「以上が今の状況よ」
アースラのブリッジに来た俺はリンディさんとエイミィから現在の状況を教えてもらう。二人の話では既にシステムU-Dは解放されてしまい、そのときにアミタがやられてしまったようだ。アミタははやてが回収し、アースラに運ばれているらしい。
「でも拓斗君、大丈夫なの?」
説明を終えたリンディさんがこちらを心配するように質問をぶつけてくる。まぁ、あんな風に落ちたばかりだし、そりゃ心配するだろう。
「まぁ、なんとか」
俺は曖昧に返事する。精神的な問題なのですぐに切り替えることはできない。自分でも本調子でないのはわかってはいるが、和也のお陰か少しはマシになっている。
「確かに今の状況だと人手は多いに越した事はないんだけど、あなたは出すわけには行かないわ」
しかしリンディさんは俺の行動を止めてくる。
「いい、あなたはさっき大きなショックを受けて気を失っていたのよ、そんなにすぐに整理なんてつくものじゃないわ。
無理に動いても怪我するだけだし、足手まといになる」
リンディさんは厳しい口調で俺にそう告げてくる。その判断は間違っていない。今の状態で俺を出しても、大して役に立たないだろう。
「今はゆっくり休んでいなさい」
「……はい」
俺もリンディさんの言う事は理解できるので大人しく引き下がる。少しは立ち直ったと思い行動しようとしたのにこれでは少し気分が落ち込んでしまう。
「動こうにも動けないか…」
自業自得であるが自分が動けない状況を歯がゆく思う。何もできない、することのないこの状況ではせっかくわずかながら切り替えられた気持ちがまたぶり返してきそうだ。
「とりあえず医務室へ戻るか…」
俺は仕方なく医務室へと戻る。医務室の扉を開き中に入ると底にはベッドから身体を起こしているアミタの姿があった。
「あ、あなたはあの時の」
「こんにちは」
俺の方を向いて驚いた表情を浮かべているアミタに俺はとりあえず挨拶をする。
「こ、こんにちは」
「身体は大丈夫ですか? かなりの深手を負ったを聞いてますけど」
戸惑いながらも返してくるアミタに俺は身体の調子を聞いてみる。こうして少しでも誰かと会話してないとまた落ち込んでしまいそうになるからだ。
「あ、はい。ここのスタッフさんが修復…治療してくださったんで……」
そういえばこのアミタとキリエは人間じゃなかった。こうして見るとやはり人とは全く変わらないように見える。ノエルやファリンに近い存在と認識すればいいだろう。
「えと、度々のご無礼失礼しました!」
アミタは俺に対して謝罪してくる。まぁ、彼女の場合急いでいるとはいえ俺に銃口突きつけて薬をせびったり、やっと見つけたと思ったら逃げ出したりで結構無礼な事をしている。まぁ、後者はともかく前者は明らかに問題ではある。
「まぁ、気にしないでください。そちらの事情はなんとなく理解できてますし」
エルトリア、そして彼女達の父親である博士の事はシャマルが彼女から聞いたらしく、先ほどのリンディさんに教えてもらった情報でもあった。
滅び行く世界、そして病に侵された博士のために時間遡抗と異世界転移をしたキリエとそれを追ったアミタ。どちらも身体に相当な負担がかかる筈なのに効してこの世界へとやってきた。
「はい…それよりあなたはどうしてここに?」
俺の言葉に少し暗い表情を浮かべながら頷いたアミタであったが、話題を切り替えるようにこちらに質問してくる。
「ああ~、色々精神的にショックを受ける事がありまして、それで休んでろと言われてここに…」
「そうですか……大丈夫ですか?」
俺が正直に話すとアミタは納得したような表情を浮かべ、こちらを心配してくる。キリエの事とかで自分も不安な事や心配なことがあるだろうに彼女はこうやって目の前の人を心配していた。
「まぁ、なんとか」
そんな彼女をまぶしく思いながら、俺は返事を返す。俺は彼女とは違い自分の事に精一杯で、他人を気遣う余裕すらないというのに、目の前にいる彼女は違った。
『拓斗君』
「っと、なんですか? エイミィさん」
目の前にいるアミタと何を話そうか迷っているとエイミィから連絡が入る。
『キリエさんが保護されたから、アミタさんに教えてあげてほしいなって』
「だそうですよ、アミタさん」
俺は通信がアミタに聞こえるようにボリュームを上げる。妹が保護された事を聞いたアミタは心配そうな表情でエイミィさんにキリエの状態を聞いていた。エイミィさんによるとキリエさんも結構な傷を負っているらしく、アースラに到着次第治療を開始するらしい。でも、ここに来た時のアミタに比べればマシとの事なのでアミタは妹の心配をしながらもホッとしていた。
『それとクロノ君がマテリアルと接触したみたい、それで報告する事があるから一度集まってくれないかって』
「それ、俺が行く必要ってあるの?」
先ほどリンディさんに休むように言われた事もあり、その集まりに俺が行く必要があるのかと感じてしまう。まぁ、動く事を却下されただけでこういった会議で意見を出したりはして欲しいという事だろうが…。
「まぁ、行きますけど」
『うん、じゃあ皆が戻ってきてからだから、少し時間はかかるよ』
エイミィの通信が切れると俺は集まる前に一度顔を洗おうと思い医務室から出た。
数十分後、アースラに帰ってきた皆と共に俺はアースラの会議室にいた。俺の事は皆知っていたらしく皆が心配してくれたので、返事を返しているとクロノが会議室に入ってくる。
「先ほどマテリアルの一人、レヴィを保護して話を聞いた。その結果「砕け得ぬ闇」を倒す方法が見つかった」
クロノは開口一番にそう言うと俺達に説明する。
「砕け得ぬ闇は防衛システム級の耐久力を誇り、なおかつ人間サイズで動き回る。白兵戦で倒すしかないが正直、僕達が束になっても勝利する可能性は高くない」
クロノの説明に皆が一同に暗い表情を浮かべる。それほどまでに砕け得ぬ闇…ユーリは強大な力を持っていた。
「だがマテリアルの協力があれば、その戦闘動作を停止させられる事がわかった」
「執務官――そこからは私が説明します」
クロノの言葉に割って黒いバリアジャケットを来た少女が言葉を発する。その容姿はなのはにそっくりだった。
――これがシュテルか。確かになのはにそっくりだな。
俺はシュテルの顔を見ながら、会議とは関係のないことを考える。そしてシュテルとなのはの二人を見比べた。なのははその表情から生来の明るさがにじみ出ているが、シュテルは理知的で表情の変化がない。性格が違うだけでここまで雰囲気が変わるのかと思うとなんだか面白く感じる。
「対システムU-Dプログラムは大別すると2種類――ミッド術式とベルカ術式があります。いずれもカートリッジシステムユニットに装填して使用します」
俺がそんなことを考えている間もシュテルは淡々と説明する。
「ロードしたカートリッジが聞いている間だけ、砕け得ぬ闇を砕く事ができます」
「そこで使用者を決めなければならないだが…」
クロノはそう言って俺達の顔を見る。カートリッジシステムを搭載しているデバイスを持つのは俺、なのは、フェイト、そしてシグナムとヴィータだ。そのうち、俺は間違いなく降ろされるだろうから残り4人だ。
「充電時間と調整の関係上、4人に完全な形でお渡しするのは少々困難です。一応4人全員にお渡しはしますが、主戦力となる2人を選択していただければと」
シュテルはそう言ってこちらに指示をする。今唯一対抗手段を知っている彼女だからこそ、俺達は彼女の言葉に従うほかない。
「ならば私がでるべきだろうな」
「あ、シグナムさんは駄目ですよ。私の方が適任です」
「元はうちhの身内のことなんだからすっこんでろよ」
「だからこそだよ。私達の方が…」
カートリッジシステムを持っている4人は我こそはと自分を推薦する。
「……4人で話し合って決めていただいていいですか。決定したら連絡を」
そんな4人を見て少し呆れ気味にシュテルはそう言うと俺の方へと近づく。
「お時間よろしいですか?」
「あ、ああ」
いきなりのシュテルの質問に俺は戸惑うが肯定するとシュテルと共に会議室を出る。
「それで何か用かな?」
「いえ、まずはお礼を」
「お礼?」
俺はシュテルに感謝される理由がわからず聞き返す。
「ええ、本来私達は闇の書に封印されたまま出てくる事はできない筈でした」
俺は大人しくシュテルの話しを聞く。闇の書事件が終わり、闇の書は聖王教会と管理局によって厳重に封印が掛けられていた。はやての持つ夜天の書が最低限の機能しか持たない以上、彼女達がこの世界で復活する可能性はかなり低い筈だった。
できれば起こって欲しいと思っていたとはいえ、この事件が起こった時はなぜ起こったのかという疑問も確かに感じた。その理由がシュテルの口から吐き出される。
「あなたは闇の書から、今の夜天の書のデータを抜き出すために自分がしたことを覚えていますか?」
「えと、確かあの時……」
――あの時は守護騎士プログラムとかを抜き出している最中に確かアクシデントがあって…
闇の書事件の事を思い返す。あの時俺がしたことと言えば一つしかない。
「強制アクセス……?」
「その通りです」
俺の言葉を肯定するようにシュテルが答える。確かあの時、俺は闇の書からデータを抜き出すために自分のデバイスを媒体に強制アクセスをした。
「その時に私達のデータも一緒にあなたのデバイスへと流れ込んだのです」
「ちょ、ちょっと待て」
俺はシュテルの言葉を遮り、頭を抱える。確かに俺はあの時強制アクセスはした。しかし、彼女達のデータが自分のデバイスに入り込んでいたなら、後のメンテのときに気づいた筈だ。
「なんでお前達のデータがデバイスに移って俺が気づかない?」
「それは私にもわかりません。しかし、今私達が囚われているのは闇の書ではなく、あなたのデバイスです」
シュテルの言葉を理解するために頭をフル回転させる。確かシュテル達の本来の目的は紫天の書の解放、つまりユーリ、ディアーチェ、レヴィ、そしてシュテルの4人が闇の書から解放され自由になることだった筈。
しかし、今彼女達がいるのは闇の書じゃなくて俺のデバイスだと目の前にいるシュテルは言った。
「なら起動の為のエネルギーは? あの子やお前達はどうして俺の近くに現れなかった? それに俺のデバイスへの影響は?」
頭に浮かぶ疑問の全てをシュテルにぶつける。しかし、シュテルから返ってきた答えはわからないだった。
少し謎が解けたと思ったら余計に深まっていくこの現実に俺は頭を抱えたくなる。とりあえず今回の事件が終わったらノーパソを使ってログやデータの痕跡とかを調べなくてはいけない。
「少しいいか?」
「クロノ? それにはやても…」
俺がシュテルと話しているとクロノが話しかけてくる。これ以上シュテルから話を聞いても余計に謎が深まるばかりではある。
「なにか?」
「うん、私達も砕け得ぬ闇――U-Dを止めるための力が欲しい」
はやてはそう言ってシュテルにお願いする。クロノも同じようだ。確かにはやてには夜天の書があるし、リインフォースもいる。クロノのデュランダルには確か魔力蓄積機能があるから何とかならないこともないだろう。
はやてはマテリアル達が闇の書の一部だったということ、クロノは管理局員としての責任感を感じて今回のユーリとの決戦に挑みたいのだろう。
「確実性を高めるために戦力は多い方がいいですが…お二人については安全性を保障できませんよ」
「まあ、何とかするさ」
「上手くやるよ」
シュテルの忠告する言葉も二人は前向きに返事する。危険だとわかっていても参加する意思は固いようだ。こうなると梃子でも動かないだろう。
俺は二人がシュテルと話しているのを見ながら、自分が動けない現状を悔やんだ。
「クロノ君、シュテル。こっちは決まったよ」
「ああ、わかった」
なのはの言葉にクロノは返事する。
「では、問題なく稼動するかどうかのテストを」
シュテルはそう言ってプログラムを搭載したカートリッジを用意する。
「丁度いい、一人目のテスト担当は僕がやる。それからもう一人のテストは…拓斗、君が」
「え?」
俺はいきなりクロノに話しかけられたことに驚く。テストとはいえ、まさか自分がテストとはいえ誰かと戦う事になるとは思わなかった。今回の事件ではもう動く事はないと思っていたから。
「いいのか?」
「よくはないんだろうが、他に適任もいなくてな。唯一テストできそうなのはザフィーラだが、彼は近接戦闘がメインだし」
ユーリが2タイプ戦い方があることを考える。大量の弾幕を撃つタイプと近接でぶった切るのがあったと記憶している。なら確かに打撃オンリーのザフィーラよりは俺の方が向いていると言えるだろう。
「わかった。手伝わせてもらうよ」
こうして俺はカートリッジの起動テストに参加する事になった。