織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

3 / 80
お利口さんの幼女登場です


前話の雫の表現 少女から幼女に変更しました。


0‐3

 ポカーン

 なんだって?わからない?ワカラナイ?解らない?判らない?

 この子は何を言っているの?

 俺の嫁?誰が?この幼女が?

 落ち着け・落ち着け・諦めるのはまだ早い。

 

「お嬢ちゃん、もう一回言ってくれるかな?今度は指をさしながら。ね」

 

 俺は努めて優しく目の前の幼女に語りかけた。

 

 めんどくさいのうと毒つきながら幼女雫は話しはじめる。

 

「わらわはー」

 

 うんうん、自分のことだよね。

 

「お前様のー」

 

 あれ!俺を指さしてるよ?

 

「妻じゃ!」

 

 アウトーーー!間違いじゃなかった。

 俺はあまりのショックで頭を抱えその場に座り込んでしまった。

 そんな俺の姿を見て幼女、いや雫は追い討ちをかける。

 

「何を照れておるのじゃお前様よ!九尾の伝統的な儀式に基づきわらわに求婚したくせに。今後わらわとお前様は一心同体じゃ。うれしかろ!なあ、うれしかろ!」

 

 九尾の儀式?求婚?解んねえ、俺が嫁にすると言ったのは!

 

「おい」

 

「なんじゃお前様」

 

「お前もしかして、あの狐か?」

 

「なんじゃ気付いておらんかったのか?にぶいのぅ」

 

 いまだに混乱する俺を見てイヤラシク笑いながら前鬼が口をはさむ。

 

「混乱しておるようだな。おれが説明してやろう、何があったか話せ」

 

 俺は前鬼に今までのこと(狐に出会ってからの事)を話した。

 

「あい解った。柳田とやらお前は古式ゆかしい作法に則ってこの娘に求婚し受理された。よってそなたら二人は立派な夫婦だ。この前鬼が立会人として認めよう。それと、その時の狐は間違いなくこの娘だ!」

 

『このクソ式神なんちゅう事を!』

 

「うむ、ごくろうであった!」

 

 九尾の幼女雫はにこやかな顔で前鬼を褒める。

 

「ちょっと待て、俺はその儀式だか作法やらはした覚えが無いんだが?」

 

 俺は一番の疑問を投げかけた。

 

「未練がましいな。では、おれから三つほど質問をする。ハイかイイエで答えろ」

 

 なぜか上から目線の式神だった。

 めんどくさそうにも見える。

 

「まずは一つ目。お主、この娘に自分の名が刻まれた物を渡さなかったか?」

 

 名が刻まれた物?あ、チョーカーだ。

 

「二つ目。追いかけて来たこの娘を受け止めなかったか?」

 

 顔に張り付いた時か?受け止めたと言えば受け止めた。

 

「そして最後。この二つの事柄の後この娘に求婚、すなわち嫁になれとか嫁にするとか言わなかったか?」

 

 言った。

 

「九尾の伝統的な求婚の儀式では、まず男が自分の名が刻まれし物を女に渡す。次にその男を女が気に入ればその男の胸に飛びこむ。そして男がその女のすべてを背負う覚悟があるならば女を受け止め求婚する。ま、流れとしてはそんな所だ。柳田よ、諦めよ。この儀式を覆すのは無理だ!」

 

「その通りじゃ!わらわはお前様の妻じゃ!」

 

 雫は腰に手をあて無い胸を張りながら言い放つ。

 そして一呼吸開けて

 

「一生離れんぞ」

 

 天使のような悪魔の笑顔で早口に言い切った。

 

「くすんくすん……前鬼さん、安藤の叔父様となにを楽しそうに話しているのですか?」

 

 門の前で頭を抱えうずくまっている俺の後ろで小動物のようなか細い幼女の声がした。

 

「おお!半兵衛か。実はこの家の前で祝言を挙げておった」

 

「うむ。半兵衛殿も列席するがよい。なかなか見られるものではないぞ、狐の嫁入りなぞ」

 

 置いてきぼりかと思っていた安藤のオッサンも楽しんでいたらしい。

 だが今この二人何て言った?

 半兵衛?どこの誰が?

 俺はうずくまったまま体を百八十度回転しズズズッと幼女に近づいた。

 

「竹中半兵衛?」

 

「くすん…はい、私が竹中 半兵衛 重虎です。いじめないでください……」

 

 この幼女が竹中半兵衛?

 タイムスリップ・狐の嫁さん・幼女半兵衛?

 この三つが頭の中をグルグル回り意識がブラックアウトした。

 

「嬉し過ぎて気を失ったのかや?」

 

「思ったより繊細な男であったか」

 

「どうしたのだ!いきなり!」

 

「くすん……大丈夫でしょうか?」

 

そんな声が聞こえて来た…………………。

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると家の中だった、と言うより布団の中だった。

俺、どうしたんだ?

 

「やっと眼が覚めたかやお前様。いくら嬉しかったとは言え気絶する事はなかろうよ」

 

「くすん……大丈夫ですか?」

 

「あっ、半兵衛殿?」

 

「はい、竹中半兵衛です。いじめないでください」

 

 恐る恐ると言った感じで俺の問いに答える。

 

「半兵衛殿、少し教えて欲しいのだが」

 

「はい、何でしょう?くすん」

 

「織田家の当主はいま…」

 

 そこまで言って俺の言葉は強烈な衝撃によってさえぎられた。

 この部屋に居たもう一人の幼女、雫のダイビングボディアタックによって。

 

「お前様よ!妻であるわらわを無視して何故に小栗鼠にばかり話しかけるのじゃ!眼が覚めたらまずわらわを探し〝本当に結婚できたんだぁ!雫、一生離さないよ”と言いながらハグするのが普通じゃろ!」

 

 俺の上半身にしがみつきながらまくし立てる。

 今こいつハグって言ってなかったか?

 

「雫、俺は今とても重要な事を質問しようとしている。すまないが少しどいてくれないか?」

 

 俺は努めて優しく幼女の説得を試みる。

 

「いやじゃ!」

 

 “フー”と威嚇するような声を出しながらキッパリと断る雫。

 

「よいかお前様!聞きたい事があるのなら、わらわに聞け。小栗鼠じゃなくの!」

 

 つまり…もっと自分を構えと言うことらしい。

 まあ答えが聞けるならどっちでも良いのだか。

 うるさいので雫に聞いてみることにする。

 

「なあ、雫」

 

「なんじゃお前様、何でも聞くがよいぞ!答えてやろう、わらわは賢いぞー」

 

「織田家の当主はいまなんて名前の人だ?」

 

「織田家の当主かや?」

 

「ああそうだ、織田家の当主だ」

 

 そう聞かれて雫は『うーん』『織田家の当主ー』などと散々考えて一言。

 

「しらん」

 

「はあ?」

 

「しらんと言った!」

 

「知らんのならなんであんな大見得を切った!」

 

「わらわの知っておる事を聞かぬお前様が悪い!」

 

 そう言って俺の上半身に力一杯しがみついた。

 

「そうか、知らないのなら仕方がない。とりあえず離れろ」

 

「いやじゃ!」

 

 どうやら離れる気はないらしい。

 もういいや。

 

「では改めて。半兵衛殿」

 

 俺は佇まいを直して半兵衛ちゃんに向き直る。

 上半身に幼女が張り付いたまま。

 俺から見れば(見え無いのだが)なんてことない絵なのだが(見えないからねぇ)半兵衛ちゃんから見れば実にシュールな絵だろう。

 正座した男の上半身に幼女が張り付き、そればかりか一番目立つのは目の前でユラユラ揺れる黄金色の尻尾。

 

「くすんくすん…はい、何でしょう」

 

 なんか苦笑いされていそうだ。

 

「今、俺に張り付いている者にも聞いたのだが役に立たなかったもので」

 

 そう言った瞬間ガブリと頭をかじられた。

 俺は痛みに耐えながら話を続ける。

 

「今の、織田家のご当主の名前を教えて頂きたい」

 

「尾張の織田家ですか?…くすん」

 

 さように、と幼女が張り付いたまま頷いた。

 頷いた瞬間張り付いた物が“ぶらーん”と揺れる。

 「おお!なんじゃか楽しいのう」などと俺のオプションがはしゃいでいるがあえて無視を決め込む。

 

「くすん…織田家の御当主様は織田信秀様です」

 

 織田信秀…まだ信長は家督を継いではいないようだな。

 

「もう一つだけよろしいか?」

 

「はい……くすん」

 

「織田家の嫡男様は元服なされておいでですか?」

 

「いえ、まだのはずです…くすん」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 そう言って頭を下げた。

 その瞬間“ぶらーん”

 

「ゆかいじゃのう。おもしろいのう」

 

 俺のオプションは呑気だった。

 

「しかし、どうしてそのような事を?このあたりの者なら皆大体は知っていますよ…くすん」

 

 さて、どう誤魔化そうかなと思案していたが俺のオプションの一言ですべてが吹き飛んだ。

 

「それはのう小栗鼠よ、我が旦那様が未来から来たからじゃ。たしか四百年ばかり先じゃったかのう。なあお前様よ」

 

「「え!」」

 

 俺と半兵衛ちゃん二人の驚きの声が重なった。

『それはどう言う?』と言う半兵衛ちゃんより素早く上半身に張り付いたオプション、いや雫を引き剥がし問い詰める。

 

「おい!雫、お前!なんで…」

 

 全てを言い終える前に目の前の幼女は“ふんっ”と鼻を鳴らし自慢気に口を開いた。

 

「わらわが知っておるのが不思議かや?わらわは何でも知っておるぞ!なにせ賢いからのー。うぃんどうずえっくすぴーやぴーえす2も知っておるぞ!見たことないがの」

 

 微妙に古い。

 いや、なんでそんな物を知っている?

 

「ふふん。まあ、からかうのもこれぐらいにしてネタばらしじゃ」

 

 ネタがあるのか?

 

「小栗鼠よ、我が下僕を呼べい」

 

「へ?誰をですか?…くすん」

 

「解らぬか、あの前鬼とか言う狐じゃ!」

 

「前鬼さんは私の式神さんですよ…くすん」

 

「よいから呼べとゆうておるのじゃ!」

 

「はい……前鬼さんお願いします」

 

 言って半兵衛ちゃんは手にした護符を空に投げた。

“コーン”と言う声とも叫びともつかぬ音をたてて式神前鬼が姿を現した。

 

「何用だ九尾の姫よ。あと…おれはお主の下僕では無い」

 

 微妙に機嫌が悪いのは下僕呼ばわりのせいか?いや、きっとそうだ。

 そんな空気を読まず雫が話し出す。

 

「うむ。なぜにわらわが我が旦那様の事が解るのか説明せい」

 

 そんな事かと毒づきながら前鬼は語り出した。

 

「柳田よ、そなたこのチンチクリンいや娘と九尾の契りを交わしたであろう」

 

「ああ」

 

「その時そなたの知識がこのチンチクリンいや娘に流れこんだのだ」

 

 誰がチンチクリンじゃーと騒いでいるチンチクリンは取り敢えず放置しておく。

 

「なるほど。だが、なぜそんな事が必要なんだ?」

 

「うむ。九尾の一族の力は想像を絶する物だが、それよりも恐ろしいのは知恵だ」

 

「知恵?」

 

「ああ、九尾の一族は力より知恵を好む。だが、月日がたてば知恵は古き物となる。だから九尾の一族は他の種族と契りを結ぶ時その知恵をも共有するのだ」

 

「なるほどな。なんとなくだが理解した。だがな、こいつの知識が微妙に古いのはなんでだ?」

 

「なんてことはない。それは、このチンチクリンが見た目どおりチンチクリンで未熟者だからだ」

 

 前鬼は“用は済んだなおれは帰る”と言ってドロンと消える。

 

 その場に残された使用済みの護符をゲシゲシ踏みつけながら「誰がチンチクリンじゃー!未熟者じゃー!戻ってこーいバカ狐ー!」と悪態をつく雫の姿に狐と言う種族は負けず嫌いばっかかと思いながら目を背けた。

 目を背けた方向にお利口さんの方の幼女半兵衛ちゃんがいた。

 何かを話したいのだが話しかけられないと言う感じで俺の方をチラチラと見ている。

 その姿を見ていられなくなり俺は自分から話しかけた。

 

「どうしたのですか半兵衛殿?」

 

 にっこり営業スマイルで。

 それが良かったのかオズオズとだが半兵衛ちゃんが話しかけてきた。

 

「あのぉ、柳田さん」

 

「はい。何ですか?」

 

「あなたは本当に未来から来られたのですか?」

 

「ええ。ここが戦国の世で間違いがなければ」

 

「どうやって来たのですか?」

 

「解りません。清洲城にいたはずなんですが気がついたらこの近くの山中でした。」

 

「帰れないんですか?」

 

「帰り方が解りませんから」

 

「そうですか……くすん」

 

 そんな会話をしていると未熟者のチンチクリン、いや俺の嫁が背中をはい上がって来た。

 俺の顔の横に自分の顔を出し首に手を回し脇腹を脚でがっちりと挟む一人おんぶ状態で空気を読まない発言をする。

 

「なんじゃ辛気臭いのう」

 

「何がだ?」

 

「何を悩んでおるのか、と言うておる」

 

「俺はこの時代の事について右も左も分からないんだぞ。俺が解るのはせいぜい歴史くらいだ」

 

「歴史などどうでもよいわ。それになお前様、右も左も分からなければ右と左を確かめればよいだけじゃろ。諸国漫遊、水戸黄門じゃ!サイコロの旅じゃ!」

 

「くすん…水戸黄門ってなんですか?サイコロの旅って?」

 

 半兵衛ちゃんが首をかしげた。

 




次話で序章終了です。


感想お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。