織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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第二話終了です。


2‐6

 その日の夜、姫路城では今回の騒動の解決を祝して宴が開かれた。

 内容はとっても質素だった。

 さすが黒田。

 宴の席では『今回は綱渡りじゃったのー』と言う雫や、『僕、何も出来ませんでしたー』と泣き崩れる又兵衛、『何時もこんな物ですよ』『そーだよ、こんな物だよ』と又兵衛を慰める源内と美奈都、『ご主人さま、わたしにないしょで鉢屋のひとつかったでしょー』と俺を責める芽衣、『今回は大きな荒事は無かったスねー』と兼相。

 姫路城での宴が終わり、 百間長屋に帰って来ても宴会は続く。

 雫、源内、美奈都、芽衣、兼相以外に鉢屋衆の面々も顔を出す。

 なぜか又兵衛もついて来てまだ泣いている。

 それを見つめる俺。

 楽しんでいるなと思いを巡らせていた時、不意に思い出した事があった。

 

「あーーーー!」

 

 いきなり大声を出した俺に皆が注目する。

 

「どうしたのじゃ、お前様?」

 

 雫が問いかけて来た。

 俺は屈辱的な苦々しげな表情で

 

「………人魚姫の事、忘れてた。」

 

 その瞬間、又兵衛以外の全員が

 

「「あーーーーーーーーーーー!」」

 

 みんなそろって忘れていた訳だ。

 

 

 

 

 

 

 同時刻、海岸の岩場に座って武吉、花梨の親子は今までの事を語り合っていた。

 

「成る程な、そんないきさつで。」

 

「うん。でも親父がちゃんと器を見せてくれて、あたし嬉しかったじゃんよ。」

 

「……それは違うな。」

 

「えっ?」

 

「あいつが引き出してくれたんだろな。」

 

「親父の器を?」

 

「ああ。俺に恥をかかさず他の海賊衆の怒りも納めた。それも自分が危険の矢面に立ってまでな。本当に隆元を思い出すぜ。」

 

 武吉は嬉しそうな、それでいて少し寂しそうに笑う。

 

「そんな、隆元様とは違うじゃんよ。」

 

「そうだな、隆元とは違う。もしかしたら………」

 

「もしかしたら?」

 

 武吉は一旦言葉を切り、自分の娘を見つめながらゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

 

 

「あいつは隆元以上に天下人の器を持っているのかもな。」

 

 

 

 武吉は笑う。

 だか、今度の笑いには寂しさは無かった。

 

「………なあ、親父。」

 

「惚れたか?あいつに。」

 

 武吉の一言で花梨の顔は真っ赤になる。

 

「な!なに言ってんじゃんよ!あたし、あの人の名前しか知らないじゃんよ!」

 

「じやあどうした?」

 

「あの人に、五十鈴さんについて行ってみたいじゃんよう。」

 

「そうか。」

 

「うん、五十鈴さんが何者か知りたいじゃんよう。あの人の目が何を見ているのか知りたいじゃんよう。」

 

 花梨は真剣な顔で武吉を見る。

 遊びでは無いと。

 

「そうか。だがな花梨、一つだけ条件がある。」

 

「何じゃんよう。」

 

 武吉はいたずらっぽく、そして真剣さを強めた声で語りかける。

 

「あの男を必ず手に入れろ。手段は何でもいい。旦那としてでもいい。あの男を必ず村上に連れてこい!」

 

 

 

 

 宴会を終えた次の朝、珍しい人物が百間長屋を訪ねて来た。

 

「よう、大将、おはようさん。ちょっと顔貸してくれねえか?」

 

 村上武吉だった。

 二人連れ立って近くの土手に場所を移すと武吉が口を開く。

 

「なあ大将。大将の所でウチの娘、預かってくれねえか?」

 

「花梨をか?」

 

「ああそうだ。大将が何者か、その目が何を見ているのか知りたいらしい。」

 

「前にも言われた事があるな。」

 

「そうか。で、どうだ?預かってくれるか?」

 

「花梨がそう望んでいるのか?」

 

「そうだ。」

 

 俺の問いに武吉は真剣に、少し寂しさと愉快さが入り交じった表情で答える。

 

「なら、勝手に付いて来ればいい。俺は拒まんよ。」

 

「ありがたい。おてんばな娘だがよろしく頼むぜ、大将。」

 

 先ほどの表情とは違い、武吉は豪快に笑う。

 俺は丁度良い機会だと武吉に質問する事にした。

 

「その代わりと言っちゃあなんだか、一つだけ聞いても良いか?」

 

「何だよ、水くせえな。」「人魚姫の怪異譚、知っているか?」

 

 俺の質問に武吉はポカンとした表情を浮かべ

 

「人魚姫?知ってるも何も花梨の事だ。」

 

「はぁ?」

 

「あいつは昔から泳ぎが上手くてな、そんでもって俺の、村上衆の頭の娘だ。だからよ、子分達や近くの漁村の奴らから人魚姫なんて呼ばれてるぜ。」

 

『はーー』とため息を吐く俺に、『どうした大将?』と武吉が気遣ってくれる。

 

「はぁ?人魚姫の怪異譚を追って姫路まで!そんでもって情報が集まらなきゃ安芸まで行くつもりだったって!」

 

「ああそうだ。」

 

「酔狂な事をしてんだな大将は。」

 

「大将はよしてくれ海賊王。俺の名は………まあいいか。」

 

 そう言うと俺は立ち上がり武吉に背を向ける。

 

「花梨は確かに預かった!またいつか会おう、瀬戸内の海賊王!」

 

「おう!またいつかな城無しの天下人!」

 

 俺達は振り向く事無く別々の方角へ歩きだした。

 

 

 

 百間長屋に戻ると、表戸の前に花梨が待っていた。

 花梨に近づき

 

「ついて来るんだって?」

 

「うん。」

 

「面倒くさい旅だぜ、周りは癖のあるやつばっかりだぞ。」

 

「知ってるじゃんよう。」

 

「なら、はぐれない様に付いてこい人魚姫。」

 

「うん!」

 

 二人で笑っていると長屋の中から大声が聞こえた。

 

「なんじゃとーーー!もういっぺん言ってみよーーーー!」

 

 雫だ。

 折角良い終わり方だったのに。

『何騒いでんだ!』と表戸を開けると又兵衛が土間で膝をついていた。

『何の騒ぎだ?』もう一度睨み付けるように質問をする。

 脇から『何じゃんよう?』と花梨も顔を出す。

 

「お前様よ!よーく聞くのじゃ!この僕っ娘涙目がわらわ達に同行したいなどと言い出しおったのじゃ!」

 

「はあ?黒田の家はどうした?」

 

「はい!宗円様に相談した所、諸国を見て回るのも黒田のため、しっかりと世間を学びそれを黒田の為に使うようにと仰せつかいました。人魚姫の怪異譚の収拾、この又兵衛もお力になります!」

 

 むふーと鼻息荒く語る又兵衛、可哀相だが

 

「ああ、人魚姫はもういい。解決した。」

 

 きっぱり言う俺。

 

「「はあーーーーー?」」

 

 他の者はビックリだ、今朝まで不明だった事が僅かな時間で解決していたのだから。

 俺は花梨を前に出し

 

「こいつが人魚姫だ。それからしばらく幻灯館で預かる事になった。」

 

「よ、よろしくじゃんよ。」

 

 借りて来た猫のように花梨は挨拶をする。

 

「なんじゃとー!この色黒が旅に同行じゃとー!」

 

「賑やかになりそうですねぇ。」

 

「たのしそー!」

 

「女の子が増えた。」

 

「俺の立場、改善しますかね?」

 

「僕もついて行きますよ!」

 

 雫、源内、芽衣、美奈都、兼相、又兵衛が好き勝手に感想を言う。

 

「もう決めたじゃんよう!それに!それに、あたしは五十鈴さんの、つ、妻になるじゃんよう!」

 

 ピシリと空気が凍った。

 

「お前様!」

 

「旦那様!」

 

「ご主人さま!」

 

「五十鈴さん!」

 

 花梨の爆弾発言。

 はぁ、本日の百間長屋も騒がしくなりそうだ。

 

 

 

 

 村上花梨に後藤又兵衛、新たに二人の仲間を迎えて旅は続く。

 まあ、これまでもそうだった様にこれからもそうなのだろう。

 新しい怪異に新しい仲間、集まって来る人達に新しい出会い。

 姫路での旅はこの言葉で締めくくるのが一番だろう。

 “やれやれ”と。

 




いかがでしたか?

今回から仲間入りした花梨と又兵衛、癖の強い幻灯館メンバーの中でどういった活躍をしてくれるのでしょうか?

次話は第三話になります。第三話は第二話より長くなりそうです。
お付き合いのほど、よろしくお願いします。


感想お待ちしております。

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