織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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ヒロイン登場


0‐2

 道に出たのはいいが果てしなく農道だった。

 2メートルほどの未舗装路の横に田園風景、どこだここは、頭をひねるばかりだ。

 頭をひねってばかりではしかたがないので道なりにとぼとぼと歩きだす。

 15分ほど歩いた所で一人の農民に出会った。

 農民などと思うのは農家の方に失礼かとも思ったが今俺の前にいるのは限りなく農民だった。

 時代劇に出てくる粗末な野良着に手ぬぐいを頭からかぶったあの姿だ。

 いい年をした爺さんがなんでこんなコスプレを、時代劇マニアか?しかも農民の?頭の中に五つも六つも?マークが浮かぶが心を落ち着かせて話しかける。

 

「すいませーん。道を尋ねたいんだが。」

 

 声をかけられた爺さんが“ちらり”とこちらを振り向き一瞬怪しい者を見る目つきはしたが「へいへい、なんでござんしょう」と答えてくれる。

 

「清洲城はどう行ったらいいか解るかい?」

 

 すると爺さんは一瞬ポカンとしたのち

 

「おめえさん頭はだいじょうぶか?ここは美濃の国のはずれ菩提山の麓だで」

 

 今この爺さんなんて言った美濃の国?岐阜県じゃなくて?それに愛知県にいた俺が岐阜県に、いや美濃の国に?

 解らない?なにがどうなっているんだ。

 パニくる頭をどうにか誤魔化して話しを続ける。

 

「ハハハ、そうかずいぶんと道に迷ったもんだ。」

 

 そんな乾いた笑いと無茶な言い訳しか出来なかった。

 俺の言葉をうけて爺さんは気にするなとでも言うようにケラケラと笑う。

 

「それじゃあ爺さん、もう一つ教えてくれ。この辺りを治めている殿様はなんて言う御方だい。」

 

 殿様なんてなにを言っているんだ!と言う答えを期待しつつそんな事をきいてみた。

 すると、この爺さんトンデモナイ事を言いやがった。

 

「この辺りの殿様はのぉ“安藤 伊賀守 守就”様だで。」

 

 安藤 伊賀守 守就だと?これが現実なら俺は平成の清洲から戦国時代の美濃の山奥にタイムスリップした事になる。

 信じたくない俺は爺さんに一つカマをかけてみた。

 たのむ爺さん違うと言ってくれ。

 

「美濃の国主“斎藤道三”様はご健勝かい?」

 

 すると爺さんは何をバカなことをと言ったふうで「あたりまえじゃろうが」と言い放つ。

 何の迷いもなかった。

 認めるしかないのか?いや、認めたくはない。

 俺が動揺している事を悟ったのか腕の中の嫁さん狐が“くぅ”と鳴く。

 確かめてみるしかないか……。

 

「爺さん!その安藤様に会うにはどこに行ったらいいんだ?」

 

 そんな俺の言葉に『お前みたいなやつが会えるわけねえだろ!』とでも言いたげな顔で『安藤様ならこの道を四半刻ほど歩いた山にある竹中半兵衛様の庵にいらっしゃる』と教えてくれた。

 “竹中半兵衛!”安藤守就・斎藤道三につづいて竹中半兵衛だと!

 確かめる必要がある。

 俺が今何処にいるのか、何時にいるのか。

 爺さんに別れを告げて言われたとおりに歩き出す。

 本当に四半刻(30分)ほど歩いた先にその庵はあった。

 建物はこじんまりしていたが立派な門を含めるとなかなか雰囲気のある建物だった。

 ここが竹中半兵衛の庵か?

 門の前に立ってみる、たしかに立派だが何かがおかしい。

 よくよく門や門柱・壁などを見てみるとお札がかなりの数貼ってあるのに気が付いた。

 

『このお札、ドーマンセーマン陰陽の護符か?なんでこんなに?』

 

 考えていてもしかたがないので思い切って声をかけようとした。

 その時俺の腕の中でジィィと護符を見つめていた嫁さん狐が急に暴れだしスルリと腕から逃げたかと思えば草むらの中に入って行ってしまった。

 ポカンとする俺、嫁を貰ってから数時間で逃げられた、離婚の最短記録だな。 そんな事をつい考えてしまった。

 それが良かったのかいい感じに緊張感がほぐれた。

 さあ、勝負の時だ。

 

「ごめんくださーい。誰か居ませんかー。道に迷ってしまいましてー。」

 

 そんなセリフを3〜4回繰り返したころ門が開き中から人が出てきた。

 

「誰じゃ、此処が竹中半兵衛の庵と知っての訪問か?」

 

 出てきた者は中年を過ぎたくらいの男だった。

 さっき出会った爺さんと違い武士という感じのキチッとした感じの人だ。

 

「申し訳ありません。道に迷ってしまいまして。こちらは竹中様の庵ですか?」

 

 出てきた男はそうだと言うように首を縦におおきくふる。

 

「貴様は何者だ?怪しい服装をしておるのう。」

 

 ホントに戦国時代なのか?そうだったらならば俺の服装はかなり怪しい。

 編み上げブーツに黒のアーミーパンツ、黒のTシャツに黒い薄手のコート、上から下まで黒ずくめ。

 怪しいと言う言葉を形にしたらこうなる。

 怪しいと言われても仕方がない格好だ。

 相手は武士、それもかなり位が高い者のようだ。

 少し下手に出て様子を見るか。

 

「私の名前は柳田国夫(偽名)と申します。諸国を回って怪異譚の収集をしている者です(嘘)。美濃から近江に抜ける際街道から外れ道に迷っていた所(半分嘘)農家のじい様に此処に竹中様の庵があり、そこに安藤様までいらっしゃると聞き及びなんとか助けてはいただけないかと参ったしだいです。」

 

「なんと!そのようであったか。うん、怪異譚とな?なるほどなるほど!」

 

 独りで納得しているオッサンであった。

 あまり人の話を聞いていない様だが、このオッサン、チョロイ。

 

「しかし半兵衛はあまり人とは会いたがらぬゆえ……おっと申し遅れたわしは“安藤 伊賀守 守就”じゃ。」

 

 えっ!このオッサンが安藤守就!ヤバイ、もう少し下手にでるか?

 そんな事を考えていた時

 

「いやいや安藤殿、その客人は私が出迎えねばならんようだ。」

 

 オッサンの横から男の声がした。

 その男は音も無くオッサン“安藤 伊賀守 守就”のすぐ横に姿を現した。

 公家風の衣装を着こみ顔は美形なのだがどこか冷淡な印象をうける、ありていに言うなら狐のような顔をした男だった

「うん、名は柳田国夫、怪異譚の収集をなりわいかぁ。」

 

 男は舐めつけるように値踏みをするように、いやらしい笑みを浮かべて俺を見ている。

 

『くそぉ、嘘の部分だけ的確に言葉にしやがる、やりにくいな。』

 

 そんな事を思いながらも腹芸を続ける事にした。

 

「はい、その通りでございます。で、あなた様は?」

 

「うん、おれか?おれは竹中半兵衛だ。」

 

 こいつが竹中半兵衛?俺はチラリと隣のオッサンを盗み見た。

 しきりにそうだそうだと首を振ってはいるが男が名乗ったとき肯定するまでに僅かだがタイムラグがあった。

 

「そうですか!あなたが今孔明と名高い竹中半兵衛様ですか!」

 

 本人ではないなと俺の感は告げるが目の前の男が何者か解らない以上腹芸を続けるしかないと諦めたとき

 

「くっくっくっあーはっはっはっはっ。」

 

 男が突然笑い出した。

 

「いやー、すまんすまん。おれは“前鬼”我が主竹中半兵衛の式神だ。そして影武者でもある。」

 

 目の前の男、前鬼がいきなりネタばらしをする。

 これを聞いて驚き慌てたのは安藤のオッサン

 

「ぜ、前鬼殿!!!」

 

 !マークがいくつもつきそうな驚きだった。

 

「すまぬな安藤殿、おれも輩(ともがら)の末裔の夫を騙すのは心苦しいのでな。そこな娘よ出てまいれ!」

 

 前鬼の言うことに俺も安藤のオッサンも?だった。

 すると俺の嫁さん狐が逃げ去った草むらから………ちんまりした巫女装束の幼女が姿を現した。

 少女と言うには少し幼い、幼女と言うには何か違う7〜8歳くらいの女の子。

 ホワホワな腰まである金髪とクリクリした少し勝ち気そうな黄金色の瞳、小さいながらも凛とした佇まい、その中でお茶目な感じで存在するピクピクと頭の上で動く獣耳、フワフワサワサワ揺れる狐のような尻尾……………耳?尻尾?

 

「娘。名乗られよ。」

 

 前鬼がどこか芝居がかった感じで幼女に尋ねた。

 

 問われた幼女は少し恥ずかしそうに、それでいて堂々と名乗りをあげる。

 

「わらわは雫。九尾の正当な血筋の姫であり、この男の妻じゃ!」

 




純情可憐、超絶美形、九尾の姫様 雫ちゃん。可愛がってあげて下さい。

ちなみに九尾の姫と言ってますが雫の尻尾は一本です

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