闇の書事件が終わり、俺達は平穏な日常へと戻っていた。変わった事と言えばフェイトが聖祥に転校してきて、この海鳴で暮らすことになったことぐらいだろう。
転校生という事でクラスの皆に囲まれていたが、そのあたりはアリサが上手くまとめてすぐにクラスに馴染んだ。学校みたいな環境で学ぶのはフェイトにとって初体験なので何もかもが新鮮に感じるらしく、学校生活を楽しんでいる。
ちなみに彼女の後見人はリンディさんになった。このあたりは原作通りなのだが、一つ変わった事がある。それはフェイトがハラオウン家の養子にならなかった事だ。
母親が生きている事もあってか、フェイトは養子になる事を拒否したらしい。だからフェイトはフェイト・テスタロッサとして学校に通っている。まぁ、原作と同じように海鳴にリンディさんが買ったマンションで一緒に暮らしているので、あまり大きな変化とは言い難いだろうが…。
はやてはと言うと、まだ聖王教会でリハビリが続いていた。流石に長年の車椅子生活で衰えた筋力はすぐには戻らず、今は補助無しで普通に歩けるようになるのが目標らしい。
守護騎士達も検査の結果、問題がないということが明らかになったので聖王教会から出向という形で管理局で働いているようだ。
とはいえ悪名高き闇の書の守護騎士ということは、一部の人間に知られているようで、現場レベルはともかく上の人間からは嫌味など言われる事もあるようだ。本人達はこれも自分達の罪だとか言っていたが、やはり辛いものはあるだろう。
そして俺こと烏丸拓斗はというと……
「う~ん」
端末の前で唸っていた。というのも闇の書事件が終わって以来、何の進展もないからだ。
俺が目的としているのは元の世界への帰還。それに対して、今まで色々なことを考えてきたが答えはでない。技術的なアプローチはよほどの事がない限り不可能としか言えず、そもそも俺達がここにいる理由すらわからない。
「手がかりとなりそうなのはあの場所とこのケース、それとメッセージか~」
椅子から立ち上がりベッドへ背中から倒れこむ。間違いなくその三つが手がかりとなっている筈なのだが、考えても答えは出ない。
まず、一番初めにこの世界に来る前に俺がいたあの部屋。少なくともあそこには俺をあの場所に連れてくることと、この世界に跳ばすことができるという事がわかっている。そして今、床に置かれてあるトランクケースがあったのもあの部屋だ。
そしてトランクケース。これにはノーパソと端末、そしてデバイスが入っていた。和也に聞いた見たところ中身は同じだったようで、あの場所に置かれてあったケース全てが同じものなのか、それともこの世界に送られたものがそうなのかわからないが、少なくとも俺達は同じものだった。
重要なのは入っていたノーパソも端末も俺達が扱えるものだという事、そしてデバイスで戦闘能力を持たせたということだ。
これで扱い方もわからないものだったり、言語が日本語じゃなかったりしたら手探りで進めていくしかなかった。さらにはノーパソのハッキング能力のこともある。単にセキュリティーを超えるだけの性能なのか、それとも超常現象の類かはわからないが、デバイスの事も含め、かなりの技術力があると思われる。
そしてデバイス。俺達にデバイスを持たせ、戦闘能力と持たせたということは少なくともある程度の戦闘能力が必要ということに他ならないと思われる。じゃなかったら戦闘能力を持たせる意味がない。まぁ、積極的に戦えという意味か、自衛のためかはわからないがケースの中にはデバイスが入っていた。
最後にメッセージだ。ジュエルシードが落ちてくる前、端末にメッセージが届いた。その内容はゲームスタート。つまり開始の合図なのだが、どうにも軽く感じられる。まるで娯楽のように扱われているようだ。
メッセージの送り主の意図なのか、それともたまたまこういう表現なのかはわからないが、一つだけ気づいた事がある。
それは始まりがあるなら終わりもあるという事だ。
こうして始められた以上、最終的にはどこかと終わりを迎えるということになる。それが俺達の死亡という結果なのか、それとも条件クリアか、はたまた時間的ものなのかはわからないが…。
「どちらにせよ、情報が少なすぎ」
全く進展しない状況に一人愚痴る。文句を言っても仕方ない事だが、この状況はもどかしい。
――最低でもstsが終わるまでとしても十年ぐらい、その先だったらもっと長くなる
そこまで俺の意思は残っているだろうか。もし、この状況のまま何の進展もないのであれば、帰りたいと思うこの気持ちすら磨耗していくだろう。
「せめて、次で何らかの情報は欲しいな」
俺はマテリアルの出現を期待し、そこから新たな情報が得られる事を願った。
「ふ~、とりあえず今日はここまでだな、皆お疲れ様」
俺、薙原和也は仕事を終え、周囲の皆に声を掛ける。今日は守護騎士達と共に古代ベルカにまつわるロストロギアの調査任務であった。調査と言っても資料を探したり、情報を集めたりするのがメインであるが……。
「では私達はこれで失礼する」
「ああ、はやてによろしく伝えておいてくれ」
「わかった」
俺はシグナムにそう言うと守護騎士達は周りに会釈しながら部屋を後にする。闇の書事件から数ヶ月、はやてのリハビリも順調に進み、来年進級時ぐらいには十分歩けるようになるようだ。
闇の書事件以降、守護騎士達とこうして仕事をする機会が多い。主なのはこういった調査などであるが、犯罪者の逮捕や犯罪組織への突入任務が多くなっていた。というのも闇の書事件で俺は大きな手柄を立ててしまったためだ。
闇の書事件の解決に当たって、計画の立案や実行のための機材の開発などを俺がしたことは上の人間であれば知っている。そして俺は管理局の人間である。つまり、管理局の人間だけでどうにかできたにも関わらず、聖王教会の力を借りたことで聖王教会に手柄をやったと思われているわけだ。
その上、会議の時に俺がグレアム提督が闇の書事件の担当となりそうだった時に異論を挟み、自分が担当となって手柄を得た、という事ことも問題になっている。
今回、闇の書事件の解決の手柄は聖王教会と俺が立てたということになっている。その事が上の人間は気に入らないようだ。
そのため、上からは無駄に作業の多い仕事を任されたり、危険度の高い仕事を回されたりしている。正直、そんな事をやっている暇があったら仕事しろと言いたくなる。そもそもグレアムのように対策を講じようとしない連中が文句ばかり言うなと……。
守護騎士達が俺と共に仕事をするのも似たような理由からだ。闇の書という危険なロストロギアに指定されていた彼女達と仕事をしたがる人間は少ない。それ故に俺のような上から嫌われている人間と同じような仕事を回されたりする。
彼女達は能力が高いため、現場レベルの人間には好かれているが、やはり上の人間は煙たがっている奴が多いのも事実だ。
「まぁ、こればかりはなぁ…」
人物に対する評価はその人の過去や行動、後は噂などで決まってくる。上の人間はともかく現場レベルではそこそこの関係は作れているので、後は良い方向に変わっていくのを待つしかない。
「それはさておき」
俺は端末を弄り、とあるデータを画面に移す。そこには白衣を着た長髪の男性が映し出されている。
ジェイル・スカリエッティ……それがこの男の名前だ。
闇の書事件終了のパーティでドゥーエであろう人物が接触してきて以来、警戒しているのだが今だ向こうからのアプローチはない。管理局員という立場上、最高評議会など権力者からも何かあるかと思ったがそれもなかった。
――何もないっていうのが一番怖いんだけど
かといってこちらから行動を移す事はできない。下手に動いても返り討ちにあう可能性が高いうえに、捕まえたところで権力者によって解放される事が目に見えている。
いっそのこと、あの脳髄共を先に殺しておこうかと思ったが、それをすると彼らを野に解き放ってしまう事になる。
何も行動できない事に苛立ちが募るが、時を待つしかない事は事実だ。
管理局員として見逃すわけには行かない行動を、逮捕のためには見逃すしかない。この状況がもどかしい。
「まぁ、できる限りの事をやっていくしかないんだが…」
俺は溜息を吐くと、端末の電源を落とし仕事を終える。今の年齢では酒が飲めないのが残念でしょうがない。
「ぅ…ん、ここは…どこ?」
とある部屋の中、真ん中に置かれた台の上でその人物は目覚める。その人物は起き上がり周囲を見渡すが誰もいない。
「だ、誰かいないの?」
怯えた声で人を呼ぶがその声に答える人物は誰もいない。誰もいないことに怯えつつ、部屋を捜索するが何もない。
「ぅ、ひっく」
泣きながらも部屋を出て誰かいないか、必死で探す。誰もいないことに皿に不安になり、地面に座り込みそうになったその時、廊下の先に扉があるのが見えた。
「ここは…」
扉を開けて部屋の中に入ると、そこには様々な機械が並んでいた。それが何かは理解できないが、間違いなくここに誰かがいたというのだけは認識できる。
部屋の中を捜索すると、ケースが置かれているのが見える。怯えつつもそのケースに近づき、それに触れた。すると部屋の様々な機械が動き出す。
「えっ、なにっ!?」
いきなり動き出した機械に驚き、周りを見るがどうする事もできない。やがて光が包み、部屋から人がいなくなった。
物語は進む。新たな人物を加え
その人物が齎すのは希望か、それとも絶望か
その先に何があるのか、まだ彼らは気づかない