織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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第一話のヒロイン三人、出揃いました。
そして彼がやっと動き出します。


1‐2

 今、俺達は里長と囲炉裏を囲み俺達の目的などをかいつまんで話している。

 

「ほう、怪異譚の収集ですか。」

 

「ええ、本当ならそれで良し、違うのなら原因を知りたい、そんな所ですね。」

 

「ほうほう、じゃが先ほど三つと言われましたが正確には二つですな。」

 

 里長は長く伸ばした顎髭を擦りながらそう言った。

『どう言う事です?』と問いかける。

 

「この里にある怪異譚それは火車(かしゃ)、白山坊(はくさんぼう)、覚(さとり)の三つなのですが、その中の一つ、白山坊はデタラメなのでございますよ。」

 

『詳しくお教え下さいますか?』と訪ねると少々渋っていたが重い口を開いてくれた。

 

「白山坊とは我が家で奉公をしている娘の事でございます。」

 

 言うと傍にいた奉公人に『名無(なな)を呼んで来てくれ』と頼んでいた。

 俺が『どうしてその様な事に?』と訪ねると『恥ずかしながら』と理由を語りだした。

 

 

 その名無と言う娘は何年か前に里の者が信濃で拾った娘だそうだ。だが、その娘は容姿はおろか言動もおかしく里の者は気味悪がり誰も近づこうとはしなかったらしい。

 ちょうどその時奉公人を求めていた里長が引き取った。、たが里の者は少女は人ではなく、山から降りて来た白山坊だと言い出しそれが美濃あたりまで伝わったらしい。

 

 

 

ちょうど話が終わった頃

 

「名無にございます。」

 

 と襖の向こうから声がかかる

『入りなさい』と里長が声をかけると一人の少女が部屋に入って来た。

 その少女を一目見て俺は『なるほど』と納得した。

 目の前に現れた少女は先ほど見た“白い少女”だったからだ。

『名乗りなさい』と里長は少女に促す。

 

「名無でございます。」

 

 と一言だけ言うとしずしずと頭を下げた。

 名乗りを上げた瞬間、少女の顔が哀しみの表情を見せる。

 その時俺の中にこの少女の笑った顔が見たいと言う悪戯心が生まれていた。

 頭を下げる少女、名無の後頭部にポンと手を乗せてワシャワシャと撫でる。

 名無は一瞬ビクッと反応をしたが無言でその行為を止めた俺を見てポカンとした顔をしていた。

 まあしてやったりだ。

 何が起きたのか解らない里長と名無を無視して俺は、今決めた事を里長に打診する。

 

「里長、俺達はこの里の事を何も知らん。この娘を案内役として付けて貰えないか?もちろん日当は払う。」

 

「それは構いませんが本当に名無でよろしいので?」

 

 里長のその言葉を聞いて名無は少しだけ悲しそうにでも自嘲気味に笑顔を作った。

 里長の言葉など気にせず

 

「娘、どうだ?」

 

 直接名無に問いかけた。

 

「私は構いませんが…」

 

「だそうだ。よいか里長殿。」

 

 改めて確認をとる。

『ええ、そちらがよろしければ』と里長も了承した。

 俺は暇そうにしていた雫に『彼女と二人で外で待っていろ』と告げる。

 里長と二人だけになったのを確認し名無の日当や俺達の滞在先などの決めごとをした。

 話を終え外に出ると近くの小川に二人はいた。

 俺の姿を見つけた雫は『話は終わったかや?』と聞いて来る。

 

「ああ、滞りなく。と言う訳で娘、しばらくの間付き合ってもらうぞ。」

 

 俺は彼女の頭をポンポンと軽く叩きながら『よろしく』と挨拶をした。

 

「そう言えば、こちらはまだ名乗っていなかったな。俺は真中五十鈴と言う者だ。」

 

「さっきも名乗ったが、わらわは雫じゃ、よろしくのう白ちゃん!」

 

『白ちゃん?』

 

「おい、雫さん。」

 

「なんじゃお前様。」

 

「白ちゃんってなんだ?」

 

「ここにおる娘の事に決まっておろう。」

 

「決まっているのか?」

 

「うむ、先ほど白ちゃんと呼んでよいか?と聞いたら快く承諾してくれたぞ。」

 

 雫の発言を疑いながら名無に聞く。

 

「本当にいいのか?」

 

 すると名無が少し悲しい笑みをこぼして

 

「はい、名無と言う名よりはましですから。」

 

 何と無くそうだろうと思っていたが、俺は素直に聞いてみた。

 すると名無は

 

「名無と言う名は名無しの名無ですから。」

 

 と自嘲気味に答える。

 

「お友達に呼ばれる分には良いのですが、他の人達は私を恐れていますから。」

 

 悲しく辛そうに名無は答える。

 暗い雰囲気になりかけたのを察知したのか雫が話を変えて来た。

 

「お前様よ、白山坊と言う怪異はどう言った物なのかや?」

 

「白山坊か…白山坊は白蔵主とも言ってな飛騨、信濃、甲斐が隣接するあたりに伝わる怪異譚だ。」

 

 

 

 

「昔、山に一人の猟師かいた。だが、その山には百年近く生きていると言われる白い狐もいた。猟師に殺生を辞めさせようと白い狐は猟師の兄、白山坊と言うお坊様に化けその猟師に金を渡し殺生を辞めさせたと言う。

だが、その猟師は金を使い切るとまた山に戻って来て殺生を始めた。それに怒った白い狐は兄の白山坊もろとも猟師を食い殺した。その後、白い狐は自ら白山坊となり寺を守り殺生を禁じる教えを説いたと言う。」

 

 

 

 

「非常に徳が高く頭の良い古狐の話だ。」

 

「やっぱり狐は凄いのう。じゃが、猟師が約束さえ守っておればのう。」

 

 雫が残念そうに呟く。

 一緒に話を聞いていた名無は『そんな話だったのですね』と同じく呟いていた。

 

「まあ、怪異譚なんて物はたいていそう言う物だ。」

 

 俺は話し終わると煙管を取出し百円ライターで火を点ける。

 その瞬間、名無の目がライターに釘付けになった。

 

「あの五十鈴様、それは?」

 

「興味あるのか?」

 

 小さく消え入りそうな声で『はい』と答えた。

 返事を聞いてポィッと百円ライターを名無に投げる。

『わ、わ』と取り落とすまいと慌てて受け止め興味深そうに色々な角度から眺めている。

『名無』と俺に初めて名前を呼ばれ『ひゃい!』と緊張した返事を返して来る。

 雫に『俺、そんなに怖いか?』と聞いた所『お前様を前にして緊張せんのは茶髪かもののけだけじゃ』と言われた。

 まあいい。

 もう一度名無に向き合い

 

「やる。興味があるなら調べてみろ。」

 

 と言った所『こんな高価な物を』と言って来たので雫を脇に抱え名無の頭をそっと抱えて少し歩いた後、名無に顔を寄せ

 

「気にするな、俺の住んでいた所ではたったの十文だ。」

 

 と教えてやった。

 名無はビックリを通り越しボーゼンとしながら『これが十文?』と硬直していた。

 いまだショック状態の名無を雫が手を引いて歩いていると俺達の進行方向から『ななちゃーん』と呼びながら少女が近づいて来た。

 お嬢様的な風貌の名無とは違いショートカットのサラサラした髪の少年のような少女だった。

 なぜ少女かと判別出来たかと言うと、この少女、体の一部が大きいのだ。

 簡単に言えば胸が大きいのだ。

 もっと簡単に言えばロリ巨乳と言うやつだ。

 その少女が目の前に来ても名無はボーゼンとして『これが十文?これが十文?』と呪文の様に繰り返している。

 目の前の少女が何度も『ななちゃーん』と呼び掛けるが反応がない。

 仕方ないと決意を決め名無の脳天へ煙管で一喝!コンッ!と良い音を響かせてクリーンヒットする。

 名無は『きゃう!』と声をあげ涙目で『五十鈴様ひどいです』と訴えて来たが俺は名無の頭を持ってグリンと少女の方へ向かせる。

 

「あ、美奈都。」

 

 やっと目の前の少女を認識した。

 美奈都と呼ばれた少女は少女で

 

「ななちゃんのこんなに面白いとこ初めて見た。」

 

 そう言ってボーゼンとしていた。

 隣で雫が『お前様にかかると誰でも面白キャラになるのー』と失礼な事をほざいていた。

 やっと正気に戻った名無は正面に立つ少女、美奈都に

 

「どうしたの美奈都、何か用?」

 

「うん、用なの。ななちゃんが面白い人達と一緒にいるって芽衣から聞いたから見に来たの。」

 

 何の悪びれもせず楽しそうに語る。

 名無は『はーー』とため息を一つついて『まずは挨拶しなさい』と美奈都に促した。

『そうですね、それは大事な事ですね』と元気一杯の大きな声で

 

「私、孫六美奈都なの。ななちゃんの妹みたいな者です。よろしくです。」

 

「孫六?美濃・飛騨の孫六?」

 

 俺のその言葉を聞いて美奈都は嬉しそうに

 

「はい、孫六兼元は父上です。」

 

「そうか、孫六兼元殿の。近いうちに刀の事で顔を出すと思う、父上によろしく伝えてくれ。」

 

「はい!」

 

 元気良く返事をして『ななちゃん、また後でねー』と言い来た方向へ走り去っていった。

 

「騒がしくてすみません。」

 

 名無が謝って来たが、俺の隣にはもっと騒がしいのが居るのでたいして気にならない。

 そうこうしている内に俺達が滞在する家にたどり着く。

 何年も前に住人が引っ越しその後はずっと空き家になっていると言う。

『掃除は定期的に行っているので大丈夫ですよ』と名無は言っていた。

「身の回りのお世話はさせて頂きます。」

 と名無が言うので素直に甘える事にした。

 その夜、夕食が終わり名無が里長の屋敷に帰るまで百円ライターを前にしての質問会が無理矢理開催された。

 質問をのらりくらりとかわし時には『自分で考えろ』と言い放ち何とか終局に持ち込んだ。

 

 

 

 翌日、俺達の前に姿を現した名無には夕食時の様な明るさは影を潜めていた。

 雫はボソリと『どうしたのじゃ?』と呟いていたが俺には何と無く訳が解っていた。

 あの屋敷だ。

 里長の屋敷には、この娘の居場所が無いのだ。

 だからこそ、前日にどんなに楽しい事があっても夜になれば現実を見せられる。

 お前は怪異なのだと思い出させられる。

 前日の楽しい思い出も儚い夢なのだと信じ込まされる。

 名無と言う少女にとってあの屋敷はそう言う場所なのだ。

 雫に二人で里を散策する振りをして噂を集めてこいと指示を出し、俺は里長の屋敷に向かう。

 昨日通された囲炉裏のある部屋で里長と俺は二人向き合って話をする。

 

「本日はどのようなご用件で?」

 

「実は、昨日申された二つの怪異の目撃場所をお教え頂きたいのだが。」

 

 俺はそれだけを簡潔に質問した。

 

「おお、それならば里の外れにある山ですわ。麓に沢が有りますゆえすぐに解るかと思いますぞ。」

 

「成る程、もう一つよろしいか?」

 

「なんでしょう?」

 

「火車と覚の怪異譚、もう少し詳しくお教え頂けないでしょうか。」

 

「ええ、まずは火車からですな。」

 

 里長は一旦茶を口に含み話を続けた。

 

 

 

「二年ほど前から件の山の中腹で人魂を見かける様になりましての、何日か後には猫の様な声も聞こえて来たそうじゃ。里の者は皆気味悪がりまして、ちょうどその時、京からお坊様が来られて居りましてな、そのお坊様に相談した所、恐らくそれは人の魂を冥府に誘う火車なる怪異だろうと言われましてな。」

 

 

 

「成る程、人魂に猫の様な声、確かに火車の特徴と一致しますね。」

 

「やはり、そうでございますか。」

 

「で、もう一つの覚は?」

 

 

 

「こちらも目撃場所は同じ辺りでして。山師や猟師が山に入っております時に木の上からガサガサと言った音を何人もが聞いたそうでございます。猿かと思いまして、畑を荒らされてはかなわんと罠を仕掛けましたが一向に掛かる気配が無かったのですじゃ。それだけなら良かったのですが罠を仕掛けた場所とは別の場所で音を聞いたと言う者が出ましてな。」

 

 

 里長はここで一旦言葉を切り俺に『どう思いますかな?』と言う様な顔をする。

 

「それだけだと罠を見抜かれたか、単に移動しただけでは?」

 

「ええ、我々も同じ様に思いました。」

 

 

 

「そこで山狩りをする事になりまして、里の男衆十数人で山へ入った次第です。すると我々の頭上に、その何物かが現れましてな、我々は必死で音を追ったのですわ。ですが我々が右に行けば左に、左に行けば右にとまるで考えている事が筒抜けの様でしての、結局誰一人としてその物の姿を見る事は出来なんだ。それがどうにも気味が悪くてのう。」

 

 

「で、覚だと?」

 

「ええ、ええ、諦めて山を降りる時、頭上から幼い娘子の笑い声を聞いた者も居りまして。」

 

「解りました。有り難うございます。さっそく本格的に調べて見ます。」

 

「お願いいたします。」

 

 里長と話をした後、怪異の出所である山にむかった。

 




いかがでしたか?

 話の中でも語っていますが、白蔵主が正解です。
 ですが白山坊の方が響き的に好みなのでこちらを採用しました。
 白山坊と言う呼び方は某ゲゲゲでの白蔵主の呼び方です。
 白蔵主の怪異譚は、もう少し続くのですが後味が悪い話しなのであそこで切っています。
 そして主人公の二つ目の名前は、真中五十鈴です。


感想お待ちしております。

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