織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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海賊騒動の解決編です。


2‐5

 姫路までは陸路で向かう事にした。

 堺からなので海路の方が楽で早いのだが、どうやら村上の件で淡路の方まで海賊行為が横行しているらしい。

 なので安全策を取って陸路と言う訳だ。

 数日の徒歩での旅の後、やっとと言った感じで俺達は姫路入りを果した。

 初めての姫路、印象は田舎、だが治水は行き届いた綺麗な場所だった。

 まあ、失礼なのだがあまり見るべき場所も無いので俺達は姫路城へと足を向ける。

 その道中、雫が興味深げに話しかけて来た。

 

「お前様よ、姫路城は美しい城として有名なのじゃろ?」

 

「ああ、姫路城と言えば白壁が美しい別名“白鷺城”とも…………………………言えないくらい小汚いほったて小屋だ。」

 

 眼前に見えたのは、小汚いと言うかみすぼらしいと言うか、ほったて小屋に毛が生えた程度の砦だった。

 門番らしき男に、本当に此処が姫路城か?と訪ねた所、本当に姫路城だった。

 その男に紹介状と謁見したいという旨を伝えると割と早く俺達は謁見の間へと通される。

 謁見の間と言っても実に質素で“さすがは黒田、歴史に残る倹約家(ケチ)”と言った感じである。

 その部屋の上座に黒田宗円は静かに座っていた。

 

「初めてお目にかかります。わたくし清洲から参りました真中五十鈴と申す者でございます。後ろの者達は旅の連れにてございます。」

 

「ほっほー。五十鈴殿、そう硬くなりませぬな、長五郎殿はお元気かな?」

 

「ええ、大変お元気で私共もお世話になっております。」

 

「しばらく滞在と言う事でしたが遠慮なく百間長屋をお使い下され。ほっほー。」

 

 黒田宗円はいかにもと言った感じの人の良さそうな人物だった。

『お言葉に甘え、ありがたく使わせて頂きます』と言うセリフを半分ほど喋った所で、この部屋に小さな乱入者が現れる。

 

「父上ー!父上ー!父上!父上!父上ー!」

 

 トタトタと走りながら雫と同い年くらいの男の子が部屋に入って来た。

 

「これ!万吉、騒がしいぞえ。お客様の前じゃぞ。」

 

「むふー。ですからこの万吉、挨拶に参りました!皆様、初めまして!ボクは黒田万吉!黒田の家督を継ぐ者だ!よろしく!」

 

 この子が黒田万吉、後の黒田官兵衛か………

 などと考えている俺の目の前で黒田官兵衛、いや黒田万吉はまくし立てる様に自分自慢をしだした。

 良く喋る子だと思いつつ呆れていると、俺の横に居る危険人物が立ち上がる。

 

「うっるさいわーーーー!この色黒小坊主が!黙って聞いておればペラペラと!少しは黙っておれーー!」

 

 とうとう雫が爆発したようだ。

 

「なんだと!お前こそ黙っていろ!それにボクは女の子だし色黒じゃなくて日焼けだ!」

 

 女の子だった。

 しかし竹中半兵衛と言い黒田官兵衛と言い、女の子とは。

 それに、どっかで聞いた会話が目の前で繰り返されている。

 後ろを盗み見ると花梨が拳を握って静かに怒っていた。

 目の前で繰り広げられる騒ぎを見ながら黒田宗円は『元気で仲の良い事だ』と笑っている。

 すると騒ぎの中、源内や花梨と同い年くらいの少女が慌てて入って来る。

 

「申し訳ありません。僕が目を離したばかりに。」

 

 またもやボクっ娘登場。

 

「いやいや、良いのじゃ又兵衛。それよりも皆様に挨拶を。」

 

 宗円に促され涙目になった顔をこちらに向け挨拶をする。

 

「皆様、お初にお目にかかります。僕は後藤又兵衛。姫様の御側役を務めております。以後お見知り置きを。」

 

 又兵衛は礼儀正しく頭を下げる。

 

 

 

『後藤又兵衛まで女の子だと?それに黒田官兵衛よりも年上?一体この世界はどうなっているんだ?』

 

 

 

 その時おもむろに宗円が口を開いた。

 

「又兵衛や、このお方達を百間長屋まで案内してやってくれまいか。」

 

「はい。僕で良ければ。皆さん参りましょうか。」

 

 又兵衛が俺達を案内しようと腰を浮かそうとした時、俺は黒田宗円に話しかけた。

 

「宗円殿、少しばかりお聞きしたい事があるのですがよろしいか?」

 

「ほっほー。最初からそれが目的で来られたのでしょうからな、構いませんぞ。では、他の方々は先に長屋の方へ案内いたしましょう。ほっほー。」

 

 黒田宗円は実にあっさりと俺の願いを受け入れてくれた。

 他の者が去った後、宗円に海賊騒動の事を幾つか質問し、丁寧に礼を言って俺も姫路城を後にした。

 遅れて百間長屋に着いた俺は皆に合流し指示していた事を報告してもらう。

 

「そうか。事情は四号の言っていた事と同じか。」

 

「はい。どの行商人や町人に質問しても同じでした。」

 

 源内は簡潔に答える。

 

「でも驚きました。皆さんが海賊退治にいらっしゃったなんて。」

 

 声のする方へ振り返る。

 

「又兵衛殿、まだ居らしたのですか?道案内は終わったのでしょうに、もう帰られてもよろしいのですよ。お疲れ様。」

 

 俺は丁寧な言葉で礼を言う。

 

「ぼ、僕にも手伝わせて下さい。槍使いなら誰にも負けません。」

 

 いきなりお手伝い宣言をして来る又兵衛。

 それに噛み付いたのは花梨だった。

 

「何でお前が手伝うなんて言うじゃんよ!何が目的じゃん?面白半分だったら承知しないじゃんよ!それに槍ならあたしだって誰にも負けないじゃんよ!」

 

 今にも掴みかかりそうな勢いの花梨を制止して又兵衛に質問する。

 

「どうして手伝うなんて言い出すんだ?」

 

「僕は幼い頃に両親と死別しました。行くあてが無かった僕を引き取ってくれたのが宗円様なのです。宗円様は僕を実の娘の様に迎えて下さいました。姫様がお生れになった後もずっと、今もです。ですから僕は宗円様………いえ、殿の為に、殿が治める姫路の為に何か力になりたいのです。ですから五十鈴殿、是非とも力にならせてはいただけませんか。」

 

 又兵衛はひたすら頭を下げる。

 

「武功を挙げたいのか?」

 

 疑われていると感じた又兵衛は必死で訴えかけて来る。

 

「そう思われても仕方ありません。ですが僕は、僕は本当に黒田の為に何かをしたいんです!」

 

 そう言い切った又兵衛の瞳は涙に濡れている。

 そんな又兵衛を見てクスリと笑う俺に『お前様、悪趣味じゃぞ』『旦那様、やりすぎです』雫と源内のお叱りが入る。

 

「花梨、納得できたかい?」

 

 花梨の方に振り返り言葉をかける。

 小さな声で『うん』と花梨は頷く。

 再び又兵衛の方を向くと俺と花梨以外の全員が又兵衛を慰めていた。

 

「気にするで無いぞ、あれは悪意のかたまりじゃからな。」

 

「旦那様は元々が意地悪な方なんです。」

 

「ご主人さまはいじわるなんだよ。」

 

「五十鈴さんの周りでは、あれが普通なんだよ。我慢してあげて。」

 

「犬にでも噛まれたと思って、な。」

 

 雫、源内、芽衣、美奈都、兼相が次々に又兵衛に言葉をかける。

 それを聞いていた俺の袖が引っ張られた。

 振り返ると花梨が

 

「ねえ、あんた立場低いじゃんねー。」

 

 慰めるでもなく、そんな事をいわれた。

 本気で落ち込むぞ、俺。

 いつも通りにワイワイ騒いでいる愉快な所?に新たな乱入者、いや四号が恐る恐る入って来た。

 片膝を着き敬意を表す様な姿勢で土間に控えている。

『どうした?』と四号に近づいて話しかけた。

 

「いえ、お嬢様は朝廷にも匹敵するやんごとなき血筋の姫様との事、その夫である旦那様は………。」

 

「その話、誰に聞いた?」

 

「はっ!お嬢様に。」

 

 確かにやんごとなき産まれかも知れんが、あの腹黒お馬鹿のやんちゃ姫は………。

 

「いいから、頭をあげろ。で、どうした?」

 

「はっ、村上との交渉の日取りの目星がつきましてございます。」

 

「いつだ?」

 

「明後日でございます。」

 

「明後日か…………間に合うか?」

 

 

 

 

 

 次の日は騒がしく過ぎて行く。

 雫と花梨と遊びに来ていた万吉の口喧嘩は一日中鳴り止まず、飛騨三人娘の『何も無い田舎だねぇ』と言う発言に又兵衛が涙目で文句を言う、そんな一日が過ぎ村上との交渉の日となった。

 

 

 俺、花梨、四号とその郎党は浜で村上の到着を待つ。

 他の面子は近くの岩場に身を隠し、事の成り行きを伺っている。

 太陽が真上に差し掛かろうと言う時間帯、波の向こうに五、六艘の船が現れた。

 船は静かに着岸し毛むくじゃらな中肉中背の男達が進み出て来た。

 

「女か金はそろったか!俺こそは村上武吉ぞ!」

 

 その中の大将らしき男が名乗りを挙げる。

 その言葉を聞いた瞬間、花梨が顔を真っ赤にして飛び出そうとする。

 襟を掴み引き戻すと花梨の瞳を見据え『黙っていろ』と言い聞かせた。

 花梨はビクッと身を縮めそれに従う。

 俺は一歩前に出て村上武吉と向かい合う。

 

「あんたが大将か?」

 

 俺の態度が気に障ったのか村上武吉は一歩前に出て

 

「そうじゃ!俺様が村上武吉じゃ!」

 

 俺はバカにした様な、小物を見る様な見下した目で

 

「案外小さいな。お前だったら簡単に殺せそうだ。」

 

 ニヤリと悪党の笑みを浮かべそう告げる。

 毛むくじゃらの男達は刀に手を掛け切り込んで来ようとする。

 その時、沖の方からパァンと言う鉄砲の様な大きな破裂音が聞こえ、二十艘ほどの船団が近付くのが見えた。

『間に合ったか』と心の中で安堵しながら

「おい小物、あれもお仲間か?村上の旗が上がっているが?」

 前よりも高圧的に言う。

 毛むくじゃらの男達は後ろを振り返り顔を青ざめ逃げる態勢を取ろうとする。

 

「芽衣!兼相!」

 

 俺が叫んだ瞬間、芽衣と兼相、十名ほどの鉢屋衆が男達を取り囲む。

 囲まれた男達はガックリと膝をつき敗北を悟った。

 それと同時に、村上の旗を掲げた船が着岸し、日に焼けた大柄な男達がこちらに向かって歩いて来た。

 その中で一際大柄な男が前に出る。

 

「すまねえな。こっちの騒動に巻き込んでよ。こいつらはこっちで始末をつけるからよ。」

 

 大柄な男はそう言って背後に控えていた者達に合図を送る。

 だが男達は動かなかった。

 

「…………何のマネだ。」

 

 大柄な男は呟く様に言う。

 自身の喉元に刀の切っ先を突き付けられた状態で。

 刀を突き付けた者は、もちろん俺だ。

 

「それはこっちのセリフだ。何のマネだ?そして、お前は…………誰だ?」

 

 俺はニヤリと笑い、大柄な男と向き合う。

 大柄な男は今の状況にひるみもせず

 

「俺か?俺は村上武吉だ。本物のな。」

 

 大柄な男は堂々と名乗りを挙げる。

 俺の周りの海賊衆はすくみ上がっていたが

 

「ほーう。あんたも村上武吉か。こいつも村上武吉だが?」

 

 毛むくじゃらの男に視線を移して言う。

 

「本物の証拠を見せろと?」

 

「そんな物無いだろ?」

 

「だったらどうしろと?」

 

「どう落とし前を付けるつもりだ?」

 

「何がだ?」

 

「この騒動の事だ。海に揺られ過ぎてそんな事も解らなくなったか?」

 

『舐めおって』と子分の一人が襲いかかって来る。

 俺はもう一本の小太刀で『邪魔をするな』と子分を打ち倒す。

 表情を変えずに俺はもう一度尋ねる。

 

「どう落とし前を付けるつもりだ?海賊王。」

 

 大柄な男はフッと笑みを漏らし

 

「こいつらをシメて今までブン取った金や女を探し出して、それぞれの者達に返そう。それでどうだ大将?」

 

 大柄な男はニヤリと笑う。

 

「甘めえよ。十出した物が十返って来るだけじゃぁ落とし前とは言えねえんじゃねえか?海賊王。」

 

「じゃあどうしろと?大将。」

 

「ここいらの海に生きる者達が受けた恐怖の分の保証はどうすると聞いているんだよ!海賊王。」

 

「その分の金を余計に出せとでも言うのか、大将。」

 

「小せえな。やっぱり本物じゃないのか?海賊王。」

 

「そうじゃん!迷惑をかけた分、瀬戸内全部を取り纏めて二度と不安になどさせない!くらい言ったらどうじゃん!それが瀬戸内の王、海賊王村上武吉の器じゃんか!」

 

 花梨が話に割り込んで来る。

 

「花梨!てめえ何でこんな所に?堺に行ってたはずじゃ。」

 

「そんな事どうでもいいじゃんよ!どうするじゃんよ!オヤジは今、試されているじゃんよ!隆元様の時と同じじゃんよ!」

 

「あの時と同じ?毛利隆元の時と。」

 

「そうじゃんよ!そうじゃんよ!」

 

 花梨は涙を流しながら村上武吉に詰め寄る。

“負けるな”と器を見せてくれと、妹達を守る為に命を張った毛利隆元と同じ様に。

 村上武吉はフゥッと息を吐き大声で言い放つ。

 

「解ったぜ大将!俺はこれから瀬戸内全てを我が物とする。そして、この海に生きる者達を全力を持って守って見せる。どうだ?大将!」

 

 武吉はニヤリと笑みを向けて来る。

 俺は小太刀を引き、鞘に納めると

 

「まだ足りないな海賊王。自分の娘にあそこまで言わせたんだ、しっかり褒めてやれよ。最初から最後まであんたの事を信じていたんだ。海賊王の器をな。」

 

 そこまで言って俺は村上武吉に背を向け、花梨と向き合う。

 花梨の茶色がかった髪を撫で

 

「花梨、お前の勝ちだ。良かったな。」

 

 それだけを言い皆の下へ行く。

 ぐるりと皆の顔を見て『撤収!』と声をかけ百間長屋へ足を向ける。

 その時、四号が巾着を持って近づいて来たが、ヒラヒラと手を振ってそのままこの場所を後にした。

 




いかがでしたか?

原作を読んだり、私の中にある村上武吉と言う物を出して見ました。

次話は今回のオチです。
長かった人魚姫編の最終回に当たります。

そして、姫路の皆様すいません。
作品中でひどい事言ってますがお許しください。


感想お待ちしています。

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