織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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源内、旦那様依存性発病中。
そして、ヤツがはっちゃけます。



其の七

「…………うんっ。」

 

「目が覚めたか?」

 

 妾は布団で横たわるヒルデを見下ろしながら声をかける。

 

「はい、心配をかけました。五十鈴殿達は?」

 

「五十鈴殿はまだ寝ておる。兼相の話では、お主との決闘の中で五十鈴殿が使っておった体術は、体力はもとより精神力をかなり消耗するらしくてな。それに怪我の方も酷くてな。」

 

「そう……ですか。兼相殿は?」

 

「あ奴は旅の連れを呼びに行っておる。もうじき帰って来るであろう。」

 

「そうですか。」

 

 ヒルデはそう言って再び眠りにつく。

 妾は邪魔せぬよう静かにヒルデの部屋を後にした。

 次の日にはまだ足元がふらつきはするがヒルデは起き上がれる様になっていた。

 しかし五十鈴殿はまだ目を覚ましてはいない。

 妾とヒルデは五十鈴殿の横たわる布団の横に正座し彼が目覚めるのを祈っていた。

 その姿勢のままどれほどの時が経っただろうか、庵の外がやけに騒がしくなった。

 

「落ち着くのじゃ、白ちゃん!」

 

「ななちゃん!」

 

「もう!落ち着くじゃんよう!」

 

「だって!旦那様が!」

 

「源内殿、もう会えますから、少し落ち着いて。」

 

「みんなは旦那様の事心配じゃないの!」

 

「「「心配に決まってる!」」」

 

 どうやら兼相が連れを連れて来たようじゃな。

 騒がしい連中じゃ。

 しかし、眠っておる五十鈴殿を目の前にしたら、どう言う行動を取るか。

 少々目を配っておかねばならぬかもな。

 

 

“パシィィィィィン!”

 

 

 やってしまったか。

 妾との挨拶もそこそこに五十鈴殿の下へ少女達は駆けつけていった。

 その直後にこの音じゃよ。

 妾は頭を抱えつつ五十鈴殿が眠る部屋に向かう。

 部屋に入り目にしたのは、少女達の中で一番背の高い白い少女がヒルデに平手打ちをしておる光景じゃった。

 

「なんであなたなんかの為に旦那様が!」

 

「落ち着くのじゃ!芽衣!色黒!白ちゃんを止めよ!」

 

「おー!」

 

「解ったじゃんよう!」

 

 白い少女は取り乱し、再度ヒルデに殴りかかろうとしている。

 それを金色の髪の少女の号令で、長い黒髪の少女と日焼け少女が取り押さえていた。

 日焼け少女が後ろから白い少女を羽交い締めにし、長い黒髪の少女が正面から白い少女の腰に捕まり押さえている。

 何とか二人がかりで白い少女を座らせると正面に金色の髪の少女が立ち

“パァァァァァン!”

 頬を張った。

 

「落ち着けと言うとるじゃろう!まったく……。ここまで白ちゃんの沸点が低いとは思わなんだ。」

 

「源内殿。源内殿だって知っているじゃないですか、大将がこう言う人だって。自ら間違った方へ行こうとする人を見てしまったらこうするって。だから俺は、今の俺でいられるんですよ。」

 

「そうだよ、ななちゃん。ごしゅじんさまがごしゅじんさまだから鉢屋のおじさんたちもすくえたんだよ。」

 

「白ちゃんよ、我が旦那様はこう言うヤツじゃったろう。そういう事は白ちゃんは良く解っておるはずじゃと思うが?どうじゃ?」

 

 金色の少女が言葉と共に白い少女の頭を抱く。

 

「うん、解ってる。解ってるけど………」

 

 解っているけど納得は出来ないか………。

 それほどにこの白い少女は五十鈴殿の事を………

 いや、その感情はこの場に居る全ての者が大なり小なり持っている事か。

 妾が思考の海に沈んでいる内に向こうでも新たな展開が起こった様じゃな。

 白い少女がヒルデに向き合い一言「ごめんなさい」と。

 ヒルデは静かに首を横に振り

 

「いいえ、あなたの取った行動は当然の事です。全ての原因は……」

 

「まてーーーい!」

 

 白い少女が謝り、全ての原因は自分にあると言おうとヒルデが口を開いた時、金色の少女が口をはさんだ。

 しかし何て止め方じゃ。

 まるで能か狂言の見栄切りの様な姿勢で二人を止めておる。

 白い少女とヒルデはキョトンとした表情で、兼相と日焼け少女は苦笑いで、唯一黒髪の少女だけが

 

「雫ちゃんかっこいーー!」

 

 褒めていた。

 

「白ちゃん。そして、そこな苺よ。」

 

 苺?ああ、なるほど。

 あの赤い髪は正に熟れた苺じゃな。

 

「そして皆の共よ。」

 

 皆の共?

 

「これからわらわが裁きを下す。全員、正座!」

 

 妾以外の者は素直に正座する。

 金色の少女は妾の方に振り向き、妾を一睨みした後

 

「海苔も正座じゃ!早ようせい!」

 

 海苔?無礼な小娘じゃ。

 妾は怒りはせぬぞ、何せ器が大きいからの。

 妾はニッコリと微笑み、金色の少女の頭を

 

 

“スパァァァァァン!”

 

 

 ひっぱたいた。

 

「ご苦労かけて申し訳ないのじゃが、お座り下さいお姉様。」

 

「ふむ、良き童じゃ。」

 

「「…………………」」

 

 一同が妾を見て絶句しておる。

 妾が何かしたかえ?

 

 

 

 

「で!じゃ。」

 

 金色の少女は何事も無かった様に話しを続ける。

 肝の太い娘じゃ。

 金色の少女はその場でピョンピョンと小さく跳ねながら

 

「此度の件、苺をひっぱたいた白ちゃんも悪い、何がどうなってこうなったかは知らぬが苺も悪かろう。しかし、しかしじゃ、此度の件で一番悪いのは…………お前様じゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ゴフッ!」

 

 金色の少女はピョンッと大きく跳ねたかと思うと手足をパタパタと動かした後、五十鈴殿のみぞおちに肘を落とした。

 手足をパタパタ動かす事で、まるで動きがコマ送りの様に見えた。

 見事な動きじゃな。

 金色の少女は両手の指を狐の様にし、その指に軽く口付けをした後、ゆっくりと外に向けて伸ばしてゆく。

 ビシッと何やら見栄を張った後

 

「どうじゃお前様。わらわの“おはようフラッシュニングエルボー”は?」

 

「…………雫。」

 

「なんじゃ。まだ寝ておる様じゃな。今度は“おはようラウンディングボディプレス”かのう。」

 

「…………おはよう。」

 

「うむ、おはようじゃ。ぷろれすらぶじゃ。」

 

 ニッコリと微笑む金色の少女。

 

「で、じゃ。お前様よ。」

 

「あん。」

 

「正座!」

 

 言われた五十鈴殿はため息を漏らしつつ正座する。

 まあ、正座と言っても右半身だけの様じゃがな。

 左足は無精な感じで投げ出され、左腕はだらりと垂れ下がっておる。

 その痛々しげな姿を直視し皆の視線が曇る。

 白い少女など目に涙をためておる。

 その中で一人

 

「なんじゃそのだらしない格好は。わらわは正座と言ったはずじゃが?」

 

 金色の少女が悪態をついていた。

 

「雫さんや。」

 

「なんじゃ、お前様。」

 

「俺の状態聞いて無いのか?」

 

「そこの所はぬかりなく聞いておるぞ。」

 

「そうか。」

 

 なんなのじゃこの会話の流れは。

 五十鈴殿は賢いお人かと思うておったが。

 妾が一人考えておる時にも五十鈴殿と金色の少女の会話は続く。

 

「足は美奈都がおらねばどうにもならんが、腕はどうなのじゃ?」

 

「骨は折れてなさそうだ。ただ、肩の脱臼と鎖骨あたりにひびが入っているかもな。」

 

「なるほどのう。ひびはともかく脱臼は何とかなるのう。お前様よ、そこにうつ伏せに寝転がってみよ。」

 

 五十鈴殿はおとなしく寝転がる。

 まわりに居る皆の顔を見渡すと、皆心配そうにやり取りを見つめておる。

 不思議そうに、その光景を見つめるのはヒルデと妾の二人だけ。

 金色の少女は五十鈴殿の背中に乗り、左腕を股に挟み腕を抱き抱える態勢をとる。

 ゆくぞ、と言う言葉と共に金色の少女は

 

 

 

「腕〜がピョンと鳴る!」

 

 

 

“バキッ!”

 おもいっきりひねりあげた。

 

「「!!!」」

 

 誰も声が出ない。

 やられた五十鈴殿も声が出ない………と思いきや

 

「何すんじゃ〜〜〜!」

 

 大声と共に金色の少女をほおり投げる。

 金色の少女は兼相に激突し、怪我は無かったが上下逆さまじゃ。

 頭を下にしたその状態のまま金色の少女は

 

「どうじゃ?治ったじゃろ。」

 

 涼しい顔で口を開く。

 皆の目が五十鈴殿の左腕に注目する。

 ほう?治っておる様じゃな。

 

「うん?肩から上には痛みがあって上がらんが、はまってはいる様だな。」

 

「じゃろ。」

 

 その言葉と共に五十鈴殿と金色の少女はニヤリと悪党の様な笑みを浮かべる。

 なんなのじゃこの二人は。

 ぐるりとまわりを見渡すと、皆ほっとした表情を浮かべておった。

 その後は、皆五十鈴殿を囲みどれだけ心配したかを切々と訴えておる。

 言うなれば五十鈴殿は皆に説教されていた訳じゃな。

 




いかがでしたか?

何時もの感じに戻りました。
「腕〜がピョンと鳴る!」は最初、「永田の白目!」でした。
次話で幕間三終了です
幕間と言いながら、ずいぶんと長くなりましたね。


感想お待ちしています。

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