織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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番外一、終了です。


其の三

 勝家は美奈都から本を受け取りタイトル、表題を確認した後

 

「なあ、あまぞねすってなんだ?」

 

 最初の疑問を口にする。

 

「うーん。私も詳しくは無いんだけど、あまぞねすっていうのはね、その本によると女の人だけの部族で戦いが得意な人達なんだって。」

 

「へーえ。あたし達みたいな姫武将なのか。」

 

「ちょっと違うけどそんな感じかな。」

 

「それで、あたしの甲冑とこの本が何か関係があるのか?」

 

 もはや本を読む気も無い勝家。

 しかしこのような態度は幼馴染のちびっこ忍者でなれっこの美奈都は平然と話を進める。

 

「あのね、その本の真ん中へんに挿絵があるんだけど、それなら苦しくないかなって。」

 

「ふーん、どれどれ。」

 

 パラパラとページをめくる勝家。

 

「あ!これか?」

 

 目当てのページを見つけ、そのページを美奈都と犬千代に見える様に開く。

 

「あっ!そうです。これです。」

 

「なんか奇天烈。」

 

 満面の笑みの美奈都と若干引き気味の犬千代。

 まあ、犬千代が引き気味なのも仕方が無い事だろう。

 挿絵に書いてあった鎧は日ノ本の甲冑とは全く違う物だった。

 鉄の胸当てと言えば聞こえがいいが、実際のデザインは鉄で出来た女性の上半身。

 当事者の勝家もやはり若干引いていた。

 だが美奈都も幻灯館の一味、口のうまさや人心の誘導ならばお手の物だ。

 

「六ちゃん、確かに意匠は少々奇抜ですけど、素材が全部鉄ですから防御力は通常の甲冑と比べると格段に上がりますよ。それに、六ちゃん用に一から造るわけですから六ちゃんの胸の大きさにも合わせられますから動きの制限や苦しさも無いですよ。」

 

「うん。まあそうだけどさ……」

 

 美奈都の言う事がもっともなだけに強く否定出来ない勝家。

 その様子を見て一気に追い込みをかける美奈都。

 

「それに胸当ての部分だけですから、他の部分は日ノ本の甲冑が使えます、たぶんそんなに変な意匠にはならないと思いますよ。」

 

「どうしようか。どう思う犬。」

 

「さあ。」

 

 勝家は犬千代に助言を求めるが、全く興味の無い返事を犬千代は返す。

 

「まあ、騙されたと思って一度造ってみてはどうです?」

 

 美奈都は最後のたたみ込みに入る。

 

「そうだなぁ。じゃあ頼もうかな。」

 

 勝家がついに折れた。

 

「はい!頼まれました。」

 

 と、言葉では親切を装うが腹の中では他人のお金で自分の趣味、“未知なる物を創る”を満足させられるのだから美奈都にとってこれ以上の上客はいない。

 満面の笑みで毎度あり~と薄ら笑いを浮かべている事だろう。

 

「じゃあ、いつでもいいからもう一度来てくれるかな?採寸の準備とかしとくから。」

 

「ああ、わかった。あ!もう一つ相談があった。」

 

「なんですか?」

 

「槍の穂先なんだけど。」

 

「それじゃあ採寸の時に、いつも使っている槍も一緒に持ってきて下さい。細かい事はその時に。」

 

「わかった。」

 

 勝家との話は次の機会に続くと美奈都は犬千代に視線を向ける。

 

「それで犬千代ちゃんはいつもの用事かな。」

 

 聞かれた犬千代はコクリと頷き

 

「そう。」

 

 簡潔に答える。

 

「それじゃあ行きましょうか。大変そうだからお手伝いしますよ。」

 

「それほどでもない。」

 

「そうですか?大人二人を連れ帰るのは大変だと思いますよ。」

 

「………………二人?」

 

 美奈都の言葉に犬千代は不思議そうな顔をする。

 

「年寄り一人のはず。」

 

 犬千代は長秀に聞かされた情報を美奈都に確認する。

 だが、美奈都の答えは少々違う物であった。

 

「最初はそうでしたねぇ。でもお昼過ぎくらいに森様がいらしてましたよ。」

 

 美奈都の言葉に犬千代の顔は見る見る青ざめて行く。

 そして

 

「最悪。……勝家、手伝ってくれる?」

 

「何がだ?」

 

「もしかして聞いてなかった?」

 

 言われた勝家は頭を掻きながら申し訳なさそうに

 

「ごめん。ちょっと違う事考えてた。もう一回言ってくれるか?」

 

 犬千代は複雑な表情をしつつ

 

「最初から?」

 

「ああ、頼む。」

 

 犬千代は覚悟を決めたかの様に一旦深呼吸をし

 

 

「いいですか!御家老がまたしても雫里の里へ出かけて行きました。ここの処、三日と開けずにです。これが仕事なら満点ですが、………毎度毎度飲んだくれて……べろんべろんになって……里の方におぶってもらって帰ってくる……織田家の家老として八点です!いえ二点です!万千代は何をしているんだとあの御方に思われたら私はお嫁に行く時にどんな顔をしたらいいか!こんな事は零点以下です!!そこで前田犬千代!あなたに密命を下します!御家老、平手政秀殿を雫里の里から連行、いえ、連れ帰って来て下さい。いいですね。今まで何度も行って来た事ですから大丈夫と思いますが。と。」

 

 

「犬!お前………万千代の物まねうまいな!」

 

 勝家の方向違いな感想に犬千代は一言「そう?」と返事をし説明を続ける。

 

「酔っぱらいは年寄り一人だと言われてたのに………もう一人増えた。」

 

「一人くらいなら。あたしが手伝えばこっちも二人だし。」

 

 勝家のもっともな意見に犬千代はうんざりした表情で

 

「勝家は知らないから。………年寄りは泣き上戸。」

 

「へえー。でも、泣き上戸くらいなら……なあ。」

 

 そう言って勝家は美奈都に意見を求める。

 しかし美奈都の表情は勝家の想像とは違っていた。

 犬千代と同様、うんざりした表情をし、おまけの溜息までついて

 

「六ちゃんは知らないだろうけど………平手様の泣き上戸はしつこいんだよ。」

 

「しつこい?」

 

「そう。こないだは犬千代が元気に育ったって言って一刻の間ずっと犬千代に抱きついて泣いてた。」

 

 犬千代は思い出すのもめんどくさいと言った表情で語る。

 その表情を同情の目で勝家は見つめながら

 

「まあ、いざとなったら腹に一発いれれば………なあ犬。」

 

 勝家の発言に犬千代はコクリと頷き

 

「この前犬千代もやった。でも、今回は違う。」

 

「なんで?」

 

「森様がいる。」

 

「森様?森可成(もりよしなり)殿か?」

 

 犬千代は再びコクリと頷き

 

「森様は暴れ上戸。」

 

「暴れ上戸―!」

 

 勝家は犬千代の発言に驚きつつ美奈都に

 

「なあ、なにか武器は………」

 

「六ちゃん、それやったら刃傷沙汰になっちゃうからお勧め出来ないかな。」

 

 勝家の物騒な発言に犬千代は覚悟を決めた表情で

 

「勝家が森様を羽交い絞めにして、その隙に犬千代が……」

 

「……それしか無いか。」

 

「……たぶん。これが最善。」

 

「……よし!それで行こう!」

 

 作戦が決まり、決意を新たに最大の敵が待つ魔窟へと歩き出す。

 お供の美奈都を連れて。

 

 

 

~魔窟(幻灯館店主の屋敷)~

 

「相手は魔物、覚悟は良いか?」

 

「大丈夫。お犬様が一番強い。」

 

 悲壮な決意を決める二人を見つめる美奈都は

 

「うわー、大丈夫かな?なんかとんちんかんな方向に行ってるけど。」

 

 聞こえない様に小声でつぶやく。

 聞こえていない勝家は真剣な表情で

 

「美奈都、危ないから下がっていろ。犬、行くぞ。」

 

「おう。」

 

 言って屋敷に入って行った。

 暫くの間、屋敷からは騒々しい音が響いていたが四半刻程でと止まり犬千代が出て来た。

 その表情は疲れ切っている。

 一体、屋敷の中でどれだけの死闘があったと言うのだろうか。

 その疲れ切った犬千代の顔を見て美奈都は言葉が出ない。

 その犬千代から声がかかる。

 

「………美奈都。」

 

「………はい。」

 

 緊張感の中でゆっくりと返事をする美奈都。

 一体犬千代は何を語るのか。

 美奈都は不安の中で次の言葉を待つ。

 

「………美奈都、………大八車、貸してくれる?」

 

「へ?」

 

「………大八車、貸してくれる?」

 

「大八車?なんで?」

 

 犬千代はゆっくりと目を閉じ、悲しみと苦渋の混じった声で

 

「………やり過ぎた。」

 

 一言だけつぶやいた。

 その一言で美奈都は全てを理解した。

「 待っててね!」の一言を残し、美奈都は大八車がある納屋へと駆け出して行く。

 大八車を引きながら戻って来た美奈都の目に映った物は、関節があらぬ方向にねじ曲がり、もはや息をするだけの物体と化した平手政秀と森可成、その前で肩で息をしながら背中に“天”の文字を背負っていそうな柴田勝家、屍と化した二人を木の枝でツンツンとつついている犬千代の姿だった。

 勝家と犬千代の二人は大八車の到着をまって無言で屍二体を積み込むと美奈都に向き

 

「世話をかけたな。」

 

「美奈都、ありがとう。」

 

 丁寧に礼を述べ、清州城へと帰って行った。

 二人と二体を乗せた大八車が見えなくなるまで見送った美奈都は

 

「大変な一日だったなぁ。」

 

 ぽつりとつぶやいた。

 

「ホントになぁ。」

 

「まあのう。」

 

「え!」

 

 美奈都は後から聞こえた声に驚き振り返る。

 そこに居たのは

 

「しっかし、六が使っていた技、あれは何だ?」

 

「うん?あれかや?あれはのう、ジャベと言うものじゃな。」

 

「メキシコの間接技か………。教えたのはお前か?」

 

「まあの。堺に行く前に清州城の三の丸長屋での。」

 

「ほう。」

 

 まったく緊張感の無い、幻灯館主人と自称その嫁、雫である。

 

「い!五十鈴さん!」

 

「おう、ただいま。」

 

 美奈都は驚きのあまり言葉が出てこない。

 だが、何とか絞り出す。

 

「いつ戻って来たの!?」

 

「ついさっきだ。源内と芽衣はお前に会いに鍛冶場へ行ったぞ。」

 

「あ、そうなんだ。入れ違いになっちゃたな。………お帰りなさい、五十鈴さん、雫ちゃん。」

 

「「ただいま、美奈都。」」

 

 言って三人は穏やかに笑みを浮かべる。

 だが、一瞬後に幻灯館主人の顔つきが変わり、自身の背後に向かって声をかける。

 

「で!お前は何をコソコソとしているんだ又兵衛。」

 

「ひぃ!」

 

 幻灯館主人、雫、美奈都が談笑する後を手拭いでほっかむりした又兵衛が黙って通り過ぎようとした所を見つかった訳だ。

 

「しばらく見ん間に随分とそっけなくなったもんだな、又兵衛。いや、ジムカスタム。」

 

「それはやめて下さい!」

 

 わざと意地悪な言い方をする幻灯館主人にほっかむりしたまま涙目で抗議する又兵衛。

 幻灯館主人は「ふむ」と一息つき

 

「どうでもいいが、取りあえず手ぬぐいを取れ。」

 

「いやです!」

 

「取れ。」

 

「いやです!」

 

「と・れ。」

 

「い・や・で・す!」

 

 どうどう巡りの言い合いをする幻灯館主人と又兵衛。

 その言い争いが又兵衛に一瞬の隙を作った。

 その隙を突き我らがやんちゃ姫雫ちゃんが突く。

 

「うりゃ!」

 

 背後から又兵衛の手ぬぐいを奪い去る。

 手ぬぐいの下からは………………………前髪は眉毛のはるか上でまっすぐに切られ、後はショートカットな又兵衛の新たな髪形が姿を現す。

 難しく考える事は無い。

 又兵衛の散髪は見事に失敗した。

 新たな髪形を言い表せばヘルメット。

 その二つだ。

 

「………又兵衛。」

 

「………お主。」

 

「………又ちゃん。」

 

 三人から憐みの視線を向けられる又兵衛。

 又兵衛は三人の視線から逃げる様に体をひねりながら

 

「あっ、あのっ、これは………」

 

 何か言い繕おうと又兵衛はするが言葉が出ない。

 

「なんじゃ?聞いてやるからゆっくりと話せ。ボクッ子涙目ヘルメット。」

 

「いやー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 又兵衛の絶叫が里に響き渡る。

 幻灯館主人はため息と共に僅かな笑みを浮かべ。

 今日も雫里の里は事もなし、と締めくくる。

 その頃清州城では、万千代が説教に勤しんでいたが、それはまた別のお話。

 




いかがでしたか?

楽しんでいただけると幸いです。
次話のキーワードは剣、聖書、アラビアンナイト、就活です。


感想お待ちしております。

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