4月
なのはとフェイトは訓練校の短期プログラムを終え、海鳴へと戻ってきていた。
「拓斗君、準備はいい?」
「いつでもどうぞ」
ここ月村邸では俺となのはが対峙している。それをアリサ達が離れた場所から見ていた。
「どっちが強いのかな?」
「前までなら拓斗だけど、なのは達も訓練校に通ってたんだし……」
「まぁ、二人の戦いをゆっくり見ようや」
どうして俺達が戦う事になったかというと、それは少し前に遡る。
「ふ~ん、訓練校ってそんなこともやるんだ?」
「うん、魔法もそうだけど、管理局で働くための知識も必要だから、メインは座学かな」
アリサの言葉にフェイトが返す。なのは達が訓練校にいたときも何度も連絡は取り合っていたものの、詳しい事は聞いていなかった。
「それでね、訓練校の先生に魔法を教えてもらったんだけど、フェイトちゃんと二人でもその先生に勝てなかったの……」
訓練校での事をなのはが話す。確か、なのは達を指導した人はファーン・コラードって人でスバル達も同じ訓練校だった筈だ。
「なのはとフェイトの二人が勝てないってどんな人よ……」
なのはの言葉を聞いてアリサの表情が引きつる。アリサもすずかもなのはとフェイトの実力はPT事件の時に知っている。なのはとフェイトの事を知っている身としてはこの二人を同時に相手して勝てる人がいる事を驚いているようだ。
「でも、その人に教わったお陰で私達も結構強くなったんだよ、今なら拓斗君が相手でも勝てるかも」
「前も結構負けてた気がするけどね」
なのはの言葉に俺は苦笑いを浮かべる。なのはが訓練校に行く前はもう既に俺となのはの実力は結構拮抗していた。
「でも興味あるわね、今のなのはと拓斗が戦ったらどっちが強いのか……」
「どうせやし、二人でやったらどうや?」
「うん、じゃあ拓斗君、外へ行こ!」
こんな感じで俺となのはが戦う事が決まった。
「二人ともやり過ぎないようにね」
「うん!」「了解」
フェイトの言葉に俺達が返事をする。既にフェイトの手によって封時結界が張られ、場所の準備は万端だ。俺となのはもデバイスとバリアジャケットを展開し、戦う準備は整っている。
「じゃあ、試合開始!」
「ショット!」
開始の合図と共になのはに向けて魔力弾を放つ。それをなのはは回避はせず、プロテクションで受け止める。前までのなのはなら回避を優先していた筈だが、今回は防御を選択された。
「アクセルシューター、シュートッ!」
今度はなのはが俺に向けて誘導弾を放つ。俺は距離を取りつつ、冷静にその誘導弾を撃ち落すがなのははその間にこっちに狙いをつける。
「ディバイン、バスターーーッ!!」
「チッ!!」
精密にこちらを撃ちぬく砲撃に俺は思わず舌打ちをしてしまう。だが対処できないわけではない。距離があるため、こちらを撃ちぬくよりも早く俺は射線から外れる。そして今度はこちらからと思い、なのはにデバイスを向けるとそれが目に入る。
「距離を取ったのは失敗だったね拓斗君……」
なのはの周囲には大量の魔力弾が展開されていた。弾幕を張り、こちらを近づけさせず得意の遠距離戦に持ち込むつもりだろう。最大射程はなのはの方が上なので、距離を取ったのは失敗だったかと思う。
「いくよっ! シュートッ!」
なのはが展開した大量の魔力弾が俺を襲ってくる。物量差に回避ができない俺は防御をするしかない。
「クッ」
障壁を張った俺になのはが放った大量の魔力弾が襲ってきた。
「これなら……」
私は拓斗君に放った自分の魔力弾を見て、自分の有利を確信する。拓斗君の能力を考えても、今ので終わることはないけど確実にダメージは与えられた筈……。
「えっ!?」
しかし、私はその予想が外れ驚いてしまう。私の魔力弾で起こった煙が晴れるとそこには無傷の拓斗君がいた。
「でもっ」
私は追撃用に用意してあった魔力弾を拓斗君に向けて放つ。自分の予想が外れ動揺してしまうけど、こういうときほど冷静に対処することを訓練校では学んだ。
しかし、放った魔力弾も拓斗君に撃ち落され、回避されてしまう。そして拓斗君はそのまま私に接近してくる。
――弾幕……違う、ここは
「ディバイン、バスターーーッ!!」
弾幕で拓斗君を近づけさせないことも考えたがまだ距離はあるのでディバインバスターでを放つ。距離があり減衰する弾幕よりは砲撃の方が威力が落ちない。
でも距離があるので、当たりづらい上に拓斗君相手では回避される事が予想できる。だから私はその後の用意をするのだが……。
「え……」
外れると思ったディバインバスターが拓斗君を直撃する。そして、ディバインバスターが直撃した拓斗君はそのまま消えてしまう。
「フェイクシルエットッ!?」
私は目の前で起こった事に拓斗君の得意とする魔法を思い出す。幻術魔法……幻影を作る事で相手を騙す魔法だ。
拓斗君の幻影はディバインバスターが直撃する事で消えてしまう。つまり、本物の拓斗君は……
「ショット!」
――別の場所にいる!
拓斗君から放たれる魔力弾をプロテクションで受ける。しかし、私が展開したプロテクションには拓斗君の魔法を防いだ手ごたえはない。
「コレも偽者!?」
私に向けて放たれた魔法は拓斗君が作った偽物だった。私は二度も拓斗君に騙された事に頭が混乱する。
「こっちだ」
「ッ!」
拓斗君の声が突然聞こえ、私がそっちを振り向くと拓斗君は目の前にいて私に魔力で作った刃を切りつけてくる。それを見た瞬間、私の体が反応する。
「チッ」
私の張ったプロテクションが拓斗君の刃を防ぐ。拓斗君の攻撃を防げたことにホッとするけど、私の攻撃はここからだ。
「バインドッ!?」
プロテクションから出たバインドが拓斗君を捕らえる。さっきの攻撃の感触、そしてこうしてバインドで拘束できることも考えて、この拓斗君は本物に間違いない!
「なんてね」
バインドで捕らえた拓斗君にディバインバスターを放とうとした瞬間、拓斗君はそう言って姿を消した。その瞬間、私の真上から魔法が降り注ぐ。私はその魔法に反応する事ができず直撃した。
「コレで詰み……と」
魔法の直撃を受けた私のすぐ傍に拓斗君は降り立つと私にデバイスを向けて、そう告げてくる。その瞬間、私の敗北が確定した。
「う~、今回は勝てると思ってたのに~」
「残念、まぁ実力は上がってたけどね」
俺は悔しそうにこちらを見てくるなのはの頭を撫でる。普段は使わない幻術魔法まで使わされた。いや、使わなければ勝てなかったのだ。おそらく正面から戦ったのなら、俺はなのはに負けていただろう。
「前のテストのときはもっと追い詰めてた……」
「あの時は幻術使ってなかったし」
砕け得ぬ闇事件の時に行ったなのはとの戦いは確かに今回より追い込まれていたが、あの時は正面から戦ったし、色々あって調子も悪かったというのもあるので、今回の試合とはまた違う。
しかし、なのはの実力が上がっているのは確かだった。戦闘中の対応力、判断力、冷静さなど今までのなのはとは段違いなほど磨かれていた。それに加え基礎力……術式の構築速度、コントロールもだ。幻術魔法で混乱させなければ対応されていただろう。
「じゃあ今度は私の番だね」
「はい?」
フェイトの言葉に俺はつい間抜けな声を出してしまう。
「だって、なのはは戦ったんだし……」
「あ~、うん、わかった」
フェイトにしてみれば訓練校に通ったのはなのはだけではなく、自分もなのだからと言う事なのだろう。こうしてなのはに続いてフェイトとも戦うことになってしまった。
「あ~、疲れた~」
フェイトとの試合が終わり、解散となったあと俺は疲労でベッドに倒れこむ。フェイトとの試合は結果的に俺が勝ったものの、かなり白熱した試合となった。最終的に幻術と罠のコンビネーションでフェイトを罠に嵌めて勝利を得たのだが、こっちもかなりヤバイところまで追い込まれた。
「すぐに勝てなくなりそうだな……」
3ヶ月の訓練でコレだ。これから管理局の仕事をして経験を積んでいけばすぐに追い抜かれることになるだろう。
――管理局か、和也はどうしてるのやら……
俺は和也の事を思い出す。最近では技術関係の部署を掛け持ちしているようで、かなり忙しいらしい。
「自由に動ける余裕はあんのか?」
和也は管理局の変革のために色々動いている。それと同時にティーダ・ランスターやクイント・ナカジマを生存させるために動いている筈だが、今の立場では自由に動けているかも怪しい。
――今度、連絡してみるか……
手伝える事があれば手伝う。今まで和也に助けてもらった分は恩返しするつもりだ。そのためには向こうの状況を知る必要がある。
「無茶してなきゃいいけどな……」
俺は和也の事を心配しつつ、ベッドで疲れた身体を休めた。
「な~んで、こんなに忙しいんだよ……」
「仕方ないですよ薙原執務官。ただでさえ人手不足なんですから……」
俺は今、書類整理に追われていた。技術開発部に所属する事になったとはいえ、執務官としての仕事が減るわけではなく、むしろ仕事が増えた事で余計に忙しくなってしまっていた。
「技術部としての仕事とか本当に勘弁なんだけど……」
今、手元にある書類は二種類。本来の執務官としての書類と技術官としての書類だ。闇の書事件の功績もあってか技術官に任命されてしまったが、俺個人としてはあまり好ましい状況ではない。
――戦闘機人にガジェット、そろそろ戦闘機人事件か……
最近ではガジェットらしき影が動き、戦闘機人らしき存在の噂も囁かれている。ということはジェイル・スカリエッティも動き始めているはずだ。
「どこから手をつけていくべきか……」
技術官としての仕事であるがデバイスの性能向上による戦力向上を目標とされているが、あまり芳しくない。デバイスの性能向上とは言っても、全体の戦力向上となると相当な性能のアップが求められるからだ。それなら非戦闘員を戦闘員に変える方がよっぽど楽だ。質量兵器を渡せば十分戦力になる。
しかし、そういうわけにはいかない。質量兵器は禁止されているし、それをどうにかしても質量兵器を一から製造という事になる。それだけの資金を必要するし、生産設備を狙われる危険性もある。そして管理局が禁止した質量兵器を、管理局が解禁するという事は信用に関わる。
「それにこっちもだな」
俺は一つの書類に目を落とす。それは仕事として持ち込まれたものではなく、俺が個人的に用意したものだ。そこにはこう書かれたいた。
戦闘機人事件
そうゼスト隊が戦闘機人とガジェットドローンに殺されてしまう事件だ。俺はコレに介入するためにゼスト隊の行動を監視していた。できれば彼らの行動を止めたいが、おそらくそれは不可能だろう。先に最高評議会をつぶしておくべきかとも思ったが、それだとスカリエッティの行動が読めなくなる。
しかし、スカリエッティをつぶすために動こう物であれば最高評議会が邪魔になる。できれば同時につぶしたいが、それをするにはかなりの戦力が必要になる。
ただでさえスカリエッティには戦闘機人とガジェット、質と量が揃った戦力がある。
――地道にこっちも仲間を増やさないといけないな……
最高評議会の権力に左右されない味方が必要だ。その上でスカリエッティにも勝てるほどの戦力となると、かなり厳しいものがある。
――自分で部隊を持つべきか……
幸い、今までの功績もあり昇進の話がないわけではない。このままいけば近いうちに部隊を任される事になるだろう。しかし、そうなってしまえば今までのように自由には動けなくなる。
「本当にキツイな~」
思わず弱音を吐いてしまう。自分の力が足りない事でどうしようもないこの状況がかなり悔しい。
「まぁ焦ってもしょうがないか……」
できることなどもともと限られているのだ。今は一つ一つ目の前の事をこなしていくしかない。それに……
――力が足りなきゃ借りればいいしな……
俺は拓斗から入ってきた通信に笑みを浮かべた。