謎のファイルを見つけた後、俺は和也に連絡を取ったが和也の方にはそんなファイルは無く、アリシアの方も確認したが、ファイルは存在しなかった。
ファイルが届いた時刻はちょうど俺がヴィヴィオと接触した時刻だから、ファイルが届いたのは俺がヴィヴィオに接触したからだと予想できる。和也はあの事件には参加していなかったし、アリシアは接触しているとはいえ、ヴィヴィオと接触したのは俺より遅い。つまり、初めにヴィヴィオと接触したから俺にファイルが届いたのではないかというのが俺の見解だ。
しかし、問題が一つある。それは誰がこのファイルを届けたかだ。
ファイルが届いた時刻がヴィヴィオと接触した時であることを考えると、未来の俺や和也がヴィヴィオのデバイス……クリスにファイルを入れて、俺達の接触と同時に渡すようプログラミングしたと予想できる。しかし、これだとファイルを開けない理由がわからない。
俺達に渡したいデータがあるのであれば簡単に開けるようにすればいいし、わざわざ開けないようにことに意味は無い。
だとすると考えられるのはもう一つ……俺達をこの世界に送り込んだ奴らが送ったという可能性だ。これならば一応辻褄が合う。
とはいえ、目的もファイルの中身もわからないので打つ手なしの状況だが……。
「ままならないよな~」
ファイルという現物は目の前にいるのにどうする事もできず、もどかしくなる。
「なにがままならないのよ?」
そう言って俺に声を掛けてくるのはアリサだ。アリサは俺の言葉を聞いてか、訝しんだ顔でこちらを見る。
「まぁ、色々とね」
そんなアリサに俺ははぐらかすように返事をするが、アリサはそれがお気に召さないらしく、少し不機嫌そうな表情を見せた。
「ま、いいわ。それよりすずかは? 一緒じゃないの?」
「習い事だってさ、今日は一人」
すずかは今日は習い事でいないことをアリサに伝える。確か、今日はバイオリンだった筈だ。
「そうなんだ……」
そう言ってアリサは少し考える仕草を見せる。思えばこうやってアリサと二人きりという状況は珍しい。いつもであればすずかが傍にいるし、最近だとアリシアが一緒にいる事が多い。そうでなくてもなのはやフェイト、はやてがいるので誰かしらと一緒にいる機会が多く、アリサと二人きりというのはあまり無いことだ。
今日は休日でアリシアはリンディさん達と一緒に、はやては守護騎士達と過ごすらしい。二人とも最近は勉強ばかりだったので、こういう息抜きも必要だろう。
俺はというと折角の休日なのだが得にする事もなく、こうやってアリサを呼んだ次第だ。
「それで私を呼んだわけは……」
「いや、折角の休日なのに一人寂しく過ごすのが嫌だから呼んだんだけど」
アリサの言葉に俺は本音をぶちまける。海鳴に男友達もいないわけではないが誘う気が起きないし、かといって海鳴以外となると和也達は忙しい。それに部屋で籠もってゲームか読書というのも考えたが、大体のゲームはやりこんでいるし、本も最近買ったのは全部読んだ。
「仕方ないわね~、それじゃあ付き合ってあげるわよ」
アリサは俺の言葉に呆れた様子を見せるが、どことなく嬉しそうだ。まぁ、交友関係が殆ど同じなので、アリサも同じような感じだったのだろう。
「ありがとう、アリサ」
そんなアリサに俺は笑顔で返すのだった。
そんな感じにアリサと休日を過ごす事になったので俺達は外に出た。俺達が向かった先はゲームセンターだ。
「あ、これ久しぶりだな」
俺がそう言って見つけたのはゾンビが出てくるガンシューティングゲームだ。ここにおいてあるのはその二作目だ。俺がまだ向こうの世界にいた頃、確か小、中学生ぐらいの頃にやりこんだ記憶がある。個人的には3、4のショットガンやサブマシンガンなども楽しめたが、やはり目の前に置いてあるこれが一番楽しかった。
「ガンシューティングか~、男の子ってそういうの好きよね」
「まぁね、それに俺の場合、デバイスがアレだし……」
アリサの言葉に俺は苦笑いを浮かべながら肯定する。なんだかんだでこういうゲームが好きなのは否定できない。それに腕さえあればワンコインで長く遊べるし……。
「俺はやるけど、アリサはどうする?」
「せっかく来たんだし、私もやるわよ」
アリサの言葉に俺は百円玉を二枚入れるとコントローラーを握りゲームを開始した。
「ああ~、疲れたわ~」
「あはは、お疲れ様」
ゲームが終わったアリサに俺は飲み物を手渡す。結局、最後までクリアして二人で四百円程度使う事になった。アリサが初心者プレイヤーというのを考えれば十分だろう。
「いきなり一般人撃った時は笑ったけどね」
「し、仕方ないでしょ。いきなり出てくるんだからっ」
俺はアリサのプレイを思い出してつい噴出す。まぁ、このゲームでは良くあることなのでアリサの気持ちはわからなくはない。昔、自分も同じ事したし……。
その後、回復したアリサと一緒に色々なゲームを見る。先ほどは俺が付き合わせたので今度はアリサに付き合うことにした。
「あ、これ可愛い」
そう言ってアリサが目を向けるのはUFOキャッチャーだ。その中には動物キャラクターのぬいぐるみが置いてある。
「ねぇ、拓斗取れる?」
「そこで俺に頼むんだ?」
何度か自分で挑戦するかと思ったがアリサはすぐに俺に聞いてきた。
「だって、前来たとき拓斗はすぐ取ったでしょ」
アリサの言葉に俺は前に俺達となのはとすずか、フェイトと来た時の事を思い出す。フェイトにこの世界を案内するということになってたまたま立ち寄ったゲーセンでUFOキャッチャーをしたのだ。その時は三百円で二個取り、一つはフェイトにそしてもう一つはすずかに渡した。
「わかったよ、どれ?」
「奥の白いヤツ」
「りょーかい」
アリサから目的のぬいぐるみを聞くと位置を確認し、取り方を考える。UFOキャッチャーのコツは基本的な取り方を知っている事だ。取り方を知っていれば、配置にもよるが大体取る事ができる。
アリサの示したぬいぐるみは運良く取り易い位置にあったため、一回で取る事ができた。運が悪かったら明らか普通に買った方が安いので、本当に良かった。
「アリサ、はいこれ」
「ありがとう拓斗、大事にするね」
俺は取ったぬいぐるみをアリサに手渡す。アリサはそれを受け取るとぎゅっと抱きしめて俺にお礼を言った。
ぬいぐるみは流石にそのまま持ち歩けないので定員から袋を貰いそれに入れた。
「やっぱり、最後はコレか……」
「いいでしょ、せっかく来たんだし、記念にね」
俺とアリサが最後にするのはプリクラだ。嫌いというわけではないのだが、色々と恥ずかしいものがある。
「♪~~」
プリクラを取ったアリサは機嫌良く、出てきたプリクラを取るとそれをハサミで切り、俺に渡してくる。
「これ、大事にしなさいよ」
「わかったよ、アリサ……」
俺はアリサからプリクラを受け取るとそれを財布の中に入れる。おそらくこのプリクラは大切にどこかに保管される事になるだろう。少なくとも俺からこのプリクラが誰かに見られることはまずない……筈だ。
ゲームセンターを出た後は本屋に寄ったり、CDを買ったりして色々歩く。もはや小学生の遊びというよりは立派なデートだ。そして、最後に立ち寄ったのは……
「いらっしゃい、あら拓斗君、それにアリサちゃん……」
「桃子さん、こんにちわ」
「こんにちわ」
最後に立ち寄ったのは翠屋であった。丁度少しお腹がすいたし、近い位置にあったからだ。
桃子さんに案内され、俺達はテーブル席に座る。店内は時間的にピークを過ぎ、疎らにお客さんがいるだけだ。
「今日、二人はデート?」
桃子さんが楽しそうに俺達に質問をしてくる。まぁ、俺達が二人きりというのは珍しいので、そう思われても仕方ない。そもそも否定もできないが……。
「デ、デート!?」
「そんなところです」
桃子さんの質問にアリサは面白いぐらいに反応する。俺は桃子さんがからかっているのがわかっているので軽く流しておいた。
「男女が二人きりで出歩けば、それは立派なデートよ。拓斗君も否定しなかったでしょ」
アリサの反応を見て、桃子さんはターゲットをアリサに移したようだ。
「た、拓斗ぉ……」
「まぁ、普通はそうだよね。今日のは一般的にはデートって言うんじゃないか?」
桃子さんにターゲットにされたのを聡いアリサは気づいたようで俺に助けを求めてくるが、ゴメン、アリサ。今日のは普通の人はデートって言うと思うんだ。
「へぇ~、その前に注文を聞かせてくれるかな? 今日の事はそれからじっくり聞かせてね♪」
桃子さんは今日の俺達の行動が気になるようで注文を聞くとすぐに注文の品を用意し、持ってきてくれる。その後、根掘り葉掘り桃子さんに今日の事を聞かれる事になった。
「そういえば、なのはは最近どうなんですか?」
俺は桃子さんになのはの事を聞く。連絡は取り合っているし、和也からもなのは達の様子は聞いているのだが、家族とはちゃんとやり取りしているのか気になった。
「なのはねぇ~、連絡はちゃんとくれるんだけど……」
質問が悪かったのだろうか、桃子さんはなのはの名前を出すと少し暗い表情を浮かべる。
「最近は魔法のことばかりで、この前も将来は管理局に入るって言うし」
「ああ~、なるほど」
やはり親としては管理局に入るのは心配なのだろう。PT事件のときの管理局の対応のこともあるし、ここ最近立て続けに大きな事件があったことも理由として挙げられる。それになのはの才能だとどうしても戦闘向き、前線に出る機会が多くなる。そういったことが桃子さん達の不安になっているのだろう。
「あの子はあまり我が儘を言わないから、あの子の意思を尊重させたいのはあるけど……」
「コレばかりはねぇ~」
高町家の家庭環境を知っている俺としては桃子さんの気持ちは理解できる。士郎さんが入院していたとき、翠屋の事が忙しくてなのはに構ってやれなかった時期があるのだ。それ以来、なのはが我が儘を言う事は殆どなく、親としてはそんななのはの言った我が儘だから聞いてあげたいという気持ちはあるが、一歩間違えば怪我だけではすまない道である故にどうしても心配で止めたくなる。
「拓斗君はどうするの?」
「う~ん、将来の事ですからね。まだ決めかねてます」
なのは達と同じように管理局に入るという道もある。一応、魔法の才能はあるし、そこそこ戦える。それに管理局の、管理世界の技術にも興味があるので、早いうちからその技術を学びたいという思いがないわけではない。
元の世界に帰ったときに少しでも世界に有益なものをもたらすために始めた忍との勉強であったが、元の世界に帰れなくなった今もまだ続けている。まぁ、単純に技術分野に興味が出てきて、そういった進路を考えるようになっただけだが……。
とはいえ、元の世界に帰ることができなくなった今、早いうちから学んでどうということもないので、高校までは通ってゆっくり進路を決めようかなと考えている。
「まぁ、急いで考える必要もないですからね。とりあえず、高校ぐらいは卒業するつもりですし……」
「そうよね……」
「そうなんだ……」
俺の言葉に桃子さんとアリサが言葉を発する。桃子さんはわかるけど、アリサも?
「ありがとう、拓斗君。それじゃあ、二人ともごゆっくり~」
桃子さんはそう言って俺達から離れていく。空気を読んで俺とアリサを二人にしたのか、それとも遠くから俺達の様子を見て楽しむつもりか……まぁ、両方だろうが。
「ねぇ、拓斗。拓斗は高校まではこっちにいるの?」
桃子さんが俺達から離れていったのを見届けてアリサは俺に質問をぶつけてくる。
「少なくともそのつもりだけど。急いで管理局に入って働くつもりもないし、将来の事はじっくり考えたいしね」
「そっか……」
アリサは俺の返答にホッとした表情を浮かべる。最近、ただでさえ魔法関連の事が多すぎて皆と一緒にいられる機会が少ない。そして、今回のなのはとフェイトの訓練校への入学。もう皆気づき始めている。将来、俺達が離れていくことに……。
なのは、フェイト、そしてはやては間違いなく管理局に入り、管理世界に行く事になるだろう。アリサ、すずかはこの世界で生活していくはずだ。アリシアはフェイトの妹だし、母親と同じく研究者になりたいという事だからおそらく管理世界に行く事になる。となると、まだ将来の事が決まっていないのは俺だけだ。
――まぁ、じっくりと考えますか……。
幸い時間だけはたっぷりとある。じっくり考えて後悔しない道を選べばいい。
それが今の俺に……元の世界に帰ることができない俺に唯一できることなのだから……。