織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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伊賀への旅へ


第四話 主と狐と仁なる骸
骸の一


 あの厄日から十四日後、現代風に言えば二週間後、今回の旅へと赴くメンツは雫里の里の入口に集合していた。

 旅のメンバーは俺、雫、芽衣、有脩、ブリュンヒルデ、兼相、そしてここにはいないが鉢屋衆から一班が護衛にと言った具合である。

 梅雨の忘れ物と言った感じのじめじめした空気も消え去り、季節はもう夏と言った今日この頃、旅支度を終えた面々の恰好もそれなりに涼しげであったり無かったり。

 雫は半ズボンにタンクトップ、麦わら帽子にランドセルと言った夏休みの登校日スタイル。

 芽衣は濃いめの藍色が映える小袖姿、しかし丈はミニスカート丈、少し屈めば下着が見えてしまうが元気な芽衣には片ポ二テと狐の鉄面と合わせると祭の縁日を楽しんでいる少女に見える。

 有脩はお気に入りなのか黒のセーラー服、いわゆる冬セラに黒く染めた絹で出来たストッキングと革細工職人に特注したローファーと言うお嬢様学校指定の制服見本の様ないでたち。

 ブリュンヒルデは大正浪漫もかくやと言った桜色の小袖に小豆色の袴を合わせその上から以前使用していた胸当てとスカート状の腰甲冑、腰の左側にはロトの剣を差し右側にはガントレットが下げられている。

 そして足元は有脩同様特注品の編み上げブーツ。

 兼相は以前と同様色落ちし青っぽくなった上着に藍色の袴を履きトレードマークであるかの様な色が抜け白っぽく変色した毛皮を肩に羽織っている。

 準備万端?と言う面々の中で一番旅と言う言葉が似合うのが兼相だ。

 先に述べた服装の他に現在の兼助には見どころが一つあった。

 それは彼の背後、背負っている物だ。

 椅子を背負っていると言えば良いのだろうか、いや違う、この椅子には足が無い。

 一番近い物を上げよと言うならば座椅子であろうか。

 なんでそんな物を背負っているのかと言う疑問については感の良い者ならばもう気付いているだろう。

 兼相の背負っている座椅子には今回同行する女性陣、ひいては俺の荷物がくくりつけられている。

 ハッキリ言えば荷物持ちである。

 最初、荷物持ちには弥助が立候補していたのだが、季節は夏と言う事で厚着の弥助にはキツかろうと言う優しさから兼相に丸投げした次第である。

 そんな旅の連れをぐるりと見渡し俺は

 

「じゃあ、行ってくる。」

 

 と見送りに来ていた源内、美奈都、花梨、モルジアナに声をかける。

 その瞬間、俺の胸にドスンと突っ込んで来る者がいた。

 

「だんだざま~~~~。」

 

 源内だ。

 それも大泣き状態で。

 源内は俺の胸に顔を埋めたまましゃくり上げる様に泣いている。

 俺はそっと左手で源内の腰を抱き右手で頭を優しく撫で上げ

 

「お前達にしか頼めない事だ。留守の間、しっかり頼む。」

 

 努めて柔らかく言い含める。

 何時もならば旅となると誰が行かずとも源内は同行を希望するのだが今回は別だ。

 雫里の里近くの山、その山の麓に里の子供達命名の“黄泉ヶ沼”と言う沼がある。

 子供達によるとその沼は泥で出来た様な沼で水面?は黒く物凄い異臭を放っているらしい。

 俺はその話を聞いた時ある閃きがあった。

 俺の閃きが正しければアレが作れるはずだ。

 機構面は美奈都を筆頭に鍛冶場責任者“国友一貫斉”が選んだ精鋭に任せてある。

後は中身だけ。

 と言う事で諸国を回り知識の豊富なモルジアナをリーダーとし知識欲旺盛な源内を副リーダーにした黄泉ヶ沼調査隊を編成した訳だが、その調査の日程が今回の旅の日程と見事に重なった為、源内は不参加となったしだいである。

 ちなみに花梨は源内に「荷物持ちはどうする?兼相か?弥助か?」と聞いた所

 

 

 

「いえ。そう言うのは花梨さんで。」

 

 

 

 と、しれっとした顔で返された。

 この二人、同い年で良く一緒に居る所を見かけるのだが。

 源内に言わせると花梨はおだてれば木に登る性格なのだそうだ。

 花梨に言わせれば源内は「あいつが白いのは見かけだけだ!」だそうだ。

 おっと、話がそれたな。

 俺の胸で泣いている源内を何とかなだめ、俺達は旅出った。

 後ろから「行ってらっしゃいませで御座いますですのよー」と言うモルジアナの呑気な声と源内と花梨が何やら言い争う声が聞こえたが後者に関してはいつもの事などで気にしない。

 さて、伊賀に向けての旅はこうして始まった。

 




いかがでしたか?

長らくお待たせしました。
新たな旅への始まりです。

今までと比べると少々長くなりますが、お付き合いください。

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