夕食も無事に済み大人連中は酒を飲み始め、娘達は温泉での新たなバトルへと出かけて行った。
この場なら落ち着いて話せるだろうと俺は弥助にこれからの事を聞いてみた。
「なあ弥助、君はこれからどうしたいんだ?」
聞かれた弥助は少し考えた後
「ソノ前二、ヒトツイイデスカ。」
『もちろん』と返事を返し弥助の話しを聞く。
「サッキノ女ノ人、八房様イイマシタ。ソノ方ダレデスカ?」
それを聞いて俺達は“ああ”と納得する。
「俺は尾張、此処より東の国で商いをしていてな、その店の主人としての名前が八房美津里と言うんだ。そして旅なんかをする時は真中五十鈴と名乗っている。まあ、商売用の名前とプライベート用の名前と言う訳だ。」
弥助は『ナルホド』と理解してくれたが長五朗のじい様と兼相は『ぷらいべーと?』と不思議そうな顔をしていた。
一旦話しが途切れた所でもう一度弥助に『どうしたい?』と尋ねる。
弥助は言葉を選ぶ様に
「ワタシハ五十鈴サン達トイタイデス。コノ国デ初メテ出来タ友達デス。デモ、ワタシノ肌皆サン怖ガリマス、ソレデモ皆サントイタイデス。」
「そうか、解った。じい様、弥助はこの体格だ力仕事なんか手伝って貰えるがどうだ?」
長五朗のじい様は目を瞑りしばらく考えたのち
「弥助殿、給金は最初は丁稚程度しか出せませんがそれでもよろしいか?」
そう言われた弥助は“給金トハ?”とか“丁稚トハ?”と質問していたが働いた対価としてお金が貰える事にひどく驚いていた。
「弥助、俺達はお前を奴隷じゃ無く奉公人として雇うんだぞ、給金を払うのは当たり前だろ。」
そう言ってやると『ソウデスネ』とやっと笑顔を見せてくれた。
「しかし弥助、お前は自分の肌にコンプレックスを持ち過ぎじゃないか?」
俺の南蛮語に耐性が出来たのかじい様と兼相は華麗にスルーしている。
「ソウ……デスカ?」
「俺はそう思うがなぁ。」
「デスガ五十鈴サン、ワタシヲ見ルト皆サン怖ガリマスカラ……、ワタシソレガ悲シイデス。」
「うーん。じゃあ、とりあえず肌が見えなけりゃ良いんだな?弥助にとっても。」
「ハイ、ソウデスネ。」
「着物の方は新たに誂えるとして、手は手袋、足は脚絆、後は顔か。」
「そうで御座いますなあ。」
「じい様、兼相、何か良い案は無いか?」
「小無双とかどうです、大将。」
「却下、笠が邪魔だ。」
「チョットぐらい考えてくれてもいいじゃないですか!」
「うむ、そうなると後は頭巾か面ですな。」
俺もじい様も無視して話しを進める。
「頭巾に面か………じい様、確か源内の荷物の中に行人包ってあったよな?」
「ええ、日差しの強い日などに身につける様にと旅の荷物にはいつも持参しているはずですが。」
俺は『よし!』と声を出し、露天風呂へ向かう。
残された弥助はポカーンとしていたが、じい様は愉快に、兼相はまたですかと言いたそうな顔で笑っていた。
「源内、美奈都、話しがある。ちょっと出てこい。」
風呂場の前から呼びかける。
「どうしたんですか?五十鈴さん。」
幻灯館謹製の場湯手折る(バスタオル)まあ、大きな手拭いだ、を体に巻いた源内と美奈都が戸口に現れる。
「風呂から出てからでいいんだが、行人包と姫路でのアレ、貸してくれないか?」
「それなら荷物の中に入ってますから勝手に持って行っていいですよ。」
「私の方も大丈夫ですよ旦那様。」
「いやしかし、下着とか入っているだろ。」
「大丈夫ですよ五十鈴さんなら。ねっ、ななちゃん。」
「はい。信用してますから。」
朗らかに笑う二人。
信用されすぎだろ俺。
まあいい、二人に礼を言い宿に戻る。
女性陣の部屋に行き源内と美奈都の荷物を漁る。
なんだか下着泥棒になった気分だ。
幻灯館の女性陣は下帯や褌では無く未来の下着に近い物を着用している。
雫が言いだし俺が許可を出した。
尾張や美濃では結構な売れ筋商品でもある。
しかし、今になって少々後悔もしている。
「えーと、二人の荷物はこっちか。」
不審者では無いと自分に言い聞かせるためか、何故だか独り言が多くなる。
バッグの口を開けた時、年頃の少女特有の甘い香りがした。
いやいや、いかん。
行人包だ。
美奈都の物も含めてバッグの一番下に入れてあった。
おかげで俺は彼女達の下着を漁るはめになった訳だが。
「どうしたんです大将?えらく疲れた顔して。」
戻って来た俺に悪気は無く兼相が聞いてくる。
とりあえず目で威嚇をし、それ以上突っ込むなと釘をさす。
「弥助、とりあえず、この二つを付けてみな。」
俺の手には源内の行人包と、姫路で美奈都が造った改良型の鉄面、略して鉄面(改)があった。
「どうだ?」
「いいんじゃないですか。」
「顔を隠すと言う目的は果たしてますな。」
「「しかし…………」」
「面の形はこの際無視してくれ。」
「ならば、これに先ほどの旦那様の案を足せば問題無いかと。」
そこまで話した時、外が騒がしくなった。
どうやら娘さん達のお帰りの様だ。
「今日も良き戦じゃった。」
「おちび、お風呂は戦の場じゃ無いじゃんよう。」
「まったく、美奈都と言い花梨さんと言いプカプカと。」
「しょうが無いよ、だって勝手に浮かぶんだもん。」
「だにゅう!」
「もう、皆さん……………あれ?」
「どうしたのじゃ?僕っ娘涙目。」
娘さん達の目が一点に集まる。
「「ギャーーーーーーーーーーーーーー!」」
その視線の先には………巨大な鬼がいた。
「なんじゃ弥助かや、驚かすで無い!」
「スミマセン。」
「弥助さん、あやまる必要はないですよ。」
「そうだよ、ななちゃんの言う通りだよ。」
「ぜんぶご主人さまがわるいんだよ。」
ひどい言われようだ。
「五十鈴さん、こんな事をしているなら一言言ってくれればいいじゃんか。」
「それは悪かったが、源内、美奈都、お前ら解ってたんじゃ無いのか?」
「まさか。こんな話になっているなんて。」
「そうだよ、ビックリしたー。」
二人は抗議の声を上げる。
「解った。今夜の事は俺が全面的に悪い。」
「旦那様が謝った!」
「うるさいぞ!源内。」
「はい。」
バ会話は此処までだと俺は美奈都に視線を合わせ
「美奈都。この鉄面(改)をもう一つ造ってくれるか?」
「いいですよ。花梨ちゃん、村長さんにお話通してくれる?」
「解ったじゃんよ。鍛冶場を使わせてくれる様に頼めばいいじゃんか?」
「うん!あっ、でも五十鈴さん、意匠(デザイン)はどうします?」
「そうだな、…………とりあえず美奈都は真砂(まさ)を集めてくれ。」
「はい!」
「兼相は美奈都の護衛兼手伝い。」
「了解です、大将。」
「花梨は弥助の寸法に合う着物や手袋なんかの発注を頼む。」
「この村の仕立て職人でいいじゃんか?」
「腕が確かならそれでいい。」
「源内は俺や弥助と一緒に鉄面(改)の意匠。」
「お前様、わらわは?」
雫に声をかけられ俺は手元にあった紙束を差し出す。
「お前は落書き。面や文様の意匠を思い付く限り落書きしろ。」
「どう言う事じゃ?」
「可能な限り意匠は弥助の意見を重視するが、それでも補えない場合や決まらない場合はお前の落書きから案を詰める。いいな。」
「おうとも!」
「あとは、芽衣と又兵衛は手の足りない所への応援。」
「はーい。」
「解りました。」
「アノ。」
「何ですかな、弥助殿。」
弥助は訳が解らないと言った感じで戸惑いながら長五朗のじい様に声をかける。
「ドウナッテイルノデスカ?」
「ふむ。切っ掛けは弥助殿の衣装作りでしたが、今は旦那様が本格的に楽しみ出した、と言う事ですな。」
「ハァ。」
じい様は楽しみながらも冷静に状況を分析する。
こうして“弥助の変身大作戦”が始まった。
いかがでしたか?
次話は制作編。
しかし、小説で物造りの話しって。
楽しんでいただければ良いのですが。
ちなみに、
雫、うさぎのバックプリント。
源内、白の無地に小さなリボンのワンポイント。
美奈都、花柄。
芽衣、猫の肉球柄。
花梨、グレーのボーダー。
又兵衛、サイド紐結び。
異論は認めます。
感想お待ちしております。