織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

25 / 80
別府編、静かに事件は始まります。



3‐2

〜豊後の国 別府〜

 

「やっと到着か。」

 

「結構かかったのう、お前様よ。」

 

「ああ、目的地まで後わずかだ。」

 

 今、俺達一行は別府の港町にいる。

 姫路を出てから約一週間強かかった計算になる。

 海路での移動なので半分ほどの日数で到着してもいいものだが、そこは幻灯館ご一行、瀬戸内を堪能せねばといろいろ寄り道をした結果このようになったしだいである。

 その中でも一つ気にかかる事がある。

 安芸の国を出たあたりから兼相の元気が無いのだ。

 

「サル相よ、どうしたのじゃ?元気が無いのう。わらわに話して見よ。悪い様にはせぬぞ。」

 

 いたずらっぽい笑みを漏らしながら心配していないであろう雫が話しかけた。

 

「お嬢、俺の事心配してくれるんですか?」

 

 兼相は少し涙目になって心配してもらえた事に素直に喜んでいる。

 だが、現実は冷たい物だと言う事がすぐに判明する。

 

「いやな、ここから徒歩での移動になるじゃろ。じゃからの、暇つぶしになればと思うての。そう言う事じゃから早よう話せ。わらわとて暇じゃぁ無いからのう。」

 

 暇なのか暇では無いのか良く解らない雫が毒を吐く。

 

「もういいっス。大将に相談してみます。」

 

「そうかや?そうなのかや?つまらんのー。」

 

 おもちゃを取り上げられた様な顔の雫と、世の中鬼だらけだと嘆く兼相。

 それも、まあ、いつもの事だが。

 俺は気分を変えるように隣に居た花梨に話しかけた。

 

「宿まで後どれくらいだ?」

 

「宿……では無いじゃんよう。」

 

 花梨の言葉に少し不思議そうな顔をしながら

 

「どう言う事だ?」

 

「港町を出て四半刻ほど歩いた山の中腹に小さい村があるじゃんよう。そこは以前、あたしらの仲間だった奴らが住んでるじゃんよ。」

 

「なるほど、その村に湯が湧いている訳か。」

 

「そうじゃんよう。瀬戸内から豊前、豊後の海は村上の縄張りじゃんよ!だから別府と聞いてここを思い出したんじゃんよ!それで、親父に連絡したら話をつけてくれるって事じゃんか、だったらって事じゃんか。」

 

 花梨は均整のとれた形の良い胸を張って自慢げに言う。

 

「すまないな、助かった。」

 

 そう言って花梨の頭をクシャッと撫でる。

 現代と違って事前に宿を取る事が出来ないこの時代では話が通っているだけで非常に助かる。

 港町を出、街道を逸れ山に入る。

 俺達の行く温泉は現代風に言うなら秘湯と言う所らしい。

 山をぐるりと半周した所に目当ての村はあった。

 どうやら周囲の山々が壁となってこの村を隠している様だ。

 その事を花梨に聞くと、やはり近くの港町の人々もあまりこの村の事は気づいていないとの事だった。

 村の入り口では村長以下数十人の村人が俺達を出迎える。

 いや、花梨とお供の俺達を出迎えたと言った方が正しいかも知れない。

 村人は口々に姫様、姫様と花梨を歓迎する。

 このまま続くとウチのやんちゃ姫がキレそうなので俺は口を開く。

 

「花梨、すまないんだが俺達の事を紹介してくれないか?」

 

 声をかけられた花梨は顔をこちらに向け「えへへ」と顔を赤らめ

 

「村長のおっちゃん。この人達は今あたしがお世話になっている人じゃんよう。よろしく頼むじゃんよ。」

 

 花梨がそう言った途端、胡散臭そうに遠巻きに見ていた村人達は一斉に俺達の周りに集まって歓迎の意思を表してくれた。

 その中で一人の初老の男性、村長が一歩前に出て改めて俺達に歓迎の言葉をかけ、お疲れでしょうからと早々に宿となる民家に案内してくれる。

 

 

 

 

「ふひゃーー。」

 

 宿となる民家、此処からは宿と誇称しよう。

 宿に着き腰を下ろした途端、雫が漏らした声がこれだ。

 風船かこいつは。

 そんな事を思っていると「はふぅ」「ふぁぃー」「はにゃー」「ふぅぁ」源内、美奈都、芽衣、又兵衛の空気が漏れた。

 まあ、乗りなれない船での旅だ疲れたのであろう。

 

「お前ら、風呂でも行ってこい。温泉だぞ。」

 

『温泉かや!』『温泉!』『温泉だ!』『おんせんだよ!』『温泉ですね!』

 

「「行って来ます!」」

 

雫、源内、美奈都、芽衣、又兵衛の声が重なり、バタバタと出て行った。

 静かになり一息つく俺に花梨が話しかけて来た。

 

「五十鈴さんも温泉どうじゃんよう。」

 

「そうだな。せっかくだしそうするか。花梨、お前はどうするんだ?」

 

「うん?あたしも行くじゃんよ。」

 

「そうか。なら、あいつらがはしゃぎすぎないよう監視頼むぞ。」

 

「……え!無理じゃんよう!とくにおちびは絶対無理じゃんよ!」

 

「聞こえない聞こえない。」

 

 そんなやり取りをしながら俺は温泉に向かう。

 この村の温泉施設?は山の麓にあった。

 こじんまりとした民家風の建物に脱衣場と内風呂があり裏に露天風呂があると言った構造だ。

 脱衣場で衣服を脱ぎ露天風呂に向かう。

 男湯は俺一人だった。

 長五朗のじい様と兼相は宿で村長と酒盛りをしている。

 湯に入り一息つくと隣の女湯の会話が聞こえて来た。

 

「美奈都、そのはしたない物を早く沈めなさい。」

 

 少しきつめな声色をした源内の声が聞こえる。

 

「え?何行ってんの、ななちゃん。私、肩までお湯に浸かってるから首から上しか出てないよ。」

 

 次は不思議そうな美奈都の声だ。

 

「早く沈めなさいって言ってるでしょ!まったく、はしたない!女の子なら少しは慎みを持ちなさい。」

 

「もう!だから、なに言っているか解かんないよ、ななちゃん。ねぇ、芽衣。」

 

「………ごぼすぼ。」

 

「え!もしかして殺すよって言った?今。」

 

「ばびゅう!」

 

「今、絶対、駄乳って言ったよね!雫ちゃんも聞いたよね!聞いたよね!ひどいよね!」

 

「美奈都よ、早ようそのみっともなくプカプカ浮いている物を沈めんか。」

 

「浮いてる物?……………あ!おっぱいの事?しょうが無いよ、おっぱいって浮くもんだし。」

 

 そんな美奈都の声が聞こえた瞬間“ザッパァ”と言う大きな水音が聞こえて来た。

 水音にまぎれる様に「なにすんのー」と言う美奈都の声やバシャバシャと言う連続した水音と共に「もげろ!しぼめ!駄乳!」と言う源内と芽衣の魂の声も聞こえて来た。

 

「お主らよ、毎度毎度乳の事でもめよって恥ずかしいと思わんか。」

 

 雫が横やりを入れる。

 その瞬間“ザッパァ”と先ほどより大きな水音がし、続いて

 

「あなたに言われたくは無いわよ!」

 

「雫ちゃんだってツルペタだよ!」

 

「雫ちゃん!どっちの味方なの!」

 

 矛先が一斉に雫に移った様だ。

 その時、新たな声が怒りと共に聞こえて来た。

 

「あんたら!何騒いでいるじゃんよ!お風呂くらい静かに入れないじゃんか!」

 

 花梨だ。

 どうやら花梨は俺の言い付けをしっかり守ってくれるらしい。

 だが、そんなに甘くない事も俺は知っている。

 

「花梨ちゃん!みんながひどいんだよ!」

 

「かちぐみはだまってて!」

 

「わらわは間違った事は言っておらぬぞ!」

 

 美奈都、芽衣、雫はおのおのの意見を言う。

 

「まあ待つじゃん。おっぱいなんて、あたしぐらいの年になれば自然と大きくなるじゃんよう。心配する事ないじゃんよ。」

 

 花梨は花梨なりに場を収めようとする。

 しかし、一人黙っていた同い年の源内は

 

「うぅぅー。生えているからって勝ち誇らないで!」

 

 ………………源内、生えて無いのか。

 

 源内の一言で露天風呂は再度カオスと化した様だ。

 

『花梨ちゃん同盟だよ!』『かちぐみはてきなんだよ!』『勝ったと思わないで!』『わらわは将来有望じゃ!』『お前らうるさいじゃんよう!』と美奈都、芽衣、源内、雫、花梨は思い思いの言葉を口にする。

 誰か一人足りない様な気がしていた時

 

「皆さん、仲良くしましょうよ。」

 

「「中途半端は黙ってて!」」

 

 又兵衛でオチが着いたなと思い、俺は露天風呂を後にした。

 まったく騒がしい事だ。

 

 そう言えばアイツ、耳と尻尾はどうしたんだ?

 

 

 

 

 その夜は皆、よほど疲れていたのか早めの就寝となった。

 

 

 翌朝、朝食を済ませ花梨を案内に村を一回りして見る。

 山間の小さな村だが村の中でたいがいの物は賄える様だ。

 花梨の話では近くで綿花が取れるらしく反物などにして外貨と言うのもおかしいが金を得て村で賄えない物を買っているらしい。

 

 

 

 村に滞在してから二日目の夕暮れに一つの事件が起きた。

 雫が迷子になったと言うのだ。

 何をやっているんだアイツは。

 そう毒つきながらあまり遠くへは行ってないだろうと決め付け一番近くの山に踏み入る。

 山の中腹辺りで耳を澄ませ辺りを見回す。

 すると遠くから“ミーミー”と言う声が微かに聞こえて来る。

 注意深く耳を澄ませ、その方向へ向かうと…………………………………………………………………………いたよ。

 

 最近お気に入りの黄色い幼稚園児姿で膝を曲げベレー帽の様な帽子をギュッと両手で握り小さな声で泣いていた。

 普段の横柄な態度と打って変わって、まあ何と可愛らしい姿だと思うとなぜか笑いが漏れそうになってしまう。

 俺は努めて優しい声で「雫」と呼びかける。

 名前を呼ばれた雫は一瞬ビクッとしてから恐る恐る顔をこちらに向けた。

 

「お前様〜〜〜〜〜〜!」

 

 雫が駆け寄って来た。

 激突する様に俺の足にしがみつき“えぐっえぐっ”としゃくり上げる。

 雫の手からベレー帽を取り頭に被せた後ポンポンと撫でてやった。

 それでも泣き止まない雫を抱き上げ俗に言うコアラ抱っこで山を降りにかかる。

 抱っこされた雫はおとなしく俺の肩に顔を埋め少しの間黙っていたが

 

「お前様よ。」

 

 小さな声で呼びかけて来た。

 俺は「うん?」と普段通りに返事を返す。

 

「お前様よ、わらわが泣いたこと皆には…………」

 

「ああ、黙っていてやる。」

 

「すまんの。」

 

「しかし雫、一人山の中で何をしていた?朝、弁当まで持って行ったそうじゃないか。」

 

 質問すると僅かな間沈黙があったが

 

「と、友達が出来たのじゃ。」

 

 少し恥ずかしそうにそう答える。

 

「そうか。どんな子だ?」

 

「大きいヤツじゃ。それにのお前様、とっても黒いのじゃ!あとの心の優しい男(おのこ)じゃぞ。会えばお前様もきっと気に入るはずじゃぞ!」

 

 普段の雫に戻って来た様だ。

 

「そうか、今度合わせてくれよ。」

 

「うむ。」

 




いかがでしたか?

次話は雫の友達のお話しです。


感想お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。