転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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61話目 ただその程度のこと

 

「拓斗君…大丈夫なの?」

 

「ああ、問題ないよ。だから、なのはも遠慮なくかかってきなよ」

 

 俺は今、対システムU―D用プログラムのテストのためになのはと対峙していた。

 

「なのは、システムを走らせてくれ」

 

「うん!」

 

 クロノの言葉になのはは元気良く返事をするとレイジングハートを構える。

 

「プログラムカートリッジ「ネーベルヴェルファー」ロード、ドライブ…イグニッションッ!!」

 

 なのはの声を共にレイジングハートから薬莢が吐き出される。これで準備が整った。

 

「拓斗も準備はいいか?」

 

「ああ」

 

 クロノの言葉に短く返答する。既に自分はデバイスもバリアジャケットも展開が終わっている。問題はこのテストに集中できるかであるが、そのあたりはクロノも承知で俺をなのはの相手に選んだ筈だ。

 

「では、テスト開始っ」

 

 クロノの合図でテストが開始される。先手を打ったのはなのはだ。

 

「アクセル、シュートッ!」

 

 なのはの撃ちだす誘導弾が俺に向かい襲い掛かってくる。その数はおよそ二十といったところだろうか。速度だけで見るならそれほど大したことはないのだが、誘導弾の巧みな操作により、俺の逃げ道をふさぎながら俺に当てようとしてくる。

 

 ――だったらっ

 

「防いだらいいっ」

 

 俺は自分の正面に障壁を展開しながら、自分の後ろに魔力弾をばら撒く。後ろから追ってくるなのはの誘導弾は俺がばら撒いた魔力弾にぶつかり相殺され、なのはが俺の逃げ道をふさぐように置いた魔力弾も障壁によって阻まれる。そして、俺はそのままなのはに突っ込んでいく。

 いつもならこの突撃の最中に誘導弾をなのはに向かって撃つところであるが今回は行わない。それは単純に魔法を撃つことよるタイムロスを省きたいからだ。

 

 魔法を撃たなかった分、いつもよりもわずかながら突撃のスピードが速い。しかし、これで簡単に突っ込ませてくれるほどなのはは簡単ではなかった。

 

「ホールディングネット!」

 

 なのはの声と共に魔法で作られたネットが俺の正面に展開される。それは文字通り俺を捕まえるための網だ。

 なのはの持つ、対近接戦用の技はいくつかある。基本的にプロテクションからのバインドであったり、バスターであったりするのだが、それらは先のPT事件の際、フェイトへの対処方として俺がなのはに教えたものだ。

 そしてこのホールディングネットは自分に突っ込んでくる相手を捕縛する、かなり使い勝手のよい罠タイプの魔法だ。

 

「ッ!!」

 

 俺は目の前に張られた網をどう突破するか考える。突撃のスピードは緩められず、網はすぐ目の前、考える時間など殆どない。このままだと間違いなく網に捕らえられる。

 頭の中でいくつかの案を練り、できそうなものを考える。網を回避するのは不可能ならば…

 

「そのまま突っ込んだっ!?」

 

 俺はスピードを上げて、網へと突っ込む。俺が下した判断は強行突破。速度を緩めても網に捕まり、網を避けるのは不可能、ならば強引に網を引きちぎればいいというのが俺の判断だった。しかし、強引に突破しようと網が簡単に引きちぎれるわけがない。

 

 ならばと俺は突っ込んだ勢いによって伸びていく網目の一点を狙って魔力弾を放つ。それは網目が十字になっているところだ。

 至近距離から放たれた魔力弾は上手く、網目を壊し穴を開ける。これを3、4発繰り返すとようやく俺が通れそうな穴が開き、俺は網から抜け出した。だが、なのはは俺の更に上を行く。

 

「ディバイン、バスターーーッ!!」

 

 網から抜け出した先にはなのはのバスターが放たれる。網の伸びている部分で俺の位置を把握し、底を狙ってバスターを放つ戦術なのだろう。強引に突破してもバスター、捕まってもバスターとはかなり恐ろしい。

 俺はデバイスを自分の真横に構えるとすぐさま引き金を引いた。それと同時に俺は銃口とは真逆の方向へへ吹き飛ばされる。それから一瞬遅れ、なのはの放ったバスターが俺が先ほどいた位置を通過した。

 

「あれも回避されたっ!?」

 

 なのはは驚愕の声を上げる。自分でもかなり上手くいったと思っただろうから、回避されショックを受けていることだろう。それほどまでになのはの戦術は上手くはまっていた。それこそ最後の回避が上手くいってなければ間違いなく俺の敗北だったといえるほどに……。

 最後の回避、俺が何をやったかというと答えは単純。魔力弾の反動を利用した緊急回避だ。

 大砲であったり、銃であったりを撃つを当然反動がある。もちろん普通であれば、反動を抑えるために砲台であったり、きちんとした構えであったりがある。その反動をわざと抑えずに利用したのがこの緊急回避だ。

 ただ、これはあまり身体に良くない。というのも抑えなかった反動をそのまま身体に受けるわけだから、結果として身体を傷つける。お陰でデバイスを持った右腕がかなり痛い。

 

 恐るべきは俺をここまで追い込んだ目の前の少女であろうか。

 確かに色々あって万全の状態ではなかったが、まだ俺となのはには差があるはずであった。先ほどの突撃も俺が魔法を使わない事を考えれば、十分になのはよりも先にこちらが攻撃できた筈なのだ。しかし、なのはは俺の予想を上回り、俺よりも早く魔法を発動した。

 

 ――カートリッジに今回のコレ、いったいどこまで強くなるのやら…

 

 カートリッジシステムだけでもかなりの戦力強化になるというのに目の前にいる少女は、その上、開発中のブラスターモードにも興味を示しているらしい。これ以上、強くなるということに若干の呆れを偉大くがそれ以上に心配になる。

 

 ――あまり無茶はしないといいけど…

 

 自分が言えたことではないが、あまり無茶をして怪我などしないように気をつけて欲しい。まぁ、周りが注意してあげる事でもあるが…。

 

「じゃあ、次はこっちの番だな」

 

 考え事は後にまわし、俺はなのはとのテストに集中した。結局、テストが終わったのは十分後、俺もなのはもかなり盛り上がっていたのをクロノに強引に止められたのだった。

 

 

 

 なのはとのテストが終わり、俺はフェイト達のテストを見ながら身体を休める。俺の仕事はここで終わりではあるのだが、今テストを行っているフェイトやクロノ、そしてなのは達はまだこの後の決戦が控えている。

 

「拓斗君……」

 

「なのは? どうしたの?」

 

 フェイト達のテストを見ているとなのはが声を掛けてくる。テストが終わり、決戦までゆっくり身体を休めてるだろうと思っていたのだが、そうでもなかったようだ。

 

「うん、あのね。拓斗君とちょっとお話ししたいなって…」

 

「いいよ」

 

 俺がそう返事をすると俺の隣になのはが座る。

 

「それで、話したい事って?」

 

「うん、拓斗君は元の世界に帰りたかったんだよね?」

 

 なのはは俺に対して確認するように質問してくる。もちろん、その事はなのはも重々承知している筈だ。それが原因で喧嘩したり、今回みたいに俺が墜ちたりすることになったのだから…。

 

「ああ、そうだよ」

 

「それであの人達に会って、その、無理だって事がわかったの?」

 

 なのはは少し言いづらそうにしながら聞いてくる。なのは達の言うあの人達とはヴィヴィオ達の事だろう。あの時、なのはとユーノは俺と一緒にいた。

 

「まぁ、そういうことになるね」

 

 正確に言えば、少なくとも彼女達がいた時間軸において俺はこの世界に存在していることが確認されたというだけで、帰る方法が見つかってないと決まったわけじゃないし、まだ可能性は残っているわけだが、それもあまり関係ない。

 

「アミタさんから聞いたんだけど、あの人達は帰る方法があるかもしれないのに拓斗君はできないの?」

 

 なのはの声は少し震えている。そこに潜む感情は俺にはわからない。憐れみか同情か、それとも別の何かか…。

 

「…俺はあの子達とは違うからね」

 

 そう俺はヴィヴィオ達のように自分のいた場所へと帰ることができない。それがどうしようもなく辛かったが、俺はもう諦めていた。

 

 

 

 

「…俺はあの子達とは違うからね」

 

 そう言った拓斗君の表情は今まで見たことがものだった。拓斗君とお話ししようと思って一緒のベンチに座って、拓斗君とお話しする。

 ただ、何を話していいかわからなかったから、拓斗君の元の世界へ帰ることばかりになっちゃったのは申し訳なく思うけど…。

 私は拓斗君が元の世界に帰りたがっているのは知っていた。でも、これは私のお友達のすずかちゃんもアリサちゃんも知っていた事だ。まだ、このことを知らないフェイトちゃんとはやてちゃんだけど今回のことでわかっちゃうと思う。

 

 本音を言えば、私は拓斗君とお別れしたくない。せっかくできたお友達がいなくなるのは嫌だ。でも、拓斗君の気持ちもわかる。

 昔、お父さんが怪我をして入院した時、私は家の中でずっと一人だった。それまでずっと明るかった家が嘘のように静まり返ってしまったのを今でも覚えている。

 今までの生活が一瞬で変わってしまう辛さ、家族がいなくなってしまうという不安、一人ぼっちという孤独、それは痛いほどよくわかる。

 でも、拓斗君は私なんかよりももっと辛い。私の場合、少しの間でも家族に会える時間があった。自分が我慢すれば、また今までのように生活できるっていう希望もあった。でも、拓斗君は違う。

 

 家族に会うこともできず、友達に会うこともできず、帰る家もない。そして今、希望さえもなくなってしまった。それが今の拓斗君の表情にも表れている。

 拓斗君の表情に浮かんでいるのは諦め、それは今まで見た誰よりも深いもので見ているこっちが辛くなってしまう表情だった。

 自分がもし家族と会えなくなってしまったら、もし友達と会うことができなくなってしまったら、そう考えると身体が震えてくる。

 

 拓斗君に何かしてあげたい。でも私は何もできなくて、そして拓斗君に何も言ってあげることができなかった。

 

 

 

 俺は何か言おうと必死に口を開くも結局何も言い出せずにいるなのはを横目にフェイト達のテストを見る。

 クロノとフェイトの戦いはフェイトが少し優勢といった具合だろうか。テストとしては十分だろうから、もう少ししたら終わる事だろう。

 なのはもあまりこうして俺の事で思い悩んでほしくはないので声を掛ける。

 

「なのは」

 

「は、はいっ」

 

 俺が声を掛けた瞬間ビクッとなるなのはが少し面白くて少し笑ってしまう。

 

「あまり気にするなよ」

 

「え、でも……」

 

 俺の言葉に暗い表情を浮かべるなのは。まぁ、優しすぎるなのはに気にするなと言っても無理な話しだ。

 

「この事で気を使われるのも嫌だし、それにこの程度の理不尽なんて世の中には沢山ある」

 

「え……」

 

 俺の言葉になのはは声を上げる。確かに元の世界に帰ることもできず、家族や友人に二度と会うことができないというのは辛い事だ。

 ただ、俺はまだ死んだわけではないし、月村家に保護されたお陰で衣食住には困っていない。実年齢からするとかなり年下ではあるがなのはやアリサ、すずか、フェイト、はやて達といった友人もできた。少なくともまだ恵まれている方ともいえる。

 世の中には食べるものがない人達だっている。屋根すらないところに住んでいる人たちだっている。事故で家族を亡くす人達だっている。

 この世界だって次元漂流者になってしまえば、管理局に保護されなければ俺と同じような状況に陥った人だって探せば存在しているだろう。

 つまり俺の事も世界から見ればありふれた不幸の一つでしかないのだ。

 

 見知らぬ誰かよりも近しい人に感情移入をしてしまうのはわかる。それで割り切れというのも難しい話だ。だが、俺はそう思う事にした。

 そう簡単に割り切れる事ではない。自分に降りかかった不幸ならなおさらだ。でも、それでも時間は進んでいく。

 だから、適当に理由をつけて自分の感情にケリを付けていかなければならない。そうやって、前に進んでいくのだ。

 

 


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