転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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53話目 ギアーズ

 

 闇の書事件から数ヶ月、世間はもうクリスマスムードが漂っている頃、俺は自分の部屋で頭を抱えていた。

 

「よくよく考えれば、ゲームシナリオって起こるような状況じゃないよな~」

 

 今、俺の悩みの種となっているのは、起きてほしいと思っているゲームシナリオ、マテリアル事件の事であった。

 シナリオ上では闇の書事件が終わってから1週間でマテリアル達が目覚める筈だった。まぁ、それに気づいたのはつい先ほど、和也と今後について話していたときの事だが…。ここに来てから早2年、もう原作知識は曖昧にしか覚えておらず、細かい部分は既に忘れ去られていた。

 それはさておきマテリアル事件のことであるが、俺は重大なミスを犯してしまったようだ。

 俺達は闇の書事件のとき、闇の書から必要な機能のみを抜き出してはやての夜天の書へと移し変えた。そして残った闇の書を破壊したのだ。そして、闇の書に残ったままのシステムU―Dも……。

 つまり、俺が起こる事を望んでいるマテリアル事件は起こることがないのである。その事に俺は頭を抱えていた。

 

「まぁ、もともと起こるかどうかはわからないものではあるんだけど……」

 

 マテリアル事件が起こる可能性を俺は五分五分と見ていたが、その可能性さえも自分で消してしまった事に落ち込む。

 ヴィヴィオ達に接触して未来の情報を手に入れる事が目的だったので、別になくてもいいと言ってしまえばそれまでなのだが、あった方が元の世界に帰る意思やこの世界に残る覚悟などを決めるときに役立つのは間違いなかった。

 

「忍との約束まで残り半年か……」

 

 忍にこの世界に残るかどうか、その質問に答えるまで残り半年。何の進展もないこの状況では、まだ何も決められなかった。

 

♪~♪~~♪

 

「っと」

 

 携帯が鳴ったので、手に取るとアリサからのメールであった。今日、皆は久しぶりに海鳴へ戻ってきたはやて達と共にどこかに出かけていた筈だ。

 メールを見てみると画像が添付されていて、そこでは皆が楽しそうにしている様子が写っていた。寂しくないようにメールをくれたのか、一人でいる俺に対する嫌がらせなのかわからないが、とりあえず楽しそうで何よりと返しておく。

 

♪~♪

 

「通信? 誰から…」

 

 また音楽が鳴るが今度はデバイスの方だ。デバイスに通信を入れるのは魔法関係者しかいないのだが、和也とは先ほど連絡したばかりで残る相手はあまり連絡を取り合うことはない。

 

『拓斗君、聞こえる!?』

 

「あれっ? エイミィ?」

 

 通信を繋げるとエイミィの声が聞こえてくる。それも少し焦っているような声だ。

 

『今、街中に結界が発生しているみたいなの、アースラスタッフに調査出動をかけたんだけど……拓斗君も注意して』

 

「あ、ああ、了解、とりあえず行ってみるから座標を送って……」

 

『うん、なのはちゃん達も向かってるみたいだから、途中で合流して』

 

「……了解」

 

 俺の返事を聞いてエイミィは通信を切る。俺はすぐにデバイスを持って部屋を飛び出すが、心の中ではこの状況に戸惑っていた。

 

 ――これは多分マテリアル事件の始まりだと思うんだけど…

 

 マテリアル事件が起こる可能性がないと思っていた先でのこれだ。これが本当にマテリアル事件であるなら少し嬉しく思う反面、どこに原因があったのかを解明しないといけない。

 

 セットアップしてバリアジャケットを装着するとすぐにエイミィが送ってくれた座標へと飛んでいく。なのは達も動いているらしいので合流するために通信を繋ごうとするが、なぜかそれは躊躇われる。すると、目の前にシグナムの髪より少し濃い紅色の髪を三つ編みにした女性が現れた。

 

「あのすみません。地元の方ですか?」

 

「そうだけど……」

 

 俺はいきなり現れた女性に驚く。そこにいたのは間違いなくGODで出てくる筈の少女アミタだからだ。というかBoAのマテリアル達を抜かして、こちらが現れるとは少し予想外もいいところだ。

 

「いきなりですみません。助けていただけないでしょうか?」

 

 目の前にいる少女アミタはそういいながらも銃口をこちらに向けている。事情を知っているため助ける事もやぶさかではないのだが、流石にその態度ではいやと言いたくなる。というかコイツが現れるのって別の次元世界だったし、最初に接触するのはユーノだった筈だがもう変わっているらしい。

 

「治癒術を使える方かAC93系の抗ウィルス剤が必要なんですッ!!」

 

「いや、まぁ切羽詰っているのはわかったが、とりあえず落ち着け、つか銃口下ろせ」

 

 少なくとも子どもに対して銃口をむけて脅しているのはどうかと思う。

 

「非礼は重々承知ですが、当方非常に急いでおりますッ! 妹を止めないと大変な事になるんですッ! 薬か治癒術をお持ちですか? お持ちでないですかッ!?」

 

「持ってるけど…」

 

「でしたら治療をッ!! ってあうう、興奮したらウィルスが余計に…」

 

 ひゅ~~~~ん

 

「あ、落ちた」

 

 とりあえず治療を施そうとしたその時、アミタはウィルスが身体に回ったのか落下していった。幸いというか下は海であるため落下しても大丈夫だとは思うが、とりあえず回収ぐらいはしておこうかと思い、俺も彼女を追う。というか、空飛ぶのにミニスカートとか下着が普通に見えると思うんだけどアレかな、見せて油断を誘うというやつなのか、見せて自分が興奮したいという変態なんだろうか?

 海に落ちる寸前にバインドを使って捕まえようとするがその前にアミタは体勢を立て直す。

 

「え~と、大丈夫?」

 

「大丈夫ですッ! では急いでいるんで失礼しますッ!!」

 

 俺の言葉にアミタはそう返すと急いでどこかへ飛んでいった。いや、ウィルスが身体を回っていたはずなのだが、こちらが何をするまでもなく元気に飛んでいったところを見ると先ほどまでのは冗談にしか思えない。

 

『拓斗君?』

 

「シャマル?」

 

 飛んでいったアミタを見送っているとシャマルから通信が入る。

 

『今、拓斗君のいる辺りにヘンな反応があるんだけど…』

 

「ヘンな反応ね…」

 

 事情を知る俺はその反応がアミタ達であることを知っているが、それは伝えなかった。

 

『観測スタッフの話だと未知の魔力運用技術が使われた可能性があるの。異世界のお客様立ったりするかもしれないの。今、調査員が向かっているから……良かったら協力してあげて』

 

 シャマルはそう言うが正直、俺はそれどころではなかった。

 

「さっき、それっぽいのに会った。とりあえず映像データ渡すからよろしく」

 

『えっ?』

 

「それと俺、用事ができたから、協力は無理」

 

『ちょ』プツン

 

 俺はそれだけシャマルに言い残すと通信を強制的に切る。そしてすぐにサーチャーを使って目的の人物の捜索へと取り掛かった。アミタが来た以上、事情はどうあれGODが始まったのだ。だとすればヴィヴィオとアインハルトの二人もおそらく現れる筈。

 俺は目的の人物が現れるかもしれない喜びと、わずかな不安を抱きながら二人を探した。

 

 

 

 

 

 

 私はクロノ君から連絡があった後、なのはちゃん達と別れてシャマルの言うヘンな反応があるゆう場所へ向かっとった。なのはちゃん達は先にユーノ君らと合流するって言っとったけど大丈夫やろか?

 リハビリも順調に進んで、久しぶりに帰ってきた海鳴。そんで皆と楽しく出かけとったのに…。それはともかく海鳴でヘンな反応、それと結界なんて、こう度重なるとこの街呪われとる気がする。

 

「見ぃーーつけた♪」

 

 反応があった場所へ向かう最中にピンク色の髪をした綺麗なおねーさんが声を掛けてくる。見つけたゆーことは向こうはこっちを探しとったみたいやけど、このおねーさんのことを私は知らへん。

 

「えー。すみません、初対面やと思うんですが、どちら様でしょうか?」

 

 私はおねーさんに質問してみる。もしかしたらこのおねーさんが今回の事件に関わっとるかもしれへんからや。

 

「エルトリアの「ギアーズ」キリエ・フローリアン。あなたからちょーーっとだけ、頂戴したいシステムがあるの」

 

「…システム?」

 

 システム? 何のことやろう。この夜天の書は前の事件のとき和也さんと拓斗君が一部機能を写し取ったものやし、オリジナルにそんな機能があるなら拓斗君らが説明してくれとった筈やから、何のことがわからへん。

 

「そ。あなたが手にしている無限の力――システムU-D。それを渡してくれたら痛くはしないでおいてあ・げ・る♡」

 

 おねーさんは可愛らしく言いながらも結構内容は凄い事を言ってきとる。

 

「えーと。まず、なんのことやらわからへんですし。世間ではそーゆーの、恐喝ゆーのちゃいますか?」

 

「世間なんて得体の知れないものにどう言われようと平気よ♪ まあ、いいからシステムU-Dを渡してちょうだいね♪ 黒天に座す、闇統べる王さん!」

 

 おねーさんは私の事を誰かと勘違いしとるようや。もしかしたら私が夜天の書の主であることと関係するのかもやけど、でも向かってくるならしゃーない。

 

「大人しく渡して欲しかったんだけど、抵抗するなら少し痛い思いするわよ♪」

 

 おねーさんはそう言ってデバイスをこちらに向けるどうやらアレがおねーさんの武器らしい。向けられた銃口から撃たれる魔力弾を回避しつつ、こっちも魔法を撃とうとするけど予想以上におねーさんの攻撃が速い。というかこの人の攻撃はどうも魔法っぽくない。

 

「粘るわね~、これならどう?」

 

 するとおねーさんは急に接近してくる。そして武器を剣に変形させると斬りつけてきた。

 

「きゃあああああ」

 

 私はその攻撃に対応できずに切り付けられる。無理やこれ以上は戦えへん。というよりもこのおねーさんとは相性が悪い上に、この状況じゃ私も上手く戦えへん。

 

「うん♡ やっぱり私って無敵でステキ♪」

 

 おねーさんの言葉にイラッとくるがこっちは敗者やなんもゆーことはできへん。

 

「システムU-Dはいただいていくわよ。ロード・ディアーチェ……「闇統べる王」ちゃん♪」

 

「ロード……?」

 

 誰の事やろう、私はそんな呼ばれ方されたことないし、間違いなくこの人誰かと間違うてる。

 

「あの、多分人違いやと…」

 

「はい? ヒトチガイ?」

 

 私の言葉におねーさんは片言になりながら返してくる。

 

「私、そのロードなんとかって呼ばれた事ないですし、そのシステムU-Dってゆーんも知りませんし」

 

「……うそん」

 

「ほんまです」

 

 私の言葉におねーさんは間の抜けた表情を浮かべ、呆けたような状態になる。それでも信じられないのかおねーさんは私に質問してきた。

 

「マジんこで?」

 

「マジんこです」

 

「うっそォーーーーん!?」

 

 私がおねーさんの質問に答えるとおねーさんは突然大きな声で叫ぶ。

 

「なんてこと! なんてこと!? それじゃあ私の計画が、のっけからメチャクチャにッ!!」

 

「あー……」

 

 なんというかよーわからんけどご愁傷様に。とはいえ事情を聞かなあかんし、とりあえず話を聞かんと。

 

『我が主!!』

 

「リインフォース」

 

 私がおねーさんに話を聞こうとするとリインフォースから通信が入ってくる。

 

『緊急事態です。御身の傍に危険な気配が現れつつあります』

 

「愉快なお姉さんなら、もう一人現れてるけど……それとは別に?」

 

 私はリインフォースに聞き返す。もう十分に変な人は目の前にいるし、その人に襲われもした。

 

『はい、私も今そちらへ向かっています! 合流まで、どうかご注意を!」

 

「うん、リインフォースも無理せんといてな」

 

 私はリインフォースとの通信を切ると目の前にいるおねーさんに目を向ける。するとおねーさんは頭を抱え、何か悩んでいるようだった。

 

「!?」

 

「空が揺れてる……?」

 

「我が主ッ!!」

 

 空に強力な気配を感じたとき、ちょうどよくリインフォースが到着する。そして、空を見上げるとそこから誰かが現れた。

 

「ふふふ……ははは……はーーはっはっはッ!! 黒点に座す闇統べる王 復ッ! 活ッッッ!!」

 

「えっ?」

 

 現れた人物に私は戸惑いを隠せない。現れた人物は物凄くハイテンションで何かを叫んでいるが、重要なのはそこではない。なぜなら現れた人物は……

 

「私に似とる……」

 

 私に瓜二つだったからだ。髪の色は違うし、バリアジャケットも違う、性格もあの様子だと違うだろうが、その容姿は間違いなく私に似ていた。

 

「みなぎるぞパワァー! あふれるぞ魔力ッ! ふるえるほど暗黒ゥゥッッ!!」

 

「うわぁ」

 

 その子のテンションに思わず引いてしまう。なまじ自分の容姿と似通っているため、物凄く見ているのが辛い。

 

「ふんっ、なんだ子鴉か、それに融合機。あとなんだ、その頭の悪そうなのは?」

 

「子鴉って私の事か?」

 

「ええっ!? もしかして私のことっ?」

 

 出てきた女の子の言葉に私とおねーさんが反応する。どうやらあの子、かなり口が悪い見たいや。

 

「生まれ変わって手に入れた王たるこの身の無敵の力! 早速披露してやるとしようぞ!」

 

 少女はそう言うと私たちの方へ手を向ける。

 

「跪けェいいッ!」

 

 そう言うと少女は私たちにバインドを掛けてくる。私たちはそれを回避する事もできずに拘束された。

 

「さぁ、我が力を思い知れッ!!」

 

「待ちなさいッ」

 

 出てきた少女が私たちを攻撃しようとした瞬間、横からまた別の三つ編みのおねーさんが現れる。先に現れたおねーさんの服が赤いのに対して、この人の服は青かった。

 

 


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