織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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最新話始まりです。


番外一 槍の又座とヘルメット
其の一


~清州城~

 清州城本丸の廊下を一人の少女が歩いていた。

 年の頃は十歳になったばかりだろうか、背も低く少女と言うよりも幼女と言った方がピッタリとくる容姿だ。

 この幼女、いや本人の名誉の為に少女と言おう。

 この少女、名は前田犬千代と言い、織田の姫君である吉姫の遊び仲間でもある。

 普段ならまだ元服もしていない犬千代は清州城本丸には用が無い、しかしこの度の登城には訳があった。

 

「時間ピッタリ。前田犬千代九十点です。」

 

 犬千代を呼び止めたのは点数お姉さんこと元服し名を丹羽長秀と改めた万千代だ。

 

「なんで九十点?五郎左。」

 

 九十点だったのがよほど不満だったのか犬千代は抑揚の無い話し方で言う。

 

「五郎左はやめなさい0点です。十点足りないのは誰にも見つからない様にと言った事が守れなかったからです。」

 

 犬千代は長秀にそうきつく言われていたにも関わらず皆に挨拶をしながら此処まで来ていた。

 

「なんで見つかっちゃダメ?五点の女。」

 

「その呼び名は0点以下です!」

 

 長秀は持っていた扇子で犬千代の頭をピシャリと叩きながら言う。

 丹羽長秀、通称五郎左。

 以前とある男と出会い発病した点数癖が最近悪化の一途をたどり、周りに居る全ての人に点数をつけ出した。

 それを嫌がった一部の者達が可愛くないと嫌っている五郎左と言う通称をもじり万千代と言う幼名を引き合いに出し“万点娘が五点の女に落ちぶれた”と揶揄し出したのだ。

 

「あなたが一人で本丸まで来たら姫様と何かすると思われるでしょ。」

 

「なるほど。でも小言が多い。長秀は結婚出来ない女。」

 

 長秀は驚愕のあまり、二歩三歩と後ずさりし

 

「なっ!そんな訳はありません!二点です!いえ、0点です!私にはこの愛らしいリボンと素晴らしい採点術を授けてくれた殿方がいます!解りましたか!?」

 

「ふーん。でも、はた迷惑な男。」

 

 長秀はコホンと一つ咳払いをし、要件の事ですがと話し始めた。

 話を聞いた犬千代はため息と共に小さく頷き、わかったと言う一言を残し清州城を後にした。

 

 

 

 

~清州の街 大通り~

 昼の賑わいが一段落し夕方の賑わいまでのわずかな時間、人がまばらな大通りを前田犬千代は目的地を目指し歩いていた。

 そんな犬千代に声をかける物が居た。

 

「おーい!おーい犬!待てってば!」

 

 その声に気づいた犬千代は歩みを止めて振り向く。

 振り向いた視線の先に居たのは

 

「勝家どうしたの?」

 

 長秀と同じように最近元服し名を柴田勝家と改めた六だ。

 

「ん?いや別に。見かけたから声をかけただけだけど。何か用事か?」

 

 犬千代は勝家のその言葉に“迷惑な”とでも言いたそうな表情で

 

「おつかい。」

 

「お使い?誰の?」

 

「長秀。」

 

「万千代の?どんな?」

 

「ないしょ。」

 

「どこへ?」

 

「雫里の里(しずりのさと)。」

 

「バラして良いのか!?」

 

 勝家の驚きに犬千代は首を傾げながら少し考えた後

 

「だいじょうぶ。そこまでは止められてない。」

 

 そう言い切った。

 

「そうか!それなら良いんだけど……」

 

 どこかほっとした様な口調で言う勝家。

 その勝家に対して今度は犬千代が質問する。

 

「勝家は?」

 

「えっ!あたしか?あたしはちょっと幻灯館に……」

 

「男?」

 

「なっ!ち、違うよ!そりゃあ美津里さんは居るかなぁ……とかちょっとは期待しているけど……」

 

「ふーん。」

 

 自爆気味な発言をする勝家に興味無さげな犬千代。

 

「じゃあ、おっぱい?」

 

 犬千代は最近急成長中の勝家のおっぱいに人差し指をむにゅんと突き刺しながら言う。

 

「わっ!バカ!なにすんだよ!」

 

 勝家は自身の大きく育った胸を両腕で隠しながら真っ赤になって言葉を続ける。

 

「胸の事はいいんだ!……あれ?違うか?胸も関係あるのか?どう思う。」

 

 問いかける勝家。

 しかし問われた犬千代には何の事かさっぱりだった。

 

「何?解らない。」

 

 首を傾げながら素直な感想を言う。

 言われた勝家は「解らないか?」と首を傾げる。

 大通りの真ん中で向き合った二人。

 二人の頭は「解らないか?」「解らない。」と言う会話のたびに右~左、左~右と揺れている。

 そんな怪しい行動をする二人を見つめる者がいた。

 浅黄色の着物を着、藍色の袴を履き、肩甲骨辺りまで伸ばした髪を首筋辺りで一つにまとめた容姿。

 美人か?と尋ねられれば確かに美人なのだが、どこが魅力的か?と尋ねられると首をひねってしまう。

 これと言って特徴の無い少女。

 先日、別府の港で世話になっている店の主人から別れ際にジムカスタムと言うあだ名をちょうだいした少女。

 後藤又兵衛その人である。

 大通りの端から中央にいる二人、いや犬千代を見ながら何やら独り言をつぶやいている。

 

「犬千代さんですね。どうしましょう?隣の方は誰でしょう?話しかけてあんた誰?なんて言われたら僕……。でも、知らん顔で通り過ぎるのも……。いや!当たって砕けろです!でも……砕けたくないですぅ。………ここは根性で!」

 

 ようやく又兵衛は一歩を踏み出した。

 

「こ、こんにちは犬千代さん。」

 

 恐る恐ると言った感じで話かける。

 若干だが腰も引けている様だ。

 呼びかけられた犬千代は勝家の的を射ない話に疲れていたのか、すぐに振り向いた。

 そして

 

「あ。じむかすたむ、こんにちは。」

 

 ぺこりと頭を下げる。

 

「その呼び方は止めてください!なんでか解りませんがみじめな気持になります!」

 

 間を置かずに抗議の声が返ってきた。

 犬千代は少し考えた後

 

「わかった。こんにちは、僕っ娘涙目。」

 

「誰に聞いたんですか!」

 

 またしても抗議の声だ。

 そして涙目である。

 犬千代は再び考えた後

 

「美奈都。」

 

 あっさりと犯人を暴露した。

 

「僕の名前は又兵衛です!覚えて下さい犬千代さん!」

 

「わかった。なるべく覚える。」

 

「最近、頻繁に会っているじゃないですか!」

 

 などと二人の会話が続く。

 ついていけないのは勝家一人。

 今度は勝家が恐る恐る犬千代に問いかけた。

 

「お、おい犬。この人誰だ?」

 

 聞かれた犬千代は一度勝家の方を振り向き、その後又兵衛を見る。

 どうやら又兵衛も同じ気持ちの様だった。

 犬千代はため息こそ吐かなかったが、傍から見てもめんどくさそうな顔で

 

「自己紹介は自分で。」

 

 紹介役を放棄した。

 

「犬!」

 

「犬千代さん!」

 

 両側から抗議の声が挙がる。

 ステレオで文句を言われるのはたまった物では無い犬千代は、しぶしぶ紹介を開始した。

 

「柴田勝家。おっぱい大きい、むかつく。」

 

「後藤又兵衛。特徴が無いのが特徴。」

 

「「おい!!!」」

 

 今度はぴったりと息の合った抗議の声が挙がる。

 犬千代は今度こそため息をつき

 

「こっち柴田勝家。織田家の姫武将。」

 

「こっちは後藤又兵衛。雫里の里の人。」

 

 ちゃんと紹介をした。

 勝家と又兵衛はお互いに初めましてと会釈をする。

 しかし勝家はまだ頭を捻っている。

 犬千代はそれに気づき

 

「なに?」

 

「あっ。いや。あのな。」

 

「なに?」

 

 勝家は恥ずかしそうに身を縮め上目遣いでと言っても勝家が一番背が高いので見降ろす様になってしまっているが、気持ち的には上目遣いで

 

「今さらだけどさ、雫里の里ってどこだ?」

 

 勝家の質問に、犬千代はキョトンとした表情を浮かべ

 

「知らない?」

 

 犬千代の問いに勝家は「ああ」と腕を組みながら言う。

 

「じゃあ、一緒に行く?」

 

「いいのか!?万千代に叱られないか?」

 

「大丈夫。誰かと一緒に行っちゃいけないって言われて無い。」

 

 勝家は腕を組んだまま目を閉じ、少し考え

 

「うーん。でもあたし幻灯館に用があるしなー。」

 

「何の用なんですか勝家さん。」

 

 又兵衛が会話に加わる。

 勝家は犬千代と又兵衛に顔を近づけ小声で語りだした。

 

「あのな、最近胸が大きくなってさ、甲冑を着ると苦しくってさ……。それと、槍の穂先の相談かな。」

 

「自慢?むかつく。」

 

「そう言う御用ですか。」

 

 心情を吐露する犬千代と素直に納得する又兵衛。

 又兵衛はしばしの沈黙の後

 

「それなら里へ行く事をお勧めしますよ。美奈都さんなら相談に乗ってくれますよ。ねっ、犬千代さん。」

 

 機嫌良さげに勝家に言う。

 同意を求められた犬千代は

 

「たぶん。」

 

 と返す。

 混乱したのは勝家だ、またしても知らない人物が登場したのだから。

 

「あのー。その人、誰?」

 

 勝家の素朴すぎる質問。

 それに対して犬千代は

 

「会えば解る。」

 

 それだけだった。

 勝家が同行する事があやふやの内に決まり、犬千代は話題を変える。

 

「又兵衛も行く?」

 

「いえ、僕はこの後用事があるんですよ。」

 

 嬉しそうにそう話す又兵衛。

 

「用事?」

 

「はい!僕はこの後髪結いに行くんですよ。」

 

「へー。髪結いかぁ。どんな感じにするんだ。」

 

 勝家が興味を示す。

 

「はい!源内殿の様に清楚で、美奈都さんの様に元気良くです!これでもう特徴が無いのが特徴だなんて言わせませんよ!」

 

「がんばって。」

 

 興味が無いのか犬千代は当たり障りの無い言葉をかけた。

 しかし薔薇色の変身が待っていると信じて疑わない又兵衛は

 

「はい!がむぼります!それでは!」

 

 テンションが上がりすぎて噛みながら答え、言うが早いか走り出した。

 それを立ちすくしたまま見送る二人。

 犬千代は又兵衛の姿が視界から消えるまで見送った後、勝家に声をかける。

 

「じゃあ、しゅっぱつ。」

 

「あ、ああ。」

 

 二人は連れ立って歩き始めた。

 ……

 ……

 ……

 はずだったが。

 

「なあ犬。」

 

「なに?」

 

「源内って誰だ?」

 

「白くて頭の良いお姉さん、でもお腹は割と黒い。会えば解る。」

 

「そっか。」

 

「あ!今は居ない。」

 

「そっか。」

 

「うん。」

 

 ……

 ……

 ……

 

「なあ犬。」

 

「なに?」

 

「雫里の里ってどんなんだ?」

 

「行けば解る。」

 

「そっか。」

 

「うん。」

 

 ……

 ……

 ……

 

「なあ犬。」

 

「なに?」

 

「どんな人達がいるんだ?」

 

「………………奇天烈。」

 

「そっか。」

 

「うん。」

 




いかがでしたか?

 番外となっていますが、このお話しの番外は、あるお話しの裏と言う意味で使っています。
 このお話しは、前回の美濃偏の裏話となっています。
 コメディ寄りのお話しになっておりますが、皆様が楽しんでいただけると幸いです。


感想お待ちしております。

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