「さて、これで八割方問題は解決したな。」
「八割?どう言う事じゃんよう?」
「うん?花梨、お前が言い出したんだぞ。」
「どう言う事じゃんか。」
「この村で囁かれていた噂をなんとか片付けないと後々しこりを残すかも知れんだろ。」
「噂……じゃんか?。」
「おいおい花梨、言い出しっぺはお前だろ。」
「だから何がじゃんよう。」
「土蜘蛛の怪異譚だ。」
俺の言った一言に長五朗のじい様以外の者は不思議な顔をする。
やはり解って無い様だ。
皆を囲炉裏の周りに集め俺は説明を開始する。
「いいか。まだ、この村では弥助と土蜘蛛の関連性はあまり知られてはいない。村長や感の鋭い者達は薄々感づいているかも知れんがな。だが、このまま弥助がこの村を出て行ったらどうなる?」
「そりゃぁ、弥助さんが居なくなるじゃんよ。」
そのままな意見の花梨に横から源内が助け船を出す。
「居なくなったらどうなるの?」
「土蜘蛛の目撃例も消えるじゃんか。」
「それから。」
「それから、じゃんか?」
訳が解らないと言う顔で花梨は源内を見つめる。
「弥助さんが出て行って、土蜘蛛の目撃例が無くなる。この二つを繋げると。」
「弥助さんが土蜘蛛………って事じゃんか!」
やっと理解した様だ。
花梨の他にも数名“そう言う事か”と納得する者もいた。
話が進んだ所で俺は再度口を開く。
「それでだ、この二つを繋げ無い様に手を打とうと言う訳だ。」
「でも大将、どうして繋げない様にしなければならないんで?」
兼相は根本が解らないと質問をぶつけて来た。
「その事か。弥助は隠れている間に仕方が無いとはいえ、少々悪さをしているだろう。」
じい様を除く全員の頭に?マークが浮かぶ。
「花梨の話を思い出せ。弥助は畑とかを荒らしているだろう。」
「ああ、でも五十鈴さんそれくらいは……」
又兵衛が珍しく話に加わって来る。
「此処が縁もゆかりも無い村だったならほおって置いてもいいが、此処は村上と縁のある村だ。少しでも諍いの元は絶っておくに越した事は無い。」
「そうじゃんねぇ。でも五十鈴さん、何か考えがあるじゃんか?」
「まあな、田舎になればなるほど効果てきめんの案がある。明日からその用意だ。いいな。」
俺達は今回の旅の締めに向けて行動を開始した。
ここは弥助が隠れて居た山の麓。
そして、当然だが土蜘蛛の目撃例が一番多い山の麓でもある。
山へと登る入口の脇にある二つの木に二重三重にしめ縄の様な者が巻き付けてあった。
しめ縄のたもとにゴザが敷かれており、その横に蝋燭が二本、燭台の上でゆらゆらと燃えている。
その場所には村人全員が集まり緊張した顔をしていた。
理由は前日に俺が村長にある事を提案し許可されたからだ。
それは、土蜘蛛の封印である。
『始めようか』と言う俺の声と共に四人の少女が現れる。
少女達は一人を先頭に三人が後ろに控える形でゴザが敷いてある場所まで行くと、その隊列のまま静かに正座する。
一番先頭に座る少女は巫女服を着用し南蛮の修道女が着ける様な形の白いフードを被っている。
後ろに控える三人の少女は、白い着物に先頭の少女と同じフードを被った姿だ。
四人の少女は手に榊を持ち、後ろの三人はその榊を天に向ける。
先頭の少女は用意してあった御神酒を榊にかけた後、左右に振りながら祝詞を唱える。
その声はとても小さく注意していないと聞き逃してしまう事だろう。
しかし、その小さな声がより神聖で厳かな空気を作り出していた。
少女が祝詞を続ける。
俺は注意して祝詞に耳を傾けた。
「かめんらいど、でぃでぃでぃ、でぃけいど、あたっくらいどー、かっ、かぶと、くろっくあっぷ、わん、つー、すりー、らいだーきっく、くろっくおーばー。」
しかし、いくら祝詞は村人に解らない言葉でやれと言ってあったが…………。
おっ、そろそろ終わりそうだ。
「りりーな、りりーな…………お前をころす!」
最後の“殺す”と言う言葉だけ少し声が大きかったからだろうか、村人は緊張の度合いを高める。
儀式が終わったのか、先頭の少女が立ち上がり村長の下へ行く。
少女は胸元から一枚の紙を取り出す。
とても綺麗な文様が書かれた紙。
この時代では到底再現不能な印刷物。
その紙には“Discount¥500”と記されていた。
「村長殿、この護符を村の中で一番大きな木の根元に埋めて下さい。そして、毎日一度、水をあげて下さい。それを守れば土蜘蛛は封印され続けるでしょう。」
最後に少女はニコリと優しい笑みを浮かべ、自分の泊まっている宿へと歩みを進める。
後ろに控えていた三人の少女も村長に頭を下げ後に続く。
俺を含めた五人は宿に入り表戸を閉める。
その瞬間
「どうじゃった!お前様よ!どうじゃった!名演技じゃろう!褒めよ!許してつかわす、早よう褒めよ!」
「何だか疲れました。」
「でも、楽しかったよね。」
「うん!」
もうお気づきだろうが、神聖なお祓い少女達は雫、源内、美奈都、芽衣の四人だ。
さて、そろそろタネ明かしと行こうか。
まあ、いつもの様にタネなんて無いのだが。
今回、俺が用いた作戦、それは詐欺やペテンと言ってもいい様な物だ。
田舎に住む純朴な人達の信仰心に付け込んだ行動。
決して誉められない行為だ。
この作戦が成功したのには三つの要素がある。
まず一つ目は、雫と源内、そして美奈都。
雫と源内の二人がそれなりの衣装で佇む姿は、髪の色と相まって神々しい気品が漂うと言う事。
本来は立ち入り禁止の鍛冶場に堂々と入り火を使った美奈都。
まあ、美奈都については俺達が慣れ過ぎていて、女が鍛冶場に入れないって事を忘れていたからだが、逆にあまりに堂々と火を使っていたので何かの神事かと思われたらしい。
後から思えば笑い話だ。
二つ目は、この土地が非常に田舎で村人達は元海賊衆だと言う事。
元海賊衆だけあって土着信仰、山神や海神などの信仰が強い。
つまりは迷信的な事に弱いと言う事だ。
三つ目は花梨が俺達を紹介する時に自分が世話になっている事以外は詳しく話していない事だ。
それによって俺とじい様以外は幻灯館と言う商店の食客として見られている。
だから、雫達を偽物巫女に仕立て上げられた。
以上の三つにインチキな寺社の名前をくっ付けて嘘八百なお祓いをすれば“出鱈目封印術”の完成と言う訳だ。
封印の儀式の後、村長が俺達に礼を言って来た事から、どうやらこの茶番は成功した様だ。
後は素早くこの場からズラかるだけ。
あれ?…………俺達悪者?
「さてお前ら、楽しかった慰安旅行も後わずかだ。心残りの無い様にな。」
俺のその言葉に全員が声をあげて返事を返す。
さあ、この話しの幕引きをしよう。
「長い事世話になったな。」
見送りに来てくれた村長とその家族に礼を言い港町を目指す。
その道中、源内が声を出す。
「旦那様、この後は伊予行きですか?」
「そうだなぁ。じい様は店があるから清洲へ戻るが他の皆はどうする?」
俺はこの場にいる全員に問いかける。
いや、雫と兼相を除いた全員に。
「私は一緒に行きますよ。」
「わたしもー!」
源内と芽衣は同行するらしい。
「私は隕鉄の事があるから清洲に戻るよ。」
「僕も尾張を一度見たいですから清洲に。」
美奈都と又兵衛は清洲へ帰る事を選択した様だ。
「ワタシハ日ノ本ノ言葉モット覚エタイノデ長五朗サント清洲行キマス。」
弥助は清洲行き。
「あたしは五十鈴さんと行くじゃんよう。」
ふむ、花梨は伊予か。
「解った。伊予へ渡るメンツは雫、源内、芽衣、花梨、兼相でいいな?」
俺は再度確認を取る。
「ちょ!大将、俺は無視ですか。」
「ああん。兼相、お前は雫の子分だろ?」
俺がそう言った瞬間、兼相の顔が真っ赤になり
「何言ってんですか大将!俺は大将の子分です。」
おい、どっちにしろ子分かい。
「冗談だ。兼相、お前は雫の護衛。いいな。」
「そう言う事でしたら喜んで。」
その時、前を歩いていた雫が
「単純じゃのう………。」
ため息と共に呟いた。
この旅では、この時代の現実を見せつけられた気がする。
だがもう一つ。
弥助が過去の呪縛から解放されようとしている様に、この時代の古い価値観もまたこの時代の人々によって変えられるのではと希望を見せてくれた。
山の向こう側…………。
弥助と出会い、彼を偏見無く迎えた仲間達を誇りながら俺は山を登る。
山の向こう側を見る為に。
この日ノ本の民に山の向こう側を見せる事の出来る者を待ちながら。
いかがでしたか。
今回のあとがきは少し長くなります。
まずは前回の答え。
◇獣神雷獅子、獣神サンダ○ライガー
◇虎仮面、タイガ○マスク
◇偉大な佐助、○・グレート・サスケ
◇超イルカ、スペル○デルフィン
◇究極龍、ウルティモ○ドラゴン
解りましたか?
さて、もう一つ。
ストックが切れました。
ですのでアンケートみたいな物をして見ようかと。
内容は活動報告にて。
ご協力お願いします。
感想お待ちしております。