織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

29 / 80
制作編と今後に向けての伏線編です。


3‐6

「どうだ?」

 

「うーん。これと言った物は……。」

 

「ソウデスネェ。」

 

 現在、俺、雫、源内、弥助は宿で鉄面(改)の意匠を思案中である。

 しかし、上の会話でも解る通り、なかなか良い案が出て来ない状況だ。

 そこで俺は、少し話題を変えてみる。

 

「美奈都の方は?」

 

「先ほど見て来ましたが、真砂の精製は終わったみたいです。」

 

「そうか、根本に当たる玉鋼(たまはがね)は出来ているのか。」

 

「はい。後は意匠だけですね。」

 

 そうか、美奈都の方は俺達待ちか…………不本意だがヤツの力を借りるか。

 

「仕方が無いか。おい、雫。」

 

「やっと、わらわの出番かや?ずいぶん待たせおって。ほら。」

 

 雫から十数枚の紙を受け取り意匠を確認する。

 見た後は源内に回し、源内は弥助に回す

「これは…………獣神雷獅子か。虎仮面に偉大な佐助、超イルカに究極龍……。」

 

「いろんな意匠がありますねぇ。」

 

「ああ、そうだな。」

 

 俺は平然と返事を返していたが……しかし、全部が全部プロレスのマスクマンって。

 どうもアイツの知識は偏りがあるみたいだな。

 俺が九尾の力について考える横で弥助が声を上げる。

 

「アッ!」

 

「どうした弥助?何かあったか。」

 

「ハイ。ワタシ、コレガ好キデス。」

 

 弥助が気に入ったと言う意匠を手に取る。

 

「どれ。これは超強魔神(スーパー・スト○ング・マシン)か。」

 

「弥助さん、どうしてコレなんですか?」

 

 源内が理由を求める。

 恐らく深い意味は無く、単なる好奇心からだろう。

 

「コレ、笑ッテマス。ワタシ、ソコガキニイリマシタ。」

 

 ふむ、超強魔神のデザインで口の部分は三日月を横にした様な形をしている。 弥助にはそれが笑顔の様に見えたのだろう。

 

「なるほどな。じゃあ、コレで行くか?」

 

「ハイ。オ願イシマス。」

 

 

 

 

 意匠が決まってからの行動は早かった。

 美奈都は早々に面を形にし、花梨は弥助の風貌に徐々に慣れて来た村人の手を借り着物を仕立てて行く。

 そんな中、俺には悩みがあった。

 

「さて、意匠は決ったが色はどうするか。」

 

 超強魔神のスタンダードカラーは確か銀とガンメタだ。

 しかし、この時代で銀もガンメタも難しい。

 ガンメタは物理的に銀はサビさせずに色を保つ事が。

 黒や赤や緑ってのもあったが、黒は弥助が嫌うだろうし、赤は赤鬼っぽいし…………何か良い案は無い物か。

 そんな事を考えながら村の中をプラプラと散歩する。

 その中で一つ、目に付いた物かあった。

 それに近づき手に取って見る。

 

「牡蠣殻か……。」

 

 それを見つけた時、俺の頭の中にある閃きがあった。

 すぐさま花梨を呼び寄せる。

 

「五十鈴さん、どうしたじゃんよう。」

 

 急いで来たため花梨の息は乱れ、彼女の形の良い胸は大きく上下する。

 俺はあえてその素晴らしい物を見ない様注意しながら

 

「うん、少し聞きたい事があってな。」

 

「なんじゃんなんじゃん。」

 

 嬉しそうに花梨は近づいて来る。

 座っている俺と中腰の花梨。

 あえて見ない様にしていた素敵な物が目の前にさらされる。 

 まったく無防備すぎる。 俺は牡蠣殻に再度目をやり無理矢理にでも話しを続ける。

 

「ここらでは貝殻ってどうしている?」

 

 突拍子もない質問の為か花梨は少しの間ポカンとした後

 

「貝殻?焼いて畑に撒くか、海に沈めるか、土に埋めるじゃんよう。」

 

「そうか。じゃあ十文でどれくらいの貝殻が買える?」

 

「買う!貝殻をじゃんか?そんな物、くれって言えばいくらでもくれるじゃんよう。」

 

「タダか?」

 

「そうじゃん。」

 

「なら花梨、今から芽衣と兼相を連れて港町まで行ってくれ。」

 

「何をするじゃんよう。」

 

「俺の指定する貝殻をなるべく多く集めてくれ。」

 

「わ、解ったじゃんよう。」

 

 

 

 

 

 

 

「旦那様。」

 

「源内か、どうした?」

 

「こんな感じなのですが。」

 

 源内はすり鉢に入った粉末を俺に見せる。

 俺はその粉末を指で摘み指と指を擦り合わせてじっと見つめた。

 

「上出来だ。これで何とかなる。美奈都にも言って先に進めてくれ。」

 

 源内はほっとした様な表情で

 

「はい。では、後は旦那様の指示通りに。」

 

 言って源内は部屋を後にする。

 先ほど源内が持って来た物、それは現代で言うパールパウダーと言う物だ。

 まず、花梨に港町で白蝶貝やアコヤ貝の貝殻を集めさせ、その真珠層を暇な人間総出で削り出した。

 削り出した真珠層をすり鉢で細かく粉砕し出来上がったのが先ほどのパールパウダーと言う訳だ。

 後はこのパールパウダーとニスを混ぜ合わせればパール塗料の完成と言う訳だ。

 それを漆塗りよろしく塗っては磨きを繰り返す。

 まあ、現代のパール塗料に比べれば粒子がかなり荒いが逆にラメの様に光を反射してくる。

 つまり、俺が弥助の鉄面(改)に施す塗装は未来で言うパールホワイトと言う色だ。

 

 

 

 

 その日の夕食後、美奈都と源内と一緒に制作工程の確認?を行った。

 

「もー、五十鈴さん。あれは私の仕事じゃ無いよう。あれは漆塗り職人さんの範疇だよ。」

 

 この村には残念ながら漆塗り職人が居ないため、鉄面(改)の仕上げ作業は源内と美奈都が担当している。

 

「まあな。悪かったとは思うが、今あれが出来るのはお前か源内くらいだろ?」

 

「そうですねぇ。里に居た時、美奈都の造る物の装飾なんかは二人でやっていましたし。」

 

「でも、すごいね。あの貝の粉。」

 

「ええ。私も驚きました。」

 

「そうか?貝細工とかあるんじゃないか?」

 

「でも旦那様。貝を粉にして混ぜるなんて。」

 

「そうだよ。」

 

 俺は別段すごい事をした覚えは無いのだが、二人はすごい勢いで褒めて来る。

 

「そうか。で、後どれくらいだ?」

 

「お天気にもよるけど……二日くらいかな。ねっ、ななちゃん。」

 

「ええ、そうですね。」

 

「なるほど。」

 

「そうだ、旦那様。」

 

「なんだい?」

 

「旦那様は夜雀(よすずめ)って知っていますか?」

 

 唐突に源内が話題を変える。

 

「夜雀?夜雀と言えば伊予や土佐の方に伝わる怪異譚だな。それがどうした?」

 

「いえ、芽衣が港町に行った時に聞いた話だそうですが、此処から対岸の伊予の国で最近噂になっているそうで。」

 

「面白そうな話だな。帰りに寄って見るか。」

 

「義父さまはどうなさるんですか?」

 

「じい様は村上衆に頼んで船で先に、でもいいんじゃないか?」

 

「まあ、それもそうですけど。」

 

「私は探し物があるからどっちでもいいけど。」

 

 探し物?確かにここ暫く美奈都は時間があると色々な店を覗いている。

 この際疑問を解消するか。

 

「そう言えば美奈都。」

 

「なに?」

 

「お前、何を探しているんだ?堺でもそうだし。」

 

「ああ!それはね隕鉄だよ。」

 

「隕鉄って空から降って来るアレ?」

 

 源内も意外だったのか聞き返す。

 

「そうだよ。」

 

「刀でも造るのか?」

 

 俺の発言に美奈都はニンマリした笑顔を浮かべ

 

「さっすが五十鈴さん。その通り!」

 

「そう言えば大陸の伝承にそう言うのがあったわね。」

 

 思い出す様に眉間に人差し指を立てて源内は言う。

 

「まだ全然集まって無いけどね。」

 

「そうか。じい様に頼んで店の方で集めてもらったらどうだ?」

 

「いいの!」

 

 美奈都は俺に体を寄せ、嬉しさが溢れ出しながら更に詰め寄って来る。

 近い!近い!近い!近い!当たってる!当たってる!当たってる!当たってる!

 美奈都の大きくてありがたい物が俺の二の腕をむにゅむにゅと刺激する。

 

「美奈都!」

 

 美奈都の顔が遠ざかる。

 “まったく!”と言う様に源内が美奈都の襟を引っ張っていた。

 

「ごめんなさーい。それで五十鈴さんホントにいいの?」

 

 全然悪いと思っていない人間の謝り方の見本の様に美奈都は謝る。

 

「ああ、色々な鉱石を集めて貰おう。他で使える物があるかも知れないしな。」

 

「専門の書物?見たいな物もあった方がいいですかね?堺のお店、弧囃子製薬(こばやしせいやく)にも伝えておきますか?」

 

 冷静に源内が付け加える。

 

「そうだな。じい様への伝言、源内頼めるか?」

 

「いいですよ。義父さまへは私から伝えておきますね。」

 

「ななちゃんよろしくー。」

 

「じゃあ鉄面(改)の仕上げは美奈都よろしくね。」

 

「ええー!」

 

「冗談よ。」

 

 ニコリと笑う源内。

 本当に逞しくなたな源内。

 

 

 

 

 

 

 何かと苦労はあったが弥助の装備は完成を迎えた。

 今、幻灯館一同は弥助の装備一式を囲み最終チェック中である。

 

「しかし、体がでかいと着物もでかいな。」

 

 俺は改めて驚きの声をあげる。

 着物は飾り気の無い藍一色で染め上げられ、手袋、脚絆、足袋は白。

 そしてもう一つ藍で染め上げられたこの時代では珍しい物。

 

「これは……股引(ももひき)?いやカルサオか?」

 

「かるさお?いったい何ですかな旦那様。」

 

 長五朗のじい様が興味津々で尋ねて来る。

 

「カルサオか?確か南蛮由来の物で、褌なんかの上に穿く物だ。」

 

「ほう。それはそれは、店の商品にいかがですかな?」

 

「さすがはじい様だ。しかしさすがは豊後の国、肥前の国が近いだけあって珍しい物があるな。」

 

「そうですなぁ。」

 

「しかしじい様。下着類がこうも出て来ると幻灯館で売るのは難しくなって来ないか?」

 

「下着用の店が必要と?」

 

「それも女性用のな。」

 

「なるほど。店名の方、よろしくお願いしますぞ旦那様。」

 

 俺とじい様が商品談義をする横で

 

「…………。」

 

「どうした花梨?」

 

「いや。五十鈴さんって物知りじゃんねぇ。」

 

「ホントにそうですねぇ。僕もビックリしました。」

 

「ホントウデスネ。」

 

 新人三人は相当驚いている様だ。

 まあ、普通はそうだろうな。

 

「ほら、着替えの時間だ。娘共は別室へ行け。」

 

 俺は手をひらひらさせて女性陣を別室に追いやる。

 女性陣が退室したのを確認し、じい様と兼相が弥助に着付けの説明をする。

 着替えも終わり変身した弥助が全貌を現す。

 

「どうだ?」

 

「格好良いですね。」

 

「強そうだね。」

 

「これもお稲荷様もーど?」

 

「おやじよりも迫力あるじゃんよう。」

 

「すごいです。」

 

 戻って来た源内、美奈都、芽衣、花梨、又兵衛が各々の感想を口にする。

 そして、止めに雫の発言。

 

「マグアナック隊のMSみたいじゃのう。」

 

 よりにもよってそれか。

 行人包がターバンの様に見えるからか、弥助の体格のせいか、かなりMSに見える。

 未来のアニメや映画だったら、まず間違いなく役どころはサイボーグかターミネーターだろう。

 

「まあ、身辺警護や店の用心棒なら通るんじゃないか?」

 

「そうですなぁ。この装いで店に居てくれれば悪さをしようとする者も減るでしょうな。」

 

 じい様はさも愉快だと告げる。

 

「お前様、ちょっとその床几(しょうぎ)に腰かけてくれぬか?」

 

 突然雫がおかしな事を言い出す。

 

「弥助は我が旦那様の右手に立って見てはくれぬか?サル相は左じゃ。そんでもってじい様は我が旦那様の後ろじゃ。」

 

「ハイ。」

 

「はあ。」

 

「おやおや、私もですかな。」

 

 俺達四人は雫の言う通りにしてみる。

 

「やはりな。」

 

「これは!」

 

「すごーい!」

 

「あら〜。」

 

「うあ、モロじゃんか。」

 

「ここまでとは。」

 

 

 

「「なんて悪そうな集団だ!」」

 

 

 

 失礼極まり無い感想を漏らす女性陣。

 

「ここに鉢屋のおじさんもいたらもっとだね。」

 

 娘さん達はケラケラと実に楽しそうだ。

 俺は“ふぅっ”と一つため息を漏らし、悪ふざけは此処までと宣言する。

 

「弥助、着心地はどうだ?」

 

「ハイ、大丈夫デス。」

 

「鉄面(改)はどうだ?擦れてはいないか?」

 

「イエ。ソチラモ大丈夫デス。」

 

 確認を終え、最後に残った問題を解決するために動く事を皆に告げる。

 




いかがでしたか。

あいも変わらずの地味展開で楽しんで頂いているのか心配です。

ちなみに弥助の名字は平田です。
雫の書いたデザインのプロレスラー分かりましたか?
答えは次話のあとがきで。

感想お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。