆はいつもの事と平静でいるが唯一有脩だけは「成程、こう言う対応をすればよいのじゃな」と妙に感心していた。

 しかし、西村三佐衛門が俺の思い付く人物だとすると………年を取り過ぎている。

 それに………点滴。

 あれは近年の技術だ。

 いくらなんでも早すぎる。

 いや、もしかしたら俺の様な人間が………

 

「………様! ……え様! お前様!」

 

「え?」

 

「何をボーっとしておる。」

 

 俺、ボーっとしてたのか。

 どうやら思考の海にどっぷりと浸かって居た様だ。

 俺は「すまんな」と雫に礼を言い

 

「ますます会いたくなったな。」

 

 悪党の笑みと共に宣言する様に言い切った。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「と、言う事で御座いますが……いかがなさいましょうか。僧正様。」

 

 ここは幻灯館メンバーが先日訪れた村に隣接する山の上の寺。

 その寺の蝋燭が一本だけ立てられた薄暗い本堂に三人の影が揺らぐ。

 一人は村の村長、小柄な体躯に脂ぎった顔をした男。

 一人は先ほど僧正と呼ばれた男。

 年の頃は四十過ぎくらいだろうか、でっぷりとした肥満体形に僧らしく頭を剃り上げている。

 もう一人は女。

 女は一切の身を纏う物を付けておらず裸で床に転がっていた。

 眼は開いては居るのだが、その瞳からは何の感情も感じ取ることはできず、健康的に日焼けした肌には腹や腕、いや奇麗な部分を見つけるのが困難なほどの青あざや火傷の後が見受けられる。

 僧正と呼ばれた男は全裸に打ちかけを羽織っただけの恰好で寺の本尊であろう仏像の前に胡坐をかき酒を一口含むと村長に向け口を開いた。

 

「この女にも飽きた。村長(むらおさ)よ、明日にでも代わりの女を用意せよ。」

 

 その言葉に村長は困惑する。

 自分は先日自分の所に来てがしゃどくろの事を聞いて行った男の事を相談に来たのにその相談相手の言葉がこれだ。

 村長は表情は崩さなかったが胸の中ではどうするべきかと思案する。

 先ほどの女、この女はまだ少女と言うべき年齢の者であり、村長が治める村の住人でもあった。

 僧正と呼ばれた男は気に入った少女がいれば少女が山に入った時を狙いさらっては凌辱の限りを尽くしていた。

 犯し傷つけ精神を壊し最後には命を奪う、そう言う性的志向の持ち主だった。

 その尻拭いと女の山への誘導を毎度させられていたのが件の村長だった。

 僧正と呼ばれた男は近隣に寺社が無い事を良い事に病人への祈祷やインチキな札を販売する事で巨額の金を得ていた。

 村長はそのおこぼれを貰っていたため尻拭いなども喜んでやっている。

 だが、ここ最近の僧正と呼ばれた男の行動は日に日に悪化の一途をたどっていた。

 暴力性が増しているのだ。

 少女を汚す事よりも傷つける方に喜びの焦点が移ったかの様に。

 村長は頭を悩ませる。

 しかし小悪党と言っても一つの村を治める者、頭のそろばんを大急ぎではじき、一つの妙案を導く。

 

「僧正様。村の娘ではありませぬが、飛び切りの娘らがおりますぞ。」

 

「ん?」

 

 村長の言葉に僧正と呼ばれた男は食いついて来た様だ。

 

「先ほどのお話の続きなのですが………」

 

 村長は再度村に訪れた謎の者達の事を話しだした。

 

「成程。その男の口を封じれば……」

 

「さようで御座います。」

 

 僧正と呼ばれた男はニヤリと蛙の様な笑みを浮かべ

 

「村長、雑賀のはぐれ者共を呼べ。首領はいらん。」

 

「承知いたしました。」

 




いかがでしたか?

お盆休みなので間短めの投稿です。
悪役も登場して物語は核心へ。
雑賀と言っていますが、あの尻神様ではありません。

では次回で。

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