織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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やっと夜雀の登場です。


其の四

 外から聞こえる雨音に混じり誰かの足音が聞こえて来る。

 兼相もそれに気付き俺と共に庵の入り口に注目した。

 静かに表戸が引かれ足音の主が姿を現した。

 その者は編み笠を被り、体は大きな蓑におおわれ右手には畳まれた提灯、左手は腰に提げた西洋剣に添えられていた。

 

「あっ、失礼。お客様ですか?有脩殿。」

 

 笠と蓑で性別が良く解らなかった足音の主、その声は鈴を鳴らした様な可憐な声。

 やはりと言うか有脩の同居人は女性の様だ。

 有脩は足音の主に悪戯っぽく微笑みながら

 

「さよう。しかしまずはその雨着を脱いで名乗るのが先では?」

 

「おおっ!すっ、すみません!これはとんだ失礼を。」

 

 そう言うと有脩の同居人は急いで雨着を脱ぐ。

 しかしその動作は何と言うか、わちゃわちゃしていると言うか何とも忙しそうだ。

 と言うか、たぶん不器用なのだろう。

「あれっ?ほどけません」「これってどうやって着ましたっけ?」などと呟きながら雨着を脱いでいく。

 その光景を生暖かい目で見つめる俺達に違和感のある音が聞こえて来た。

 それはカチャカチャと言うかシャカシャカとでも表せば良い様な音だ。

 兼相もそれに気付いた様で

 

「大将、この音って……」

 

「ああ。それに右手を見てみな。」

 

「提灯?ですね。」

 

 兼相の答えに俺は無言で頷き未だに雨着を脱ぐのに手間取っている女性に話しかけた。

 

「娘さん、少しばかり聞いても良いかい?」

 

「は・・・い。な・・ん・・な・・り・・と。」

 

 どうやら編み笠を脱ぐ際、顎紐を間違って絞めてしまった様だ。

 うーうーと唸る女性に有脩は近づき、ため息を付きながら紐を緩めてやる。

 

「まったくお主は何をやっておるのじゃ。童(わらし)でもあるまいに。」

 

「ふぅ、すみませぬ有脩殿。で、何ですかな?」

 

 笠を脱ぎにっこりと笑う女性。

 笠と蓑を脱いだ女性は幼さの残る異国の少女だった。

 年齢は有脩とそう変わらないだろう。

 赤毛と言うよりもストロベリーブロンドと言った方が正しい赤い髪を一つのお団子にまとめ、瞳の色は透き通る様なブルー。

 身長は有脩よりも頭半分ほど低く、体型は…………今後に期待と言う所。

 服装は日ノ本の武士の物を着用し、その上から元は西洋のプレートアーマーであったと思われる胸覆いとスカート形状の鎧を着けている。

 恐らく元々の服装は西洋の物であったのだろうが、擦り切れたりして着られなくなったためこの国の物を着用し、鎧は破損したか重さの為最低限の装備しかしていない、そんな所だろう。

 

「不躾な質問なんだが。最近、人の後をつけたりした事は無いかい?」

 

 少女はキョトンとした顔をしたのち

 

「してますよ毎日。それが私の使命ですから。」

 

 さも当然と言った表情で答えて来た。

 

「使命って……後をつけるのが?」

 

 兼相は有脩の言葉を忘れたのか疑問を口にする。

 少女は心外だと言わんばかりに

 

「後をつけているのではありません!私は護衛をしているのです!」

 

 自慢げに言う少女。

 そんな少女に俺は

 

「ほう、護衛。それは相手も合意の上で?」

 

「知らせる必要はありません!全ての人を守るのは私の使命です!」

 

 また使命か……。

 俺が難しい顔をしたのが解ったのか有脩が会話に加わる。

 

「鼻息荒く語るのも良いが、お互い自己紹介はどうしたのじゃ?そんな事も出来んとは童以下じゃな。」

 

 そう言えばそうだった。

 

「失礼したな。俺は真中五十鈴、旅の者だ。こっちは連れの薄田兼相。」

 

 兼相は黙って礼を取る。

 

「五十鈴殿に兼相殿ですね。私はブリュンヒルデ。ブリテンの騎士です!」

 

「ぶりてん?大将何処ですか?弥助殿の故郷とどっちが遠いんです?」

 

「彼女の祖国だ。弥助の祖国からずっと北に行った島国だ。」

 

「五十鈴殿!ブリテンをご存知で?」

 

「ああ、識っているよ。行った事は無いがな。」

 

 俺の答えにブリュンヒルデは「知っているだけでも大した物です。」と大きく頷く。

 彼女が頷く度に鎧がカチャカチャと音を立てる。

 

 音を聞いた兼相は首をひねりながら

 

「大将、ブリュンヒルデ殿のあの音って……」

 

「多分な。あれが小豆洗いの正体だな。」

 

「じゃあ送り提灯はさっきの提灯ですか?」

 

「そうだろうな。昼間はべとべとさんで夜は送り提灯。」

 

「その正体は……」

 

「夜雀。」

 

 兼相はしばし考えこんだ後

 

「でもですよ大将。その三つ、夜雀も含めて四つの怪異譚がこんな小さな地域に集まって、それでいて全てが彼女だと言う事は……」

 

「隠れて護衛していたつもりが全部ばれていたと言う事だな。」

 

 そこまで話すと兼相は肩を落とし

 

「さっきの雨着の事と言い。大将ー。」

 

「ああ、凄まじく残念な香りがするな。」

 

「はい。お嬢の言う残念女子ってヤツですかね。」

 

「かもな。」

 

 小声で話す俺と兼相、チラリと対角線上に目をやれば有脩とブリュンヒルデも何やら相談中だ。

『なるほど』『ほう、それで?』『そんないきさつで』などとブリュンヒルデの声が聞こえる。

 恐らく俺達との出会いを有脩から聞いているのだろう。

 ブリュンヒルデの声が大きいため何を話しているかは簡単に想像出来た。

 ないしょ話も出来ないなんて…………さすが残念女子。

 俺が一人でブリュンヒルデの残念度を測っていると有脩から声がかかる

「今、ヒルデと話しあったのじゃがな。ああすまぬな、ヒルデと言うのはこの者の愛称じゃ。それでな、この雨はしばらく止みそうに無い。どうじゃ?今晩はこの庵に泊まっては。」

 

 女の二人暮らしに男が二人、俺は少し躊躇しながら

 

「いいのか?」

 

「構わんよ。たいしたもてなしは出来んがな。それにお主は妾の願いを叶えてくれるやもしれぬ。」

 

 有脩の謎の言葉に首をひねりながらも俺と兼相は甘えさせてもらう事にする。

 この後起こる事態など露ほどにも感じずに。

 

 

 

 

 

「なんだと。」

 

「だから言っている。お前の使命はただの妄想、戯れ言だ。」

 

 夕食の席、声高々に自分の使命を語るブリュンヒルデの言葉に噛み付く者がいた。

 つまりは俺だ。

 

「貴様!」

 

 ブリュンヒルデは自身の使命を馬鹿にされた……と思うのは当然だろう、立ち上がり横に置いていた西洋剣に手をのばす。

 そして鞘に収まったままの切っ先を俺に向けた。

 

「その言葉、私に対する侮辱、我が使命に対する侮辱、何より我が守る全てへの侮辱と受け取った!貴様に決闘を申し込む!嫌とは言わせんぞ!」

 

「剣を抜かなかったのは褒めてつかわす。良い子良い子。」

 

 飯を口に運びつつブリュンヒルデに視線を合わせ彼女の行動を茶化す様に言う。

 当然表情は悪党の笑みでだ。

 俺の態度に白い肌を真っ赤にしながらブリュンヒルデは再度怒声を飛ばす。

 

「決闘は明朝、いいな!私は先に休ませてもらう。」

 

 俺に確認を取るとブリュンヒルデはさっさと奥の部屋に引っ込んで行った。

 それを目で追いつつ平然と飯をパクつく俺に兼相が話しかけて来た。

 

「大将、やりすぎじゃぁ無いですか?」

 

 兼相の問に少しだけ考え

 

「そうか?あんな物だろう。」

 

「今日の大将、なんだかおかしいですよ。なんか思いつめてやしませんか?」

 

「思いつめると言うよりは、イラついている様に見えるが?」

 

 今までの事に何も口出しをしなかった有脩が会話に加わって来た。

 

「そう見えたか?」

 

「ええ。」

 

 お互いに少しだけ笑みを漏らし、その後はこの話題には触れず就寝を迎えた。

 




いかがでしたか?


 今回のヒロイン、有脩とブリュンヒルデのビジュアルイメージですが、有脩はぬら孫の羽衣狐様、ブリュンヒルデは新セイバーこと桜セイバーこと沖田セイバーです。
 本来なら、裏語りで語る事なのでしょうがずいぶんとかかりそうなので。
 あくまでもビジュアルイメージですので性格などは変わっています。
 詳しい事はいずれ裏語りで。


感想お待ちしております。

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