織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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壊物語終了です。


壊物語 其の三

「さて、始めるか。」

 

 合図を出すように隣にいる雫に目を向ける。

 雫は小さな太鼓を持って何か悩んでいた。

 

「どうした?」

 

「お前様よ…………………この小さな太鼓では…………Y○SHIKIになれん」

 

「うん、まあ、そうだな。」

 

「どうすれば良いのじゃ?」

 

「後から源内に頼んでなんとかしてやるから今は合図を。」

 

「わかったのじゃ。絶対じゃぞ!」

 

 ドンドンと雫が叩いた太鼓の音で勝負が始まる。

 芽衣も鉢屋衆も音と共に山へ入っていった。

 見守っている俺に隣から雫が

 

「お前様よ、奴らの仮面。」

 

 普通、忍びの者は自分の素顔を隠すために布や頭巾をかぶっている物だが、鉢屋衆の面々は鳥の様な黒い面を着けていた。

 

「鴉天狗、と言ったところか。」

 

「覚と鴉天狗、妖怪大戦争じゃな。」

 

 雫は楽しそうに茶化す。

 覚と鴉天狗の戦いを九尾の狐が観戦する、まさしく妖怪大戦争だ。

 俺達二人が話していた僅かな時間の後、場の空気が変わった。

 現代の時間にして約二十五分、伝令が飛び込んできたのだ。

 伝令は鉢屋衆の副頭領と俺に『鉢屋衆、半数が戦闘不能』短くそう告げた。

 その後も次々と伝令が入り、四十分もしない内に鉢屋衆は頭領弥乃三郎を含めて三人にまで減っていた。

 

 

 

「芽衣、手拭いは取れたのか?」

 

「これでいいの?」

 

 芽衣は手拭いを見せる。

 手に持つ物は弥乃三郎が用意したそれだった。

 弥乃三郎は驚愕しながら自分の姪が誇らしかった。

 会話の途中でも鉢屋衆の一人が芽衣に襲いかかる。

 芽衣は一瞬で距離を詰め横凪ぎに刀を放つ。

 その剣筋は防御した相手の刀を叩き折り脇腹深く突き刺さる。

 相手は声も出せずに気を失った。

 その光景を見たもう一人も直ぐ様芽衣に襲いかかる。

 刀の斬撃を軽くかわしながら納刀し相手の頭上へ跳躍する。

 上空で身体をひねり無月を放つ。

 “ゴンッ”と鈍い音がして相手の体は三〜四メートル飛ばされ動かなくなった。

 現代人が見ていたら、まるで体操競技の様だと言うだろう。

 

「あとは、おじさんひとりだね。」

 

 楽しそうに無邪気に芽衣は語りかける。

 この時、弥乃三郎は背筋に冷たい物が走り、一体自分は何を相手にしているのか解らなかった。

 しかし弥乃三郎も鉢屋衆の頭である。

 無理やり頭を切り替え芽衣に語りかける。

 

「素晴らしいな。これほどとは。」

 

「ねぇ、おじさん。おねがいがあるんだけど。いい?」

 

「ほう。可愛い姪の頼みだ言って見よ。」

 

「あのね、わたしがおじさんにかったら。」

 

「我が鉢屋衆を全滅させたら?」

 

「おじさんたちぜんいん、わたしのこぶんになって。」

 

「はっはっはっ。良かろう、お主が勝ったら名も恥も捨てお主を党首として迎えよう。」

 

「やくそくだよ。」

 

 芽衣は嬉しそうに微笑んで右側に結んでいた髪を解く。

 “パサッ”と木々が揺れる様な軽い音がして髪が落ちる。

 その長さは芽衣の身長程の長さがあった。

『何を?』と言う弥乃三郎を無視して芽衣は頭に付けたお面に手を掛けながら告げる。

 

「ここからは全力全開だよ。雫ちゃん命名“芽衣ちゃん、お稲荷様モード”。」

 

 弥乃三郎は本当に解らなくなった。

 目の前に居るのは自分の姪である少女だ。

 だが、その姿は四足歩行の獣の様に上体を深く沈め身体は長い髪で見えない。

 その姿は黒い獣。

 その中で白い狐の面をかぶった顔だけがこちらを向き自分に語りかけて来る。

 

「いくよ。」

 

 白面黒毛の狐の怪異が呟く様に自分に向けて囁いた。

 その刹那、目の前の物体がかき消えた。

 いや、移動したのだ。

 弥乃三郎の死角をつき周りの木々を利用し縦横無尽の高速移動を続ける。

 弥乃三郎がその姿を見失えばすかさず小太刀の強烈な一撃が入る。

 何とかその姿を視界に捉えても長い髪がカーテンの様に視界を遮る。

 集中が途切れる。

 弥乃三郎がそう感じた瞬間、頭頂部に僅かな重みと『クスクス』と言う少女の笑い声が聞こえた。

“さっきの技が来る”直感でそう感じた弥乃三郎は懐の小刀を頭上に向けて突き出す。

 

「ざんねん。はずれ。」

 

 声が聞こえた瞬間、弥乃三郎の頭部は何か柔らかい物に挟まれ圧迫された。

 それが少女の太ももだと気付いた時にはもう手遅れだった。

 それは弥乃三郎が知っている動き。

 兄、加藤段蔵が幼少の頃、得意とした技。

 

「う、裏霞(うらがすみ)!」

 

「おじさん、ぱりぱりだよ。」

 

 一言呟いた芽衣は、弥乃三郎の頭を太ももで挟みこんだまま肩車の状態から後ろにのけぞった。

 その状態で背筋を神則状態にして一気に引っこ抜く。

 弥乃三郎は頭から山の斜面に叩きつけられ意識を失った。

 薄れゆく意識の中で弥乃三郎は懐かしい声を聞いた。

 聞こえた気がした。

 

『弟よ、どうだ俺の娘は。強かったろう、あれが仕える主を見つけた忍びの姿だ。俺もああなりたかったよ。お前はどうだ?弥乃三郎。』

 

『兄上、私もそう思います。』

 

 

「ご主人さまー、みんなー、ただいまー。」

 

 芽衣が山から降りて来た。

 雫が『どうじゃった?』と聞くと。

 

「かったよ。」

 

 ニコニコと笑顔で芽衣は答えている。

 俺達は当然と言う顔で、鉢屋衆は信じられないと言う顔で芽衣を見ていた。

 美奈都から団子を受け取りモグモグ食べながら芽衣が

 

「ねえねえ、はちやのひとたちどうするの?みんな山のなかでのびてるんだけど。」

 

 それを聞いて鉢屋衆の者達はあわてて山に入っていった。

 

 

 その日の夜、俺達は鉢屋弥乃三郎と対面していた。

 

「いやはや、偉そうな事を言いつつ負けましたな。」

 

「あっさりな。」

 

「不様にな。」

 

「早かったね。」

 

「半刻かかりませんでしたね。」

 

 俺、雫、美奈都、源内に良いように言われても返す言葉の無い弥乃三郎は、ただただうなだれていた。

 

「おじさん、やくそくおぼえてる?」

 

 いきなり芽衣が話しを始める。

 俺達は全員?マークを浮かべて『約束?』と頭をひねる。

 弥乃三郎は

 

「もちろん覚えておるよ。本日、只今から我ら鉢屋衆、芽衣殿を頭に頂きこの命預けましょうぞ。」

 

「うん。もうみんなかぞくだから、かってにしんじゃだめだよ。」

 

「はっ!承知致しました。」

 

 

 

 弥乃三郎が帰り、俺は一人で縁側に座り煙管を吹かしていた。

『ご主人さま』と芽衣が横に座る。

 

「救えたか?」

 

 抽象的な質問だなと思いながらも問い掛けて見た。

 芽衣は少し考えてから

 

「たぶん……できたとおもう。ありがとねご主人さま。」

 

「俺は何もしてないよ。」

 

「そういうとおもった。」

 

 そう言った後、芽衣はクスクスと少女の愛らしい笑みをこぼした。

 

 

 

 

「で、どんな話じゃ。」

 

 雫が問い掛けて来る。  早く話せと。

 

「ああ、弥乃三郎が言うには瀬戸内、安芸の国あたりに人魚姫の怪異譚があるらしい。」

 

「人魚姫?人魚じゃのうて人魚“姫”?」

 

「そうだ、人魚の怪異譚は海辺には沢山あるが、それに姫がつくとな。」

 

「行ってみるかや?」

 

「ああ、もう少し暖かくなったらな。」

 

「そうじゃな。今行ったら風邪をひく。」

 

「そうだな。」

 

 

 新しい仲間との出会いがあった。

 最初は敵対していたり、考えが違っていたり。

 だが、俺達はそうやって出会って行くのだろう。

 新たなる怪異と。

 新たなる仲間と。

 




いかがでしたか?

芽衣ちゃんチート化。

芽衣ちゃんお稲荷様モードは、相手の瞳術を防いだりカモフラの役目をする物であり妖怪化とかではありません。

技について
無月 ボマイェ
裏霞 リバース フランケンシュタイナー

次話は第二話、久しぶりにゲストが登場します。


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